PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成24年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 EVMによるプロジェクト管理に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 L社は、中堅の製造業である。最近のインターネット取引の増加に対応するために、販売管理システムを再構築することにした。販売管理システムは、営業部と情報システム部が協力して開発を行い、プロジェクトマネージャは情報システム部のM課長が担当する。開発期間は1年間とし、翌年の4月1日から稼働開始することを経営会議で決定した。 これまでのL社のシステム開発プロジェクトでは、当初目標とした稼働開始日から大幅に遅延して稼働する例が繰り返されていた。このため、経営層からは、“今回の販売管理システム開発プロジェクトにおいては、プロジェクト管理を徹底すること。特に、プロジェクトの完了予定日が、目標とする稼働開始日に対して遅れていないことを常に確認してプロジェクトを遂行し、目標とする稼働開始日を厳守するように”との指示が出されている。 〔プロジェクト管理の見直し〕 M課長は、これまでにL社で実施されたシステム開発プロジェクトの中で、目標とした稼働開始日から遅延したプロジェクトの記録を調査し、その原因を分析した。その結果、L社で行われたプロジェクト管理には次のような問題点があることが分かった。 ・進捗管理は、開発担当者が自分で見積もった進捗率に基づいて行われており、客観的な基準による進捗の把握が行われていない。 ・システム開発に対する利用部門の参加意識が低く、工程ごとの成果物の確認が、確実には行われていないので、テスト段階で仕様変更が多発する。 M課長は、これらの問題点を解消するために、次の方針でプロジェクトを進めることにした。 ・客観的な基準によって進捗を把握するために、EVM(Earned Value Management)を採用する。 ・要件定義はプロトタイピングを用いて実施し、早い段階から利用部門に参加してもらう。 M課長は、この方針を採用することで、経営層の指示事項にも対応できると判断した。 〔WBSの策定〕 M課長は、EVMを実施するために、販売管理システム開発プロジェクトのWBS(Work Breakdown Structure)を次の手順で策定した。 まず、今回のプロジェクトで行う作業を“漏れなく、重複なく”洗い出して、工程別にWBSを策定した。その上で、直接的な開発作業ではないが、プロジェクトを成功裡に進めるために必要となる一連の業務を[a]としてWBSに加え、図1に示すレベル1のWBSを策定した。 図1 レベル1のWBS さらに、M課長は、工程ごとに必要となる成果物を洗い出し、次にそれらの成果物の構成要素となる要素成果物を洗い出した。その上で、それらの構造を明らかにするために、階層構造の形で表現し、文書化した。その際に、上位の成果物が全ての要素成果物を含んでいるか、また、下位の要素成果物で上位の成果物を確実に作成することができるかを確認しながら進め、最下位の要素成果物をワークパッケージ(WP)として設定した。 〔EVMの導入〕 M課長は、今回のプロジェクトでは、プロジェクト管理を徹底することが求められていることから、EVMによる計画と実績の対比を週次で行うことにした。 M課長は、まず、進捗測定のベースラインとなるプランドバリュー(PV)を設定することにした。そのため、先に設定したWPごとに、必要なタスクを洗い出した。各タスクは、所要期間が1週間以内で収まるように細分化した。その上で、各タスクの予算、スケジュールを策定して、PVを定めた。 アーンドバリュー(EV)については、途中計上は行わず、タスクの完了時にEVを全て計上することにした。M課長はタスクの完了判定基準を明確に定め、第三者による確認を受けて、タスクを完了することにした。 次にM課長は、PVに対応した実コスト(AC)の集計が適切に行えるかどうかを確認した。M課長は、今回の開発コストは社員の人件費が全てであることから、社員の作業時間の管理に焦点を当てて確認することにした。L社の情報システム部の作業時間管理のシステムは、各担当者が担当するプロジェクトの工程ごとに、作業時間を毎日入力し、工程別に日次で集計する仕様になっており、工程単位の管理しかできない。 このことから、M課長は、現状の仕様ではEVMには適さないと判断し、作業時間管理の仕組みを変更するように、情報システム部長の承認を得た上で、作業時間管理のシステム担当者へ依頼した。作業時間管理のシステム担当者からは、販売管理システムのプロジェクト開始までに対応するとの回答を得た。 M課長は、これらをEVMガイドラインとしてまとめた。M課長は、EVMガイドラインについて情報システム部長の承認を得て、プロジェクトメンバに説明した上でプロジェクトを開始した。 【EVMの実施】 プロジェクトが開始され、設計工程の中盤に差し掛かっている。 設計工程において、M課長は、週次でEVMのレポートを確認し、詳細な内容を把握するために、定例のミーティングを継続して行っている。設計工程は、基本設計と詳細設計に大別され、これまでに基本設計は計画どおりに完了している。詳細設計以降の作業は、帳票チーム、内部処理チーム、データベースチーム(以下、DBチームという)に分けて行っている。各チームの成果物の整合性については、全チームリーダの参加する定例ミーティングの場で、必要に応じて確認している。詳細設計が開始され、第1週の進捗を確認するための定例ミーティングで、M課長はプロジェクト全体のSPI(Schedule Performance Index)、CPI(Cost Performance Index)が悪化している状況を把握し、各チームの状況を詳しくヒアリングした。その結果は次のとおりであった。 ・帳票チーム:あるWPについて、第1週から参加予定の要員が着任できず着手が遅れていた。翌週に着任し、作業を開始している。同じ単価のサポート要員を一時的に追加することで、WPは予定どおりに完了し、総時間も予定範囲内に収まる見込みである。 ・内部処理チーム:要員は予定どおり参加し、タスクも予定どおり完了しており、問題は発生していない。 ・DBチーム:あるWPについて、要員は予定どおり参加し、設計作業は予定どおり進み、完了判定基準を満たしている。ただし、第1週のタスクの完了を確認する第三者が病気で休んでしまい、確認が終了していないため、タスクは完了していない。 なお、各チームとも、その他のWPについては、第1週で完了予定のタスクは全て完了しており、第1週末で仕掛り中のタスクはなかった。 M課長は、このヒアリングの結果を受け、第1週におけるプロジェクト全体のSPI、CPIが悪化している原因を理解した。また、M課長は、今後のチーム運営については、次の観点から個別に指示を出した。 ・帳票チーム:作業時間管理の観点 ・DBチーム:タスク進捗面の対応策の観点 設問1〔プロジェクト管理の見直し〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) M課長が、EVMを採用することで、経営層の指示事項にも対応できると判断した理由は何か。30字以内で述べよ。 (2) M課長が、要件定義への利用部門の参加において、要件定義をプロトタイピングを用いて実施し、早い段階から利用部門に参加してもらうようにした目的は何か。25字以内で述べよ。 設問2〔WBSの策定〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) M課長は、EVMを実施するために、なぜプロジェクトのWBSを活用することにしたのか。30字以内で述べよ。 (2) 本文中の[a]に入れる適切な字句を答えよ。 設問3【EVMの導入】について、(1)~(3)に答えよ。 (1) M課長が、各タスクを、所要期間を1週間以内で収まるように細分化した理由は何か。30字以内で述べよ。 (2) M課長が、タスクの完了判定基準を明確に定め、第三者による確認を義務付けた目的は何か。20字以内で述べよ。 (3) M課長は、作業時間管理の仕組みをどのように修正するように依頼したのか。25字以内で述べよ。 設問4【EVMの実施】について、(1)、(2)に答えよ。 (1) M課長が、ヒアリングを実施して把握した各チームの状況において、第1週におけるプロジェクト全体のSPI、CPIが悪化している原因となっているチームはどれか。SPI、CPIごとにそれぞれチーム名を全て答えよ。 (2) M課長が、今後のチーム運営について出した個別の指示とは何か。帳票チーム、DBチームごとにそれぞれ25字以内で述べよ。
図1 レベル1のWBS。販売管理システム開発プロジェクトを頂点に、空欄a、要件定義、設計、製造、テスト、移行を並べたレベル1のWBS
図1 レベル1のWBS。販売管理システム開発プロジェクトを頂点に、空欄a、要件定義、設計、製造、テスト、移行を並べたレベル1のWBS
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判断に用いる情報の前提を確認する

進捗やコストについて考えるときは、判断に使う情報の前提がそろっているかに着目しましょう。情報の意味をすぐに決めつけず、何を対象に、どの条件で扱う情報なのかを整理することから始めます。

この問題で問われていること

今回の検討では、情報がどのような前提に基づいているかという一点に集中しましょう。用語の印象だけで判断せず、示された条件を手掛かりに、それぞれの情報を同じ前提で扱ってよいかを確認してみてください。

視点

情報を判断に用いる前に、その情報が成り立つ前提を確かめることが大切です。前提が明示されている部分と、自分で補っている部分を分けて整理すると、条件の読み違いに気付きやすくなります。

確認ポイント

  • 判断に用いる情報の前提を確認したか
  • 示された前提と自分の推測を区別したか
  • 判断の途中で前提を置き換えていないか
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解説

本問は、EVMによる客観的な進捗管理を成立させるためのWBS、週次測定に適したタスク分割、完了確認、実コスト集計を問う問題です。SPIとCPIの悪化を各チームの状況から説明し、納期とコストを管理する具体的な指示につなげることが要点です。

問題の全体像

L社は販売管理システムを1年間で再構築し、翌年4月1日の稼働開始を目指しています。過去には主観的な進捗率による管理と利用部門の参加不足があり、納期遅延やテスト段階での仕様変更が繰り返されていました。M課長はEVMとプロトタイピングを導入し、WBS、完了判定、作業時間集計を整備します。公式の出題趣旨では、EVMの基本知識に加え、その前提となるWBSの作り方や実績集計の必要要件を理解し、管理方針を実行できる形で適用する実務能力を問うとされています。後半では、数値の悪化と現場の状況を結び付け、適切な対応策を判断することが求められます。

設問1(1)

経営層の指示のうち、「完了予定日が目標とする稼働開始日に対して遅れていないことを常に確認する」に着目します。EVMで計画と実績を継続的に比較することで、進捗の遅れを早く把握し、完了予定日の見通しを確認できます。公式解答例では「完了予定日を明確に把握して進められるから」または「早い段階で進捗の遅れを把握できるから」が示されています。30字以内では、例えば「早い段階で進捗の遅れを把握できるから」とまとめます。単に客観的な管理ができると述べるだけでなく、経営層が求める納期の確認につなげることが要点です。

設問1(2)

利用部門の参加意識が低く、成果物の確認が確実に行われず、テスト段階で仕様変更が多発していたことが根拠です。プロトタイプを使えば、利用部門が具体的な動作や画面を確認しながら要望を伝えられ、早い段階でニーズを的確に把握できます。また、要件定義から関わってもらうことは、プロジェクトへの参加意識を高めることにもつながります。公式解答例はこの二つの目的を示しています。25字以内では「利用部門のニーズを早く的確に把握するため」など、いずれかの要点を明確に表します。仕様変更の多発は問題の背景であり、答案では早期参加によって実現する目的を書くことが大切です。

設問2(1)

EVMのためにWBSを活用する理由なので、作業を「漏れなく、重複なく」洗い出せるという一般的な特徴から、EVMでの使い方まで踏み込みます。本文では、最下位の成果物をWPに設定し、WPごとにタスクを洗い出して予算とスケジュールを定めています。これにより、共通の管理単位でコストとスケジュールを設定し、計画や予想と実績を比較できます。公式解答例では、WBSまたはWP単位でのコスト・スケジュールの設定、実績と予想の比較が示されています。30字以内の表現例は「WP単位でコストとスケジュールを設定できるから」です。採点講評でも、WBSの一般的な特徴だけを答えるのではなく、WPごとの計画設定と実績との対比がEVMの前提であることを理解するよう求めています。

設問2(2)

空欄aは、直接的な開発作業ではないものの、プロジェクトを成功させるために必要となる「一連の業務」を表します。図1では、要件定義、設計、製造、テスト、移行と並ぶレベル1の項目です。この位置には、プロジェクトを管理する業務全体を表す名称が入ります。公式解答例では「プロジェクト管理」または「プロジェクトマネジメント」が示されています。採点講評では「進捗管理」という個別の管理項目を答えた例に触れ、プロジェクト管理に関する全ての作業をWBSに含めることが重要だと説明しています。

設問3(1)

「計画と実績の対比を週次で行う」と「EVは途中計上せず、タスクの完了時に全て計上する」を結び付けます。タスクが長期間に及ぶと、作業が進んでいても完了までEVが計上されず、週次の進捗を捉えにくくなります。所要期間を1週間以内に細分化すれば、タスクが完了したかどうかを使って週次の進捗を把握できます。公式解答例もこの点を理由としています。30字以内では「タスクの完了有無で週次の進捗を把握できるから」とまとめられます。測定周期とEVの計上方法に合うタスクの大きさを設定することが要点です。

設問3(2)

従来の進捗管理が、開発担当者自身の見積もった進捗率に依存していた点に着目します。本問では完了したタスクにだけEVを計上するため、完了の判断が曖昧だとEVMでも進捗を客観的に把握できません。明確な判定基準と第三者による確認を設けることで、担当者の主観に依存しない完了判定を確実に行います。公式解答例は「客観的な進捗管理を確実に行うため」で、20字以内に収まります。成果物の品質確認という面だけでなく、EVの計上根拠を客観的にするという目的を押さえます。

設問3(3)

現行システムは工程単位でしか作業時間を管理できない一方、PVはWPごとのタスクに予算とスケジュールを設定して定めています。開発コストは社員の人件費なので、対応するACを把握するには、作業時間も計画と比較できる単位で記録・集計する必要があります。公式解答例では、工程別の管理からタスク、WBSまたはWP単位の管理に変更すると示されています。25字以内では「工程別からタスク単位の作業時間管理に変更する」とまとめられます。既に日次で集計しているため、ここで修正すべき中心は集計頻度ではなく管理単位です。

設問4(1)

SPIはEV÷PV、CPIはEV÷ACなので、各チームについてEVの不足とACの発生を分けて考えます。帳票チームの対象WPは要員が着任できず着手が遅れ、第1週に予定したタスクのEVが計上されません。このためSPIを悪化させますが、着手していない対象作業のACも発生していないため、CPI悪化の原因にはなりません。DBチームは設計作業を進めてACが発生していますが、第三者の確認が終わらずタスクが未完了なのでEVを計上できず、SPIとCPIの両方を悪化させます。内部処理チームは予定どおり完了しており、原因ではありません。公式解答例では、SPIは「帳票チーム、DBチーム」、CPIは「DBチーム」です。設計作業が終わっていることと、EVを計上できる完了状態であることを区別するのが要点です。

設問4(2)

帳票チームには「作業時間管理の観点」から指示します。同じ単価のサポート要員を追加しても、WPを予定どおり完了し、総時間を予定範囲内に収めれば、完了時のコストは予算範囲内に収まります。公式解答例の指示は「総時間が予定範囲を超えないようにする。」です。採点講評でも、要員管理や着任時期の管理を答えるのではなく、総時間が予定範囲内に収まることを押さえるよう説明しています。DBチームには「タスク進捗面の対応策の観点」から、確認待ちによる遅れが後続作業や他チームに与える影響を調べ、回復計画を立てるよう指示します。公式解答例は「遅れの影響を調査しリカバリプランを策定する。」です。各25字以内では、この二つの指示をチーム別に記述します。

学習のポイント

WBSとEVMの関係、完了時にEVを計上する方式、SPIとCPIの違いを理解し、本文の事実から原因と対応策を導く練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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