PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成29年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 サプライヤへのシステム開発委託に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 X社は,中堅のソフトウェア企業である。X社では,保険会社が自動車保険の加入者に提供するロードサービスに関するコールセンタシステム(以下,CCシステムという)の開発を受託している。ロードサービスは,消費者が保険を選択する際の重要なポイントの一つである。したがって,保険会社としてはサービスの改善が欠かせず,CCシステムにおいても,機能追加・改修の依頼が断続的に発生している。 今回,CCシステムについてX社が新たに受注した改修案件(以下,新案件という)は,開発期間6か月の請負契約であり,予算に不足はないものの,新機能の提供時期が決まっており,スケジュールの面では大きな手戻りを許す余裕はない。新案件のプロジェクトマネージャ(PM)は,X社のY課長である。Y課長はCCシステムの初期開発からPMとして携わっており,これまでの実績から社内外の信頼を得ている。 〔サプライヤの選定〕 Y課長は,これまでにもCCシステムの開発に携わってきた社内の主要メンバを,新案件の開発メンバとして確保した。さらに,これまでの開発と同様,一部の機能をサプライヤに委託するために,かつてCCシステムの開発を委託した主要サプライヤ2社に打診した。しかし,両社とも“現在の受託案件で手一杯なので対応できない。”とのことで,断られてしまった。そこで,Y課長がX社の調達部長に相談したところ,A社を推薦された。A社に関する説明は,次のとおりであった。 ・A社は,社員100名弱のソフトウェア企業で,X社とは昨年から取引を開始した。 ・A社とは,これまでに五つの案件で派遣契約を締結しており,どの案件でもX社内での評価は高かった。 ・A社の役員からは,“他社では請負契約での実績があり,今後はX社とも請負契約で受託させてほしい。”と聞いている。調達部もA社の請負契約での遂行能力を把握したいので,Y課長に評価を依頼したい。 Y課長は,A社が担当した五つの案件の開発記録を確認するとともに,社内の関係者にヒアリングを実施して,次の事実を確認した。 ・各案件とも,A社はX社の標準プロセス・標準品質管理指標にのっとって,外部設計,内部設計,製造,テストの実作業を担当した。X社の標準プロセスに不慣れなことから軽微な作業ミスはあったが,指摘後に同じ作業ミスを繰り返すことはなかった。 ・A社が担当した機能の開発の難易度は全て標準的であり,成果物の品質は良好であった。また,レビューは,自席で随時行う対面レビューも含めてX社メンバがレビューアとなって実施した。それらのレビューで摘出された欠陥の件数と,その欠陥内容の定性分析の結果は,各工程の品質目標に対して妥当であった。 ・A社には,派遣契約における外部設計,内部設計,製造,テストの実作業能力が十分にあった。 Y課長は,①A社がサプライヤとして請負契約で受託できることが確認できれば,今後は派遣契約ではなく請負契約を中心としていくことで,X社にとってメリットが得られると考えた。そこでA社に対し,次の条件を提示し,受諾の意向を打診した。 ・開発の難易度は,過去にA社が担当した案件と同等である。 ・外部設計はこれまでどおり派遣契約とし,内部設計から単体テストまでを請負契約,結合テストを準委任契約とする。 A社からは,外部設計の派遣契約において要求されたスキルをもったエンジニアが参加可能であり,内部設計以降の契約も受諾する意向がある旨の回答を得たので,Y課長は外部設計に関する派遣契約を締結した。A社から派遣されたエンジニア2名は,X社の案件での従事経験をもっていた。 〔請負契約の交渉開始〕 外部設計が順調に進みだしたところで,Y課長は内部設計から単体テストまでの請負契約についてA社と交渉を開始することにした。発注の対象は,外部設計でA社のエンジニアが担当している機能Jである。 交渉窓口は,請負契約においてA社の責任者となる予定のB主任であった。A社の役員からは,“B主任は若いが,当社内では実力のあるリーダである。もし何か問題があれば,単刀直入に指摘してほしい。”という挨拶があった。 交渉に当たってY課長は,次に示す工程完了条件,定例会議の設定,瑕疵担保責任などを明確に記載したRFPを作成した。 ・各工程の完了時点において,要求した機能要件・非機能要件を満たした成果物一式がそろっていること。 ・品質管理基準を定め,X社と合意すること。各工程において,その品質管理基準に従った品質管理を実施し,状況を報告すること。工程の完了時点では品質評価を行い,成果物の品質に問題がないことを確認すること。この確認結果を報告し,X社の承認を得ること。 ・ソースコードの品質確認については,A社メンバによるレビューに加えて,静的解析ツールによる診断も行うこと。製造及び単体テストの工程完了時点において,静的解析ツールによって修正が必要とされた問題点が,全て対処されていること。 Y課長は,B主任にこのRFPを説明した後,X社の希望として“今回の契約に関しては,②新案件の制約条件と,A社との関係において考慮すべき点があることから,進捗及び品質の確認をA社で丁寧に実施してもらい,かつ,X社としてもそれを十分に確認できるような開発条件で合意したい。”と伝え,提案を依頼した。 〔開発条件の調整〕 Y課長は,B主任が提案してきた開発条件を精査した。各工程において,成果物を作成するアクティビティは,適切な粒度に詳細化されており,進捗率の把握方法も適切であった。成果物の品質を確認するアクティビティについては,③RFPに記載した製造以降の工程で必要となる作業が組み込まれているかどうかは,明確に読み取れなかった。B主任に確認したところ,その観点も入っているということだったので,Y課長は成果物の品質を確認するアクティビティの進捗率の把握方法について,工程単位にその点も明記するように改善を依頼した。 品質管理基準については,例えばレビューであれば自席で随時行う対面レビューを含めて記録するなど,X社の標準プロセスと同等のプロセスを採用するということだったので,X社の標準品質管理指標と同じ値を採用するという提案内容に合意した。 さらに,B主任を責任者とする体制は適切に組まれていて,その他の開発条件についてもX社の要求を満たしており,提案の請負金額も妥当であった。 これらの精査結果から,Y課長は合意できる提案内容と判断した。 請負契約の最終的な契約締結の前に,Y課長はB主任に,“結合テストでは準委任契約を締結する予定であるが,結合テスト期間中には,準委任契約に基づく委託作業の他に,④今回の請負契約に基づく活動を無償で実施していただく必要がある。その認識で合っているか。”と確認した。この点について,両者の認識は合っていたので,内部設計から単体テストまでの請負契約を締結した。 Y課長は,内部設計以降,機能Jに関するX社のリーダとしてZ主任を増員することにした。Z主任は過去2回,A社に派遣契約で依頼した案件のリーダを担当した経験があり,今回参加しているA社のエンジニアとも面識があった。このことからY課長は,Z主任の着任に当たって,“これまでの経験を生かして,しっかりコミュニケーションをとってほしい。ただし,⑤今回の契約形態では,発注側として注意すべきことがあるので,その点は十分に意識して行動してほしい。”と伝えた。 〔内部設計の状況〕 内部設計を開始してから2週間が経過したとき,Y課長はZ主任から,A社の品質状況に関する報告について,次のような疑問点があるとの報告を受けた。 ・レビュー対象とした設計書のページ数に対して,レビュー時間,レビューによる欠陥の摘出数が,基準値を大きく下回っている。 ・A社の進捗報告における品質状況に関する記載は“品質が良好なので,レビューは短時間で終了し,摘出した欠陥も少なかった。品質には問題なし。”となっている。 Y課長は,Z主任とともにレビュー報告書と内部設計書を精査して,成果物とプロセスの品質を評価した。その結果,成果物の品質については妥当な水準にあるものの,品質状況に関する報告の内容については疑問が残るので確認が必要と判断した。 B主任にヒアリングをしたところ,“品質状況に関する報告にも書いたとおり,優秀なメンバが担当したので成果物の品質がもともと高く,指摘はあまり出ていないと聞いている。その結果,レビューが短時間で終わっているようである。”という回答であった。しかし,Y課長は⑥サプライヤの選定時に確認していた事実から,B主任のこの回答は実態と異なる可能性もあると考えた。さらに,B主任の回答が伝聞調であることにも懸念を抱き,B主任自らが,現場で実際に起こっていることを再度確認し,報告をしてほしいと要求した。 2日後,B主任から報告された確認結果の内容は,次のようなものであった。 ・現場では自席において随時,対面レビューをしていて,そこで指摘されたことを適宜,内部設計書に反映している。 ・これらの対面レビューは,ごく一部しかレビューの実績として記録されていない。 Y課長は,B主任のこの報告について,実態が正しく詳細に報告されたことは評価した。一方で,B主任には,これが⑦A社のマネジメント面の問題であるという認識が不足していると感じた。Y課長は,このことをA社の役員に伝えて,今後のA社の改善状況を確認した上で,請負契約の遂行能力を評価しようと考えた。 設問1〔サプライヤの選定〕について,本文中の下線①で,X社が得られるメリットを,25字以内で述べよ。 設問2〔請負契約の交渉開始〕について,Y課長が本文中の下線②のように考える背景となった新案件の制約条件を,30字以内で述べよ。また,A社との関係において考慮すべき点を,25字以内で述べよ。 設問3〔開発条件の調整〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の下線③について,製造以降の工程で必要となる作業を,30字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線④について,今回の請負契約に基づく活動とは何か。15字以内で述べよ。 (3) 本文中の下線⑤について,発注側として注意すべきことを,30字以内で述べよ。 設問4〔内部設計の状況〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線⑥について,Y課長が確認していた事実とは何か。45字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線⑦について,Y課長が感じたA社のマネジメント面の問題を,35字以内で述べよ。
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判断の対象と根拠を対応させる

システム開発の委託を考える際は、ある判断が何を対象とし、どの情報を根拠としているかに注目しましょう。用語の印象だけで捉えず、与えられた情報と判断の対象との対応を丁寧に整理することが大切です。

この問題で問われていること

この分野では、判断に使う情報が、その判断の対象に関係しているかという一点を意識してください。情報が詳しいかどうかだけで捉えず、何についての判断を支える情報なのかを確かめながら考えましょう。

視点

判断の対象と、その根拠にする情報を分けて整理すると、情報が何について述べているのかを捉えやすくなります。対象と根拠の対応という一つの視点を保って考えましょう。

確認ポイント

  • 何について判断する場面かを確認する
  • その判断の根拠となる情報を確認する
  • 判断の対象と根拠の対応を確認する
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解説

本問は、派遣契約で評価の高いサプライヤへの請負委託を題材に、完成責任、手戻りを許さない制約、契約上の依頼方法、品質管理プロセスの履行を問う。成果物が良好でも、合意したレビュー記録や管理が実施されているかを確認することが要点です。

問題の全体像

X社は、提供時期が決まったCCシステムの改修案件で、従来は派遣契約で高く評価していたA社に、内部設計から単体テストまでを請負契約で委託しようとしている。A社の実作業能力は確認できているが、X社との請負契約での遂行能力は未確認であり、大きな手戻りを防ぐために進捗・品質管理の条件を具体化する必要がある。公式資料の出題趣旨では、契約形態を意識した契約交渉と、開始後の契約に沿ったサプライヤ管理が問われている。後半では、成果物の品質が良好でもレビュー記録が不十分という状況から、品質管理プロセスの問題を読み取る。

設問1

着目するのは、今後の委託を派遣契約から請負契約中心に変えるという下線①です。派遣契約ではX社が作業を指揮して完成させるのに対し、請負契約ではA社が委託範囲の完成責任を負う。そのため、公式解答例では「X社の完成責任の負荷が軽減されること」としている。25字以内の答案では、軽減される対象を「完成責任の負荷」と明示する。X社が保険会社に対して負う新案件全体の完成責任までなくなるという意味ではありません。

設問2(1)

冒頭の新案件の条件に着目する。予算には不足がない一方、新機能の提供時期が決まっており、スケジュール上、大きな手戻りを許す余裕がない。このため、進捗や品質の問題を早期に把握できる開発条件が必要になる。公式解答例では「スケジュールに大きな手戻りを許す余裕がないこと」としている。30字以内の答案では、単に開発期間が6か月であると述べるより、手戻りを許容できない制約を押さえる。

設問2(2)

A社との過去の五つの案件が、いずれも派遣契約だった点に着目する。実作業能力や成果物の品質が高くても、A社が自ら進捗・品質を管理して完成責任を果たせるかは、それだけでは確認できない。他社での請負実績は役員から聞いているが、調達部もその遂行能力を把握したいとしている。公式解答例では「A社の請負契約の遂行能力が把握できていないこと」としている。25字以内では、未確認なのが請負契約の遂行能力であることを明示する。

設問3(1)

RFPのソースコードの品質確認条件に着目する。A社メンバによるレビューに加え、静的解析ツールで診断し、製造及び単体テストの工程完了時点までに、修正が必要とされた問題点を全て対処する条件がある。したがって、診断の実施だけでなく、その結果に基づく対処もアクティビティとして把握する必要がある。公式解答例は、この問題点への対処を挙げている。30字以内では「静的解析ツールで修正が必要とされた問題点への対処」とまとめられる。

設問3(2)

RFPに瑕疵担保責任が明記され、請負契約の対象が内部設計から単体テストまでである点に着目する。結合テスト期間中に、その請負範囲の成果物にA社の瑕疵が見つかれば、請負契約に基づく修復が必要になる。公式解答例では「A社の瑕疵に対する修復」としており、15字以内に収まる。採点講評では、結合テストで摘出された欠陥の全てに無償で対応するという解答が見られたと指摘し、対象は請負契約で委託した範囲の成果物であると説明している。

設問3(3)

Z主任には派遣契約でA社のエンジニアと働いた経験があるが、今回は内部設計以降が請負契約になっている点に着目する。以前の関係のまま、A社メンバに直接作業を指示しないよう注意が必要です。公式解答例では「直接に依頼をできるのは、B主任に対してだけであること」としている。30字以内の答案では、直接依頼する窓口がB主任に限られることを示します。採点講評では、請負契約及び準委任契約では発注側に指揮命令権がなく、委託先の責任者に対しても指揮命令してよいわけではないと指摘している。

設問4(1)

サプライヤ選定時に確認した、過去のレビュー結果に着目する。A社が担当した機能は標準的な難易度で、成果物の品質は良好だったが、レビューで摘出された欠陥の件数と内容の定性分析結果も各工程の品質目標に対して妥当だった。今回の難易度も同等なので、「優秀なメンバが担当したため指摘が少ない」という説明には確認の余地がある。公式解答例では、A社担当機能のレビューで適切な量と内容の欠陥が摘出されていた事実を挙げている。45字以内では「A社が担当した機能のレビューでは、適切な量と内容の欠陥が摘出されていたこと」と表せる。

設問4(2)

開発条件の調整時には、自席で随時行う対面レビューも含めて記録するプロセスに合意していた。しかし、実際には対面レビューのごく一部しか記録されず、B主任も当初は現場の実態を把握せずに説明していた。成果物の品質は妥当でも、合意したプロセスが現場で守られるように管理されていないことが問題です。公式解答例では「合意したプロセスにのっとるようにマネジメントされていないこと」としている。35字以内の答案では、この管理上の問題を押さえ、記録漏れという個別の現象だけで終わらせない。

学習のポイント

派遣・請負・準委任の違いを事例に結び付け、修復責任の対象範囲と、品質管理プロセスを確認する視点を学ぶ。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成29年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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