PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成26年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 生産管理システムの再構築に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 A社は,SI企業である。製造業のH社から,生産管理システムの再構築プロジェクト(以下,H社プロジェクトという)を受注することになり,現在,3月からの作業開始に向けて計画を策定している状況である。 H社の生産管理システムは,10年以上前に自社開発したシステムを過去数回にわたり改修してきたもの(以下,現システムという)である。これまで現システムを保守していた担当者が6月末で退職することもあり,自社で維持できなくなることから,外部のSI企業に再構築を委託することになった。再構築に当たっては,現システムの業務機能は変えずに,アーキテクチャを刷新した新しいシステム(以下,新システムという)へ移行したいとのことであった。また,生産実績の状況を照会できる拡張機能も開発したいとのことであった。新システムのイメージを図1に示す。 図1 新システムのイメージ H社では,年末年始の休業の時期にしかシステムの移行ができないという制約があるので,開発期間は10か月である。H社プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)には,生産管理システムの経験が豊富なA社のB氏が任命された。B氏は,A社の過去のプロジェクト完了報告書から,類似のシステムのスケジュールを参考にして,図2に示すH社プロジェクトのスケジュール案を作成した。 図2 H社プロジェクトのスケジュール案 〔契約管理〕 B氏は,作成したスケジュール案を基に,H社プロジェクトのリスクについて検討を行った。H社の契約窓口からは,“新システムは,現システムの業務機能は変えずに,アーキテクチャを刷新するものであり,仕様が明確である。”との見解に基づき,全工程を請負契約で締結することを求められている。 B氏は,現システムの状況について現システムの保守担当者に確認した。現システムは,これまで10年以上にわたって運用されており,過去数回にわたり改修されてきたが,設計ドキュメントは初期のものが残っているだけで,改修履歴は反映されていないとのことであった。B氏は,H社プロジェクトでは,外部設計において,現システムの実際の仕様を十分に調査し,明確になった仕様に基づいて,外部設計書を新たに作成する必要があると考えた。 B氏は,H社の契約窓口の見解と現システムの状況にはギャップがあり,全工程を請負契約で締結することはリスクが大きいと考え,外部設計を委任契約,内部設計~総合テストを請負契約,移行支援を委任契約で締結する契約案を作成し,H社と協議を行うことにした。 〔プロジェクト計画〕 B氏は,プロジェクト計画書を作成するために,プロジェクトの遂行に必要な作業を洗い出した。外部設計が委任契約であることを前提に,全体の期間については参考として,内部設計~移行完了を外部設計完了後8か月で行う計画案を提示し,H社と打合せを行った。H社からは,移行は年末年始にしかできないので,来年初めからの稼働開始を確約してほしいとの強い要望があった。 B氏は,現時点ではA社ではコントロールできないリスクが存在し,稼働時期を確約することはできないことを説明し,理解を求めた。その上で,来年初めからの稼働開始に向けて,次の条件を提案した。 ・外部設計書の確定を4月末とすること ・外部設計終了時に改めて再見積りを行い,内部設計以降の契約を締結すること ・“現システムの業務機能は変えず”という条件ではなく,[a]を条件として開発を進めること 協議の結果,来年初めからの新システム稼働開始を目標として作業を進めること,できる限り現システムの仕様を取り込むように開発を進めること,できるだけ業務に影響を与えずに新システムへ切り替えるために,移行・運用の方法を別途提案することを条件に,H社の承認を得て,H社プロジェクトは開始された。 〔調達管理〕 B氏は,A社の開発要員だけでは納期に間に合わないと考えたので,営業部門が使う拡張機能である実績照会機能の開発を外部へ委託することにし,H社プロジェクトの開発のチームリーダに,委託先を選定するよう指示した。チームリーダは,A社との付き合いが長く,A社の品質管理基準も理解しているX社に委託したいとのことであった。 B氏は,チームリーダの重視する委託先選定のポイントは適切と認める一方で,複数の委託先の候補から見積りをとることの意義を説明した。また,委託先選定の履歴を明確に文書で残すことの重要性を説明し,委託先選定に先立ち,提案依頼書(RFP)を作成するように指示した。そして,チームリーダに,評価基準として重視したいある条件を加えさせて,X社を含めた3社に対してRFPを出させた。 〔移行・運用方法の検討〕 B氏は,H社から要望された,できるだけ業務に影響を与えずに新システムへ切り替えるための移行・運用の方法を検討することにした。 B氏は,データを移行するプログラムの検証も含めて,総合テストの初期段階から本番データによる現システムとの処理結果の一致の確認を徹底して行うことにした。しかしながら,B氏は,今回の開発の進め方を考慮すると,①総合テストで本番データによる現システムとの確認を徹底したとしても,新システムが現システムの全ての仕様を網羅しているという保証は得られないと考えた。そこで,運用の方法として,移行後も一連の月次処理を行う1か月の間,現システムと新システムを並行運用して,新システムのリスクに対応する必要があると考えた。さらに,B氏は,次の内容についてH社と合意をしておく必要があると考えた。 ・新たに作成した外部設計書と新システムの実装機能の不整合は瑕疵として扱い,瑕疵担保責任の期間内であれば無償で修正を行う。 ・現システムの仕様のうち外部設計で洗い出せなかった仕様が発見された場合は追加開発とし,別途見積りを行い,契約を締結して実施する。 B氏は,これらの内容を提案としてまとめ,H社に提示した。 設問1 〔契約管理〕について,B氏は,H社の契約窓口の見解と現システムの状況にはギャップがあり,全工程を請負契約で締結することはリスクが大きいと考えた。そのギャップとは何か。また,リスクとは何か。それぞれ40字以内で述べよ。 設問2 〔プロジェクト計画〕について,B氏が外部設計終了時に改めて再見積りを行い,内部設計以降の契約を締結するために提示した条件[a]はどのような内容か。35字以内で述べよ。 設問3 〔調達管理〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)B氏が説明した,複数の委託先の候補から見積りをとることの意義とは何か。20字以内で述べよ。 (2)B氏が加えさせた,評価基準として重視したいある条件とは何か。25字以内で述べよ。 設問4 〔移行・運用方法の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)B氏が,本文中の下線①のように考えた理由は何か。40字以内で述べよ。 (2)B氏が,H社に提示した提案で,移行後も現システムと新システムの並行運用を行うことで対応するとした,新システムのリスクとは何か。また,その対応策とは何か。それぞれ20字以内で述べよ。
図1 新システムのイメージ。生産管理システムを中心に、生産管理部、製造部門、材料ベンダ、倉庫、営業部門、経理部などとの関係を示した構成図。
図1 新システムのイメージ。生産管理システムを中心に、生産管理部、製造部門、材料ベンダ、倉庫、営業部門、経理部などとの関係を示した構成図。
図2 H社プロジェクトのスケジュール案。2月から1月までの月別工程として、外部設計、内部設計、製造・単体テスト、結合テスト、総合テスト、移行、稼働開始の期間を示す工程図。
図2 H社プロジェクトのスケジュール案。2月から1月までの月別工程として、外部設計、内部設計、製造・単体テスト、結合テスト、総合テスト、移行、稼働開始の期間を示す工程図。
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契約・調達・移行リスクの見極め方

システム再構築の検討では、契約条件、調達方法、移行計画が相互に与える影響を切り分け、責任分界と不確実性を確認しながら判断材料を整理することが重要です。個別の結論を急がず、前提の違いにも注意しましょう。

この問題で問われていること

一つの観点として、作業や成果物の責任が誰にあり、変更や遅延が起きた場合に契約上どのように扱われるかを、調達から移行までの流れに沿って確認しましょう。個別の方式名や結論ではなく、役割と条件の対応に注目します。

視点

契約上の役割分担と、調達・移行に伴う不確実性を分けて捉え、関係者間で前提、責任、変更時の扱いが整合しているかを確認する。

確認ポイント

  • 契約で定める責任範囲と、実際に担当する作業の対応関係を確認する
  • 調達条件の変更や遅延が、後続工程へどのように影響し得るかを確認する
  • 移行時の前提条件、受入れ基準、問題発生時の調整方法を確認する
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解説

現行システムの設計書に改修履歴が反映されていないため、仕様の不確実性が契約、納期、品質、移行に影響する事例です。

問題の全体像

10年以上運用され改修を重ねた現行システムを、業務機能を維持しながら新システムへ移行する事例です。しかし、設計ドキュメントが初期のままで改修履歴を反映しておらず、現行仕様が明確とはいえない。出題の狙いは、PMがこの不確実性を契約方式、再見積り、委託先選定、テスト、並行運用などの具体的なリスク対応に結び付けられるかを問うことです。

設問1(1)

契約窓口は、業務機能を変えずアーキテクチャを刷新するので仕様は明確だと考えている。一方、本文では現行システムが長年改修され、設計ドキュメントに改修履歴が反映されていない。したがって、ギャップは「仕様が明確という見解」と「設計ドキュメントに改修履歴が反映されていない現状」の違いです。40字以内なので、両者を対比して書く。

設問1(2)

現行仕様が不明確なまま全工程を請負契約にすると、開発中に改修で変更された機能が判明し、実装漏れや手戻りが起こる可能性がある。その結果、納期に遅れることがリスクです。公式解答例は、仕様の不確実性、機能の未実装、手戻り、納期遅延の因果関係を押さえている。

設問2

外部設計では現行システムを調査して、実際の仕様に基づく外部設計書を新たに作成する。したがって、外部設計終了時に仕様を確定させ、その成果物を基準に内部設計以降を進める条件として、「新たに作成した外部設計書に基づいて新システムを開発する」とまとめる。35字以内では、外部設計書を開発の基準にする点が重要です。

設問3(1)

X社への委託を希望するチームリーダに対し、B氏は複数候補から見積りを取るよう求めた。これは候補を比較して委託先を客観的に評価し、調達コストを適正化するためです。20字以内では、公式解答例にある「客観的な評価」または「調達コストの適正化」を簡潔に押さえる。

設問3(2)

実績照会機能は外部委託するため、価格や付き合いの長さだけでなく、納品後の品質を確保できる条件が必要です。本文ではA社の品質管理基準を理解するX社が候補だったため、評価基準には「A社と同様の品質管理基準を有すること」や「A社の検収条件を満たすこと」を加える。25字以内なので、品質基準または検収条件に絞る。

設問4(1)

総合テストで本番データを使って現行システムとの結果一致を確認しても、本番データが現行システムの全テストケースをカバーするとは限らない。そのため、未使用の処理や例外的な仕様の実装漏れを発見できない可能性がある。40字以内では、「本番データが現システムの全テストケースをカバーしない」点を理由として書く。

設問4(2)(リスク)

並行運用で対応する対象は、移行後に新システムの未確認仕様が表面化するリスクです。公式解答例では、実装が漏れている機能の発見、または現行システムと新システムの処理結果の不一致を挙げている。20字以内では、機能漏れまたは結果不一致のいずれかを端的に示す。

設問4(2)(対応策)

新システムで問題が見つかった場合に業務を継続できるよう、現行システムの処理結果を使う、または現行システムに切り戻す。これは、1か月の並行運用中に新システムの問題を検知し、現行システムを代替手段として利用する考え方です。20字以内では、結果利用または切戻しを具体的に書く。

学習のポイント

本文の事実を契約・調達・テスト・移行のリスクに結び付けて短く表現する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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