PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成28年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 プロジェクトの進捗管理及びテスト計画に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 不動産会社のD社は,H社のソフトウェアパッケージ(以下,H社パッケージという)に一部機能を追加開発した人事給与システム(以下,現行人事給与システムという)を10年前から利用している。H社パッケージの現行バージョンは保守期限が迫っている。また,現行人事給与システムが対応していない出退勤管理業務,休暇・残業申請業務などに対する社員のシステム化ニーズは強い。これらの点を考慮して,D社経営陣は現行人事給与システムを刷新することにした。 人事部が中心となって要件定義を行い,RFPを提示して複数のベンダから提案を受けたところ,S社のソフトウェアパッケージ(以下,S社パッケージという)が要件への適合度が最も高く,他社で多くの導入実績及び類似の追加開発実績を有していた。経営陣は,S社パッケージに一部機能を追加開発する人事給与システム(以下,新人事給与システムという)の外部設計,移行ツールの設計・製造・テスト,データ移行及び総合テストを準委任契約で,内部設計,追加開発の製造・単体テスト,結合テスト,S社パッケージの設定・テストを請負契約でS社に委託することを決定した。また,現行人事給与システムの利用者は人事部だけであったが,新人事給与システムでは出退勤管理業務,休暇・残業申請業務などのシステム化によって全社員が利用者となる。そこで,操作マニュアルの作成,及び全社員を対象とする操作説明会を行う利用者トレーニングもS社に準委任契約で委託することにした。 S社は,新人事給与システム設計・開発プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)にT課長を任命した。T課長は新人事給与システム設計・開発プロジェクト計画を立案し,D社経営陣の承認を得た。スケジュールは図1に示すとおりである。 図1 スケジュール 本プロジェクトは,H社パッケージの保守期限までに確実に新人事給与システムを稼働させる必要があること,及びH社パッケージからの切替えであり,利用者トレーニングを十分に行う必要があることから,遅延は許されない。そこで,T課長はEVM(Earned Value Management)手法を用いて進捗を定量的に可視化して管理することで遅延リスクへの対応を行うことにした。また,D社の経営陣に少なくとも月1回開催するプロジェクト全体会議で進捗状況,リスク及び課題を報告し,対応策を確定させることにした。 〔外部設計の進捗状況〕 外部設計は人事外部設計チーム,給与外部設計チームの2チーム体制とし,8週間で実施して,工程完了時点で仕様を凍結する。S社は外部設計書として,D社の要件定義を踏まえS社パッケージの標準画面及び標準帳票を参考にして,処理フロー図,画面仕様,帳票仕様,利用者別処理権限表などを作成する。その上で,D社との仕様検討の際に,S社パッケージによって実現する機能については,外部設計書による説明に加え,S社パッケージの標準画面のデモンストレーションや標準帳票の記入例の提示を行う。一方,追加開発で実現する機能については,外部設計書だけで設計内容を説明する。 各チームは機能単位でAC(Actual Cost),EV(Earned Value)を整理しており,T課長は各チームから週次でAC,EVのチーム集計結果,リスク・課題状況と翌週の作業予定の報告を受け,進捗状況などを確認している。外部設計を開始してから3週間経過時の進捗報告で,人事外部設計チームのリーダから,クリティカルパス上の作業ではないが一部機能の設計が遅れているので,この機能を含めて各機能の作業に投入する工数を調整し,遅延を回復させたいという相談があり,T課長はこれを承認した。3週間経過時及び4週間経過時における,EVMの実績に基づく進捗報告は表1に示すとおりである。 表1 進捗報告(外部設計全体) T課長は,表1からプロジェクト全体としてはおおむね計画どおりに進んでいると判断できるが,3週間経過時及び4週間経過時の報告内容を勘案すると,人事外部設計チームに関しては,各機能の作業状況を具体的に把握した上で,状況によっては課題を特定して対応策を検討し,プロジェクト全体会議でD社と対応策を確定させる必要があると考えた。人事外部設計チームは,機能1から機能4に分けて設計していることから,T課長は,人事外部設計チームのリーダに,それぞれの機能の作業状況について報告を求めた。 〔人事外部設計チームの進捗状況〕 T課長が確認した,人事外部設計チームの各機能の作業状況は次のとおりであった。 機能1から機能3まではS社パッケージによって実現する機能である。機能1は,最も作業工数を要する機能であり,プロジェクト計画においてクリティカルパス上の作業であるが,現時点では計画どおりに進んでいる。機能2はS社パッケージの標準画面及び標準帳票をそのまま利用する仕様となったこともあり,作業は当初計画よりも進んでいる。機能3はS社パッケージの標準画面及び標準帳票からの変更内容が明確であり,計画どおりに仕様検討が行われ,作業が進捗している。 機能4は現行人事給与システムでは未対応であり,全社員が利用者となる休暇・残業申請業務のシステム化をS社パッケージに対する追加開発で実現するものである。S社は他社で本機能に関する類似の追加開発実績を有しており,その知見を生かして設計を行っている。現時点ではクリティカルパス上の作業ではない。D社人事部の仕様検討担当者(以下,D社担当者という)は,本業務について現行の紙を用いた処理方法は具体的に理解しているが,システム化した処理方法のイメージが十分にもてておらず,詳細作業手順,作業条件,例外作業の処理方法などの理解が不十分である。このため,S社外部設計案に対するD社担当者の意見は,紙を前提とした処理方法に基づくものであり,S社外部設計案と比較してシステム化する上で優位性がない仕様であったり,仕様内容に不明瞭な点や整合性に欠けるところが残るものであったりする。D社担当者の意見を生かしつつ当該機能の仕様を確定させるには時間が掛かる。仕様確定の迅速化に向け,作業に投入する工数を計画よりも増加させたが,遅延の解消に至っていない。 なお,外部設計工程では,品質・コスト・スケジュールに影響を与える事象を課題管理対象として扱っており,仕様確定に手間取った箇所もその都度,課題管理表に記録している。さらに,課題管理表を週次で整理して未決事項一覧表を作成し,未決事項の検討内容や仕様の確定状況をモニタリングしている。 作業状況を確認したT課長は,人事外部設計チームの進捗状況を適切に管理するために,機能単位でEVMの実績及びクリティカルパスを明示した進捗状況の報告を受けることにした。報告を受けた機能単位のEVMの実績に基づく進捗報告は表2に示すとおりである。 表2 進捗報告(人事外部設計チームの機能単位) 機能4の4週間経過時のSPI(Schedule Performance Index)は【a】となっており,T課長は各機能の作業に投入する工数の調整だけでは対応策として不十分であると判断した。そこで,プロジェクト全体会議において,T課長は【b】を用いて仕様の確定が進んでいないことを報告し,D社とS社は,D社のある状況が仕様確定に時間が掛かっている原因であるという共通認識をもった。その上で,EVMの実績の推移及びEAC(Estimate At Completion)を用いて進捗遅れの問題が顕在化していることを報告し,マイルストーンである仕様凍結日の遵守に向けてD社にも対応を要請することにした。 さらに,T課長は,仕様確定を迅速に進めるためには,D社担当者がS社の外部設計内容を,システム化した処理方法として適切なものであると容易に判断できるようにすることが重要であると考えた。そこで,T課長は,人事外部設計チームに対して,現行人事給与システムで対応していない機能を追加開発する際の外部設計書に関しては,他社での類似の追加開発実績を活用して,ある補足資料を作成し,それも用いて外部設計内容の説明を行うように指示した。そして,引き続き機能単位のEVMの実績などを用いた進捗管理を行い,今後の外部設計期間中に,もし週次の進捗報告から①ある状況になったことが判明した場合は,S社の設計要員を追加投入して遅延の回復を図る対応策の検討や調整も行うことにした。 〔テストに関する施策の追加〕 T課長は,人事外部設計チームの作業状況から,本プロジェクトに潜在する品質リスクを勘案し,次に示す二つの施策をテスト工程で実施することをD社に提案した。 ① 総合テストのテストケース作成に,外部設計時に用いた課題管理表を活用する。 ② 利用者トレーニングにおいて,操作説明会に加え,全社員を対象にトレーニング用のデータを使って一連の業務を実行する試行運用を追加する。さらに,試行運用結果を踏まえて【c】の記述を充実させ,本稼働後に,利用者が業務・システムについての不明点を自身で解消できるようにする。 設問1 〔外部設計の進捗状況〕について,T課長が,プロジェクト全体がおおむね計画どおりに進んでいる状況でも,人事外部設計チームの各機能の作業状況を具体的に把握する必要があると考えた理由を35字以内で述べよ。 設問2 〔人事外部設計チームの進捗状況〕について,(1)~(5)に答えよ。 (1)本文中の【a】に入れる数値を求めよ。答えは小数第3位を四捨五入して小数第2位まで求めよ。 (2)本文中の【b】に入れる適切な資料名を答えよ。 (3)D社のどのような状況が原因で仕様確定に時間が掛かっているのか。40字以内で述べよ。 (4)D社担当者がS社の外部設計内容を,システム化した処理方法として適切なものであると容易に判断できるようにするために,T課長が人事外部設計チームに追加作成を指示した補足資料とはどのような資料か。25字以内で述べよ。 (5)本文中の下線①の「ある状況」とはどのような状況か。30字以内で述べよ。 設問3 〔テストに関する施策の追加〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)外部設計時に用いた課題管理表を活用してテストケースを作成することで,テスト実施時にどのような確認が可能になるか。30字以内で述べよ。 (2)本文中の【c】に入れる適切な資料名を答えよ。
図1 スケジュール。月数1~10に対する新人事給与システムの計画立案、外部設計、内部設計、追加開発、各種テスト、データ移行、利用者トレーニングなどの工程スケジュールを示す図。
図1 スケジュール。月数1~10に対する新人事給与システムの計画立案、外部設計、内部設計、追加開発、各種テスト、データ移行、利用者トレーニングなどの工程スケジュールを示す図。
表1 進捗報告(外部設計全体)。人事外部設計、給与外部設計、全体合計について、BACと3週間経過時及び4週間経過時のPV、AC、EVを千円単位で示した進捗表。
表1 進捗報告(外部設計全体)。人事外部設計、給与外部設計、全体合計について、BACと3週間経過時及び4週間経過時のPV、AC、EVを千円単位で示した進捗表。
表2 進捗報告(人事外部設計チームの機能単位)。人事外部設計チームの機能1~4について、クリティカルパス該当状況、BAC、3週間経過時及び4週間経過時のPV、AC、EVを示した進捗表。
表2 進捗報告(人事外部設計チームの機能単位)。人事外部設計チームの機能1~4について、クリティカルパス該当状況、BAC、3週間経過時及び4週間経過時のPV、AC、EVを示した進捗表。
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進捗と品質を見渡す確認の視点

進捗管理とテスト計画を考えるときは、作業の遅れだけでなく、品質上の懸念がどの工程で表面化し、計画や優先順位にどう影響するかを一つの流れとして整理しましょう。記録の粒度にも注目します。

この問題で問われていること

確認の中心は、課題や品質リスクを見つけた時点で、誰が何を基準に状況を見直し、その結果を次のテストや進捗判断へつなげるかという、管理上のつながりを捉えることです。

視点

課題の把握、影響の整理、対応状況の確認、計画への反映という流れを分けて考え、情報がどの判断に結び付くかを見直します。

確認ポイント

  • 課題と品質リスクの影響範囲が整理されているか
  • 進捗確認とテスト計画の情報が連動しているか
  • 見直しや記録の基準が関係者間で共有されているか
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解説

全体のEVMが概ね計画どおりでも、機能単位では遅延や品質リスクが潜んでいるため、詳細な進捗把握と早期対応が必要です。

問題の全体像

D社は、保守期限が迫る旧人事給与システムを刷新し、S社パッケージへの追加開発と移行を進めている。全社員が利用する新システムであり、仕様凍結、稼働、利用者トレーニングを遅らせられない。出題の狙いは、プロジェクト全体の指標だけでは見えない機能単位のボトルネックを特定し、EVM・クリティカルパス・課題管理を用いて進捗遅延と品質リスクに対応する力を問うことです。

設問1

表1では全体のEVは計画に近いが、人事外部設計チームは3週間経過時のEVがPVを下回り、4週間経過時もその遅れを回復できていない。全体集計に埋もれた人事外部設計チームの遅延を特定し、機能ごとの原因と対応策を検討する必要があるため、各機能の作業状況を具体的に把握する。公式解答例も、人事外部設計チームの4週間経過時点でEVが回復していない点を挙げている。

設問2(1)

機能4の4週間経過時は、PVが1、600、EVが1、420です。SPIはEV÷PVなので、1、420÷1、600=0.8875となり、小数第3位を四捨五入して0.89です。1未満であることから、計画より遅れていると判断できる。

設問2(2)

課題管理表を週次で整理し、未決事項の検討内容や仕様確定状況を監視するために作成している資料です。仕様確定が進んでいない状況を会議で報告する資料名として、本文の流れと公式解答例から「未決事項一覧表」となる。

設問2(3)

D社担当者は紙を用いた現行業務は理解しているが、システム化後の処理方法のイメージを十分にもてていない。そのため、詳細作業手順、作業条件、例外処理などの理解が不十分で、外部設計案への意見が仕様確定を遅らせている。40字以内では、システム化した処理方法のイメージ不足を中心に書く。

設問2(4)

D社担当者がシステム化後の処理を具体的に判断できるよう、類似の追加開発実績を生かしたシステム化処理のデモンストレーション画面や、詳細作業手順が分かるプロトタイプシステムを補足資料とする。公式解答例もこの二つの内容を示している。

設問2(5)

機能4は現時点でクリティカルパス上ではないが、仕様確定の遅れが続くとクリティカルパス上の作業になる可能性がある。したがって、週次報告で機能4の外部設計作業がクリティカルパスとなった状況が、設計要員の追加投入を検討する条件です。

設問3(1)

外部設計時に仕様確定で手間取った箇所は、誤解や不明確さが残りやすい品質リスクの箇所です。課題管理表を総合テストのテストケース作成に活用すれば、仕様確定に手間取った箇所が設計どおり正しく実現されていることを確認できる。

設問3(2)

試行運用の結果を反映し、本稼働後に利用者が業務やシステムの不明点を自分で解消できるようにする資料なので、操作手順や注意点をまとめた「操作マニュアル」となる。公式解答例も操作マニュアルを示している。

学習のポイント

EVMの数値だけでなく、作業の原因・依存関係・品質への影響を結び付けて考える。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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