PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成25年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 プロジェクト計画の策定に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 通信事業者のC社は様々な事業分野へ進出し,急速に事業規模を拡大している。その結果,経営状況を全社横断的に把握するシステムを整備することが経営課題となっていた。そこで,経営状況をモニタリングし,迅速な意思決定を支援するシステム(以下,モニタリングシステムという)を開発することにした。 C社でシステム化を行う場合は,各事業部が個別システム化計画を策定し,システム部がそれらを取りまとめて,次年度の全社のシステム化計画と予算を経営会議に申請するという流れとなっている。経営会議で承認された次年度予算は各事業部に配分され,各事業部は予算に沿って,個別システムの開発を,情報子会社のR社に委託することになっている。 モニタリングシステムの個別システム化計画書(以下,計画書という)は経営管理部が策定し,次年度予算の承認を受けて,4月からプロジェクトを開始することにした。C社のモニタリングシステム開発の責任者は経営管理部のD部長,開発側のプロジェクトマネージャ(PM)はR社のS課長である。 〔計画書の確認〕 S課長は,経営管理部が策定した計画書を確認した。計画書によれば,C社では週次に経営会議を開催し,経営課題に対する意思決定を行っている。経営状況に関しては,各事業部の報告書から,経営管理部が手作業で集計して確認している。モニタリングシステムは,この手作業の部分をシステム化することを目的としており,主な要件は,各事業部の既存の業務システムから必要なデータを抽出し,経営会議資料に集約することである(図1参照)。したがって,機能はデータ集計とレポート作成だけであり,各事業部との調整は不要と想定し,開発期間は6か月と短期間に設定している。 図1 モニタリングシステムの概要 S課長は,計画書の妥当性を確認するため,C社の事業部のシステム開発を担当しているR社のT課長を訪問し,C社の業務システムの状況についてヒアリングを行った。ヒアリング結果の概要は次のとおりである。 ・システム開発が各事業部の業務担当者主導で行われており,全社の業務プロセスの整理が十分に行われていない。 ・その結果,類似のデータ項目が複数の業務システムにあり,更新のタイミングも異なるので,データ項目間の整合性は必ずしも取れていない。 ・システムの基盤も個別に構築されてきており,運用が複雑化しているので,システム部で,W社のミドルウェアをベースとした新基盤への移行計画を進めている。 S課長は,計画書にはプロジェクト管理上のリスクが含まれている可能性があると感じ,プロジェクトの実行計画策定に際して,経営会議メンバのモニタリングシステムに対する要求内容の確認が必要であると考えた。また,新基盤への移行計画については,状況を把握しておく必要性を感じた。 〔経営会議メンバへのヒアリング〕 次に,S課長は経営管理部のD部長との打合せを行った。打合せでは,D部長から,“経営状況を1日でも早く把握するために,現在経営管理部が行っている手作業を,そのままシステム化する方針とし,6か月で開発を完了させたい。”との要求があった。 S課長は,事前にヒアリングしたT課長の情報を踏まえ,“経営会議メンバへのヒアリングと,経営会議資料,及び関連する既存システムの仕様調査を行った上で,プロジェクトの実行計画を策定する中でスケジュールを確定させたい。”として,稼働時期の要求に対する回答を保留した。 その後,D部長同席の下で行った経営会議メンバへのヒアリングでは,C社の社長から,“経営会議資料の取りまとめに時間が掛かっている。また,各事業部の状況を同一の指標で比較評価する必要性を感じている。整合性のある正確な情報をモニタリングシステムから得られることを期待している。”という要望が述べられた。 次に,S課長は,経営会議資料の項目の洗い出しと関連する既存システムの仕様の確認を行い,事前にヒアリングしたT課長の情報が事実であることを確認した。S課長はこれらの状況を整理した上で,D部長に対して,C社の社長の要望を実現するためには,モニタリングシステム開発の前に対応すべき課題があり,モニタリングシステムの開発スケジュールについては見直す必要がある旨を回答した。D部長からは,どのような見直しが必要か具体的な提案をするようにと依頼を受けた。毎年1月からは繁忙期となるので,遅くとも年内には開発を完了させる必要があるとのことであった。 〔プロジェクトの実行計画策定〕 S課長は,モニタリングシステムのスコープについて検討した。元々は,データ集計とレポート作成の機能だけのシステムを想定していたが,C社の社長の要望を実現するためには,業務プロセスの整理と,既存システムの改修もスコープに含める必要がある。そのためには,新たなステークホルダの参加を要求する必要があると考えた。また,開発の作業工数が大幅に増加するので,開発要員の追加が必要となる。C社の各事業部向けシステムの開発・改修などの業務は,R社が継続的に委託を受けており,次年度予算の決定を受けて,既に要員計画は固まっている状況である。S課長は,D部長からC社の各事業部に対して,協力を依頼してもらう必要があると考えた。スケジュール面からは,開発の前に,業務プロセスの整理と,既存システムの改修の仕様を確定する必要があり,その期間を2か月と見込んで,6月から開発を開始する方針とした。 S課長は実際の開発工数を見積もるに当たり,新基盤への移行計画の進捗状況を確認することにした。C社のシステム部の回答は次のとおりであった。 ・W社のミドルウェアについては,現在検証中であり,まだ利用できない。 ・現在,“新基盤を利用する場合の開発標準”を,3か月後の完成を目標に作成中である。 ・C社内にW社のミドルウェアについて詳しい要員がいないので,W社から要員を派遣してもらい,仕様を確認しながら検証を行っている。 ・W社のミドルウェアは最近リリースされたばかりであり,利用する予定の機能が正常に動作しない事象が発生し,検証がなかなか進まない状況である。 これらの確認結果を受け,S課長は,今回のプロジェクトに新基盤を採用した場合,開発要員の手配,システムの品質,開発スケジュールの観点でリスクを抱え込むことになるので採用すべきでないと判断し,代替案を検討することにした。 S課長は,これらの検討を踏まえ,12月末完了を目標としたモニタリングシステム開発プロジェクトのプロジェクト実行計画を策定し,D部長に提案した。 設問1 〔計画書の確認〕について,S課長は,計画書のどの部分にプロジェクト管理上のリスクが含まれている可能性があると感じたのか。45字以内で述べよ。 設問2 〔経営会議メンバへのヒアリング〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 事前にヒアリングしたT課長の情報を踏まえ,S課長が最終利用者である経営会議メンバに確認したいと考えたことは何か。25字以内で述べよ。 (2) S課長がD部長に対して回答した,モニタリングシステム開発の前に対応すべき課題とは何か。25字以内で述べよ。 設問3 〔プロジェクトの実行計画策定〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) S課長が考えた,新たに参加が必要となるステークホルダとは誰か。15字以内で答えよ。 (2) S課長が考えた,D部長からC社の各事業部に対して,協力を依頼してもらう必要がある点とは何か。40字以内で述べよ。 (3) S課長が考えた,新基盤を採用した場合に抱え込むことになる,開発要員の手配,システムの品質,開発スケジュールの観点でのリスクとは具体的に何か。それぞれ25字以内で述べよ。
図1 モニタリングシステムの概要。各事業部の業務システムからモニタリングシステムへデータを集約し,経営会議資料を作成して経営会議に提供する流れを示した図。
図1 モニタリングシステムの概要。各事業部の業務システムからモニタリングシステムへデータを集約し,経営会議資料を作成して経営会議に提供する流れを示した図。
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要求とリスクのつながりに注目

計画を読むときは、要求として扱う内容がどの範囲に影響し、その不確かさがどのリスクにつながるかを一つの流れで整理し、記述同士の関係性に注目しましょう。用語の印象だけで判断せず、前後の因果関係が自然かを確認することが大切です。

この問題で問われていること

確認の中心は、要求・スコープ・リスクを個別に覚えることではなく、計画上のある記述が対象範囲をどう定め、その結果として不確実性や対応課題とどう結び付くかを追えるかです。

視点

計画内の記述を単独で読まず、対象範囲の定め方と不確実性の関係を順にたどり、内容同士の整合性を確認します。

確認ポイント

  • 対象範囲との関係を確認する
  • 不確実性とのつながりを確認する
  • 記述同士の整合性を確認する
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解説

本問は、個別システム化計画を分析し、利用者要求、既存システムの課題、関係者の協力、新基盤採用のリスクを実行計画へ反映する力を問う。

問題の全体像

C社は、各事業部の業務システムからデータを集め、経営会議用資料を作成するモニタリングシステムを短期間で開発しようとしていた。しかし、事業部ごとに業務プロセスやデータ定義、基盤が異なり、データ整合性や新基盤の検証にも問題があった。S課長は、経営会議メンバへの確認を通じて本来の目的と要望を把握し、業務プロセス整理や既存システム改修を事前課題としてスコープとスケジュールを見直した。本問では、計画書のリスク発見、ステークホルダとのコミュニケーション、関係部門の協力確保、基盤採用に伴う要員・品質・納期のリスク評価が問われている。

設問1

計画書には、機能をデータ集計とレポート作成だけとし、各事業部との調整は不要とする前提がある。ところが、ヒアリングでは事業部ごとに業務プロセス、データ項目、更新時期、基盤が異なることが分かった。このため、公式解答例では、各事業部との調整が不要と想定している点を、プロジェクト管理上のリスクを含む部分としている。45字以内では、機能の限定と調整不要という前提を一体で押さえる。

設問2(1)

T課長から、既存システム間で類似データの整合性が取れていない可能性が示されている。一方、経営会議メンバは最終利用者であり、システムが何のために必要で、どのような情報を求めているかを判断する立場にある。したがって公式解答例では、最終利用者に対して、モニタリングシステム開発の目的とシステムへの要望を確認する点を挙げている。

設問2(2)

社長は、各事業部を同一指標で比較でき、整合性のある正確な情報を得たいと要望している。しかし、既存システムには同じようなデータ項目が複数存在し、更新時期も異なる。したがって、単に集計機能を作る前に、データ項目間の整合性を取ることが対応すべき課題となる。公式解答例もこの点を示している。

設問3(1)

モニタリングシステムのスコープに業務プロセスの整理と既存システムの改修を含めると、各事業部の業務内容やシステム仕様を理解している人の参加が必要になる。そのため、公式解答例では、新たなステークホルダを各事業部の業務担当者としている。

設問3(2)

各事業部の改修や開発は既にR社へ継続委託され、要員計画も固まっている。そこでD部長から事業部へ、モニタリングシステムの課題に対応する改修業務の優先順位を上げてもらい、各事業部の開発計画を見直して要員を割いてもらう必要がある。公式解答例は、この二つの協力内容を示している。

設問3(3)

新基盤は検証中で、利用予定機能に不具合があり、C社内にも詳しい要員が少ない。したがって、開発要員の手配では、W社のミドルウェアや新基盤に詳しい要員を確保できないリスクを書く。システムの品質では、ミドルウェアの不具合によって品質目標を達成できない、または品質が低下するリスクを書く。開発スケジュールでは、新基盤の開発標準の完成待ちで着手が遅れる、または検証遅延により年内に完了できないリスクを書く。公式解答例は、各観点についてこの原因と影響の組合せを示している。

学習のポイント

計画書の前提を検証し、リスクの原因と管理対象への影響を具体化する練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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