PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成28年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 プロジェクトにおけるコミュニケーションに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 システム開発会社のP社は、10年前に開発した放送事業者A社の放送番組編成支援システムの追加開発を担当している。追加開発は、A社との間で請負契約を結んで、半年サイクルで継続的に実施している。このシステムの特徴は、他の複数のシステムと連携していることから、A社の現場部門や他システムの担当者など、ステークホルダが多いことである。 長期にわたってこのシステムを担当してきたP社のプロジェクトマネージャ(PM)が退職することになり、後任のQ課長がPMとして追加開発を担当することになった。開発チームはこれまでどおり、リーダであるR主任を含むメンバ8人から成る体制を継続する。 Q課長は、着任に当たって過去のプロジェクトの実績を確認するとともに、開発チームやステークホルダにヒアリングを行ってこれまでの状況を把握し、次のように整理した。 ・前回の追加開発(以下、前回開発という)をはじめ過去の追加開発でも、何回か大きな手戻りが発生しており、A社、P社とも、何らかの対策の必要性を認識している。 ・A社のステークホルダは、P社に対して不満をもっている。 ・P社の開発チームは、十分なチームワークを発揮できていない。 Q課長は、これらの状況を生んだ根底にはコミュニケーションに関する問題があると考え、改善を検討することにした。 〔前回開発の問題を踏まえた改善〕 Q課長は、前回開発の問題を次のように整理した。 ・A社システム部は、現場部門から提示された要求事項を、そのまま一覧にしてP社に提示していた。そこに記載された要求事項は、“何をどのように追加・変更するか”は書かれているものの、断片的な情報であることが多く、業務上の目的や、背景、意図などはほとんど書かれていなかった。また、要求事項の漏れや考慮不足が後工程で見つかることもあった。 ・P社は、A社システム部から一覧にして提示された要求事項を、そのまま追加開発のインプットとしており、要求事項のレビューをほとんど実施していなかった。 ・要求事項一覧で使用されていた業務用語は、用語の定義が不明確で、複数の解釈が可能なものもあった。そのような場合に、A社とP社の解釈が違っていると、その違いは現場部門による受入テストまで検出できず、大きな手戻りとなった。 ・現場部門が、複数の要求事項から自明なので当然対応されるはず、と考えて、要求事項一覧に明示されていない要求事項もあった。しかし、その認識はA社システム部にもP社にもなかったので、現場部門による受入テストで、“このままでは業務には適さない”と評価され、大きな手戻りとなった。 ・要求事項からP社としては他システムへの影響が容易に想定できるはずだと思われた事項が、連携先の他システム担当者の想定から漏れていて、他システムとの連携確認テストで問題が判明し、大きな手戻りとなった。 ヒアリングによると、過去の追加開発でも上記の前回開発の問題と同様な事象が発生しているとのことだった。 Q課長は、図1に示す前回開発における要求事項の解釈に関わる過程で、(i)と(ii)の過程に問題がある、と考えた。 図1 前回開発における要求事項の解釈に関わる過程 Q課長はまず、①A社システム部が提示する要求事項一覧に関する基本的な責任の所在について、A社システム部と話し合い、合意を得た。その上で、次の(1)~(5)のプロセスで要求事項のレビューを行うことを提案した。 (1)P社は、要求事項一覧に記載された内容について、A社システム部に別の観点や表現で問い返したり、疑問点を質問したりして、要求事項の解釈にA社と違いがないことを確認する。 (2)P社は、解釈した要求事項について、“なぜ追加・変更するのか”、“何のために追加・変更するのか”という質問を励行する。A社システム部はその質問を契機として、提示した要求事項が実現したい内容と合っているかどうかを現場部門に確認し、必要であれば実現したい内容に合わせて要求事項の見直しを行う。 (3)P社は、解釈した要求事項を図表に整理して、要求事項としての漏れや考慮不足がないかどうかを整理する。また、要求事項から導かれる、利用者や他システムへの影響について整理する。A社システム部はその情報を基に、必要であれば実現したい内容と合わせて要求事項の見直しを行う。 (4)上記のプロセスを経て完成度を高めた要求事項一覧に対し、P社はその要求事項をブレークダウンした要件定義書を作成する。A社システム部は、要件定義書をレビューし、要求事項一覧の内容が正しくP社に解釈されていることを確認する。 (5)A社システム部は、要求事項一覧と要件定義書の必要な範囲について、現場部門や他システム担当者とレビューし、要求事項が実現したい内容と合っていること、他システムへの影響が想定されていることを確認する。 A社システム部はこの提案を受け入れた。 〔顧客報告の改善〕 Q課長は、P社の顧客報告に対するA社システム部の要望をヒアリングした結果に基づいて、R主任に顧客報告についての改善案を検討するように指示した。R主任が検討した改善案は、表1のとおりである。 表1 顧客報告についてのR主任の改善案 Q課長は、要望3に対する改善案について、この内容ではA社システム部及びステークホルダの時間を有効に使う観点からは不十分なので、②見直しを行うように指示した。R主任は改善案の見直しを行い、Q課長はこれを承認した。 〔開発チーム内部の改善〕 Q課長は、開発チームへのヒアリングで、次のような意見を収集していた。 (1)R主任の意見 ・前任のPMは、進捗会議で進捗や品質の問題が報告されると、報告者に対して“原因は何か”、“対策は考えたか”と問い詰め、全員の前で叱責することが多かった。そのためにメンバは、原因分析や対策立案ができていない段階では、問題の発生を報告しにくいと感じていると思う。 ・連絡や相談を頻繁にしてくるメンバがいる一方で、ほとんどしてこないメンバもいる。ミーティングでも発言をするメンバとしないメンバに分かれている。意見を言わないメンバともコミュニケーションを取る必要があるが、そのための時間を確保できていない。 (2)メンバの意見 ・進捗や品質の問題を発生させたくないので、自分の担当作業を問題なく進めることを最優先にしている。過去に他のメンバの作業が遅れていた時、早めに助言、レビューをしてあげていれば、影響を小さくできていたかもしれない。 ・前任のPMもR主任も、いつも忙しい様子だったので、明らかに問題であると判断したときは相談したが、予兆や“いやな感じ”といった程度では、相談しづらかった。結果として問題になったケースが多く、早めに相談しておくべきだった。 Q課長は、これらの意見をまとめてメンバに配布した。その際に、“チームとして活動する強みを生かすことが最も大切であり、今後は、問題を起こした個人に着目するのではなく、問題に対して【c】で向き合う姿勢で臨みたい。そのためには、チーム内部の状況を的確に共有することが重要である。その第一歩として、1週間後にミーティングを開き、全員で改善方針を検討したいので、それぞれの見解や対策を事前に考えてきてほしい”と伝えた。また、Q課長は、これまでの開発チームのコミュニケーションの状況を踏まえて、各自の事前の検討結果をミーティングの前日までに提出するように指示した。 ミーティングでQ課長は、前日までに集めた意見を整理した資料を配布した上で、まず③全員に自分の意見を述べさせ、議論を経て、朝夕の短時間ミーティングの開催や、困っているメンバに対する相互支援などの改善方針をまとめた。次にQ課長は、“これからは、過去の事例に学んで、悪い話ほど早めに、ミーティングなどの場を通じて共有してほしい。問題として明らかになる前でも構わない。そのことが④開発チームの活動を改善することにつながると思う。”と述べて、ミーティングを終えた。 設問1 〔前回開発の問題を踏まえた改善〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)図1中の【a】に入れる適切な字句を15字以内で答えよ。 (2)本文中の下線①で、Q課長が得た合意の内容は何か。35字以内で述べよ。 (3)本文中の(1)~(5)のプロセスを、図1に示す(i)の過程の問題を解決するためのものと、(ii)の過程の問題を解決するためのものとに分類したとき、前者に該当するものを全て答えよ。 なお、両方に該当するものは、解答に含めるものとする。 設問2 〔顧客報告の改善〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)表1中の【b】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線②について、Q課長は、どのように見直すべきだと考えたのか。30字以内で述べよ。 設問3 〔開発チーム内部の改善〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の【c】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線③について、Q課長は、どのような意図で全員に自分の意見を述べさせたのか。35字以内で具体的に述べよ。 (3)本文中の下線④について、Q課長は、どのような改善につなげようと考えたのか。30字以内で具体的に述べよ。
図1 前回開発における要求事項の解釈に関わる過程。現場部門が実現したい要求事項を起点に、A社システム部の要求事項一覧を経て、P社が解釈した要求事項へ至る流れを示す図。
図1 前回開発における要求事項の解釈に関わる過程。現場部門が実現したい要求事項を起点に、A社システム部の要求事項一覧を経て、P社が解釈した要求事項へ至る流れを示す図。
表1 顧客報告についてのR主任の改善案。A社システム部の三つの要望と、それぞれに対するR主任の顧客報告改善案を左右に対比して示した表。
表1 顧客報告についてのR主任の改善案。A社システム部の三つの要望と、それぞれに対するR主任の顧客報告改善案を左右に対比して示した表。
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関係者との伝達を整える視点

関係者ごとに必要な情報と伝達の目的を整理し、内容・手段・タイミングが目的に合っているかを一つの軸で確認しましょう。

この問題で問われていること

判断では、誰に何を共有するかという整理よりも、その共有が相手の理解や協働にどうつながる設計になっているかへ注目してください。

視点

コミュニケーションを考えるときは、発信者の都合だけでなく、受け手が必要とする情報、理解の前提、行動につながる流れを同じ視点で整理します。

確認ポイント

  • 共有する相手と、その相手が担う役割を確認する
  • 伝える内容が目的に対して過不足ないかを確認する
  • 伝達の時期と方法が協働の流れに合っているかを確認する
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解説

本問は、過去の手戻りや顧客不満、チーム内の発言不足を題材に、要求事項の解釈、顧客報告、内部コミュニケーションを改善するPMの考え方を問う。

問題の全体像

P社は、A社の放送番組編成支援システムを継続的に追加開発しているが、過去に要求事項の解釈違い、要求漏れ、他システムへの影響漏れによる大きな手戻りが発生していた。さらに、A社のステークホルダの不満と、P社開発チームの連携不足もあった。Q課長は、要求事項レビューの手順、顧客報告の方法、チーム内の情報共有を改善し、問題の早期発見と手戻り削減を目指した。

設問1(1)

図1の(i)は、現場部門が実現したい要求事項をA社システム部が要求事項一覧として提示するまでの過程です。(ii)は、その一覧をP社が解釈して開発への入力とする過程です。本文では、前回開発の後に置かれるものとしてP社が解釈した内容が示されているため、aは「P社が解釈した要求事項」となる。

設問1(2)

A社システム部が現場部門の要求をそのままP社へ渡していたことが、要求の背景や目的の欠落につながっていた。そこでQ課長は、要求事項一覧を定義し、内容に責任を持つ主体を明確にする合意を得た。公式解答例では「要求事項一覧を定義するのは、A社システム部の責任であること」とされている。

設問1(3)

(2)は、要求の目的や実現したい内容を現場部門に確認し、一覧を見直すため、(i)の要求形成側の問題に関係する。(3)は、要求漏れや考慮不足、利用者・他システムへの影響を整理し、A社側で見直すため、(i)に関係する。(5)も、現場部門や他システム担当者が要求内容と影響を確認するため、(i)に関係する。公式解答例は(2)、(3)、(5)です。

設問2(1)

表1の要望1は、認識の違いを早期に見つけ、影響を小さくしたいという内容です。R主任の案は、文章中心の開発ドキュメントについて図表を活用し、特に開発の早い段階からコミュニケーションを改善するものなので、対象工程は「上流」「要件定義」「設計」と整理される。

設問2(2)

要望3は、P社だけでは解決できない問題について、A社システム部やステークホルダへの相談を早めたいという要望です。単に依頼事項を検討してから報告するのでは遅いため、P社の検討状況を早い時点から開示し、顧客とともに問題解決を図る内容へ見直す。30字以内では、早期開示と共同解決の二要素を押さえる。

設問3(1)

Q課長は、問題を起こした個人を責めるのではなく、チームとして問題に向き合う姿勢を示している。したがって空欄cは「チーム」または公式解答例に示された「メンバ全員」といった、個人ではなく全体で対応する意味の語になる。

設問3(2)

発言するメンバと発言しないメンバが分かれ、相談しにくい雰囲気もあったため、会議で発言しないメンバの意見が共有されないことが課題だった。事前提出した意見も含めて全員に発言させることで、全員に内容を認識させ、共通認識を形成する意図です。

設問3(3)

過去は、問題が明確になるまで報告されず、後工程で大きな手戻りになっていた。そこで悪い話や予兆の段階から共有させ、問題を早期に発見して対処し、手戻りを最小化する改善につなげようとした。採点講評でも、早期発見と対処による手戻り削減の理解が重視されている。

学習のポイント

責任分担、早期共有、全員参加、問題の早期発見を本文の事実と結び付けて説明する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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