PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成27年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 ソフトウェアパッケージの導入に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 D社は衣料品メーカであり,国内にある2か所の倉庫から全国の量販店に商品を配送している。昨今,競合環境が厳しくなっていることから,既存2倉庫を廃止して1か所の新倉庫に統合し,業務の効率向上を図ることを決定した。これまでは自社で開発した倉庫管理システムを既存2倉庫で使用していた。しかし,倉庫ごとに業務プロセスの変更があり,その都度改修を行ってきたので,既存2倉庫でシステムの仕様に差異が発生し,メンテナンスにも支障を来していた。D社では,今まで業務システムを自社開発しており,ソフトウェアパッケージの導入経験はなかったが,これを機に新倉庫には倉庫管理用ソフトウェアパッケージ(以下,倉庫管理パッケージという)を導入することにし,次のシステム化の方針を役員会で決定した。 ・1年後に新倉庫の操業を開始する。 ・既存2倉庫の業務プロセスを基に,業務の統合と効率向上の観点から新業務プロセス案を定義する。 ・新業務プロセス案の機能に対して,適合率が最も高い倉庫管理パッケージを選定する。 ・倉庫管理パッケージの標準機能及び標準プロセスに合わせて,新業務プロセス案を見直し,新倉庫の業務プロセスを決定する。決定に当たっては,業務の効率向上の観点で十分に評価する。 ・倉庫管理パッケージに装備されていない機能,及び装備されていてもそのままでは運用上支障があり利用できない機能については,追加開発を行う。追加開発の工数は,プロジェクトの予算の制約に基づき上限を設定する。 ・無線ハンディ端末を使用してリアルタイムに在庫の動きを把握する現在の方式を踏襲する。 〔倉庫管理パッケージの選定〕 システム化の方針を受け,倉庫管理パッケージ選定委員会(以下,委員会という)が組織された。また,倉庫管理パッケージ導入プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)には,情報システム部のE課長が任命された。委員会は,業務の効率向上の推進役である経営企画部が中心となり,E課長,新倉庫の管理者及び既存2倉庫のキーパーソンで構成された。 委員会による検討を経て,新業務プロセス案が定義された。新業務プロセス案は,業務の効率向上の観点から既存2倉庫の業務プロセスの差異を吸収するだけでなく,業務プロセスの見直しも多数実施した。既存2倉庫のキーパーソンは,定義された新業務プロセス案の大枠には合意したものの,“既存業務プロセスからの変更が多く,現場がついてこられるか不安だ。”とのことであった。この点は業務プロセス設計の段階で再評価することとなった。 この新業務プロセス案と複数のベンダから提案された倉庫管理パッケージとの機能の適合率を調査し,検討を行った結果,適合率が最も高くベストプラクティスとして業界での評価も高いM社倉庫管理パッケージ(以下,MWSという)を選定した。 E課長は,倉庫管理パッケージ選定の過程でMWSの機能については十分に確認できたが,性能や運用面については今後確認が必要だと感じた。過去にD社では無線ハンディ端末を導入した際,稼働直前の総合テストで性能に関する問題が発見され,稼働が遅れたことがあったからである。またE課長は,プロジェクトの開始に向けてM社へ支援を依頼した。その際,D社のこれまでの開発の実績を踏まえて,MWSの製品知識に詳しいメンバだけでなく,①MWS導入のプロジェクト管理の知識と経験を有するメンバの人選も依頼した。 MWSの追加開発では,D社が現在使用している開発言語及び開発環境が利用できる。また,D社要員のスキルで十分に対応が可能であり,要員の調達のめども立っている。さらに,M社に委託した場合よりもコストが削減できるので,追加開発は自社で行う方針とした。そして,予算の制約から追加開発の上限となる工数を設定し,自社要員の投入可能工数を算出した。 〔プロジェクト計画〕 委員会での検討は3か月で完了し,倉庫管理パッケージ導入プロジェクトが立ち上がった。E課長は,M社メンバの支援を受け,プロジェクト計画を立案した。MWS導入スケジュールは図1のとおりである。 図1 MWS導入スケジュール スケジュールにある各工程の作業内容は,次のとおりである。 (1) 業務プロセス設計:MWSの標準機能及び標準プロセスに合わせて,新業務プロセス案を見直す。見直しに当たっては,M社のデモンストレーション環境でプロトタイプを3段階に分けて作成し,新倉庫の業務プロセスを確定させる。それによって,追加開発の要件も確定する。 (2) パラメタ設定:業務プロセス設計で作成したプロトタイプを基に,開発機で詳細なパラメタを設定し,機能単位に動作テストを実施する。 (3) 追加開発:業務プロセス設計で確定した追加開発の要件を基に,追加開発するプログラムの基本設計から単体テストまでを実施する。 (4) 結合テスト:機能単位の動作テストが完了したMWSと,単体テストが完了した追加開発分のプログラムとを,開発機で結合してテストする。 (5) 総合テスト:業務プロセス設計で定義した業務プロセスの観点から,新倉庫の倉庫管理システムを本番機で総合的にテストする。また,性能や運用面の検証,及びキーパーソンを含めた既存2倉庫の要員から成る利用部門による検証を行う。 (6) 利用者トレーニング:利用部門に対する,新しい業務プロセスに沿った操作トレーニングを行う。 (7) 在庫移動:既存2倉庫から在庫品を移動する。在庫データの移行は行わず,新倉庫で入庫処理を行うことによって在庫データを蓄積する方式とする。 E課長はスケジュール作成に当たって,M社から提案された標準的なスケジュール案に対して次の変更を行っている。 ・利用者トレーニングは総合テストの完了後に行うことが標準であったが,新倉庫の操業開始時期の制約があり,総合テストと並行して実施する。 ・M社のデモンストレーション環境はプロトタイプ作成の期間だけの提供が標準であったが,業務プロセス設計工程の完了以降も利用できるようM社に依頼し,プロトタイプを利用部門に公開し,事前に操作してもらうことにした。利用者トレーニングに備えて,既存2倉庫のキーパーソンから新倉庫の業務プロセスについてドキュメントを基に説明してもらう計画だが,それだけでは利用者トレーニングがスムーズに進まないリスクがあると考えたからである。 ・本番機の導入は総合テストからが標準であったが,過去の経験から②ある作業の一部を結合テスト工程で実施するために,結合テスト工程から導入し,利用できるようにした。 〔プロジェクト体制〕 プロジェクトの体制は,業務プロセス設計チーム,MWS導入チーム,追加開発チームの3チーム編成とした。 業務プロセス設計チームは,新倉庫の管理者と既存2倉庫のキーパーソンを中心に構成した。E課長は,③新業務プロセスを定義したときのキーパーソンの反応から,業務プロセスの設計を行う過程で作業の進捗が滞ってしまうリスクがあると考えた。そこで,M社のメンバと相談し,D社と企業規模や業務内容が似通っており,MWSの標準機能及び標準プロセスに合わせて業務プロセスを変更し,成果を出している企業の倉庫へ見学に行き,その倉庫の管理者や実務リーダとディスカッションができるよう企画した。 MWS導入チームは情報システム部のメンバで構成した。このチームは,業務プロセス設計チームと共同で業務プロセス設計を行った後,パラメタの設定作業と動作テストを行う。 追加開発チームも情報システム部のメンバで構成した。チームの本格的な立ち上げは業務プロセス設計終了後であるが,チームリーダのF主任については,業務プロセス設計の段階から参加できるよう調整した。 〔プロトタイプと追加開発〕 E課長は,プロトタイプを3段階に分け,それぞれ次の目的で作成することにした。 ・プロトタイプi:MWSの標準機能及び標準プロセスに合わせて定義された業務プロセスを,プロトタイプを作成して確認し,課題を抽出する。 ・プロトタイプii:プロトタイプiで抽出された課題に対応し,さらに,画面の操作方法や表示形式,イレギュラ処理などの動作を確認する。同時に,追加開発の候補を洗い出し,概算の工数見積りを行う。このとき,見積工数が投入可能工数を超過した場合,④M社メンバの支援を受け,システム化の方針に沿って再検討する。 ・プロトタイプiii:最終的な業務プロセスと追加開発の範囲を確定する。 E課長は,業務プロセス設計工程を完了するには,追加開発が投入可能工数以内に収まることはもちろんだが,それだけでなく,新しく定義された業務プロセスが,⑤システム化の方針に適合していることが重要であると考えた。そこで,業務プロセス設計チームの立ち上げ時に,この点を徹底することにした。 設問1 〔倉庫管理パッケージの選定〕について,E課長が,本文中の下線①の依頼をした理由を,40字以内で述べよ。 設問2 〔プロジェクト計画〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) E課長は,プロトタイプを公開し,事前に操作してもらうことによって利用部門に何を期待したか。35字以内で述べよ。 (2) E課長が,本文中の下線②で実施しようと計画した作業とは何か。10字以内で答えよ。 設問3 〔プロジェクト体制〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) E課長が,本文中の下線③のリスクがあると考えた理由を,40字以内で述べよ。 (2) E課長は,MWSを使っている倉庫を見学することによってどのような効果を狙ったのか。40字以内で述べよ。 (3) E課長がF主任を業務プロセス設計の段階から参加できるよう調整した理由は何か。35字以内で述べよ。 設問4 〔プロトタイプと追加開発〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線④について,E課長はどのような内容の再検討を行うつもりか。30字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線⑤について,システム化の方針に適合しているとは具体的にどのようなことか。20字以内で述べよ。
図1 MWS導入スケジュール。MWS導入における月数1~11の工程表で,業務プロセス設計,パラメタ設定,追加開発,結合テスト,総合テスト,利用者トレーニング,在庫移動などの時期を示す。
図1 MWS導入スケジュール。MWS導入における月数1~11の工程表で,業務プロセス設計,パラメタ設定,追加開発,結合テスト,総合テスト,利用者トレーニング,在庫移動などの時期を示す。
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導入計画を整理する基本視点

導入計画を考えるときは、機能の多さだけで判断せず、現場の仕事の流れと運用上の制約を順に照らし合わせ、無理なく継続できるかを見極めることが大切です。全体のつながりにも注目します。

この問題で問われていること

一つの観点として、導入対象が既存の業務プロセスに与える影響を確認してください。作業のつながり、担当者の役割、移行時の負担を関連づけ、業務全体への影響を考えます。

視点

導入の検討では、目的と現状の業務を分けて整理し、関係者・手順・制約のつながりを確認します。そのうえで、導入後の運用を無理なく続けられるかという視点から比較します。

確認ポイント

  • 業務の流れに沿って、前後の作業や担当のつながりを整理する
  • 導入によって変わる負担や調整事項を、関係者ごとに確認する
  • 導入後も継続して運用できる条件がそろっているかを見直す
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解説

自社開発から倉庫管理パッケージへ移行する事例を通じ、標準機能に合わせた業務設計、利用者の受入れ、性能検証、追加開発の抑制といったPMの計画・リスク対応を問う問題です。

問題の全体像

D社は、二つの既存倉庫を一つの新倉庫へ統合し、初めて倉庫管理パッケージMWSを導入する。既存業務には倉庫ごとの差異や保守上の問題があり、短期間で新業務プロセス、パッケージ設定、追加開発、テスト、教育を進める必要がある。出題の狙いは、PMが自社の導入経験不足、利用者の不安、過去の性能問題、予算上の工数制約を踏まえて、計画とリスク対応を具体化できるかを確認することです。

設問1

下線①は、M社に製品知識だけでなく、MWS導入プロジェクトの管理経験者も依頼した箇所です。D社にはソフトウェアパッケージの導入経験がないため、導入特有の計画・進行管理を補う必要がある。したがって、公式解答例では「D社はソフトウェアパッケージの導入経験がないから」としている。

設問2(1)

プロトタイプを利用部門へ公開するのは、文書説明だけでは新業務への理解が進まず、トレーニングが円滑に進まないリスクがあるためです。利用者に事前操作をしてもらい、MWS導入後の新しい業務プロセスへの理解を深めることを期待している。公式解答例もこの点を示している。

設問2(2)

過去に無線ハンディ端末で、稼働直前の総合テストになって性能問題が発覚し、稼働が遅れた経験がある。その再発を避けるため、本番機を早期に導入して結合テスト工程から性能や非機能面を検証する。公式解答例では「性能の検証」「非機能要件の検証」を挙げている。

設問3(1)

既存倉庫のキーパーソンは、新業務プロセス案の大枠には合意した一方、既存業務からの変更が多く、現場が受け入れられるか不安を表明している。この反応から、業務プロセス設計の途中で合意形成が進まず、作業が滞るリスクを想定した。

設問3(2)

見学先は、MWSの標準機能・標準プロセスに合わせて業務を変更し、成果を上げている企業です。その実例を見て管理者や実務リーダと議論することで、MWSの標準に合わせても業務運用できることを確認し、キーパーソンの不安を和らげる効果を狙った。

設問3(3)

F主任は追加開発チームのリーダです。業務プロセス設計の段階から追加開発の要件を把握させれば、追加開発チームを円滑に立ち上げられ、必要工数の見積りも早期に行える。公式解答例では、この二つの効果が示されている。

設問4(1)

追加開発の見積工数が投入可能工数を超えた場合、予算制約を無視して開発範囲を広げるのではありません。M社の支援を受け、MWSの標準機能で実現できないかを検討し、標準機能に合わせて業務プロセスを見直す内容を再検討する。

設問4(2)

システム化の方針では、新業務プロセスを業務の統合と効率向上の観点で定義し、最終決定時にも効率向上を十分評価することになっている。したがって、公式解答例では、方針への適合を「業務の効率向上が図られていること」としている。

学習のポイント

本文中の過去経験、不安、制約を根拠に、各施策の目的を説明する練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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