PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成26年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 プロジェクトの進捗管理に関する次の記述を読んで、設問1〜4に答えよ。 P社は大手インターネット通販会社である。業容の拡大を目指し、ファッションを専門に扱うECサイトを運営しているE社に、先月資本参加した。P社は、来年度以降にE社を子会社化することになっている。子会社化に当たって、E社のシステム担当部門のマネジメント能力を把握し、最終的にはP社の標準のプロジェクトマネジメント体系に合わせるために、情報システム部のQ課長をE社に出向させた。 〔プロセス改善の方針〕 着任したQ課長は、E社のシステム担当役員に現況についてのヒアリングを行った。 ・E社の情報システム部には二つの開発課がある。2人の課長は、異なるIT企業からの中途採用者であり、それぞれが異なったやり方でプロジェクトをマネジメントしている。 ・各開発課とも7〜8名の規模で、ノウハウを共有しながらプロジェクトを進めている。チームワークが良く、開発の効率も悪くはない。ただし、明確に規定されたプロセスはなく、その時々の判断で開発を進めている。新規にメンバが参加する際には、その課の開発の進め方を習得するまでに時間が掛かっている。 ・2人の課長は、これまでの成功体験に自信を持っている。統制がとれたプロセスよりも、ノウハウの共有によるスピーディな対応を好む傾向がある。 ・進捗の遅れや品質に関する問題は時々発生している。今後、より大規模な開発案件に対応するためには、プロジェクトマネジメントの改善が必要である。 Q課長は、このヒアリング結果から、P社の確立したプロセスにいきなり統一するのではなく、次の方針で進めていく方が現状のE社にはよいと考え、P社経営層及びE社経営層に提案をして、承認を得た。 ・各課長のマネジメントについて、問題点を具体的に指摘し、気付きを与える。 ・その気付きを契機に、明確に規定されたプロセスに基づく開発を行うことの必要性を、少しずつ納得してもらう。 Q課長は、まず、2人の課長のうちF課長が担当する基幹システムの追加開発プロジェクトに、アドバイザとして参加した。 〔進捗管理表の様式〕 F課長が担当するプロジェクトは、外部設計の中盤に差し掛かっていた。F課長は、表計算ソフトを用いて、図1のような進捗管理表を作成し、使用していた。 図1 F課長が使用していた進捗管理表(一部) F課長へのヒアリングでは、この進捗管理表を用いて、次のように進捗を管理しているとのことだった。 ・各アクティビティの所要日数は、開始予定日から終了予定日までの営業日の作業日数を集計したものである。 ・設計書などの成果物を作成するアクティビティの進捗率は、70%を成果物作成の予定量に対する実績量から算出し、30%をレビュー指摘への対応状況から算出する。予定量の見通しが変更になった場合は、適宜見直す。 ・進捗率に従って実績線を矢印で表示し、評価対象日における進み・遅れを折れ線(以下、イナズマ線という)で表示する。 ・レビューのアクティビティの進捗率は、実施完了前は0%とし、実施完了で100%とする。 ・親アクティビティの進捗率は、子アクティビティの進捗率から次のように求める。 親アクティビティの進捗率 ={(X₁×Y₁)+(X₂×Y₂)+…+(Xₙ×Yₙ)}÷(X₁+X₂+…+Xₙ) Xᵢ:子アクティビティiの所要日数 (1≦i≦n) Yⱼ:子アクティビティjの進捗率 (1≦j≦n) n:子アクティビティの数 Q課長は、現在の親アクティビティの進捗率の計算方法では、進捗率が正しく計算されないことを指摘し、計算方法を修正すべきだと助言した。 またQ課長は、子アクティビティを持たない、成果物を作成するアクティビティについて、①実績線・イナズマ線は、計画について、ある前提を想定して、進み・遅れを示しているが、それを理解しているかどうかをF課長に質問した。F課長はその特性を理解しつつ、進捗評価をしているということだった。 〔アクティビティに対するリソース割当て〕 次にQ課長は、今後のアクティビティと、アクティビティに対するリソース割当ての状況を細かく確認した。その結果、次の事実を確認した。 ・プロジェクトのリーダであるG主任が、クリティカルパス上のアクティビティの約7割、レビューのアクティビティの約7割を担当している。 ・上記以外のアクティビティの担当者や時期は、適切に設定されている。 ・G主任の稼働計画は、長時間の残業を前提にしている。その他のメンバの稼働計画は、残業なしを前提としている。 この事実について確認すると、F課長からは次のような回答があった。 ・G主任の経験と能力は、他のメンバと比較して高いので、このような形でアサインすることが最も効率よく、品質面でも安心できる。 ・過去のプロジェクトでもG主任に作業を集中させて成功してきた。開発の途中で遅れが発生したことは何度もあったが、最後にはつじつまを合わせてくれた。今回も遅れが発生しているが、リカバリできると考えている。 Q課長は、既にG主任の担当アクティビティに遅れが発生していること、G主任の稼働計画は余裕がないことから、F課長に対して「G主任に対するアクティビティの割当てには、②プロジェクト全体のスケジュールに関わるリスクと、③多くの成果物の品質に関わるリスクがあるので、見直しが必要ではないか」と助言した。それに対しF課長は「確かに、過去のケースと比べてG主任の作業の遅れ発生時期が早く、G主任のレビューもいつもより丁寧さに欠けている気がする」ということで、Q課長の助言を受け入れ、G主任の担当アクティビティのうち、他のメンバに担当させることができるものを選定して、負荷を分散した。 〔外部設計の遅延対策〕 外部設計が終盤に差し掛かった頃、あるメンバ2名が担当するアクティビティの設計書の最終レビューで問題が検出され、大きな手戻りが発生することが判明した。このアクティビティには、当該メンバ2名が担当する後続アクティビティがあり、このままでは外部設計の完了期限を守れなくなる。F課長は次の対策を立案し、Q課長に相談に来た。 ・他のメンバの作業を調整して、問題が発生したアクティビティに工数を割り振り、手戻りによる遅れを最小限にとどめる。これは、プロジェクト内で調整できる。 ・問題が発生したアクティビティには「多数のQ&A表に散在している細かな仕様を、設計書に反映する作業」が残っている。この作業を省略し、後の工程で設計書とQ&A表を見比べて作業を行うことにすれば、遅れは5日で収まる。最終的な反映作業は、テストと並行して行うドキュメント整理期間に実施する。 ・問題が発生したアクティビティの後続アクティビティについて、5日分のクラッシングを行うために、もう一方の開発課から緊急で要員を調達することを承諾してもらっている。 ・クラッシングに充てる応援要員の人数は、2名が妥当だと考えている。過去の同種のアクティビティの生産性と応援要員の候補者のスキルを考慮して、作業に必要な工数を算出した。さらに、仕様の理解やチームのノウハウの習得に要する応援要員の初期の立上げ工数、教育やレビューを行う受入側の工数を織り込んで、スケジュール上に展開して、確認した。 Q課長は、問題が発生したアクティビティの設計書に関する対策には、後の工程で生産性や品質の低下につながる問題があるので、「更にコストは掛かるが、Q&A表に散在している細かな仕様を設計書に反映すべきである」と助言した。 また、クラッシングに関する工数の計算には、人員に伴うコミュニケーションパス増加の観点が欠けていることもあり、再考が必要であることを指摘した。 設問1 〔プロセス改善の方針〕について、Q課長がP社の確立したプロセスにいきなり統一しなかったのは、どのような問題を引き起こすことを恐れたからか。25字以内で述べよ。 設問2 〔進捗管理表の様式〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) Q課長は、親アクティビティの進捗率の計算方法をどのように修正するように助言したのか。25字以内で具体的に述べよ。 (2) 本文中の下線①について、想定されている、ある前提とは何か。30字以内で述べよ。 設問3 〔アクティビティに対するリソース割当て〕について、Q課長が想定した本文中の下線②、下線③のリスクを、理由を含めて、それぞれ40字以内で述べよ。 設問4 〔外部設計の遅延対策〕について、Q課長が、Q&A表に散在している細かな仕様を設計書に反映すべきであると助言した背景にある、後の工程で生産性や品質の低下につながる問題とは何か。40字以内で述べよ。
図1 F課長が使用していた進捗管理表(一部)。親アクティビティと子アクティビティの計画工数、予定日、所要日数、進捗率、実績線及びイナズマ線を示す進捗管理表。
図1 F課長が使用していた進捗管理表(一部)。親アクティビティと子アクティビティの計画工数、予定日、所要日数、進捗率、実績線及びイナズマ線を示す進捗管理表。
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判断の前提をそろえて考える

プロジェクトに関する判断を考えるときは、まず、その判断がどのような前提に基づいているかに注目しましょう。条件として示されていることと、自分で補っていることを分けて捉えると、検討の土台を整理できます。

この問題で問われていること

判断の根拠にしようとしている情報について、どこまでが与えられた条件で、どこからが自分の想定なのかを確かめてください。気になる点があってもすぐに結論へ進まず、前提が明確になっているかという一点に立ち戻りましょう。

視点

前提とは、考えを進める際に土台として置く事柄です。自分には自然に思えることでも、与えられた条件とは限りません。判断を支える前提を短く言葉にし、その出所を確かめてみましょう。

確認ポイント

  • 判断に使う前提を言葉にできているか
  • 与えられた条件と自分の想定を分けているか
  • 想定を確定した条件として扱っていないか
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解説

進捗を適切に管理するには、標準プロセスを定着させる進め方、計画工数による進捗率の集約、進捗表示の前提を理解する必要がある。さらに、特定担当者への負荷集中や仕様の散在が、納期と品質に及ぼす影響を判断することが問われている。

問題の全体像

P社から出向したQ課長が、E社のプロジェクトマネジメントを改善する事例です。E社は少人数でノウハウを共有しているが、明確なプロセスがなく、進捗や品質に問題が生じている。Q課長は、最終的にP社の標準体系に合わせることを目指し、F課長のプロジェクトで進捗率の計算、リソース割当て、遅延対策を確認する。公式の出題趣旨では、進捗管理計画の立案、進捗状況の評価、問題発生時の対応に関する実践的な能力を問うとしている。各設問では、本文の具体的な事実から、問題の原因とプロジェクトへの影響を結び付けることが重要になる。

設問1

着目するのは、2人の課長が過去の成功体験に自信を持ち、統制されたプロセスよりもノウハウ共有による迅速な対応を好んでいる点です。必要性を納得していない状態でP社のプロセスに統一すると、形式的な導入にとどまり、適切な運用や定着につながらないおそれがある。そのためQ課長は、具体的な問題への気付きを与え、少しずつ必要性を理解してもらう方針を選んだ。公式解答例では「プロセス導入の効果が十分に得られないこと」又は「プロセスが正しく定着しないこと」を挙げている。25字以内では、例えば「プロセスが正しく定着しないこと」とまとめる。採点講評では、最終的に標準のプロジェクトマネジメント体系に合わせるという目的を意識した解答を求めており、単に課長の反発を述べるだけでは、導入目的への影響が十分に表れない。

設問2(1)

着目するのは、親アクティビティの進捗率を加重平均するとき、重みであるXᵢに所要日数を用いている点です。所要日数は作業期間を示し、投入する人数を反映した作業量とは異なる。図1でも、A-1機能は5日で5.0人日、A-3機能は10日で20.0人日となっており、期間の比率と工数の比率は一致しない。親の進捗率では、各作業が全体に占める計画工数の割合で子の進捗率を重み付けする。公式解答例では、Xᵢに所要日数ではなく計画工数を用いるとしている。25字以内の答案例は「所要日数ではなく計画工数で加重平均する。」です。採点講評でも、単純平均では親の進捗率を正確に算出できないことが指摘されている。

設問2(2)

着目するのは、成果物を作成するアクティビティについて、進捗率に従って実績線を描き、評価対象日の進み・遅れを表示している点です。作業期間上の位置に進捗率を対応させるには、計画上の成果が日ごとに一定の割合で増えるという前提が必要になる。例えば期間の半分が経過した時点では、計画上の成果も半分に達する想定です。成果が終盤に集中する計画であれば、この表示だけでは実際の計画に対する遅れを判断できない。公式解答例では「アクティビティの成果が、日ごとに一定に増加すること」としている。30字以内では「アクティビティの成果が日ごとに一定に増加すること」とまとめる。問われているのは成果の増え方の前提であり、単に毎日作業することではありません。

設問3(下線②)

着目するのは、G主任がクリティカルパス上のアクティビティの約7割を担当し、長時間の残業を前提としているうえ、既に遅れが発生している点です。G主任には遅れを吸収する余裕がなく、担当するクリティカルパス上の作業が遅れると、プロジェクト全体の完了も遅れる。過去にリカバリできた実績だけでは、今回のスケジュールの安全性は判断できない。公式解答例では、クリティカルパス上のアクティビティの遅れによってプロジェクト全体が遅れることを挙げている。40字以内の答案例は「クリティカルパス上の作業が遅れ、プロジェクト全体が遅れる。」です。理由となる作業の位置付けと、全体への影響を一組で示す。

設問3(下線③)

着目するのは、G主任がレビューの約7割を担当していることと、F課長がレビューの丁寧さに欠けていると認めている点です。作業の集中によってレビューが不十分になると、他の作業者の成果物に含まれる問題を十分に検出できず、多くの成果物の品質低下につながる。ここでは、G主任自身が作成する成果物だけでなく、レビュー対象となる他の作業者の成果物への影響を捉える。公式解答例でも、レビュー不足による他の作業者の成果物の品質低下を挙げている。40字以内の答案例は「レビュー不足により、他の作業者の成果物の品質が低下する。」です。レビュー不足という理由と、品質低下という結果を明確にする。

設問4

着目するのは、細かな仕様が多数のQ&A表に散在し、F課長が設計書への反映を後回しにしようとしている点です。後の工程で設計書と複数のQ&A表を見比べる必要があると、仕様の把握に時間が掛かり、生産性が低下する。また、散在する仕様を見落とせば、実装漏れなどによって品質が低下し、手戻りにもつながる。公式解答例では、仕様の見落としと把握に時間が掛かること、又は仕様の見落としと手戻りが発生することを挙げている。40字以内の答案例は「Q&A表に散在する仕様を見落としたり、把握に時間が掛かること。」です。設問が求めるのは設計書への反映を省略する問題であり、本文末尾のクラッシングに伴うコミュニケーションパス増加とは分けて考える。

学習のポイント

所要日数と計画工数の違い、クリティカルパスの遅延の影響、レビュー不足と仕様の見落としが品質に及ぼす影響を学ぶ。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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