PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成26年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 人材管理システムの構築に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 J社は建設業である。来年4月1日に職能資格制度を改定することが決まっている。その改定に間に合うように,新たに人材管理システム(以下,新人材管理システムという)を構築するプロジェクト(以下,新人材管理プロジェクトという)を立ち上げることにした。新人材管理システムは,現状の業務上の問題点を解決するために,既存の社員情報システム,業務経歴システム及び研修管理システムを統合し,社員の業務経歴やスキルに関する情報を一元管理することを目的としている。 新人材管理システムのシステム化計画は,人事部が策定して,経営会議へ上程した。経営会議では,計画を承認するとともに,“営業活動にも貢献できる人材管理システムとするよう,営業部門の要求も取り込むように。”との指示があった。 新人材管理プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)には,情報システム部のK氏が任命された。職能資格制度の改定に合わせて,来年4月1日からの稼働開始が制約条件となっている。スケジュールを図1に示す。 図1 スケジュール 〔スコープマネジメント〕 新人材管理システムの要件定義を開始するに当たって,人事部L部長を委員長とする要求検討委員会を設置して要求を整理することになった。経営会議での指示を受け,人事部以外に営業部門のM部長をメンバに加えることにした。K氏は,要求検討委員会に参加し,人事部と営業部門の要求を確認することにした。 委員会の冒頭に,新人材管理システムのシステム化計画をまとめた人事部のN課長から,新人材管理システムの開発範囲は,人材に関する情報を一元的に管理する仕組みの構築であることが説明された。これに対し,営業部門からは“営業活動における問題点も解決できるよう,過去の類似案件の経験者や,必要な公的資格保有者を迅速に把握できるようにしてほしい。案件を受注した後の要員の稼働状況を確認する機能も追加してほしい。”などの要求が出された。K氏は,開発期間の制約もあり,全ての要求を来年4月1日までに実現することはできない旨を説明し,要求を集約することを求めた。しかしながら,その場では要求を集約することはできなかったので,K氏が,要求を集約する案をまとめ,次回の要求検討委員会で報告することになった。 K氏は,要求の集約方法を検討するに当たって,改めて要求の背景となる①現状の業務上の問題点を一覧表にまとめ,関係部門の要求がどの問題点に起因しているかを整理すべきだと考えた。 〔人事部へのヒアリング〕 K氏は,まず,既存のシステムの状況と現状の業務上の問題点を,人事部の担当者にヒアリングした。概要は次のとおりであった。 ・社員情報システム:全社員の所属,役職,職能資格などの情報を管理している。辞令の情報を基に人事部がデータを社員情報システムに入力し,マスタのデータベースとして他のシステムに情報を配信している。 ・業務経歴システム:社員が,現在までに担当した案件の名称と従事した期間,業務内容,担当した技術分野などの情報を管理している。表計算ソフトを用いて作成された業務経歴記入シートによって社員から報告されたデータを,人事部で業務経歴システムに取り込んでいる。業務内容,担当した技術分野の記入方法は社員に任されていて統一されていない。 ・研修管理システム:社員が受講した研修や取得した公的資格などの情報を管理している。表計算ソフトを用いて作成された研修・公的資格記入シートによって社員から報告されたデータを,人事部で研修管理システムに取り込んでいる。研修や公的資格の名称の記入方法が統一されていないので,同一の研修や公的資格が異なる表記で登録されている場合がある。 ・各記入シートは,表計算ソフトで作成したテンプレートに,社員が必要な情報を記入する形式であり,社員からは,記入の手間が掛かり,かつ,記入しづらいので改善してほしいとの要望が多数寄せられている。 次にK氏が,人事部のN課長にヒアリングを行ったところ,現状の業務上の問題点は次の2点であった。 ・社員からの報告が期末にまとまって上がってくることが多く,人事部での取込み作業が期末に集中して,負荷が高くなっている。 ・人材に関するデータが複数のシステムに分散しているので,各部門からの問合せに対して個々のシステムから情報を集めなければならず,さらに,内容の確認に時間が掛かるので,問合せに対応できない場合が多い。 N課長は,“現状の各記入シートの記入内容はそのままで,社員がシステムに直接入力することによって人事部での取込み作業がなくなる。また,各部門からの問合せにも新人材管理システムを検索するだけで対応できるので,短時間で対応できるようになる。これらのことを目指したシステム化計画である。”という考えであった。 K氏は,人事部へのヒアリング結果から,現在,要求検討委員会に参加していないステークホルダの要望を仕様に反映させる必要があると考えた。また,この対応とは別に,N課長の考えでは,目指していることを十分に実現できないリスクがあり,対策の必要があると感じた。 〔営業部門へのヒアリング〕 K氏は,次に,営業部門のM部長にヒアリングした。概要は次のとおりであった。 ・営業活動の際に,対象案件と類似した案件の経験者や,必要な公的資格保有者がどの程度いるかを人事部に問い合わせても,確認に時間が掛かると断られる場合が多く,必要な人材情報を把握できないことが業務上の大きな問題点である。 ・類似案件の経験者や必要な公的資格保有者の情報を迅速に入手できるようにしてほしい。 ・人事部だけでなく,営業部員もシステムに直接アクセスし,必要な情報を入手できる仕組みにしてほしい。 ・さらに,案件を受注した後の要員の稼働状況をグラフ形式で確認できる機能を追加してほしい。 K氏は,営業部門の要求には,現状の業務上の問題点に関する要求と,できれば実現したい要求が混在していると感じた。そして,現状の業務上の問題点に関する要求については,人事部の要求と解決の方向性は一致しており,②この範囲で合意することは可能ではないかと考えた。 〔プロジェクト遂行方針〕 ヒアリングの結果を踏まえ,K氏は第2回の要求検討委員会において,要求を集約するに当たって,次の方針を提案した。 ・新人材管理システムの開発範囲は,現状の業務上の問題点を解決することに重点を置き,職能資格制度改定への対応,人材に関する情報を一元的に管理する仕組みの構築,及び人材関連情報の項目と記入方法の整理とする。 ・仕様検討の進め方として,業務経歴システムや研修管理システムへの改善要望を多く出している社員にプロトタイプを使ってもらい,意見を把握する。 ・受注後の要員の稼働状況のグラフ化は今回の開発範囲に含めず,情報の一元管理が完了した後に改めて検討する。 ・営業部員がシステムに直接アクセスする仕組みは新人材管理システム特有のリスクがあるので,③システムに直接アクセスする仕組みは導入せず,人事部で対応することとし,迅速な情報提供を行える機能の検討を実施する。 これらの方針は要求検討委員会で承認され,要件定義が本格的に開始された。 設問1 〔スコープマネジメント〕について,本文中の下線①の狙いは何か。30字以内で述べよ。 設問2 〔人事部へのヒアリング〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) K氏が,仕様に反映させる必要があると考えた,要求検討委員会に参加していないステークホルダの要望とは何か。35字以内で述べよ。 (2) K氏は,N課長の考えでは,目指していることを十分に実現できないリスクがあると感じたが,そのリスクとは何か。また,必要な対策とは何か。それぞれ20字以内で述べよ。 設問3 〔営業部門へのヒアリング〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) K氏は,営業部門の要求には,現状の業務上の問題点に関する要求と,できれば実現したい要求が混在していると感じたが,現状の業務上の問題点に関する要求とは何か。40字以内で述べよ。 (2) K氏が,本文中の下線②のように考えた理由は何か。30字以内で具体的に述べよ。 設問4 〔プロジェクト遂行方針〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) K氏が,業務経歴システムや研修管理システムへの改善要望を多く出している社員にプロトタイプを使ってもらい,意見を把握することにした目的は何か。30字以内で述べよ。 (2) K氏が,本文中の下線③のように営業部員がシステムに直接アクセスする仕組みを導入しなかった,新人材管理システム特有のリスクとは何か。15字以内で具体的に述べよ。
図1 スケジュール。4月から翌年4月までの月別の工程表。現在の4月から要件定義を始め、外部設計、内部設計、製造・単体テスト、結合テスト、総合テストを順に進め、翌年4月に稼働を開始する予定を示している。
図1 スケジュール。4月から翌年4月までの月別の工程表。現在の4月から要件定義を始め、外部設計、内部設計、製造・単体テスト、結合テスト、総合テストを順に進め、翌年4月に稼働を開始する予定を示している。
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検討の前提をそろえて考える

要求や開発範囲、リスクを考えるときは、判断の前提がそろっているかに注目しましょう。扱う対象や条件を途中で変えず、与えられた情報に基づく部分と、自分が補った想定を区別して検討します。

この問題で問われていること

検討の途中で、記述されている条件と、経験や印象から補った条件が混ざっていないかを確かめます。判断が迷う箇所では、その判断がどの情報を前提としているかに立ち戻り、同じ前提の下で考えてみましょう。

視点

検討の前提とは、考える際によりどころとする情報や条件です。明記された内容と自分の想定を分けて意識すると、途中で前提が入れ替わっていないかを振り返りやすくなります。

確認ポイント

  • 判断のよりどころを、与えられた情報に結び付けていますか。
  • 明記されていない条件を、自分の想定で補っていませんか。
  • 検討の途中で、判断の前提を変えていませんか。
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解説

来年4月1日の稼働期限を守るため、各要求を業務上の問題点に結び付けて優先順位を定める問題です。社員の操作性、情報の記入方法の統一、人事部と営業部門の共通目的、個人情報の漏えいリスクを具体的に捉えることが要点です。

問題の全体像

J社は職能資格制度の改定に合わせ、来年4月1日までに三つの既存システムを統合し、人材情報を一元管理する必要があります。人事部の業務改善に加え、営業部門から情報入手や要員の稼働状況の確認に関する要求が出され、全てを期限内に実現することは困難です。公式の出題趣旨では、ステークホルダの要求を把握し、時間の制約の中で全体のスコープを定義する能力と、人材情報を扱うシステム特有のリスクへの対応を問うとしています。各要求が解決したい問題を捉え、優先順位、合意できる範囲、必要な対策を説明することが中心です。

設問1

下線①の直前に、全ての要求を稼働期限までに実現することはできず、要求を集約する必要があると書かれています。問題点と要求を対応付ける狙いは、背景にある問題点の影響度を判断し、要求に優先順位を付けることです。公式解答例では「起因する問題点の影響度から要求の優先順位を付ける。」としています。30字以内の答案では「問題点の影響度」と「要求の優先順位」を押さえます。採点講評では、単に「要求を整理するため」とする表面的な解答が多かったと指摘されており、整理した結果を何の判断に使うかまで示す必要があります。

設問2(1)

要求検討委員会には人事部と営業部門の代表が参加していますが、各記入シートを使う社員は参加していません。人事部へのヒアリングでは、社員から「記入の手間が掛かり、かつ、記入しづらいので改善してほしい」という要望が多数寄せられていることが分かります。この社員の要望が、仕様に反映すべき内容です。公式解答例では「各記入シートが記入しづらいので改善してほしいという社員の要望」としています。35字以内では、対象が各記入シートであること、記入しづらさの改善、要望の主体が社員であることをまとめます。

設問2(2)(リスク)

N課長は、現状の記入内容をそのままにして社員が直接入力すれば、問合せにも短時間で対応できると考えています。しかし、業務内容や技術分野の記入方法は統一されておらず、同じ研修や公的資格が異なる表記で登録されている場合もあります。システムを統合しても、この不統一が残れば内容の確認に時間が掛かります。公式解答例では「記入内容が統一されず確認に時間が掛かる。」としています。20字以内では、記入内容の不統一と確認時間の増大を結び付けます。社員の操作性に関する要望とは別のリスクとして捉えることが大切です。

設問2(2)(対策)

対策は、記入内容の不統一という原因に直接対応させます。情報の格納先を一元化するだけでは、同じ研修や資格の表記が異なる問題は解消されないため、各項目の記入方法を統一する必要があります。公式解答例では「各項目の記入方法を統一する。」または「人材関連情報の項目と記入方法を整理する。」としています。20字以内の答案では、このいずれかの要点を簡潔に示します。本文の遂行方針にも、人材関連情報の項目と記入方法の整理が開発範囲として明記されており、リスクと対策の対応を確認できます。

設問3(1)

営業部門の現状の問題点は、人事部への問合せが確認に時間を要するため断られ、必要な人材情報を把握できないことです。したがって、この問題に対応する要求は、類似案件の経験者や必要な公的資格保有者の情報を迅速に入手できることです。公式解答例もこの内容を示しています。40字以内では「類似案件の経験者」「必要な公的資格保有者」「情報の迅速な入手」を押さえます。営業部員の直接アクセスは情報入手の手段に当たり、受注後の稼働状況のグラフ化は今回の開発範囲から外された追加要求であるため、現状の問題点を解決する要求と区別して読み取ります。

設問3(2)

人事部は、情報の収集や確認に時間が掛かる状態を改善し、各部門の問合せに短時間で対応したいと考えています。一方、営業部門は、必要な人材情報を迅速に把握したいと考えています。情報を提供する側と利用する側で立場は異なりますが、人材情報を迅速に提供・把握するという目的は共通しています。公式解答例では「人材情報を迅速に提供する仕組みの構築では一致しているから」などとしています。30字以内では、何が一致しているのかを具体的に示します。採点講評でも、両部門の要求が人材情報を迅速に把握したい点で一致していることの説明を求めています。

設問4(1)

プロトタイプを使ってもらう対象は、既存システムへの改善要望を多く出している社員です。その要望には、各記入シートに入力する手間や記入しづらさがあります。実際に操作してもらうことで、操作性に関する意見を把握し、仕様に反映することが目的です。公式解答例では「操作性に関する要望を仕様に反映させるため」としています。30字以内では「操作性に関する要望」と「仕様への反映」を押さえます。「意見を把握するため」だけでは設問中の行動を繰り返すことになるため、その意見を何に生かすかまで説明します。

設問4(2)

新人材管理システムには、社員の所属、役職、職能資格、業務経歴、研修、公的資格などの人材情報が集約されます。営業部員が直接アクセスする仕組みについて問われているのは、この情報の性質に伴うリスクです。公式の出題趣旨では個人情報の取扱いに関する知識を問うとしており、公式解答例は「人材情報が漏えいすること」です。15字以内の答案では、漏えいする対象が人材情報であることを具体的に示します。本文では、このリスクを踏まえ、人事部が迅速な情報提供を行う方針が採られています。

学習のポイント

要求の背景と影響度からスコープを判断し、要求・実現手段・リスク・対策を区別して字数内で具体的に説明する力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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