PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成27年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 生産管理システムを導入するプロジェクトの,ステークホルダマネジメントに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。 H社は製薬企業である。米国市場へ進出するために,米国の大手製薬企業X社と提携し,その傘下に入った。 米国市場へ製品を輸出するためには,米国の医薬品業界の基準に適合した生産管理システムを導入する必要がある。そのため,X社から,X社グループ標準の生産管理システム(以下,X社標準システムという)を導入することを求められた。H社の経営陣は,X社標準システムの導入を決定した。 X社は,H社がX社標準システムを導入するに当たって,X社標準システムに詳しい米国人コンサルタントのY氏をアドバイザとして派遣することを約束したが,システム導入はあくまでもH社が中心となって進めることが前提となっている。X社は,H社が守るべき条件として,次の項目を指定している。 ・X社標準システムの導入作業は,X社が提示するX社標準システム導入手順のテンプレート(以下,テンプレートという)に沿って実施し,進捗状況について定期的にX社に報告すること。 ・X社標準システムの稼働開始の前提として,H社が,X社標準システムを利用して基準を満たす製造プロセス(以下,X社標準業務プロセスという)を実行できるかどうかを,導入作業終了後,稼働開始までにX社の監査員が監査し,指摘事項があれば対応すること。 X社標準システムでは,製造の記録及び承認の履歴を,電子的に追跡できることが前提となっている。H社のこれまでのシステム(以下,現システムという)は,生産計画の策定から実施,結果の収集などを行うことはできるが,紙での記録が中心で,作業工程の履歴を紙に記録し,管理者が確認をしたという記録をシステムに入力する手順になっている。したがって,X社標準システムの導入においては,システムの導入と並行して,従来のH社の業務手順をX社標準業務プロセスに沿って見直す必要がある。 H社は,X社標準業務プロセス及びX社標準システムの導入の統括責任者として製造部門のI部長を任命し,その配下に業務見直しのための委員会(以下,見直し委員会という)とシステム導入のためのプロジェクトを設置した。また,見直し委員会の委員長はI部長が兼務し,現システムの業務の主担当者である製造部門のJ課長がリーダとして参加する。見直し委員会のメンバは,X社標準システムの利用者となるH社の製造プロセスに関わる部門の実務担当者(以下,H社利用部門という)で構成される。プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)は,システム部のK氏が担当し,見直し委員会にもメンバとして参加する。 H社のシステム部は,システムの開発・運用の企画・計画を主な業務とし,現システムを含む実際のシステム開発・運用業務の多くは情報子会社のT社に委託している。K氏は,X社標準システム稼働後の運用業務についてもT社に担当してもらう方針で,導入作業への協力を依頼した。T社は,自社が開発に関わっていないX社標準システムの導入作業及び運用業務に協力することに抵抗感をもっていたが,K氏に強く依頼されて,最終的には応じることになった。今回のプロジェクトとステークホルダの関係を図1に示す。 図1 プロジェクトとステークホルダの関係 〔プロジェクト計画策定〕 K氏は,プロジェクト計画を策定するために,X社から提示されたテンプレートを検証した。X社のテンプレートは,X社標準システムを導入するための作業項目を中心に記述されているが,導入する側の作業については,全ての作業が記述されているわけではなかった。K氏は,H社としての業務の継続性を確保するための重要な作業を新たなWBS項目として追加する必要があると考えた。 また,K氏は,X社が指定した条件を勘案すると,X社に実施可能な時期と所要日数を確認すべき重要な作業項目があると考えた。 K氏は,X社に確認を行った上で,テンプレートのWBSに,新たに洗い出したWBS項目及びマイルストーンを追加し,それらを時間軸上に展開し,プロジェクトの全体スケジュールを策定した。K氏は,このスケジュールを関連するステークホルダに示し,同意を得た上で,プロジェクトを開始した。 〔ステークホルダの現状〕 K氏は,今回のプロジェクトには多くのステークホルダが関わっており,各ステークホルダとプロジェクトとの一体感を形成し,適切にマネジメントすることが重要な成功要因になると考え,ステークホルダの状況を把握することをI部長に提案し,了承を得た。 K氏は,今回のプロジェクトに関わるステークホルダの現状を関与度(プロジェクトへの積極的な関与の度合い)と影響度(プロジェクトの計画策定や遂行に変更を生じさせる能力)の観点で分析することとし,各ステークホルダに対するヒアリングを行った。また,K氏自身の関与度と影響度の分析も追記し,表1の状況を把握し,これらを基に図2にまとめた。 この状況から,K氏は現状の体制の問題点を,次のように考えた。 ・ステークホルダとプロジェクトとの一体感が形成されていない点 ・プロジェクトを推進する上で重要な,図2のある領域に属するステークホルダが存在しない点 ・影響度が高いステークホルダの関与度が低く,バランスが悪い点 K氏は,これらの問題点に対し,早急な対策が必要だと考えた。 表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析 表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析(続き) 図2 ステークホルダの現状 〔ステークホルダの望ましい状態〕 K氏は,表1及び図2をI部長に報告し,対策を協議した。その結果,次の方針で対応することで合意した。 ・ステークホルダとプロジェクトとの一体感を形成する対策を取る。 ・キーパーソンによる,プロジェクトを推進する組織体を設置する。 ・ステークホルダについて,関与度と影響度のバランスを取りながらプロジェクトを進めていける関係を築く。具体的には図3の状態を目指すことを基本方針とする。 図3 ステークホルダの望ましい状態 K氏は,この方針に沿って次のような対策を考えた。 対策①:I部長から見直し委員会及びプロジェクトに対し,X社とH社との提携の意義と,X社標準システム導入の必要性を直接語ってもらう。 対策②:I部長,J課長及びK氏によるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を組織し,定期的に情報共有し,問題点の協議を行う。 対策③:見直し委員会でH社利用部門に対し,X社標準システムのメリットだけではなく,デメリットも併せて正しく伝えた上で,協力を要請する。 対策④:T社に対して運命共同体と認識していることを伝えて,導入後の運用を担当する視点から積極的に参加するように働きかける。 対策⑤:X社に対し,Y氏をプロジェクトのX社アドバイザ兼現地責任者として指名するよう提案する。 設問1 〔プロジェクト計画策定〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) K氏が考えた,H社としての業務の継続性を確保するための重要な作業とは何か。20字以内で述べよ。 (2) K氏が考えた,X社の指定した条件を勘案すると,X社に実施可能な時期と所要日数を確認すべき重要な作業項目とは何か。15字以内で述べよ。 設問2 〔ステークホルダの現状〕で,K氏が,現状の体制の問題点として考えた,プロジェクトを推進する上で重要な,図2のある領域に属するステークホルダが存在しない点とは,どのような状態を指すのか。35字以内で述べよ。 設問3 〔ステークホルダの望ましい状態〕について,(1)〜(5)に答えよ。 (1) K氏が,対策①で期待した効果は何か。30字以内で述べよ。 (2) K氏が,対策②で組織したPMOに期待した役割は何か。25字以内で述べよ。 (3) K氏が,対策③で,見直し委員会でH社利用部門に対し,X社標準システムのメリットだけでなく,デメリットも併せて伝える必要があると考えた理由は何か。25字以内で述べよ。 (4) K氏が,対策④で,T社について運命共同体であると認識している背景は何か。40字以内で述べよ。 (5) K氏が,対策⑤をX社に提案する狙いは何か。30字以内で述べよ。
図1 プロジェクトとステークホルダの関係。H社・T社側では統括責任者I部長の配下に見直し委員会(委員長I部長兼務、リーダJ課長、メンバH社利用部門・K氏)とプロジェクト(PM K氏、メンバ システム部員・T社)があり、X社側にはアドバイザY氏がいる体制図。
図1 プロジェクトとステークホルダの関係。H社・T社側では統括責任者I部長の配下に見直し委員会(委員長I部長兼務、リーダJ課長、メンバH社利用部門・K氏)とプロジェクト(PM K氏、メンバ システム部員・T社)があり、X社側にはアドバイザY氏がいる体制図。
表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析。ステークホルダ(記号)、関与度の分析、影響度の分析の3列からなる表の前半。I部長(I)は関与度が低く(リードはJ課長に任せ報告を受ける形)、影響度は高い(統括責任者で、X社との提携を必須の戦略と捉えている)。
表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析。ステークホルダ(記号)、関与度の分析、影響度の分析の3列からなる表の前半。I部長(I)は関与度が低く(リードはJ課長に任せ報告を受ける形)、影響度は高い(統括責任者で、X社との提携を必須の戦略と捉えている)。
表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析(続き)。表1の続き。J課長は関与度中・影響度高、H社利用部門は低・中、T社は低・中、X社は低・高、Y氏は中・中、K氏は高・中で、それぞれの理由が記述されている。
表1 ステークホルダの関与度と影響度の分析(続き)。表1の続き。J課長は関与度中・影響度高、H社利用部門は低・中、T社は低・中、X社は低・高、Y氏は中・中、K氏は高・中で、それぞれの理由が記述されている。
図2 ステークホルダの現状。横軸を関与度、縦軸を影響度(それぞれ低・中・高)とする3×3マトリックス。影響度高にI,X(関与度低)とJ(関与度中)、影響度中にH,T(関与度低)、Y(中)、K(高)が配置され、関与度高・影響度高の領域は空いている。
図2 ステークホルダの現状。横軸を関与度、縦軸を影響度(それぞれ低・中・高)とする3×3マトリックス。影響度高にI,X(関与度低)とJ(関与度中)、影響度中にH,T(関与度低)、Y(中)、K(高)が配置され、関与度高・影響度高の領域は空いている。
図3 ステークホルダの望ましい状態。関与度(横軸)と影響度(縦軸)の3×3マトリックス。関与度高・影響度高にI,J,K、その左下の中高境界付近にT,Y、関与度中・影響度中にH,Xが配置され、対角線上に並ぶ望ましい状態を示す。
図3 ステークホルダの望ましい状態。関与度(横軸)と影響度(縦軸)の3×3マトリックス。関与度高・影響度高にI,J,K、その左下の中高境界付近にT,Y、関与度中・影響度中にH,Xが配置され、対角線上に並ぶ望ましい状態を示す。
解き方のヒントを見る

判断に使う前提を確かめる

検討するときは、判断の根拠となる前提に注目しましょう。提示された条件と、自分が補っている想定を区別し、どの前提を使って考えているのかを整理すると、思い込みに気づきやすくなります。

この問題で問われていること

この問題では、判断に用いる前提が、与えられた情報に基づいているかという一点を意識してください。経験上もっともらしく感じる想定が入り込んでいないかを確かめ、明示された条件との境目を押さえましょう。

視点

前提は、判断の土台として置いている条件です。与えられた情報から確認できる条件と、自分の経験から補った想定を区別して整理すると、根拠の所在を確認できます。

確認ポイント

  • 判断の土台にしている条件を意識できているか
  • その条件の根拠を与えられた情報にたどれるか
  • 明示されていない想定を事実として扱っていないか
正解と解説を見る

解説

本問では、移行作業と監査を含む導入計画を整え、関与度と影響度から体制の不足を把握する。さらに、一体感の形成、PMOの設置、利用部門の正確な理解、運用担当者の参加、提携先の影響力の調整を事例に即して説明することが要点となる。

問題の全体像

製薬企業H社は米国市場への進出に向け、提携先X社の標準生産管理システムを導入する。紙中心の業務手順も見直す必要があり、製造部門、システム部、運用を担うT社、X社、アドバイザのY氏が関わる。しかし、責任者の関与が低い、利用部門に目的が伝わっていないなど、推進体制に課題がある。公式の出題趣旨では、ステークホルダの現在の状況を認識し、望ましい状況に変える対策を立案する実践的な能力を問うとしている。導入計画の不足を補う視点と、関与度・影響度の分析に基づく対策の目的を読み取る視点が必要です。

設問1(1)

着目するのは、X社のテンプレートには導入する側の作業が全て記載されていない点と、H社の業務の継続性を確保するという目的です。新システムの導入作業だけでは、現システムから業務を引き継ぐ作業が計画から漏れる可能性がある。公式解答例では「現システムからの移行作業」としている。20字以内では、この作業名を端的に示す。採点講評でも、新システムへの移行作業をWBS項目として計画することの重要性を指摘している。本文に業務手順の見直しも登場するが、この設問では業務を継続するための移行に焦点を合わせる。

設問1(2)

着目するのは、稼働開始の前提として、導入作業終了後から稼働開始までにX社の監査員が監査するという条件です。H社だけでは実施日程を決められず、X社側の実施可能な時期と所要日数を確認する必要がある。公式解答例では「X社の監査員による監査」としており、15字以内ではこの作業を示します。監査の指摘事項への対応も条件に含まれるため、全体スケジュールでは監査とその後の対応を考慮する必要があるが、設問が尋ねている作業項目は監査そのものです。

設問2

図2の横軸は関与度、縦軸は影響度であり、右上の両方が高い領域にステークホルダがいない。表1では、I部長とX社は影響度が高い一方で関与度が低く、K氏は関与度が高い一方で影響度は中です。このため、積極的に関わり、かつ計画や遂行に強い影響を及ぼせる推進者が欠けている。公式解答例では「関与度、影響度がともに高い領域にステークホルダがいない状態」としている。35字以内では、二つの軸がともに高いことと、その領域に該当者がいないことを明記する。

設問3(1)

対策①では、統括責任者のI部長が見直し委員会とプロジェクトに対し、提携の意義とシステム導入の必要性を直接説明する。着目するのは、現状の問題として一体感が形成されていないとされ、対応方針でも一体感の形成が掲げられている点です。目的と必要性の理解を関係者で共有することが、この方針に対応する。公式解答例では「ステークホルダとプロジェクトとの一体感を形成すること」としている。30字以内では、説明するという行為ではなく、その結果として期待する一体感の形成を答える。

設問3(2)

対策②のPMOは、統括責任者のI部長、業務見直しのリーダであるJ課長、PMのK氏で構成され、定期的に情報共有と問題点の協議を行う。図2では関与度と影響度がともに高い領域が空いているが、図3ではI・J・Kがその領域に置かれている。公式解答例では「プロジェクトの推進役」と「関与度、影響度ともに高いステークホルダ」を要点としている。25字以内では「関与度・影響度が高いプロジェクトの推進役」とまとめられる。情報共有や協議という活動から、体制全体を推進する役割へ結び付けて答える。

設問3(3)

表1では、H社利用部門は導入の目的などの説明をまだ受けておらず、関与度が低い。対策③は、メリットとデメリットを正しく伝えた上で協力を要請するものであり、利点だけを伝えて過大な期待を持たせることを避け、事前に正確な理解と対策の共有を得る狙いがある。公式解答例では「事前に正確な理解を得て対策を共有したいから」としており、25字以内ではこの二つの要素を押さえる。採点講評でも、利用部門に正確な情報を伝え、期待値をコントロールしながら関与度を高める視点を求めている。

設問3(4)

着目するのは、H社のシステム部が主に企画・計画を担当し、実際の開発・運用業務の多くをT社に委託している点と、K氏が新システム稼働後の運用もT社に担当してもらう方針である点です。導入後もT社の運用が必要なので、導入段階から積極的に参加してもらう必要がある。公式解答例では、X社標準システム稼働後の運用業務をT社に担当してもらう必要があることを背景としている。40字以内では「X社標準システム稼働後の運用をT社に担当してもらう必要があるため」とまとめられる。T社の抵抗感ではなく、今後の運用を担う関係を答える。

設問3(5)

表1では、X社は直接関与しない一方、H社への不安から様々な報告を要求しており、関与度が低く影響度が高い。Y氏はノウハウを持つが、アドバイザとしての関与にとどまる。Y氏を現地責任者にも指名することで、その関与度と影響度を高め、X社の影響力をY氏経由で行使する関係に変える。公式解答例では、Y氏とX社を望ましい関与度・影響度に変えること、又はX社の影響力をY氏を通して行使する形に変えることを示している。30字以内では「X社の影響力をY氏を通して行使する形に変える」とまとめられる。採点講評でも、適切な役割を割り当ててアドバイザを体制に巻き込む視点を重視している。

学習のポイント

関与度と影響度を区別し、本文の事実と図表の変化を結び付けて、各対策の目的を字数内で説明する練習を重視する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針