PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成28年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 プロジェクトのリスク管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 J社は,プラントで石油化学製品を製造する企業である。J社製品に対する需要は伸び悩み,プラントの運転に係る業務の効率向上と費用の削減が求められている。また,ベテラン作業員の退職に伴う若手作業員への技術継承が課題となっている。 一方で,プラントは重要な社会基盤であり,安全で安定的な運転が求められている。具体的には,プラントを運転しながら行う日常の設備の点検や補修作業(以下,日常点検という)は,多くの作業を手際よく進める必要があるが,点検を行う設備に対する作業手順を間違えるとプラントの停止につながりかねないので,決められた手順に沿った確実な作業実施が求められる。 このような状況に対応するために,J社は,これまで使用してきた設備管理システム(以下,現システムという)に代えて,通信機能を搭載したタブレット端末を活用して,日常点検を支援する,新たな設備管理システム(以下,新システムという)を開発するプロジェクトを立ち上げることにした。開発期間は1年で,年末年始のプラントの停止期間中にシステムを切り替えるので,スケジュールの遅延は許されない。プロジェクトマネージャ(PM)はシステム部のK氏である。 〔現システムにおける作業の問題点と新システムの機能〕 J社のプラントは,様々な種類の数多くの設備から構成されている。これらの一連の設備は広大な土地の中に分散して設置されている。現システムは,10年以上前に開発され,書類を使うことを前提に作業を実施しているので,最近では次のような問題点が顕在化している。 ・作業指示に基づき日常点検を行う場合,事前に作業員が現場に行き,対象となる機器の位置や状態を確認した上で,必要となる点検のチェックリスト(以下,点検票という),マニュアルや設計図面などの書類を事務所に取りに戻らなければならない。 ・日常点検の作業では,現場で点検票に結果を記録し,点検作業終了後に事務所に戻って現システムに入力し,作業報告書にまとめる。これらの一連の処理は,日中に点検作業を続けて行い,全ての点検作業終了後にまとめて現システムへの入力と作業報告書の作成という手順で行われることが多い。その結果,現システムへの入力は夜間にまで及ぶことが多く,入力間違いや入力の漏れが発生する原因となっている。 ・若手作業員が日常点検を行う際,作業内容の不明な点を,書類を一緒に見ながらベテラン作業員に確認したい場合には,事務所に戻る必要があり,作業が非効率となっている。 これらの問題点を解消するために,新システムでは,現システムの機能に加え,次の機能を実現する。 ・点検票や日常点検時に必要なマニュアルや設計図面などの情報を,現場で必要に応じてタブレット端末で参照できるようにする。 ・日常点検の履歴から,次回の日常点検の対象設備や点検項目を抽出し,適切な手順に沿ってリスト化した点検票としてタブレット端末に表示できるようにする。 ・点検票の手順に従って日常点検の作業を確実に実施しながら,作業の結果をタブレット端末でチェックするだけで入力できるようにする。 ・現場の作業員と事務所の作業員が,タブレット端末の通信機能を利用して,同じ情報を一緒に見ながら確認,質問,アドバイスなどの協働作業を行えるようにする。 K氏は,今回のプロジェクトにおいては,通信機能を搭載したタブレット端末を活用した新たな日常点検の業務プロセスを導入する必要があると考えた。そこで,このことに起因する開発スケジュール面のリスクを軽減するために,早い段階からステークホルダの協力を得て,協働して開発を進めることにした。 〔プロジェクトに対する要求事項〕 K氏は,今回のプロジェクトでは,業務の特性から次のような要求事項を実現する必要があると考えた。 ・機能要件への高い適合性の確保 機能要件への不適合が,点検を行う設備に対する作業手順の間違いにつながる可能性もあるので,機能要件を明確にした上で,徹底した適合性の検証が求められる。 ・日常点検作業を阻害しない操作性の確保 作業員が日常点検を行う場合,様々な器具を使ったり,設備の操作を行ったりする。そのような状況でも利用できるように,作業員の作業を阻害しない操作性が求められる。 ・現場と事務所間の協働作業の効率向上 現場と事務所間で通信機能を活用した協働作業を実現することによって作業の効率向上を図るために,現場の作業環境で確実に通信機能による協働作業が可能かどうかを検証する必要がある。現場と事務所の作業員の通信手順を設計段階で確立し,試用期間の中で検証する。 ・情報セキュリティの確保 可搬性を確保するために,通信機能を搭載したタブレット端末を導入するが,情報セキュリティの確保が必要となる。 ・データの整理・検証 現システムのデータの完全性についての問題を解決するために,データの整理・検証を行う必要がある。 K氏は,プロジェクト計画の策定に当たっては,これらの要求事項を十分に考慮する必要があると考え,図1のスケジュールを策定した。 図1 スケジュール 〔要求事項への対応〕 K氏は,それぞれの要求事項に対し,次の対応策を講じることにした。 ・機能要件への高い適合性の確保 機能要件への高い適合性を確保し,最終的なビジネス上のリスクを回避するために,①総合テスト後に新システムの試用期間を設定して,改善した業務プロセスによる新たな実務の内容や業務フローに則した確認項目を充実させることにした。試用期間においては,日常点検の際に従来の書類を使用した作業と並行して,タブレット端末も利用し,新システムで新しい実務に則した作業が確実に実施可能かどうかを確認してもらうことにした。 ・日常点検作業を阻害しない操作性の確保 日常点検作業を阻害しない操作性を確保するために,設計段階でプロトタイプによる検証を行うことにした。タブレット端末に,従来及び新しい点検票のフォームを順番に表示し,②日常点検の現場で,作業員にあることを確認してもらうことにした。 ・現場と事務所間の協働作業の効率向上 ③新しい機能が現場作業の効率向上に確実に貢献することを確認するために,試用期間の中で,試行目的で移行したデータを用いて,実際の日常点検の作業環境において,タブレット端末を使ってもらうことにした。 ・情報セキュリティの確保 ④情報セキュリティ面のリスクを回避するために,タブレット端末にデータを保存させない機能を追加することにした。さらに,タブレット端末にICタグを貼付して,管理を徹底することにした。 ・データの整理・検証 現システムのデータの完全性についての問題によって,新システムで発生する可能性があるリスクを回避するために,⑤現システムのデータの整理・検証を徹底して行うことにした。 〔機能の追加要求〕 プロジェクト開始後2か月が経過し,プロトタイプでの検証を進める中で,“より効率よく作業が行えるように,GPS機能を利用し,作業員の現在地と目的の設備の位置をプラントの図面上で確認できるようにしてほしい。”という追加要求が挙がってきた。GPS機能自体はタブレット端末の機能として装備されているが,位置情報をプラントの図面上に正確に表示させるためには,GPS機能を活用したZ社のソフトウェアパッケージを利用し,ソフトウェアパッケージ上の追加開発をZ社に委託しなければ対応できない。Z社のソフトウェアパッケージは市場での導入実績が多いが,J社としては,Z社との取引実績はない。 K氏は,この追加要求に対応することは,単純に開発工数が増えるというだけでなく,別のリスク要因を抱え込むことになると考えた。今回のプロジェクトは後半のテスト工程,試用期間を十分に確保することが最優先だと考え,現時点ではこの追加要求を開発範囲には含めず,次回の開発事項として対応を検討することにした。 設問1 〔現システムにおける作業の問題点と新システムの機能〕について,K氏が,開発スケジュール面のリスクを軽減するために,早い段階からステークホルダの協力を得て,協働して開発を進めることにした狙いを,30字以内で述べよ。 設問2 〔要求事項への対応〕について,(1)~(5)に答えよ。 (1)K氏が,本文中の下線①を行うことによって回避しようとしたビジネス上のリスクを,30字以内で述べよ。 (2)K氏が,本文中の下線②において,作業員に確認してもらおうとした内容を,30字以内で述べよ。 (3)K氏が,本文中の下線③において,現場作業の効率向上に確実に貢献することを確認しようとした内容を,30字以内で述べよ。 (4)K氏が,本文中の下線④において,タブレット端末にデータを保存させない機能を追加することによって回避しようとしたリスクを,30字以内で述べよ。 (5)K氏が,本文中の下線⑤の対策を行うことによって回避しようとした,新システムで発生する可能性があるリスクを,35字以内で述べよ。 設問3 〔機能の追加要求〕について,K氏が,この追加要求に対応することで抱え込むことになると考えた,開発工数が増えること以外の別のリスク要因を,25字以内で述べよ。
図1 スケジュール。要件定義から本稼働までの月別工程と、プロトタイプ検証、データ整理・検証、試行データ移行などの並行作業を示すスケジュール図。
図1 スケジュール。要件定義から本稼働までの月別工程と、プロトタイプ検証、データ整理・検証、試行データ移行などの並行作業を示すスケジュール図。
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リスクと要求の対応を見極める視点

プロジェクト上の懸念と要求事項を結び付けて読むときは、個別の用語や印象だけで判断せず、何を守るための対応かという目的と、要求にどう関係するかを同じ軸で一貫して整理しましょう。

この問題で問われていること

確認する観点を一つに絞り、各記述が示す対応について、リスクへの働きかけと要求事項との関係が同じ目的に向かっているかを、問題文の条件に照らして順序立てて確認してください。

視点

リスク対策と要求事項は、対応の目的、対象、期待する結果という観点で整理すると、記述同士の関係を落ち着いて比較できます。個別の表現だけでなく、設問の条件との整合性に注目しましょう。

確認ポイント

  • 対応が何を対象にしているかを確認する
  • 要求事項との関係を整理する
  • 設問の前提や制約と矛盾しないか見直す
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解説

本問は、プラントの日常点検を支援する新システムの開発を題材に、業務特性と要求事項を踏まえたリスクの予防的な把握と対応を問う問題です。

問題の全体像

J社は、紙中心の設備点検をタブレット活用型の新システムへ移行する。プラント停止につながる作業手順の誤りを防ぎつつ、現場作業の効率化、技術継承、通信による協働を実現する必要がある。しかも年末年始の切替期限が固定されているため、早期のプロトタイプ検証、試用、データ整理などを計画に組み込み、要求事項ごとのリスクを先回りして抑えることが出題の中心です。

設問1

新システムでは、従来と異なるタブレットを使った日常点検の業務プロセスを導入する。本文は、K氏がこの変更に起因するスケジュールリスクを軽減するため、早い段階からステークホルダと協働すると述べている。したがって、公式解答例の「新たな業務プロセスを早期に検証してもらうこと」のように、現場関係者に新しい業務の実現可能性を早期確認してもらう狙いを書く。

設問2(1)

下線①は、総合テスト後に試用期間を設け、従来の書類作業と新システムを並行利用して、新しい実務や業務フローに沿って確実に作業できるか確認する対策です。機能要件への不適合は作業手順の誤りにつながり、プラント停止を招く可能性があるため、公式解答例のとおり「作業手順の間違いでプラントを停止させてしまうこと」が回避対象となる。30字以内では、手順誤りとプラント停止を押さえる。

設問2(2)

下線②は、設計段階でプロトタイプを作り、日常点検の現場で作業員に使ってもらう検証です。作業員は器具を使ったり設備を操作したりするため、画面操作が作業の妨げにならないかが確認点となる。公式解答例の「日常点検の作業を実施しながら利用が可能であること」のように、実作業と併用できる操作性を示します。

設問2(3)

下線③では、試用期間中に試行移行したデータを用い、実際の日常点検の環境でタブレットを使わせる。現場と事務所の協働効率を確認するには、従来のように書類を取りに事務所へ戻る必要がなく、現場で点検を完了できるかを見る。公式解答例の「事務所に戻らずに作業を完了することができること」に対応する。

設問2(4)

タブレットは現場へ持ち運ぶため、紛失や盗難の可能性がある。端末にデータを保存しない機能は、端末が第三者の手に渡っても情報を直接取得されにくくする対策です。したがって、公式解答例のとおり「タブレット端末の紛失や盗難による情報漏えい」をリスクとして書く。

設問2(5)

現システムでは入力間違いや入力漏れが発生しており、データの完全性に問題がある。これを整理・検証せず新システムへ移行すると、誤ったデータを基に点検対象や点検項目が抽出される。公式解答例の「入力間違いのデータが移行され,正しい点検票が表示されないこと」のように、誤データ移行と誤った点検票表示を一続きで示す。

設問3

追加要求には、Z社のソフトウェアパッケージと、Z社に委託する追加開発が必要です。Z社は市場実績が多い一方、J社との取引実績がないため、要求調整、進捗確認、品質確認などの管理負荷が高まる。公式解答例の「取引実績のないZ社に対する管理負荷が高まること」を中心に、単なる開発工数増加ではない外部委託先管理のリスクを書く。

学習のポイント

対策の目的を本文の業務上の問題や要求事項から逆算して説明する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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