PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成29年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 製造実行システム導入プロジェクトの計画作成に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 T社は,製造業向けのソリューションを得意とするSI企業である。最近では,製造装置に複数設置されている制御装置から測定データを集約して製造工程を見える化し,生産計画と密接に連携しながら製造を進めるための製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)の導入が増えている。T社は,MES導入の実績が多く,顧客からの問合せも増えてきている。 年明け早々に,T社は,中堅の食品メーカのK社から,MES導入の相談を受けた。K社では,来年6月に,海外への製品の輸出を開始することが経営上の最重要課題であり,そのために製造装置を増設する工事(以下,増設工事という)を計画している。その増設工事に合わせて,増設する製造装置に対してMESを導入するプロジェクト(以下,MESプロジェクトという)を実施したいとのことであった。 増設工事の期間は今年4月から8か月を予定しており,その後,製造装置の試運転を行い,来年4月には商用運転を開始する予定である。 MESプロジェクトのスケジュールは,今年4月から開始し,製造装置の試運転の間にMESのテストを完了し,製造装置の商用運転からはMESを稼働する計画である。K社の製品は数百種類に及び,いかに効率よくテストを行うかが課題となる。来年6月の製品輸出開始に向けて,このスケジュールは必達である。 K社の製造装置の増設,MESプロジェクトの統括責任者は製造部門のL部長である。 T社は,経験豊富なU課長を相談の窓口担当者とした。 〔MESの各機能の概要〕 U課長は,K社の経営上の最重要課題を確認して,海外のパートナ企業であるW社製のソフトウェアパッケージ(以下,W社パッケージという)を導入するのがよいと判断した。そしてL部長に対し,W社パッケージを前提に,図1に示すMESの構成図と,MESの機能の概要を次のとおり説明した。 ・基本機能  :生産計画に基づき,製造の手順を決定し,作業員に対する作業指示を出し,実施された作業履歴を記録する。また,履歴管理機能のデータ収集条件の設定を行う。 ・履歴管理機能:制御装置から測定データを抽出し,項目と時間軸をそろえた履歴データとして蓄積する。 ・分析機能  :生産計画を最適化するためにAI(人工知能)を活用した分析を行う。履歴データから関連性が高いデータ群を抽出したり,時系列分析によって製造プロセスの異常を発見したりする。このとき,一定期間の履歴データがそろっていること,履歴データのどの項目を使ってどのような分析をするかという生産計画最適化の基準が明確になっていることが,AI活用の前提となる。 図1 MESの構成図 W社パッケージは世界各国で導入実績があり,国際的な機関から,製造管理及び品質管理に関する基準(GMP:Good Manufacturing Practice)の要求を満たしたMESとして認証を受けている。 K社の製品を海外へ輸出する場合,MESを含めた製造プロセスがGMPの要求を満たしているという認証を求められる場合があるが,W社パッケージをそのまま適用すれば,MESについては改めて認証を受ける必要はない。W社パッケージの機能を変更した場合や,MESを独自に構築した場合は,MESがGMPの要求を満たしているという認証を改めて受ける必要がある。その場合,認証を受けるための期間を追加で見込む必要があることから,スケジュールが長期化する。 L部長はこれらの説明に納得し,W社パッケージをそのまま適用する方針を前提にMES導入の支援をT社に依頼することにした。U課長はT社のプロジェクトマネージャ(PM)に任命された。 〔プロジェクト計画〕 U課長は,図2に示す概略スケジュールを策定した。 図2 概略スケジュール 各作業の概要は次のとおりである。 ・ワークショップでは,W社パッケージの標準プロセスと現在の業務手順との違いを机上で確認し,差異一覧としてまとめる。 ・要件定義では,MESの全体構成,生産計画との連携や制御装置とのインタフェース仕様の確定,W社パッケージで実装するスコープの確定を行う。 ・パラメタ設計では,差異を解消するために,W社パッケージの標準プロセスのパラメタの設定をどのように変更するかを定義する。 ・パラメタ実装では,定義したパラメタをW社パッケージ上に実装する。 ・パラメタ検証では,パラメタ設計での定義がW社パッケージに正しく実装されたかどうかを検証する。 ・全体テストでは,試運転期間中に,製造装置を実際に使って作業指示が適切に出せること,制御装置の測定データの抽出が正しく行えることを確認する。 ・運用テストでは,試運転期間中に,変更した業務手順の確認も含めて,商用運転を想定した運用が実現できることを作業員が実際に確認する。 MESプロジェクトも増設工事も,作業期間の余裕はなく,どちらかのスケジュールに遅延が発生すると,4月の商用運転開始に影響を与えることになる。 U課長は,L部長に対する要望事項を次のとおりまとめた。 ・①ワークショップでの確認の精度を高め,MESプロジェクトを予定期間で終了するためには,製品ごとに異なる複雑な製造プロセスを理解している作業員が,一定期間集中してワークショップに参加するようにしてほしい。 ・要件定義や進捗確認の定例ミーティングには,増設工事側の担当者も参加するようにしてほしい。 ・生産計画最適化の基準となるKPI(Key Performance Indicator)を決めて,早急に提出してほしい。 〔リスク対応計画〕 U課長からの作業の概要と要望事項の説明に対し,L部長から次の回答があった。 ・K社の作業員は全員,既存の製造プロセスを担当しており,ワークショップに集中させることは難しい。ワークショップ,パラメタ設計,パラメタ実装の段階は,できる限りT社だけで実施してほしい。 ・増設工事側の担当者を要件定義や進捗確認の全ミーティングに参加させるのは難しい。必要な確認項目を限定してほしい。 ・生産計画最適化の基準となるKPIについては,検討の方向性はまだ決まっていない。履歴データも今回増設する製造装置から収集を開始する。 この回答を受けて,U課長は計画を見直し,L部長に次の提案を行った。 ・ワークショップで行うW社パッケージの標準プロセスと現在の業務手順との違いの確認は,要件定義におけるスコープ確定の前提にもなるので,K社が主体となって実施することが大切であり,そのためにもワークショップへの参加は不可欠である。仮にこれらをT社だけで作業する場合には,既存の手順書を丹念に読み解き,不明な点は前提を置いて要件の確定をすることになり,検証段階での確認工数が増えることが想定される。また,T社だけがリソースを増員しても,K社の役割を代替することはできない。②K社がどの程度工数を投入可能かによってプロジェクトのスコープを確定したい。 ・要件定義や進捗確認のミーティングでの増設工事側との確認事項は,増設工事からMESプロジェクトが影響を受ける,仕様の確認とマイルストーンの状況の確認に限定してよいが,定期的な協議が不可欠である。 ・③MESプロジェクトには,リソース及びスケジュールに関する二つのリスク源があり,スコープを,期限までに確実に完了させる部分と,来期以降へ先送りする部分とに分割する必要がある。スコープの分割は要件定義で検討して確定したい。そのために,まずワークショップ及び要件定義の契約を締結して進め,次に要件定義を終了した段階でその後の工程の見積りを行い,改めて契約を締結した上で進める形としたい。 L部長はこの提案に同意し,要件定義を進めることにした。 〔要件定義〕 ワークショップ及び要件定義が進んだので,U課長は,MESプロジェクトのスコープを確定するミーティングを実施して,次の提案を行った。 ・GMPの認証を受ける期間的な余裕がないので,W社パッケージをそのまま適用する。 ・基本機能と履歴管理機能については今回の開発対象として必須である。 ・④分析機能は,AI活用の前提が整っていないので,リリースを先送りすることが妥当である。 その結果,L部長の承認を得たので,K社及びT社は,これらの決定事項に基づき,MESプロジェクトを進めることにした。 設問1 〔MESの各機能の概要〕について,U課長が,K社の最重要課題を確認して,W社パッケージをそのまま適用するのがよいと判断した理由は何か。30字以内で述べよ。 設問2 〔プロジェクト計画〕について,U課長が,本文中の下線①のように考えた理由は何か。40字以内で述べよ。 設問3 〔リスク対応計画〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) U課長が,本文中の下線②の提案をした理由は何か。40字以内で述べよ。 (2) U課長が,本文中の下線③のように考えた,リソース及びスケジュールに関するリスク源とは何か。それぞれ25字以内で述べよ。 設問4 〔要件定義〕について,U課長は,なぜ本文中の下線④のように提案したのか。理由を二つ挙げ,それぞれ35字以内で述べよ。
図1 MESの構成図。W社パッケージの範囲(破線)内に基本機能・履歴管理機能・分析機能があり、外部の生産計画と連携している。基本機能は作業員へ作業指示を出し、作業履歴・条件設定を受ける。履歴管理機能は制御装置から測定データを抽出し、制御装置は製造装置とコントロール・製造データをやり取りする。凡例は外部・機能・人・装置。
図1 MESの構成図。W社パッケージの範囲(破線)内に基本機能・履歴管理機能・分析機能があり、外部の生産計画と連携している。基本機能は作業員へ作業指示を出し、作業履歴・条件設定を受ける。履歴管理機能は制御装置から測定データを抽出し、制御装置は製造装置とコントロール・製造データをやり取りする。凡例は外部・機能・人・装置。
図2 概略スケジュール。4月から翌年4月以降までの月別スケジュール表。製造装置の増設は4〜11月が増設工事、12〜3月が試運転、4月以降が商用運転で6月に輸出開始。MESプロジェクトはワークショップ4〜5月、要件定義4〜6月、パラメタ設計7〜8月、パラメタ実装8〜10月、パラメタ検証10〜11月、全体テスト12〜1月、運用テスト2〜3月。破線矢印は同期を示す。
図2 概略スケジュール。4月から翌年4月以降までの月別スケジュール表。製造装置の増設は4〜11月が増設工事、12〜3月が試運転、4月以降が商用運転で6月に輸出開始。MESプロジェクトはワークショップ4〜5月、要件定義4〜6月、パラメタ設計7〜8月、パラメタ実装8〜10月、パラメタ検証10〜11月、全体テスト12〜1月、運用テスト2〜3月。破線矢印は同期を示す。
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判断の前提をそろえて整理する

計画を検討するときは、判断の前提がどこに置かれているかに注目しましょう。与えられた条件と、自分で補った想定を区別して整理すると、知識や経験だけで結論を急がず、検討の土台を確かめられます。

この問題で問われていること

この話題では、結論そのものよりも、どの条件を前提に考えているかを意識してみましょう。検討の途中で別の想定を持ち込んでいないかを振り返り、最初に与えられた条件とのつながりを確認することが学習の手掛かりになります。

視点

前提は、考察の出発点となる条件です。与えられた条件と、自分の経験から補った想定を分けて捉えましょう。両者を混同していないかを確かめることが、判断の根拠を整理する助けになります。

確認ポイント

  • 与えられた条件を前提として捉えているか
  • 自分で補った想定を条件と混同していないか
  • 検討の途中で前提が変わっていないか
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解説

輸出開始の期限を守るため、認証済みパッケージの適用、顧客の投入工数に応じたスコープ確定、増設工事との同期、分析機能の先送りを判断する問題です。本文の制約から各提案の理由とリスク源を導きます。

問題の全体像

食品メーカのK社は、来年6月の海外輸出開始に向け、製造装置の増設とMES導入を並行して進めます。来年4月の商用運転開始までにMESのテストを終える必要があり、両方の作業期間に余裕はありません。一方、K社作業員の参加には制約があり、分析機能に必要な基準や履歴データも整っていません。公式の出題趣旨では、スコープ、ステークホルダ、リスク、スケジュールのトレードオフと外部との依存関係を把握し、計画策定と合意形成を行う能力を問うとされています。各設問では、U課長の提案を、期限や作業条件と結び付けて説明します。

設問1

着目するのは、海外輸出開始が最重要課題であることと、W社パッケージをそのまま適用すればMESについて改めてGMP認証を受ける必要がないという記述です。機能変更や独自構築では再認証の期間が加わり、必達のスケジュールを脅かします。公式解答例では、認証に要するスケジュールリスクの軽減、又は認証が不要になることによる期間短縮を挙げています。30字以内では「GMPの認証が不要で、期間を短縮できるから」とまとめられます。ここで不要になるのはMESの再認証であり、製造プロセス全体の認証が不要になるという意味ではありません。

設問2

ワークショップでは、W社パッケージの標準プロセスと現在の業務手順との差異を確認します。その結果を基にパラメタを設計するため、複雑な製造プロセスを理解する作業員の参加が、確認の精度を左右します。差異を見落とすと、後工程で運用上の問題が判明して手戻りが生じ、予定期間内の完了が難しくなります。公式解答例では、現状の製造プロセスをMESで正しく運用できることの確認を要点としています。採点講評では、確認精度を高めて後工程の手戻りを防ぐ意図の理解が求められています。40字以内では「現状の製造プロセスがMESで正しく運用できることを確認する必要があるから」とまとめます。

設問3(1)

着目するのは、差異確認にはK社の主体的な参加が不可欠であり、T社が増員してもK社の役割を代替できないという記述です。K社の投入工数はT社だけでは調整できず、その見通しが不明なままでは実施可能なスコープを確定できません。そこで、投入可能な工数を把握してスコープを決めようとしています。公式解答例では、T社で調整できない要因によってスコープが確定できないリスクの回避を挙げています。40字以内では「T社で調整できない要因でスコープが確定できないリスクを回避したいから」とまとめます。採点講評では、単に『投入工数によってスコープが変わる』と設問を言い換えるだけでは、外部リスクを事前に排除する意図を説明できないと指摘されています。

設問3(2)(リソース)

L部長は、作業員全員が既存の製造プロセスを担当しており、ワークショップに集中させることは難しいと回答しています。しかし、業務手順との差異確認はK社の参加を前提とし、T社の増員では代替できません。したがって、リスク源はK社作業員がどの程度参加できるかという不確実性です。公式解答例では「ワークショップへのK社作業員の参加の程度」と示されており、25字以内に収まります。T社の要員不足という一般的な表現にせず、必要な参加者と参加する作業を具体的に示します。

設問3(2)(スケジュール)

図2では、増設工事の終了とMESの全体テスト開始が破線矢印で同期しています。全体テストには実際の製造装置が必要であり、増設工事が遅れるとテスト開始も遅れ、4月の商用運転開始に影響します。したがって、リスク源はMESプロジェクトが依存する増設工事の完了時期です。公式解答例では「増設工事が予定どおり8か月で終わるかどうか」と示されており、25字以内に収まります。『スケジュールに余裕がない』という状況だけでなく、遅延を引き起こす外部作業の不確実性を答えます。

設問4①

分析機能の説明では、履歴データのどの項目を使い、どのような分析をするかという生産計画最適化の基準が明確であることを、AI活用の前提としています。これに対し、L部長は基準となるKPIについて検討の方向性がまだ決まっていないと回答しています。分析の目的や基準が定まっていないため、分析機能の利用条件が整っていません。公式解答例では、この基準の検討方向が未定であることを理由に挙げています。35字以内では「生産計画最適化の基準について検討の方向性が決まっていないから」とまとめます。

設問4②

もう一つの前提は、一定期間の履歴データがそろっていることです。L部長は、今回増設する製造装置から履歴データの収集を開始すると説明しているため、分析に必要な期間のデータはまだ蓄積されていません。基本機能と履歴管理機能を先に導入してデータを蓄積し、分析機能のリリースを先送りする判断につながります。公式解答例では、分析に必要な期間の履歴データが未蓄積であることを理由に挙げています。35字以内では「分析するために必要な期間の履歴データが蓄積されていないから」とまとめます。①の基準未確定とは別の前提条件として説明します。

学習のポイント

提案と制約の因果関係を読み取り、後工程の手戻り、外部リスク、機能利用の前提条件を区別して説明する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成29年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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