PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成24年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 プロジェクトの立て直しに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 R社は,中堅のSI企業である。先ごろ,中堅の製造業のH社から,経営管理システムの開発を受注した。R社社長が友人であるH社社長からシステム化の相談を受けたのがきっかけであった。 プロジェクトの開始に当たって,R社社長は,若手のS氏をプロジェクトマネージャ(PM)に任命し,社内から優秀なメンバを集めてプロジェクトを進めることにした。要件定義,外部設計及び総合テストは委任契約,内部設計から結合テストまでは請負契約を締結することになっている。来年1月から開始するプロジェクトのスケジュールを図1に示す。 図1 スケジュール 要件定義及び外部設計終了の際には,両社社長及びH社の各部門の責任者を交えたステアリングコミッティを開催して,要求事項が反映されているかどうかの確認と,次工程以降の開発計画の承認,契約内容について見直しが必要かどうかの協議を行うことになっている。稼働開始時期については,当初はH社社長から「来年1月にプロジェクトを開始し,1年後の再来年の1月に稼働開始したい」という要求が寄せられたが,外部設計が完了した段階で協議することで合意されていた。その後,プロジェクトの開始に当たって,R社社長がH社社長を訪問したときに,R社社長がS氏の反対を抑える形で,「プロジェクト開始から1年後の稼働開始を目指す」ことを口頭ではあるが約束している。 プロジェクトは1月に予定どおり開始され,要件定義の作業は,H社社長の要求を確認している段階では順調に進んでいた。しかし,各部門の要求を洗い出す段階になると要求が収束せず,S氏の手に余る状況となり,ついに着手から1か月半を経過した時点で,S氏が体調不良を訴え,PMを交代することとなった。R社は,事態を打開するために,ベテランのT氏を新たなPMとして選任し,プロジェクトの立て直しを図ることにした。 〔プロジェクトの状況把握〕 T氏は,プロジェクトの状況を把握するために,これまでの議事録や中間成果物の確認を行い,その結果を,次のように整理した。 (1) H社のシステム化の状況と経営管理システムの範囲 ・H社には会計用ソフトウェアパッケージなど幾つかのシステムは導入されているものの,システム間の連携はとられていない。そのため,各部門の業務担当者は,月初にPCで前月分のデータを集計し,業務管理レポートとして取りまとめ,経営管理部に報告すると同時に,部門運営の資料として活用している。 ・経営管理部のI部長は,業務管理レポートの中から必要な数値を取りまとめて経営管理レポートとしてH社社長に報告している。経営管理レポートを最終的にH社社長が見るのは翌月の後半になっている。 ・H社の経営管理システムは,全社の運営のための経営管理レポートと,部門運営のための業務管理レポートを対象とする。 (2) 経営管理レポートの要件定義の状況 ・H社社長は,厳しい経営環境の中で,自社の経営状況を1日でも早く把握したいと考えており,I部長に対して,「経営管理システム稼働後は,経営管理レポートを翌月5営業日以内に提出するように」という指示を出している。 ・H社社長の要求する経営管理レポートのデータ項目の洗い出しは完了し,H社社長の承認も得ている。また,各データ項目がどのシステムから提供されているかについての調査も完了し,既存システムとの連携によって必要なデータを集計するデータフローの定義も完了している。 (3) 業務管理レポートの要件定義の状況 ・各部門の業務管理レポートは,経営管理部へ報告されると同時に,各部門の運営のための資料となっている。そのため,業務管理レポートは,各部門独自の管理項目を含んでおり,集計方法や表示形式も,各部門の業務担当者ごとに異なる。システム化の要求内容も確認するたびに範囲が拡大している。 T氏は,このプロジェクトには目標が決まっている範囲と,決まっていない範囲があると感じた。また,目標が決まっている範囲の作業については,現在の工程の作業として,適切に進められてきたと評価する一方,目標が決まっていない範囲については,状況を改善するために,早急に対策を講じる必要性を感じた。 〔関係者へのヒアリング〕 T氏は,先に把握したプロジェクトの状況を踏まえて,各関係者にヒアリングを行い,次のように整理した。 ・H社社長:経営状況の早期把握が,プロジェクト開始から1年後に実現することに最大の関心をもっている。 ・I部長:「経営管理システム稼働後は,経営管理レポートを翌月5営業日以内に提出するように」というH社社長の指示の達成を最優先に考えている。 ・各部門の業務担当者:経営管理部から「経営管理システムに対する要求を出すように」との依頼を受けて,関係する各部門の業務担当者が依頼に対応している。H社の業務管理レポートの項目は,経営管理部で必要とする項目以外は,各部門の業務担当者の判断に任されているので,様々な要求が出ている。 ・R社チームメンバ:社長同士の付き合いに気を使うあまり,H社の業務担当者の要求に全て対応している。 T氏はこの分析から,経営管理システムの要件が収束しない原因を理解した。T氏は,プロジェクト管理の観点から,実装範囲の優先順位を明確にしたプロジェクト運営方針を策定し,プロジェクトを進める必要があると考えた。そのため,R社社長とも事前に相談した上で,H社社長に対して,今後のプロジェクトの運営方針の骨子を次のとおり説明し,プロジェクトの関係者全員に徹底してもらうように依頼した。 ・開発のチーム体制を,経営管理レポートを担当するチームと,業務管理レポートを担当するチームに分ける。 ・経営管理レポートはH社社長の要求どおり,プロジェクト開始から1年後の翌年1月の稼働開始を目指す。 ・業務管理レポートについては,要件が定義できた時点で改めて開発計画を策定することにして,当面は,要求事項の取りまとめを優先して進める。 ・業務管理レポートを担当するチームは,業務担当者の要求を聞く際には,必ず要求の実現による業務上の効果と,優先順位を確認し,要求と併せて記録する。 H社社長は状況を理解し,運営方針の骨子を了承するとともに,臨時のステアリングコミッティを開催し,プロジェクトの関係者全員を招集して説明を行うことにした。 〔ステアリングコミッティ〕 ステアリングコミッティにおいて,T氏は,「プロジェクト開始から1年後に稼働開始するというH社社長の要求を実現するのであれば,この運営方針で進める必要がある。」と前置きした上で,先に両社社長に説明して了承を得た運営方針を提案した。さらに,その前提として,業務担当者の要求を取りまとめるために,H社に対して,体制面である対策をとるよう提案した。また,T氏は,業務管理レポートについては,要件が定義できた時点で改めて開発費用や期間を見積もって開発を進めることを提案した。T氏は,この運営方針で進めることが,H社社長の要求を満たし,H社業務担当者の要求を効果的に実現するための最善の方法であることを説明した。T氏の提案は,両社社長及び各部門の責任者の同意を得て,ステアリングコミッティの決定事項として承認された。 設問1 〔プロジェクトの状況把握〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) T氏が感じた,このプロジェクトで目標が決まっている範囲の,目標とは何を指すか。30字以内で述べよ。 (2) T氏が「目標が決まっている範囲の作業については,現在の工程の作業として,適切に進められてきた」と評価した作業とは何か。30字以内で述べよ。 (3) T氏が,早急に対策を講じる必要性を感じた,目標が決まっていない範囲の改善すべき状況とは,具体的にどのような状況のことか。30字以内で述べよ。 設問2 〔関係者へのヒアリング〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1) T氏が分析結果から理解した,経営管理システムの要件が収束しない原因とは何か。40字以内で述べよ。 (2) T氏が,プロジェクト運営方針についてR社社長と事前に相談した理由とは何か。35字以内で述べよ。 (3) T氏はなぜ,H社社長の要求する経営管理レポートの部分と,業務担当者の要求する業務管理レポートの部分に分けて進めることにしたのか。30字以内で述べよ。 (4) T氏が,業務管理レポートを担当するチームに,業務担当者の要求を聞く際には,業務上の効果と,優先順位を確認させた理由は何か。30字以内で述べよ。 設問3 T氏が,H社社長の要求を実現する運営方針の前提として,H社に提案した体制面の対策とは何か。30字以内で述べよ。
図1 スケジュール。1月から12月までの月別工程表。要件定義、外部設計、内部設計、プログラム製造・単体テスト、結合テスト、総合テストの期間を示す。
図1 スケジュール。1月から12月までの月別工程表。要件定義、外部設計、内部設計、プログラム製造・単体テスト、結合テスト、総合テストの期間を示す。
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要求整理の優先順位を考える視点

立て直しでは、関係者の要望を並べるだけでなく、目的への影響と実行上の制約を同じ軸で見比べ、何を先に検討するかを整理する視点が重要です。個別の表現に左右されない判断を意識しましょう。

この問題で問われていること

要求を評価するときは、誰の意見かや目立つ要望かではなく、プロジェクトの目的・成果・制約との関係を一つの観点から確認し、優先順位の根拠が一貫しているかを考えてください。

視点

要求同士を比較するときは、背景にある目的と、実現に必要な条件を切り分けて捉えます。そのうえで、判断基準が途中で変わっていないかを確認しましょう。

確認ポイント

  • 要求が示す内容と、その背景にある目的を分けて捉えられているか確認する
  • 優先順位を決める際に、影響範囲と実行上の制約を同じ基準で見ているか確認する
  • 一部の意見や表現だけに引きずられず、判断理由を一貫して説明できるか確認する
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解説

本問は、途中で交代したPMがプロジェクトの状況を把握し、確定した要求を優先して納期を守りつつ、未収束の要求を整理する立て直しを問う。

問題の全体像

若手PMの下で、各部門の業務管理レポートの要求が拡大し、要件定義が収束しないプロジェクトにベテランのT氏が新PMとして就任した。経営管理レポートは社長の要求とデータ項目・データフローがほぼ確定している一方、業務管理レポートは部門ごとに項目や形式が異なり、要求範囲が広がり続けている。出題の狙いは、PMが状況を事実に基づいて整理し、納期に直結する範囲を優先し、未確定範囲には別の計画と要求収束策を設ける考え方を問うことです。

設問1(1)

目標が決まっている範囲は、H社社長が明確に指示した経営管理レポートの提出時期に対応する。したがって、翌月5営業日以内に提出することを目標として書く。30字以内なので、対象と期限を簡潔に押さえる。公式解答例でも、この提出期限が示されている。

設問1(2)

経営管理レポートについては、要求されるデータ項目の洗い出しが終わり、H社社長の承認も得られている。問われているのは、この確定範囲で適切に進んだ作業なので、データ項目の洗い出しと社長承認を答える。公式解答例もこの二点を挙げている。

設問1(3)

目標が決まっていない範囲は業務管理レポートであり、各部門の要求を確認するたびにシステム化の範囲が拡大している。改善すべき具体的状況として、要求内容の確認のたびに範囲が拡大していることを書く。単に要求が多いという表現ではなく、収束せず拡大している点が重要です。

設問2(1)

各部門の業務管理レポートの項目が、経営管理部の統一的な判断ではなく、各部門の業務担当者の判断に任されている。そのため部門ごとに要求が増え、全体として収束しない。公式解答例では、この要求項目の決定が各担当者に委ねられている点を原因としている。

設問2(2)

T氏の運営方針は、業務管理レポートの開発計画を後で定めるものであり、R社社長がH社社長に口頭で約束した「開始から1年後の稼働」を一部守れない可能性がある。そのため、方針変更についてR社社長の事前了解を得る必要がある。公式解答例も、1年後稼働の約束が一部守られないことを理由としている。

設問2(3)

経営管理レポートは、社長の要求、データ項目、データフローが確定しており、翌年1月の稼働開始を目指せる。一方、業務管理レポートは要求が未収束です。両者を分けることで、社長要求の経営管理レポートを来年1月までに完成させることを優先できる。

設問2(4)

業務上の効果と優先順位を要求と併せて記録すれば、要求を比較して採否や実施順を判断でき、業務管理レポートの要件を収束させる根拠になる。公式解答例でも、要件収束の根拠とするためと説明されている。

設問3

業務担当者から出される要求を各部門任せにすると、要求が増え続けて収束しない。そこでH社に対し、業務担当者の要求を取りまとめる責任者を決めてもらう体制面の対策を提案する。採点講評でも、単にチームを二つに分けるのではなく、要求を取りまとめる責任者の選任が必要とされている。

学習のポイント

要求の収束、優先順位付け、関係者調整、責任者設定を事例から読み取る力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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