PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成23年度特別 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 基幹システムの再構築に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 M社は、中堅・中小企業向けのERPパッケージ(以下、ERPという)の販売及び導入支援を事業の柱とするSI企業である。M社は、アパレル企業のD社に対して、長期にわたって営業活動をしてきた。今年の3月に、D社は、基幹システムの再構築(以下、再構築という)にM社のERPを採用することを決定し、4月から開始する再構築プロジェクトにおけるERPの導入支援をM社に依頼することにした。 D社からは“まず、2か月をめどに要件を確定させたい。また、来年4月からの運用開始が必須であり、プロジェクトの運営についても積極的に支援してほしい。”という依頼が出された。 D社とM社は、要件定義工程の準委任契約を締結した。要件定義工程では、業務要件の定義とERPの適用範囲の確定を行う。M社は、プロジェクトマネージャに経験の豊富なN氏を任命した。 〔D社へのヒアリング〕 D社の再構築プロジェクトの責任者は情報システム部のE課長である。N氏は、プロジェクトの開始に当たって、E課長にD社の要望と現在の状況を確認し、その結果を次のとおりにまとめた。 ① D社の経営層は、M社のERPの標準機能をベストプラクティスとして評価しており、これを利用することによる業務の効率向上を再構築の目的としている。 ② これまでにD社から聞いている業務要件であれば、業務に対するERPの適合率が高く、標準機能で大部分を実現できそうである。 ③ 追加機能の設計・プログラム製造・テスト(以下、追加開発という)の規模は、M社が定義する中規模開発の範囲に十分に収まると考えられた。 ④ 要件定義作業は、D社の各利用部門が実施する。3月初~5月末は年度決算の時期であり、経理部のメンバは多忙になる。そのほかの利用部門には特に繁忙期はない。 N氏は、プロジェクトの全体スケジュールについてE課長から意見を求められた。現時点では詳細なフィット&ギャップ分析を行っていないので未確定要素があるが、上記の②、③によってM社が定義する中規模開発の標準的な導入スケジュール(以下、標準スケジュールという)が適用できるとN氏は考えた。この標準スケジュールは、全体の期間を1年、パラメタの設定・テストと追加開発からなる開発の期間を6か月と定めており、開発の期間には20%のスケジュールの余裕を含んでいる。M社の ERPの追加開発では、ERPの適合率が一定以上であれば追加開発の規模で開発の期間が決まるが、現時点でのERPの適合率の想定はその条件に当てはまるものであった。 N氏は、標準スケジュールを適用した図1のERP導入スケジュールを、要件定義工程完了後に見直すことを前提に提案した。E課長はこのスケジュールを採用することにした。N氏は、要件定義工程を2か月で完了させるためには、経理部の要件定義作業の進捗を注視していく必要があると考えた。 図1 ERP導入スケジュール 〔要件定義工程の作業分担の調整〕 E課長から、要件定義工程の作業の進め方について相談を受けたN氏は、次の手順で進めることを提案した。 ・D社の各利用部門の要件定義担当者が、M社メンバからERPの標準機能の説明を受けつつ、業務プロセスと業務内容の要件を記述したドキュメントを作成する。 ・このドキュメントをD社とM社の関係者でレビューし、ERPの標準機能と業務要件とのフィット&ギャップ分析を行う。 ・フィットした項目については、業務ごとにERPで使用する機能をドキュメントに追記していく。 ・ギャップ項目については、D社とM社の関係者で業務プロセスの変更、追加開発などの対応策を検討し、その結果をドキュメントに反映させる。追加開発が必要な業務要件については、M社が情報を提供し、画面、帳票、機能などの追加開発の規模を見積もるために必要な情報をドキュメントに記載する。D社の要件定義担当者が、このドキュメントを要件定義書として完成させる。 E課長からは、“利用部門と調整を重ねたが、利用部門は各自の現在の業務との掛け持ちでしか参加できず、要件定義書を完成させることは難しいので、M社で業務内容をヒアリングして完成させてほしい。”という要請を受けた。N氏は、要件定義書をM社の責任で完成させることは、責任分担の面からも現在の契約との整合性の面からも問題があると考え、上司と対応策を検討した。その結果、次の手順で作業することをE課長に提案し、合意を得た。 ・M社メンバがD社の要件定義担当者に、業務プロセスと業務内容をヒアリングする。 ・ヒアリング内容に基づいて、M社メンバがERPの標準機能を使うことを基本に、業務プロセスと業務内容の要件を記述したドキュメントを作成する。 ・このドキュメントをD社の要件定義担当者とレビューし、指摘事項の一覧を作成する。 ・指摘事項は、D社とM社の関係者で協議し、その結果をM社メンバがドキュメントに反映してD社に提示する。特に、ERPの標準機能と業務要件とのギャップ項目については、業務プロセスの変更、追加開発などの対応策を検討し、その結果をドキュメントに反映する。追加開発が必要な業務要件については、画面、帳票、機能などの追加開発の規模を見積もるために必要な情報をドキュメントに記載する。 ・M社が作成したドキュメントを、要件定義書としてD社の責任で期限までに完成させる。 N氏は、M社側の要因で要件定義作業の手戻りが発生し、進捗が遅延することを防止するために、ある原因による指摘事項をモニタリングすることにした。また、開発の期間に影響する数値を早期に見積もるために、作成されたドキュメントに記載された情報を抽出し、集計していくことにした。 〔要件定義作業〕 要件定義工程中盤の4月下旬に差し掛かったころ、販売部の担当する販売管理業務の要件定義作業の進捗に遅れが目立つようになった。N氏は、モニタリングしていた情報から、M社側の要因での遅れではないと判断していた。そこで、販売管理業務の要件定義作業を担当するM社側のリーダに遅れの原因を確認したところ、“指摘事項の中でギャップ項目が多いので検討に時間が掛かっている。”とのことだった。N氏は、ERPの標準機能で業務の大部分は対応可能と考えていたので、E課長にギャップ項目が多いことの理由を確認した。E課長からは“ERPの標準機能で業務は実施可能であるのに、業務プロセスが変わることに抵抗感をもっている担当者が販売部に多く、その説得に時間が掛かっている。”とのことであった。 N氏は、このままでは要件定義作業の完了が遅延するばかりでなく、もし多くのギャップ項目への対応のために追加開発を行うと、中規模開発の範囲に収まらなくなり、全体の期間が1年を超えてしまうことを、E課長に伝えた。これを受けてE課長から“来年4月からの運用開始を実現するために、追加開発の規模を抑えたい。社内での調整が必要なので、販売管理業務については要件定義作業の期限を遅らせて、例えば6月末に変更できないか。”という依頼があった。E課長からの依頼を受けたN氏は、販売管理業務の大部分はERPの標準機能で対応できるので、販売部の担当者の意識を変えてもらえれば、要件定義作業をあと2か月で完了させることは可能であると考えた。また、販売部を除いた残りの部門の業務の要件定義作業は順調に進んでおり、販売管理業務の要件定義作業の完了を6月末に変更しても、ERPの標準機能の利用で追加開発の規模が中規模開発の範囲を超えないのであれば、来年4月の運用開始に向けてスケジュールの調整が可能であると、N氏は考えた。 そこでN氏は、E課長に相談し、次の2点の合意を得て、作業を継続することにした。 ① D社経営層に社内へのある指示を依頼する。 ② 販売管理業務の要件定義作業の完了を6月末に変更する。 設問1 〔D社へのヒアリング〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) N氏が、全体スケジュールの提案に当たって考慮した、詳細なフィット&ギャップ分析を行っていない現時点での未確定要素とは何か。25字以内で述べよ。 (2) N氏は、要件定義工程を2か月で完了させるに当たって、経理部の要件定義作業の進捗を注視していく必要があると考えたのは、どのようなリスク要因があると考えたからか。30字以内で述べよ。 設問2 〔要件定義工程の作業分担の調整〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1) N氏は、要件定義書をM社の責任で完成させることは、責任分担の面及び現在の契約との整合性の面からどのような問題があると考えたか。それぞれ30字以内で述べよ。 (2) N氏は、M社側の要因で進捗が遅延することを防止するために、ある原因による指摘事項をモニタリングすることにした。ある原因とは何か。20字以内で述べよ。 (3) N氏が、作成されたドキュメントに記載された情報を抽出し、集計して、早期に見積もることにした開発の期間に影響する数値とは何か。答えよ。 設問3 〔要件定義作業〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) N氏が、販売管理業務の要件定義作業の完了を6月末に変更しても来年4月からの運用開始に向けてスケジュールの調整が可能であると考えた理由は何か。35字以内で述べよ。 (2) N氏がE課長と合意した、D社経営層に依頼する社内へのある指示とは何か。35字以内で述べよ。
図1 ERP導入スケジュール。4月から翌年4月までのERP導入工程を示すスケジュール図。要件定義、開発、総合テスト、運用テスト、移行、教育などの時期と、スケジュール見直しを示す。
図1 ERP導入スケジュール。4月から翌年4月までのERP導入工程を示すスケジュール図。要件定義、開発、総合テスト、運用テスト、移行、教育などの時期と、スケジュール見直しを示す。
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判断に用いる前提をそろえる

要件や計画について考えるときは、判断の前提が途中で変わっていないかに注目しましょう。誰かの役割や管理方法を決めつけず、与えられた条件と自分の想定を分けて整理することが、検討の出発点になります。

この問題で問われていること

責任や進め方を検討する際も、まず、その判断がどの条件を前提にしているかを確かめましょう。明示された条件と、経験や印象から補った条件が混ざっていないかを確認し、同じ前提を保ったまま考えることに集中してください。

視点

判断の前提とは、考える土台として置いている条件のことです。与えられた条件と、自分が補った想定を区別すると、何を根拠に考えているかを整理できます。ここでは、検討を通じてその前提が一貫しているかに注目しましょう。

確認ポイント

  • 与えられた条件を判断の前提として捉えていますか。
  • 明示されていない条件を無意識に補っていませんか。
  • 検討の途中で前提を変えていませんか。
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解説

ERP導入の要件定義を題材に、標準機能との適合状況、顧客と支援企業の責任分担、担当者の参加や理解に関するリスクを捉え、開発期間の余裕と経営層の働き掛けによってプロジェクトを調整する問題です。

問題の全体像

D社は、ERPの標準機能を利用して業務の効率を高めるために基幹システムを再構築します。要件確定は2か月、運用開始は来年4月という制約があり、導入支援を行うM社とは要件定義工程の準委任契約を結んでいます。利用部門の参加時間不足や販売部の業務変更への抵抗が生じる中で、N氏が責任分担と作業方法、スケジュールを調整する事例です。公式の出題趣旨では、ステークホルダの能力や特性を踏まえた計画立案と利害調整、問題発生時の対応を通じて、PMの実践的な能力を問うとされています。

設問1(1)

着目するのは、標準機能で業務の大部分を実現できそうだという見込みがある一方、詳細なフィット&ギャップ分析は未実施という記述です。標準機能でどこまで対応でき、どこに差があるかは、まだ確定していません。その結果によって追加開発の規模やスケジュールの前提が変わります。公式解答例では「ERPの標準機能で対応できる業務要件の範囲」又は「ERPの標準機能と業務要件とのギャップ」が示されています。25字以内では、例えば後者のように、標準機能と業務要件の対応関係を端的に表します。

設問1(2)

要件定義を行う4月・5月は、経理部の年度決算の繁忙期と重なります。要件定義は各利用部門が実施するため、経理部のメンバが通常業務に追われ、要件定義作業に参加できなくなることが遅延につながる要因です。公式解答例でも、この参加困難を挙げています。採点講評では、リスク要因を問う設問に対して、リスクそのものを述べた解答が目立ったと指摘されています。30字以内では「経理部のメンバが要件定義作業に参加できなくなること」とし、結果である工程の遅延だけを答えないようにします。

設問2(1)(責任分担)

本文では、業務要件を定義する主体はD社の各利用部門です。M社はERPの説明や文書作成を支援できますが、D社がどのような業務を行うかを決める責任まで引き受けることはできません。公式解答例では、D社が決めるべき業務要件をM社で決めることはできないとしています。変更後の手順でも、M社が文書を作成し、D社の責任で要件定義書として完成させています。30字以内では「D社が決めるべき業務要件をM社では決められない」とまとめ、作成担当と決定責任を区別します。

設問2(1)(契約との整合性)

着目するのは、要件定義工程について準委任契約を締結している点です。この契約でM社が要件定義作業を支援することと、成果物である要件定義書の完成責任を負うことは区別する必要があります。公式解答例では、準委任契約では成果物の完成責任を負うことは適切でないとしています。30字以内では「準委任契約で成果物の完成責任を負うのは適切でない」とまとめます。M社が文書を作成すること自体ではなく、完成責任まで負うことが現在の契約と整合しない点を示します。

設問2(2)

M社がヒアリング内容を基に文書を作成し、D社とのレビューで指摘を受ける手順に着目します。M社が業務要件を十分に理解していなかったり、誤って理解していたりすると、文書の修正が必要となり、手戻りが発生します。公式解答例では「業務要件に関する理解不足」「業務要件に関する理解の誤り」「業務に関するスキル不足」が示されています。20字以内では、これらのようにM社側の能力や理解に関する原因を表します。採点講評では「ERPの標準機能と業務要件とのギャップ」という一般的な問題を答えた誤答が指摘されており、「M社側の要因」という限定を捉えることが重要です。

設問2(3)

本文には、ERPの適合率が一定以上なら、追加開発の規模によって開発期間が決まるとあります。また、文書には追加開発が必要な画面、帳票、機能などの見積りに必要な情報を記載します。その情報を抽出・集計することで、追加開発の規模を早期に把握できます。標準機能で対応できる範囲を整理することは、ERPの適合率の把握にもつながります。公式解答例では「追加開発の規模」「ERPの適合率」が示されています。答えるべきなのは、これらの開発期間を左右する数値であり、集計元となる画面や帳票の名前だけではありません。

設問3(1)

標準スケジュールの開発期間には、20%のスケジュールの余裕が含まれています。ほかの部門の要件定義は順調であり、販売管理業務も標準機能を利用して追加開発を中規模開発の範囲に抑えられることが、調整を考える前提です。その上で、遅れに対応できる根拠となるのが開発期間の余裕です。公式解答例では「開発の期間に20%のスケジュールの余裕を含んでいるから」としています。35字以内では、この余裕を明示します。追加開発が中規模に収まるという条件だけでなく、日程を調整できる具体的な根拠を答えます。

設問3(2)

販売部の遅れは、標準機能で業務を実施できないためではなく、担当者が業務プロセスの変更に抵抗しているためです。一方、経営層は標準機能の利用による業務の効率向上を再構築の目的としています。そこで経営層から、その目的に沿って標準機能を利用するよう社内に指示してもらい、担当者の意識を変える必要があります。公式解答例では、再構築の目的を理解した推進、標準機能の利用を前提とした要件定義、標準機能の活用による効率向上が示されています。35字以内では「ERPの標準機能を極力利用し、業務の効率向上を実現すること」とまとめられます。採点講評でも、目的の達成を妨げる行動に対し、経営層などの上位者を通じて積極的な協力を促す必要性が述べられています。

学習のポイント

リスク要因とその結果、文書作成支援と完成責任、技術的なギャップと業務変更への抵抗を区別し、設問の条件に沿って答える力を養いましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成23年度特別 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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