PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成25年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 システム開発プロジェクトの企業合併に伴う計画変更に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 A社は,東京を中心に,東日本を主な商圏とする中堅のアパレル企業である。A社では,業務プロセスを一新して業務効率を飛躍的に改善するための全社活動を半年前から進めてきた。その結果,V社のERPパッケージ(以下,V社ERPという)を導入し,基幹システムを更改する開発プロジェクト(以下,A社プロジェクトという)を開始させた。プロジェクトマネージャ(PM)には情報システム部のB部長が任命された。現在は2か月間の要件定義が終了したところである。更改する基幹システムは来年4月に稼働する計画である。A社プロジェクトの開発スケジュールを図1に示す。 図1 A社プロジェクトの開発スケジュール V社ERPは操作性に優れ,標準で用意されているアパレル業向けのテンプレートは,ベストプラクティスとして業界での評価も高い。A社の業務効率を改善するための全社活動でも,V社のコンサルタントの支援を受けて,このテンプレートに沿って業務プロセスを見直してきた。当初は,現行の業務プロセスを変更することに業務部門が抵抗感を示した。その後,V社のデモ環境を使用して検討を繰り返すうちにテンプレートの社内評価も高まり,業務部門が納得して,A社プロジェクトの要件定義は順調に完了した。 〔合併準備委員会の基本方針〕 最近,A社は,以前から業務提携している同業で中小規模のM社と,1年後に合併することを決定した。M社は,大阪を中心に関西地方に顧客基盤をもっており,A社はこの合併を機会に,全国規模の企業へ発展しようと計画していた。 M社は,独自に開発した基幹システムを使っているが,稼働後10年近く経過して老朽化が目立ち,システム更改の時期を迎えていた。M社では,自社の基幹システムに精通し,業務にも明るいシステム管理課のN課長が中心となって,システム管理課の要員で業務部門からの要望に常に対応してきたものの,業務部門からは,基幹システムを一新し業務プロセスを改善して効率向上を図りたいとの意見が強く上がっていた。 両社の経営層が参加する合併準備委員会が組織され,次の基本方針を決定した。 (1) 現在更改中のA社の基幹システムを合併後の基幹システム(以下,新システムという)とする。 (2) 合併後は新システムの業務プロセスに統一する。 (3) 新システムへの移行に必要なコストは,合併に伴う費用として予算化する。 〔新システムの方針〕 合併準備委員会の基本方針の決定を受け,両社の関連部門の責任者を集めたシステム検討会議では,両社のシステムの状況を検討し,次の方針を決定した。 (1) A社プロジェクトの開発スケジュールで計画されていた稼働予定を変更し,新システムの稼働開始は合併と合わせて来年6月とする。 (2) A社プロジェクトのPMのB部長を,新システムの開発プロジェクト(以下,新プロジェクトという)のPMに任命する。 B部長は,システム検討会議の方針を受けて,新プロジェクトの計画では次のことを考慮する必要があると考えた。 ・M社の業務部門が,①新システムの業務プロセスを理解するためのスケジュールを計画する必要がある。 ・M社の基幹システムから新システムへデータ移行を行うための体制やスケジュールを計画する必要がある。 B部長は,新プロジェクトのM社側責任者としてN課長の参加をM社に要請し,M社もこれに合意した。 〔新プロジェクトの開発スケジュールの検討〕 B部長は,A社プロジェクトの開発スケジュールを参考に,図2に示す新プロジェクトの開発スケジュール案について検討を開始した。M社との合併で,A社プロジェクトに比べて新プロジェクトの全体工数は増大するが,②業務プロセスを新システムの業務プロセスに統一するのであれば,V社ERP導入と追加開発のスケジュールには大きな変更は必要ないと考えた。 M社の業務部門が新システムの業務プロセスを十分に理解できなければ,運用テストで問題が発生する可能性がある。M社の業務部門が業務プロセスを迅速に理解できるように対策を講じることを前提に,B部長は,図2のとおり来年3月から運用テストを開始し,③稼働までの3か月間を運用テスト期間とするよう検討することとした。 A社では,V社ERP導入と追加開発の設計終了後に移行方式設計を行い,製造完了後に移行ツール開発を行う計画である。B部長は,M社の基幹システムから新システムへのデータ移行について,移行方式設計・移行ツール開発を来年1月末までに完了するようにN課長に検討を指示した。 図2 新プロジェクトの開発スケジュール案 〔業務プロセスの理解〕 B部長はN課長に,A社プロジェクトの要件定義の内容を早く理解するとともに,M社の業務部門に新システムの業務プロセスを理解させるよう指示した。 B部長は,業務プロセスの理解を迅速に行え,かつ,確実なものにするために,業務プロセスの説明をV社のデモ環境を利用して行えるようV社と調整した。加えて,④A社プロジェクトの要件定義において中心的な役割を担った業務部門のメンバに対して,N課長と協力してM社の業務部門に新システムの業務プロセスを説明するよう指示した。 B部長は,M社の業務部門を含めた新プロジェクトの関係者全員を集めてキックオフミーティングを開催するよう調整した。キックオフミーティングでは,両社の社長から,合併後は新システムの業務プロセスに統一することと,合併時には新システムで運用を開始することを改めて伝えていただくことにした。特にA社の社長から,⑤A社の経験からM社の業務部門に対して,あることを強く要請していただくことにした。 〔データ移行の計画〕 B部長は,N課長からM社のデータ移行に関する検討結果について次の報告を受けた。 ・データ移行については,M社の基幹システムのデータの仕様を熟知しているM社システム管理課の要員が担当するのが妥当である。 ・M社では6月と12月に定期改修を予定しており,データの仕様を変更する可能性がある。定期改修は,M社システム管理課の要員だけで実施する予定である。 ・M社システム管理課の要員は新システムのデータの仕様を理解していないので,移行方式設計に時間が取られそうだ。移行方式設計を短期間に完了させなければ,移行ツール開発を来年1月末までに完了させることは難しい。 報告を受けたB部長は,移行方式設計の前にM社のデータの仕様を凍結することと,⑥あることを理由に今年12月の定期改修を中止するようM社と調整し,M社もこれに合意した。 また,B部長は,N課長に⑦M社の移行方式設計をA社と共同で行うよう指示した。 設問1 〔新システムの方針〕について,B部長が本文中の下線①のように,新システムの業務プロセスを理解するためのスケジュールを計画する必要があると考えた理由は何か。30字以内で述べよ。 設問2 〔新プロジェクトの開発スケジュールの検討〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) B部長が,本文中の下線②のように,新システムの業務プロセスに統一するのであれば,V社ERP導入と追加開発のスケジュールには大きな変更は必要ないと考えた理由は何か。20字以内で述べよ。 (2) B部長が,本文中の下線③のように検討することとした目的は何か。30字以内で述べよ。 設問3 〔業務プロセスの理解〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本⽂中の下線④で,B部長はA社の業務部門のメンバが説明することで,どのような効果を期待したのか。40字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線⑤で,M社の業務部門に強く要請した,あることとは何か。30字以内で述べよ。 設問4 〔データ移行の計画〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の下線⑥で,B部長が今年12月の定期改修を中止するようM社と調整した理由として,データ仕様の凍結の他に考えられるあることとは何か。25字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線⑦で,B部長がN課長にM社の移行方式設計をA社と共同で行うよう指示した理由は何か。30字以内で述べよ。
図1 A社プロジェクトの開発スケジュール。A社のERP導入・追加開発、データ移行、運用テストの工程と、今年4月から来年4月までの月別スケジュールを示す図。
図1 A社プロジェクトの開発スケジュール。A社のERP導入・追加開発、データ移行、運用テストの工程と、今年4月から来年4月までの月別スケジュールを示す図。
図2 新プロジェクトの開発スケジュール案。新プロジェクトについて、ERP導入、A社・M社のデータ移行、運用テスト、M社の業務プロセス理解の工程を月別に示す図。
図2 新プロジェクトの開発スケジュール案。新プロジェクトについて、ERP導入、A社・M社のデータ移行、運用テスト、M社の業務プロセス理解の工程を月別に示す図。
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検討の前提をそろえて考える

企業合併に伴うシステム開発の検討では、まず判断の前提に注目しましょう。提示された情報を受け取る際は、何が既に確定し、何がまだ仮定なのかという一つの観点で、考えるための足場を整えてください。

この問題で問われていること

検討の焦点は、判断に使おうとしている前提が、与えられた条件に基づくものかどうかです。一般的な経験や印象から補った内容が混ざっていないかを意識し、根拠のある前提と自分の仮定を区別しながら考えましょう。

視点

前提とは、検討を進める際に土台として置く条件です。自分で補った条件も明示された条件と同じものとして扱っていないか、情報の根拠を意識して整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の土台にした条件を、与えられた情報に結び付けられるか。
  • 明示された条件と、自分で補った仮定を区別できているか。
  • 考えを進める途中で、根拠のない前提を追加していないか。
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解説

企業合併に伴う計画変更について、開発範囲が変わらない部分と、業務理解・運用テスト・データ移行への対応が必要な部分を見極める問題です。本文の状況から、各施策の理由や効果を具体的に説明することが要点となる。

問題の全体像

A社はERP導入による基幹システム更改の要件定義を終えているが、M社との合併が決まり、稼働開始を来年4月から6月へ変更する。合併後はA社が検討した新システムの業務プロセスに統一するため、M社の業務部門の理解とデータ移行を計画に追加する必要がある。公式の出題趣旨では、企業合併によるスケジュール変更という制約の中で、プロジェクトへの影響分析、全体計画の変更、リスクへの対応を問うとしている。各設問では、本文の具体的な事情とB部長の施策を結び付けて考える。

設問1

M社の業務部門が新システムの業務プロセスを十分に理解できなければ、運用テストで問題が発生する可能性があるという記述に着目する。理解のためのスケジュールは、運用テストを円滑に行う前提を整え、開始できる時期を確定するために必要となる。公式解答例では、この二つの観点が示されている。30字以内では、例えば「運用テストが開始できる時期を確定する必要があるから」とまとめる。

設問2(1)

合併後の業務プロセスを、既に要件定義を終えた新システムの業務プロセスに統一するという方針に着目する。M社の業務理解やデータ移行によって全体工数は増えるが、ERP導入と追加開発の要件は変わらず、開発範囲も変わらない。公式解答例では「開発のスコープは変わらないから」「要件の変更がないから」としている。20字以内では「開発のスコープは変わらないから」とまとめられる。採点講評では、「業務プロセスを統一するから」と設問の条件を繰り返すだけでなく、開発スコープが変わらないことを説明するよう求めている。

設問2(2)

M社の業務部門の理解が不十分な場合、運用テストで問題が発生する可能性があるという記述と、図2の運用テスト期間に着目する。稼働が6月へ変更されても、運用テストは3月から開始し、3か月間を確保する計画です。その目的は、テストで発生した問題に対応する時間を確保することにある。公式解答例に沿って、30字以内では「運用テストで発生する問題への対応時間を確保するため」とまとめる。

設問3(1)

A社の業務部門は当初、業務プロセスの変更に抵抗感を示したが、デモ環境で検討を重ねて納得したという経緯に着目する。要件定義で中心的な役割を担ったメンバは、その納得に至った理由や、業務プロセスを理解するポイントをM社へ伝えられる。公式解答例では、納得した理由を説明してM社の理解を得ることと、理解するポイントを伝えることが、それぞれ解答例として示されている。両方を答案に盛り込むことを必須とはしていない。40字以内では、例えば「新業務プロセスに納得した理由を説明し、M社の業務部門の理解を得る」とまとめられる。別の例として「新業務プロセスを理解するポイントをM社の業務部門に伝える」も示せる。

設問3(2)

「A社の経験から」という条件を、A社の業務部門が当初は変更に抵抗感を示したという記述と結び付ける。その後、検討を重ねて新しい業務プロセスに納得できた経験から、M社にも変更を前向きに評価する姿勢を求めると考えられる。公式解答例では、新たな業務プロセスを前向きに評価すること、又は変更に抵抗感をもたないようにすることを挙げている。30字以内では「新たな業務プロセスを前向きに評価すること」とまとめる。

設問4(1)

M社のデータ移行を担当する要員と、12月の定期改修を実施する要員が、どちらもM社システム管理課の要員であることに着目する。移行方式設計と移行ツール開発を来年1月末までに完了させるには、定期改修との作業の重複を避け、移行要員を確保する必要がある。公式解答例に沿って、25字以内では「M社のデータ移行のための要員を確保すること」とまとめる。採点講評では、設問がデータ仕様の凍結以外の理由を求めているため、仕様変更による手戻りの説明ではなく、要員不足とその原因を読み取ることを求めている。

設問4(2)

M社システム管理課の要員は、移行元のデータ仕様には詳しいが、新システムのデータ仕様を理解しておらず、移行方式設計に時間がかかりそうだという報告に着目する。新システムの開発を進めるA社と共同で設計すれば、M社が移行先のデータ仕様を早期に把握でき、設計の長期化への対策となる。公式解答例では、共同作業の理由を新システムのデータ仕様の早期把握としている。30字以内では「新システムのデータ仕様が早期に把握できるから」とまとめる。

学習のポイント

施策とその目的を因果関係で整理する。特に、開発スコープ、業務部門の理解、問題対応の時間、移行要員の確保を本文の根拠と結び付けて学ぶ。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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