PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成22年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 会計業務において EUC から Web アプリケーションシステムへ移行するプロジェクトに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 〔業務監査室の指摘〕 J社は,製造業であり,株式を上場している。昨年,内部統制への対応を実施した際,業務監査室から,エンドユーザコンピューティングで実施する業務(以下,EUC 業務という)のリスクについて指摘を受けた。EUC 業務とは,会計システムからデータを抽出し,表計算ソフトを使って分析したり,加工した結果を用いて報告書を作成したり,会計システムへ入力したりする業務のことである。指摘の内容は,“EUC 業務で使用するプログラムには,だれでもアクセスできるので,承認を得ない変更が行われたり,改ざんが行われたりするような,財務諸表に影響を与えるリスクが存在しており,改善する必要がある”とのことであった。この指摘を受け,J社の会計部門である経理部のすべてのEUC 業務を洗い出し,財務諸表に与える影響度を“大”“中”“小”に分類した。影響度の“大”のものは,緊急に改善が必要とされ,特定の業務担当者しかアクセスできない専用のファイルサーバで運用するなどの対応を実施した。しかし,業務監査室からは,この対応を実施した後も業務担当者がマクロや計算式を直接修正しており,リスクがまだ完全には解消されていないとの指摘を受けた。そこで,業務監査室長,経理部長と情報システム部長の三者で検討した結果,EUC 業務のリスク対策として,EUC から Web アプリケーションシステムへ移行するプロジェクトを立ち上げることになった。プロジェクトマネージャ(PM)には情報システム部のS氏が任命された。また,経営会議で,“既に今年度に入ってから3か月が経過しており,早急にプロジェクトを進めて今年度中に移行を完了し,来年度の業務処理は Web アプリケーションで行うように”との指示が出された。 〔状況把握〕 S氏は,各部へのヒアリングを行い,次のような状況を把握した。 ・経理部長からは,“内部統制への対応の際に,承認の履歴を残すために業務プロセスの多くの部分に文書による承認業務を入れた結果,業務効率が低下した。EUC から Web アプリケーションシステムへ移行するプロジェクトにおいて,業務効率の向上も併せて実現するために,EUC 業務のすべてをワークフロー機能を備えた Web アプリケーションシステムへ移行したい”との要求が出ている。 ・情報システム部長の見解としては,“昨年実施した EUC 業務の分類を基に情報システム部で検討した結果では,EUC 業務は幅が広く,作成している報告書の数も多いことから,EUC 業務のすべてを今年度中に移行することは難しい”という判断であった。 ・情報システム部長は経理部長に対し,“財務諸表に与える影響度から優先順位を決めて,必要なものだけを今年度中に移行したい”と申し入れたが,経理部長からは,“業務効率も重要であり,すべてを今年度中に移行してほしい”と重ねて要求されている。 S氏は,現在の状況から判断して,次の対策が必要であると考えた。 ① プロジェクトの目的と目標を明確に定めたプロジェクト憲章を経営会議で決定してもらった上で,キックオフミーティングを早急に実施し,ステークホルダ全員に対して周知徹底する。 ② 経営会議の配下に,図に示す管理部門を所管している担当役員を委員長とした委員会を設置し,開発工程の区切りの時期と部門間の調整が必要となった場合に,委員会を開催する。 S氏は,情報システム部長を通してこれらを経営会議に諮り,承認を得た。 図 移行に向けた体制 〔プロジェクト計画の策定〕 キックオフミーティングの実施を受けて,S氏は,プロジェクト計画を策定することにした。今年度末までの残り時間が少なくなっていることから,早急にプロジェクトのスコープを確定する必要があると考え,業務監査室長,経理部長と協議を行った。両者に対し,現在の状況を説明して対象範囲の絞込みを打診したところ,業務監査室長からは,業務担当者への教育を徹底し,かつ,ある範囲のEUC 業務をすべて含めるようにとの条件付で,また,経理部長からは,対象範囲から除外する部分については,来年度に別プロジェクトとして実施するようにとの条件付で,それぞれの了承を得られた。その結果を受け,昨年実施したEUC 業務の分類を基にして,財務諸表に与える影響度の大きさと,それぞれの EUC 業務の移行に必要な[a]を考慮した上で,今年度中に開発可能な範囲に絞り込んだプロジェクト計画を策定し,委員会の開催を依頼した。委員会において,S氏の提案したプロジェクト計画が承認された。 〔利用者レビュー〕 プロジェクト計画の承認を受けて,S氏は,情報システム部のメンバとともに,経理部の要件のヒアリングを開始した。経理部のT課長をはじめとした業務担当者は,経理部のIT 化を進めてきたのは自分たちであるとの自負が強く,EUCから Web アプリケーションへ移行することに抵抗感をもっていた。それでもT課長自身は,内部統制対応の重要性は認識しており,業務担当者の説得に努めてくれたが,業務担当者は“業務内容を会計知識のない人間に説明しても分からないし,従来のやり方を変えたら業務の正確性も保証できない”の一点張りであり,協力を得るのは難しかった。S氏は,T課長の協力によって,EUC プログラムのソースコードを分析し,要件を把握して,外部設計書の作成までを完了した。 その後,外部設計書の利用者レビューにおいて,業務担当者からは,些細な変更点についても受け入れられないとの意見が出された。情報システム部のメンバからは,“今年度末までにプロジェクトを完了するためには,期間はぎりぎりになっている。外部設計書の作成が完了したものについては,利用者レビューの結果を待たずに次の工程に入りたい”との意見が出ている。S氏は,たとえスケジュールが最優先のプロジェクトであっても,業務担当者の姿勢を考慮すると,利用者レビューの結果を待たずに進めるのにはリスクがあることを説明し,利用者側の合意を得てから次の工程に進むように指示を出した。S氏は,このままでは外部設計工程を完了できないと判断し,外部設計書承認の最終期限を,委員会の場においてトップダウンで確定してもらう必要があると考えた。 〔委員会開催〕 S氏は,委員会の開催を要請した。委員会において,業務監査室長から EUC 業務のリスク対策の重要性を改めて説明してもらい,管理部門担当役員から,プロジェクト完了に向けて各部が一致協力して対応するようにとの指示を出してもらった。その上で協議を行った結果,委員会開催の目的であった[b]を確定してもらうことについては,経理部長の同意を得ることができた。ただし,外部設計工程を完了した段階で,スケジュールの見直しを行い,余裕があれば,計画段階で対象範囲から除外したEUC 業務のうち,業務効率向上に効果の大きいものについては,制約の許す限り移行範囲に組み込んでほしいとの要望が出された。S氏は,追加要求については,委員会の中で変更管理プロセスを設けて,[c]と追加開発に必要となる工数のバランスを考慮して,対応の可否を決定することを提案し,了承を得た。 設問1 〔業務監査室の指摘〕について,業務担当者がマクロや計算式を直接修正しているために,解消されないリスクとは何か。30字以内で述べよ。 設問2 〔状況把握〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) S氏が,①,②の対策が必要であると考える根拠となった,現在の状況とは何か。25字以内で述べよ。 (2) S氏が,役員が加わった委員会を設置した目的は何か。30字以内で述べよ。 (3) S氏が,キックオフミーティングを早急に実施し,ステークホルダ全員に徹底したプロジェクトの目標とは何か。20字以内で述べよ。 設問3 〔プロジェクト計画の策定〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 業務監査室長から移行対象に含めるようにと条件の付いた,ある範囲のEUC 業務とは何か答えよ。 (2) 本文中の[a]に入れる適切な字句を答えよ。 設問4 〔利用者レビュー〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) S氏が考慮した,業務担当者の姿勢とは何か。30字以内で述べよ。 (2) S氏が,レビュー結果を待たずに次の工程を先行することで想定したリスクは何か。30字以内で述べよ。 設問5 〔委員会開催〕について,(1),(2)に答えよ。 (1) 本文中の[b]に入れる適切な字句を,20字以内で答えよ。 (2) 本文中の[c]に入れる適切な字句を答えよ。
図 移行に向けた体制。委員会(管理部門担当役員・業務監査室長・経理部長・情報システム部長)の下に,利用者側(主担当:T課長・業務担当者)とプロジェクト(PM:S氏・情報システム部メンバ)が連なる体制図。
図 移行に向けた体制。委員会(管理部門担当役員・業務監査室長・経理部長・情報システム部長)の下に,利用者側(主担当:T課長・業務担当者)とプロジェクト(PM:S氏・情報システム部メンバ)が連なる体制図。
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移行計画を読む一つの視点

内部統制に関わる移行計画を検討するときは、作業の順序だけでなく、変更による影響を誰が把握し、どの時点で確認し、問題発生時にどう連携するかという管理のつながりに注目します。

この問題で問われていること

ここでは、関係者間の役割分担と情報共有が、移行の各段階で途切れずに機能するかを確認する視点に絞ります。担当、承認、記録、報告の関係を問題文に沿って丁寧に整理してください。

視点

移行に伴う統制上の論点は、個別の作業内容だけでなく、関係者が同じ前提で状況を把握し、判断や対応の責任が適切につながる設計になっているかという観点から整理します。

確認ポイント

  • 関係者ごとの担当範囲と、判断・承認を担う立場が区別されているか。
  • 移行の進み具合や変更点を共有する時点と方法が、関係者間で一貫しているか。
  • 想定外の事象が起きた場合に、記録・報告・対応判断の流れを追える状態か。
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解説

EUCの統制上のリスクを解消するため、Webアプリケーションへ移行するプロジェクトです。短い納期、広い移行対象、業務効率向上要求、利用者の抵抗がある中、PMが目的を明確にし、優先順位と合意形成を進める点が中心となる。

問題の全体像

J社では、EUCのマクロや計算式が担当者によって直接変更され、承認なしの変更や改ざんが財務諸表へ影響するリスクが残っていた。そこでEUCをWebアプリケーションへ移行するが、今年度中の完了、全業務の移行、業務効率向上という要求が対立している。本文は、PMが経営層の支援体制を整え、影響度・開発期間・工数を踏まえて範囲を決め、利用者合意と変更管理を進める過程を問うている。

設問1

着目するのは、専用ファイルサーバに移した後も、業務担当者がマクロや計算式を直接修正している点です。アクセス制限だけではプログラム内容の変更を統制できないため、承認なしの変更や改ざんが行われるリスクが残る。公式解答例も、この二つの要素を示している。30字以内なので、行為と主体を簡潔に書く。

設問2(1)

①のプロジェクト憲章とキックオフ、②の委員会が必要になった背景に着目する。情報システム部は全件移行が難しいと考える一方、経理部は業務効率向上のため全件移行を要求しており、部門間で目的意識が一致していない。公式解答例では、情報システム部と経理部の意識、または各部の目的意識が合っていないことを挙げている。

設問2(2)

委員会の構成に管理部門担当役員を加え、経営会議の配下に置いた点に着目する。単なる情報共有ではなく、部門間の調整が必要な場面で判断・指示を行い、役員の支援を得てプロジェクトを進めるためです。公式解答例も、調整権限をもつ機関とすること、役員の支援を受けることを要点としている。

設問2(3)

経営会議の指示は、今年度中に移行を完了し、来年度からWebアプリケーションで業務処理を行うことです。20字以内では、プロジェクトの期限に対応する「今年度中に移行を完了すること」とまとめればよい。

設問3(1)

業務監査室長の条件は、業務担当者への教育を徹底し、ある範囲のEUC業務をすべて含めることです。昨年の分類では財務諸表への影響度が「大」のものを緊急改善対象としていたため、該当する範囲は影響度の「大」のEUC業務です。

設問3(2)

本文では、影響度だけでなく、それぞれのEUC業務の移行に必要な[a]を考慮して、今年度中に開発可能な範囲へ絞り込んでいる。限られた残期間で実現可能性を判断する要素なので、公式解答例の「開発期間」または「開発工数」が入る。

設問4(1)

業務担当者は、従来のやり方を変えると正確性を保証できないと主張し、細かな変更も受け入れなかった。したがって、S氏が考慮した姿勢は、従来の業務手順を変えたくないという姿勢です。抵抗の背景には、会計業務への自負とWeb化への不安がある。

設問4(2)

利用者レビューを待たずに次工程へ進むと、後から利用者が設計を承認せず、修正や再作業が発生する可能性がある。その結果、手戻りによってスケジュールが遅れる。30字以内では、利用者承認を得られず手戻りになる点、または手戻りによる遅延を押さえる。

設問5(1)

委員会では、利用者側の合意を得て次工程へ進むため、外部設計工程を完了する期限をトップダウンで定める必要がある。したがって[b]は「外部設計書承認の最終期限」です。単なるレビュー期限ではなく、承認を完了させる最終期限である点が重要です。

設問5(2)

追加要求を採用するかどうかは、業務効率向上への効果と、追加開発に必要な工数を比較して判断する。したがって[c]は「業務効率向上による効果」です。ここでは、変更管理プロセスでスコープ拡大の価値と負担を調整する観点が問われている。

学習のポイント

目的を軸に、スコープ・スケジュール・品質・利害調整を結び付けて考える。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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