PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成25年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 設計ドキュメント管理システムの開発プロジェクトに関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。 K社は,大型製造装置の設計から施工・保守までを請け負うエンジニアリング企業である。K社の売上の多くは,海外の顧客によるもので占められており,建設現場は各国に点在している。大型製造装置の建設では,多くの設計ドキュメントを顧客,現場事務所,設計協力会社と本社との間で共有し,業務を進める必要がある。K社は,図1に示す,自社で開発した,設計ドキュメントの保管,作成状況の管理をするための設計ドキュメント管理システム(以下,EDMSという)を利用し,これまで業務を進めてきたが,社外からEDMSへ直接アクセスできないので,次のような問題が顕在化していた。 ・顧客から設計担当者に対して,電子メールで設計の進捗状況の確認が行われ,その対応のための工数が掛かっている。 ・現場事務所へは,1日1回のバッチ処理で設計ドキュメントをコピーしているので,現場事務所の担当者が最新の設計ドキュメントを参照できない。 ・設計協力会社からは,設計ドキュメントを電子メールで登録担当者宛てに送信してもらい,登録担当者がEDMSに登録している。登録にタイムラグがあり,設計担当者のレビューをタイムリに実施できない。 これらの問題を解決するため,図2に示す,新しいEDMS(以下,新EDMSという)を開発することにした。 図1 現在のEDMSの利用形態 図2 新EDMSの利用形態 設計ドキュメントには,顧客の機密情報を含むドキュメント類も含まれるので,取扱いには十分に注意する必要がある。電子化してサーバに保管する際には,サーバの管理状況を明確に把握する必要がある。サーバの運用を委託する場合は,定期的な管理レポートを顧客が要求する形で報告し,顧客が要求する場合には,サーバの管理について監査を行うことが,顧客との契約条件となる場合がある。新EDMSの開発に当たって,システムの一部の運用を委託する場合には,これらの要求事項を満たす必要がある。開発プロジェクトは今年4月1日から開始することとし,K社は情報システム部のL氏をプロジェクトマネージャ(PM)に任命した。 〔プロジェクト計画〕 L氏は,検討の基本となる案(以下,基本案という)を作成した。必要な作業項目,作業に掛かる期間などを表1に示す一覧表にまとめ,作業の流れを図3に示す作業工程図にまとめた。 表1 作業項目の一覧表 図3 作業工程図 基本案の前提は次のとおりである。 ・EDMSは,K社の業務に合わせて様々な機能が組み込まれているが,新EDMSの開発では,既存の仕様を利用することによって,開発工数は少なく済むと想定する。 ・サーバ類はデータセンタに集中設置し,現場事務所にはサーバを置かず,クライアント環境の整備だけで対応できる仕様とする。 ・データセンタと各現場事務所の間は,専用線でそれぞれ1対1に接続する構成を想定する。 ・開発工程のうち,製造・テストはハードウェアの設置・設定の後に本番サーバ環境で行い,現場事務所環境を含めた結合テストは現場事務所環境整備の後に行う。 〔クラウドサービス利用の検討〕 L氏は,事業部門及び現場事務所統括部門の責任者を含めて基本案についてのレビュー会議を開催した。その結果,この基本案は,前提を含めて次の点で再検討する必要があるとの指摘を受けた。 ① 事業部門の責任者の指摘:グローバル対応はK社の急務である。今年4月1日に開始して,遅くとも,新しい海外顧客向け大型製造装置の設計が開始される,来年1月初めから利用できるようにしてほしい。 ② 現場事務所統括部門の責任者の指摘:データセンタと各現場事務所の間を専用線でそれぞれ1対1に接続する構成は,システムの専任者がいない現場事務所には負担となる。グローバルに接続拠点がある安全なネットワークなどの利用を検討してほしい。 L氏は,①の要望への対応として,記号A,B,C,G,H,I,Jの一連の作業の工程短縮を検討することにした。クラウドコンピューティングサービス(以下,クラウドサービスという)を利用することによって短縮できる可能性があることから,クラウドサービスの利用を検討することにした。 L氏は,②の要望への対応として,クラウドサービス提供企業の中から,ある条件を付け加えて選定を行い,ヒアリングを実施した。 表2 各社のクラウドサービスの比較表 各社のクラウドサービスの比較結果は表2のとおりである。 〔スケジュール検討〕 L氏は,各社のクラウドサービスの内容と基本案の作業項目を比較し,各クラウドサービスを利用した場合の作業項目と開発期間への影響,及び課題を次のとおり検討し,開発期間の再見積りを行った。 ・X社のクラウドサービスを利用した場合は,Bの作業が不要となり,開発期間は[a]か月となる。 ・Y社のクラウドサービスを利用した場合は,Bの作業が不要となり,C,Dの作業期間が半減するので,開発期間は[b]か月となる。 ・Z社のクラウドサービスを利用した場合は,Bの作業が不要となり,C,D,G,Hの期間が半減する。一方,Eの作業については,Z社のアプリケーションソフトウェアの機能を確認した上で設計を進めることになるので,2倍の期間を想定する。その結果,開発期間は[c]か月となる。しかし,既存のEDMSの仕様を前提とするという新EDMSの機能面の特性を考慮すると,Eの作業についてのこの想定にはリスクがあると考えた。 〔各社のクラウドサービスの評価〕 L氏は,これらの検討の結果を次のとおりにまとめた。 ・X社:開発期間に業務上の問題がある。 ・Y社:開発期間に問題はないが,サーバ運用の条件を確認する必要がある。 ・Z社:開発期間に問題はないが,サーバ運用の条件を確認する必要がある。また,新EDMSの機能面の特性から想定されるリスク,顧客要求への不適合の可能性がある。 これらの結果から,L氏は,Y社のクラウドサービスを利用する案を第1候補として,プロジェクト計画を策定することとした。 設問1 〔クラウドサービス利用の検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) L氏が,工程を短縮するに当たって,記号A,B,C,G,H,I,Jの一連の作業を短縮すべき対象として選んだのはなぜか。20字以内で述べよ。 (2) L氏が,クラウドサービス提供企業の選定を行う際に,付け加えた条件とは何か。35字以内で述べよ。 設問2 〔スケジュール検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の[a]〜[c]に入れる適切な数字を答えよ。 (2) L氏は,Z社のクラウドサービスを利用した場合,既存のEDMSの仕様を前提とするという新EDMSの機能面の特性を考慮すると,Eの作業についてのこの想定にはリスクがあると考えた。そのリスクとは何か。30字以内で述べよ。 設問3 〔各社のクラウドサービスの評価〕について,(1)〜(3)に答えよ。 (1) L氏が,X社のクラウドサービスの評価として,開発期間に業務上の問題があるとした理由は何か。30字以内で述べよ。 (2) L氏が,Y社とZ社のクラウドサービスの評価として,サーバ運用の条件に関して,どのような確認を行う必要があると考えたのか。35字以内で述べよ。 (3) L氏が,Z社のクラウドサービスの評価として,顧客要求への不適合の可能性があると判断した根拠は何か。20字以内で述べよ。
図1 現在のEDMSの利用形態。顧客、設計担当者、現場事務所、設計協力会社、登録担当者とEDMSの間における、電子メールやバッチ処理による文書共有の現状を示す構成図。
図1 現在のEDMSの利用形態。顧客、設計担当者、現場事務所、設計協力会社、登録担当者とEDMSの間における、電子メールやバッチ処理による文書共有の現状を示す構成図。
図2 新EDMSの利用形態。顧客、現場事務所の担当者、設計協力会社、設計担当者がデータセンタの新EDMSへ直接接続する新しい利用形態を示す構成図。
図2 新EDMSの利用形態。顧客、現場事務所の担当者、設計協力会社、設計担当者がデータセンタの新EDMSへ直接接続する新しい利用形態を示す構成図。
表1 作業項目の一覧表。作業項目AからJについて、作業名称、所要期間、先行作業項目、作業内容を一覧化した表。
表1 作業項目の一覧表。作業項目AからJについて、作業名称、所要期間、先行作業項目、作業内容を一覧化した表。
図3 作業工程図。基盤設計と外部設計から始まり、ハードウェア調達・設置、内部設計、製造・テスト、結合テスト、総合テスト、教育・移行へ進む工程図。
図3 作業工程図。基盤設計と外部設計から始まり、ハードウェア調達・設置、内部設計、製造・テスト、結合テスト、総合テスト、教育・移行へ進む工程図。
表2 各社のクラウドサービスの比較表。X社、Y社、Z社について、クラウドサービス形態、提供ソフトウェアとハードウェア、サーバ運用者、監査受入れ可否を比較した表。
表2 各社のクラウドサービスの比較表。X社、Y社、Z社について、クラウドサービス形態、提供ソフトウェアとハードウェア、サーバ運用者、監査受入れ可否を比較した表。
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判断の前提をそろえて考える

導入や運用に関する判断では、結論を急ぐ前に、その判断がどのような前提に基づくかを確かめましょう。扱われている情報と自分で補った想定を区別し、同じ前提で検討できているかに注目すると、考えを整理しやすくなります。

この問題で問われていること

検討の焦点は、判断の前提が途中で変わっていないかという一点です。与えられた条件を根拠に考えているか、明示されていない条件を付け足していないかを振り返り、結論とその前提のつながりを意識してみてください。

視点

前提とは、考えを進めるときに土台として置く条件です。情報として示された条件と、自分が補った想定を分けて捉えることで、判断が何に支えられているかを確認しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の土台にした条件を言葉にできるか
  • 示された条件と自分の想定を区別できているか
  • 検討の途中で前提を変えていないか
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解説

本問は、クラウドサービスの利用案を、工程短縮だけでなく、業務上の利用開始期限、現場のネットワーク負担、機能適合性、運用報告と監査の条件から比較する問題です。作業期間の変更後は最長経路を再計算し、各要求への適合性を個別に判断します。

問題の全体像

K社は、海外の顧客や現場事務所、設計協力会社が設計ドキュメントを直接共有できる新EDMSを開発します。基本案には利用開始期限と現場のネットワーク負担に関する指摘があり、L氏はクラウドサービスの利用を検討しました。出題趣旨では、複数の案についてスケジュールへの影響とステークホルダの要求への適合性を総合的に検討する能力が問われています。最短の案を選ぶだけでなく、既存機能への対応や顧客との運用契約条件も確認する必要があります。

設問1(1)

表1と図3の作業期間・先行関係に着目します。基本案のA→B→C→G→H→I→Jは、2+2+2+2+2+1+1=12か月です。他の経路であるA→D→H→I→Jは10か月、E→F→G→H→I→Jは9か月なので、選ばれた一連の作業が全体の所要期間を決めています。この経路を短縮することが全体の工程短縮につながるため、公式解答例では「クリティカルパス上の作業だから」としています。答案は、この理由を20字以内で示します。

設問1(2)

〔クラウドサービス利用の検討〕の指摘②に着目します。専任者がいない現場事務所には、各拠点とデータセンタを専用線で個別に接続する構成が負担となるため、世界各地で接続できる安全なネットワークが求められています。公式解答例では「グローバルに接続拠点がある安全なネットワークを提供すること」としています。35字以内で、接続拠点の広がりと安全性を押さえます。採点講評では、ここでサーバ監査の受入れを答えた例を挙げ、対応すべき要求を正確に把握する必要性を指摘しています。

設問2(1)(a)

X社利用時はBのハードウェア調達が不要となり、ほかの作業期間は変わりません。Bを除いたA→C→G→H→I→Jは、2+2+2+2+1+1=10か月です。A→D→H→I→Jも2+4+2+1+1=10か月、E→F→G→H→I→Jは1+2+2+2+1+1=9か月です。全体の所要期間は最長経路の10か月となるため、公式解答例ではa=10です。

設問2(1)(b)

Y社利用時はBが不要となり、Cは2か月から1か月、Dは4か月から2か月に短縮されます。A→C→G→H→I→Jは2+1+2+2+1+1=9か月、A→D→H→I→Jは2+2+2+1+1=8か月、E→F→G→H→I→Jは1+2+2+2+1+1=9か月です。GはCとFの両方が完了してから開始するため、先行関係も維持して計算します。最長経路は9か月となり、公式解答例ではb=9です。

設問2(1)(c)

Z社利用時はBが不要となり、C・G・Hは各1か月、Dは2か月、Eは2か月になります。A→C→G→H→I→Jは2+1+1+1+1+1=7か月、A→D→H→I→Jは2+2+1+1+1=7か月です。一方、E→F→G→H→I→Jは2+2+1+1+1+1=8か月となり、この経路が最長です。GはCだけでなくFの完了も待つため、EとFの設計作業が全体の所要期間を決めます。したがって、公式解答例ではc=8です。

設問2(2)

基本案の「既存の仕様を利用することによって、開発工数は少なく済む」という前提と、Z社利用時には提供されるアプリケーションの機能を確認して外部設計を進めるという変更に着目します。K社固有の業務機能への対応が必要になると、Eを2か月とした見積りでは不足するおそれがあります。公式解答例では「K社の業務に合わせた機能への対応に期間が掛かる」としています。30字以内で、機能への対応と期間への影響を結び付けます。採点講評でも、機能が相違する可能性を述べるだけでなく、スケジュールへの影響を説明することが求められています。

設問3(1)

事業部門の指摘①にある「今年4月1日」に開始し「来年1月初め」から利用したいという要求に着目します。この期限までの開発期間は9か月ですが、X社利用時は10か月を要するため、利用開始が1か月遅れます。その結果、新しい海外顧客向け大型製造装置の設計開始に間に合いません。公式解答例では、来年1月初めからの利用要求に対応できないこと、又は設計開始に間に合わないことを挙げています。答案は30字以内で、業務上の期限に間に合わない点を示します。

設問3(2)

本文冒頭の運用委託に関する契約条件と、表2のサーバ運用の担当企業に着目します。Y社とZ社では提供企業がサーバを運用するため、顧客が要求する形で定期的な管理レポートを報告できるか確認する必要があります。表2にはレポート提出の可否が示されていません。公式解答例では「顧客が要求する形で定期的な管理レポートを提出できるか」としています。35字以内で、顧客指定の形式、定期性、提出可否を押さえます。

設問3(3)

本文には、顧客が要求する場合にサーバ管理の監査を行うことが契約条件となる場合があると記載されています。一方、表2ではZ社の「監査の受入れ」が「不可」です。このため、顧客から監査を要求された場合に契約条件を満たせない可能性があります。公式解答例では「サーバ管理についての監査ができない」としています。20字以内で、表2から確認できる監査不能の事実を示します。

学習のポイント

先行関係を踏まえた最長経路の再計算と、ステークホルダの要求の区別、機能差異からスケジュールへの影響を説明する力を重点的に学びます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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