PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成21年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 外部委託先の選定に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 金融機関のT社の事務センタでは,各支店から送られてくる伝票類の内容確認などの事務処理を行っている。利用しているシステムは,稼働後約10年が経過し,使い勝手はあまり良くない。また,これまでは取扱件数が少なかったのでシステム対応は行わずに人手で対応している事務処理が随所にあり,昨今の取扱件数の急増に伴って,顧客あて帳票類の発送期日が遅れるなどの問題が起きるリスクが懸念されている。 T社は,正確で効率よく事務を遂行できるように,事務センタの事務処理を見直し,システムを再構築するプロジェクトを4月に立ち上げた。大幅な事務処理の見直しを伴うので,システム利用部門である業務部と緊密に連携をとれる体制・手順を確立しておかないと,プロジェクトを円滑に進められなくなるおそれがある。3年後の全面稼働を目標としているが,再構築による効果ができるだけ早くに得られることが望まれた。そこで,システムの基幹部分のうち,独立性の高い一部の機能を選び,第一期システムとして,最初の1年間で先行して開発することにした。 〔要求仕様書の作成〕 プロジェクトマネージャ(PM)に任命されたシステム部のU課長は,第一期システムの外部設計から結合テストまでの開発を請負契約で外部に委託するために,要求仕様書の作成に着手した。来年の3月末までに第一期システムの開発を終えるには,約2か月間で要求仕様を決め,提案依頼を行った上で委託先を決定しなければならない。しかし,要求仕様の検討に欠かせない業務部のメンバが多忙なので,事務処理の見直し内容や使い勝手の改善内容について,業務部とのすり合わせが十分に行える状況ではなかった。 ①U課長は,このような妥当性確認の面での問題を抱えたまま作成する要求仕様書に基づいて開発作業を外部に委託した場合,業務部が参加して行う総合テストで問題が発生するリスクが高いと考えた。U課長は,稼働開始に多少の遅れがあっても,第一期システムの開発を着実に実施することが,結果的には3年後の全面稼働を確実なものにすると考え,要求仕様書の作成期間を約1か月間延長した上で,次に示す対応を行うことにした。また,業務部のメンバがこの対応に十分に加われるように,業務部の部長とシステム部の部長を交えて調整を行った。 ・【a】の流れ及び業務部内での役割分担を明確にするために,要求仕様書の一部として作成するフロー図について,業務部のメンバと十分にレビューを行う。 ・外部設計でプロトタイピングを実施することを要求仕様書に追加し,業務部のメンバが画面や帳票などをプロトタイプを用いて【b】によって仕様を固め,後工程での手戻りが起きないようにする。 〔委託先の選定方法の検討〕 T社では提案内容の評価基準を策定する際には,要求仕様の理解度,記述内容の具体性,計画の妥当性,及び経験・スキルの四つの評価軸について,各プロジェクトのPMが評価項目を設定することを規定している。②U課長は,表1の評価項目を設定した上で,提案内容の優れた委託先を選定できること,及びもう一つのメリットを期待して,次に述べる提案内容と提案価格を総合的に評価する選定方法を採用することにした。選定方法について社内の委託先の管理部門である調達部の承認を得た後,複数の会社に提案依頼を行うことにした。 表1 評価項目と配点 (1)提案内容の評価方法 表1のとおり,評価軸に基づいて合計11個の評価項目とそれぞれの配点を設定し,各評価項目の得点の合計を提案内容の得点(以下,内容点という)とする。広範囲にわたる業務の変更への対応を伴う難易度の高い第二期システムの開発を考慮し,今回の選定では要求仕様の理解度及び記述内容の具体性の二つの評価軸を特に重要視して配点を高くする。また,内容点に関する基準点として500点を設定し,この基準点を使用することで適正な委託先を選定できるようにする。 (2)提案価格の評価方法 提案価格については,想定される開発規模を基に設定した予算枠(以下,想定金額という)の1億円との差額について,次のように得点(以下,価格点という)を付与する。 ・提案価格が想定金額よりも低い場合には,想定金額との差額100万円につき,10点を付与する。ただし,【c】場合の問題を回避するために,価格点には上限を設け,提案価格が5、000万円以下の場合は,一律に500点を付与する。 ・提案価格が想定金額よりも高い場合には,価格点は付与しない。 (3)提案内容と提案価格の総合評価 (1)及び(2)に従って算出された,内容点と価格点を合計した総合点が最も高い会社を委託先の第一候補とする。ただし,第一候補の提案価格が想定金額よりも高い場合には,提案価格を下げる余地があるかどうか折衝し,再提案を求めた上で,委託先の最終決定を行う。 〔委託先の選定〕 U課長は,これまでT社のシステム開発に携わってきた数社に要求仕様書を提示し,提案依頼を行った。提案依頼にはX社,Y社,Z社の3社が応じ,各社の内容点,価格点及び総合点は表2のとおりとなった。 表2 X社,Y社,Z社の提案に対する評価 今回の選定方法では総合点の最も高いX社が委託先の第一候補となるが,内容点,提案価格ともに各社のばらつきが大きかったので,U課長は他社と比べて内容点と提案価格が最も低かったY社に対して念のためヒアリングを行い,提案の根拠を確認した。その結果,Y社の要求仕様の理解度及び記述内容の具体性の得点が低く,かつ,提案価格が他社と比べて極端に低かったのは,Y社が第一期システムの対象業務に関して経験が浅く,要求仕様を十分に理解していないことが原因であることが分かった。 U課長は,今回の選定方法に従って第一期システムの開発をX社に委託することについて問題がないと考え,X社との契約手続を開始した。 設問1〔要求仕様書の作成〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線①について,総合テストで発生する問題を,30字以内で述べよ。 (2)本文中の【a】に入れる適切な字句を,5字以内で答えよ。 (3)本文中の【b】に入れる適切な字句を,プロトタイピングを外部設計において行うようにしたことを踏まえ,10字以内で答えよ。 設問2〔委託先の選定方法の検討〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の下線②における,今回の選定方法の採用によるもう一つのメリットを,20字以内で具体的に述べよ。 (2)U課長が,第二期システムの開発を考慮して,今回の選定では要求仕様の理解度及び記述内容の具体性の二つの評価軸を特に重要視して配点を高くした理由を,30字以内で述べよ。 (3)U課長は,内容点に関する基準点をどのように使用することによって,適正な委託先を選定できると考えたのか。30字以内で述べよ。 (4)本文中の【c】に入れる適切な字句を,20字以内で述べよ。 設問3〔委託先の選定〕について,(1),(2)に答えよ。 (1)Y社の要求仕様の理解度及び記述内容の具体性の得点が低かったことを踏まえ,U課長がY社へのヒアリングに基づいて今回の選定方法の妥当性について確認したことを,30字以内で述べよ。 (2)Y社の提案価格が他社と比べて極端に低かったことを踏まえ,U課長が提案価格についてY社にヒアリングして確認したことを,30字以内で述べよ。
表1 評価項目と配点。要求仕様の理解度,記述内容の具体性,計画の妥当性,経験・スキルの評価軸ごとに評価項目と配点を示した表。
表1 評価項目と配点。要求仕様の理解度,記述内容の具体性,計画の妥当性,経験・スキルの評価軸ごとに評価項目と配点を示した表。
表2 X社,Y社,Z社の提案に対する評価。X社,Y社,Z社について,各評価軸の得点,内容点,提案価格,価格点,総合点を比較した表。
表2 X社,Y社,Z社の提案に対する評価。X社,Y社,Z社について,各評価軸の得点,内容点,提案価格,価格点,総合点を比較した表。
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委託先選定で条件を整理する視点

外部委託を検討するときは、依頼する業務の目的と前提条件を分けて整理し、候補を比較するための観点が過不足なく並んでいるかを確認します。

この問題で問われていること

一つの観点として、要求仕様を決める前提となる業務上の目的や制約が、関係者の認識とずれていないかに注目して読み進めます。

視点

委託先や要求事項を考える際は、まず業務の目的、守るべき条件、関係者との役割分担を切り分けます。そのうえで、比較の観点が同じ基準で扱われているかを確認すると、整理の偏りに気づきやすくなります。

確認ポイント

  • 依頼する業務の目的と、満たすべき条件が別々に整理されているか。
  • 候補を比べる観点が、特定の一要素だけに偏っていないか。
  • 要求事項の表現が、関係者間で同じ意味に読めるか。
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解説

業務部門との調整不足による要求仕様の不確実性を解消し、内容点と価格点を組み合わせて、第二期も見据えた適切な委託先選定を行う問題です。

問題の全体像

T社は老朽化した事務処理システムを再構築し、独立性の高い機能を第一期として外部委託する。業務部門が多忙で要求仕様の確認が不足しやすいため、U課長は作成期間を延長し、フロー図のレビューやプロトタイピングを追加した。さらに、内容点と価格点を総合評価し、第二期開発にも対応できる委託先を選ぼうとしている。出題の狙いは、業務部門との合意形成、評価基準の設定、価格の妥当性確認をPMの立場で考えることです。

設問1(1)

下線①では、業務部門との妥当性確認が不十分なまま開発を進める点に着目する。画面や帳票の使い勝手に関する要望が後から発生し、総合テストで変更要求や手戻りが多発することを、30字以内で簡潔に示す。公式解答例では、使い勝手の改善要望や変更要求の多発が示されている。

設問1(2)

フロー図で流れと役割分担を明確にする対象は、本文で見直しを行う事務センタの業務です。したがって、【a】は「業務」とする。公式解答例では「業務」または「事務処理」が示されている。

設問1(3)

プロトタイピングを外部設計で行う目的は、業務部門が画面や帳票を具体的に確認し、後工程ではなく早い段階で仕様の妥当性を確認することです。したがって、【b】は「早めに確認すること」など、早期確認の趣旨を表します。公式解答例では「早めに確認すること」または「妥当性を確認すること」が示されている。

設問2(1)

下線②では、優れた提案内容を選ぶこと以外のメリットを問うている。複数社を同じ基準で競争させることで、適正な金額の委託先を選べる、または発注価格を適正化できる点を書く。公式解答例では、適正な金額の委託先の選定や競争原理による価格適正化が示されている。

設問2(2)

第二期は広範囲の業務変更を伴う難易度の高い開発です。そのため、要求を正しく理解し、具体的な提案として記述できる会社でなければ、第二期にも着実に対応できない。30字以内では、第二期の有力候補となる業務に精通した委託先を選ぶため、という因果を押さえる。公式解答例でも、第二期の有力候補や業務に精通した委託先の選定が示されている。

設問2(3)

内容点の基準点500点は、総合点を単純比較するだけでなく、要求仕様への適合性が一定水準に達しない会社を除外するために使う。したがって、「内容点が基準点に満たない会社を選定対象外とする」とまとめる。公式解答例では、基準点を選定のスクリーニングに使うことが示されている。

設問2(4)

低価格ほど価格点が増える方式では、通常では考えにくい極端な低価格が提示されても有利になり得る。その問題を避けるため上限を設けたので、【c】は「想定外の低い金額が提示された」または「極端に低い金額が提示された」とする。

設問3(1)

Y社は要求仕様の理解度と記述内容の具体性が低かったため、ヒアリングではY社の能力だけでなく、評価する側の条件にも問題がないかを確認する。要求仕様書の記述、評価項目、配点が適切で、Y社だけを不利にしていないことを確認したと書く。採点講評で評価されるのは、選定方法そのものの妥当性を具体的に点検している点です。

設問3(2)

Y社の価格が極端に低い原因を、単なる安値として処理せず、見積りの前提を確認する。具体的には、提案価格の根拠となる開発規模や生産性、または他社の価格が異常に高いわけではないことを確認したと書く。採点講評で評価されるのは、価格差の原因をヒアリングで検証する姿勢です。

学習のポイント

要求仕様の妥当性確認と、評価基準を用いた調達判断を学ぶ。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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