PMプロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ

平成21年度春期 プロジェクトマネージャ 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 プロジェクトのリスク管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 C社は,首都圏に拠点を置く,中堅のSI企業である。医薬品業界に強みをもち,製薬会社の生産管理システムの多くを,C社が構築している。 K社は,地方の製薬会社である。競争の激化から,大手企業との合併のうわさも出ている。K社の生産管理システムは,構築後10年以上が経過し,改修を繰り返してきた結果,保守を継続していくことが難しい状況になっている。このためK社は,新しい生産管理システムの構築と保守をC社に依頼することにした。要件定義と外部設計及び総合テストは実費償還による委任契約を,内部設計から結合テストまでは定額による請負契約を,保守についても請負契約を締結することにしている。 〔K社プロジェクトの状況〕 C社は,K社の生産管理システム構築プロジェクト(以下,K社プロジェクトという)の準備を開始した。 C社は地方の拠点をもっていない。K社との保守契約では,障害時に一定時間以内に現場へ到着することが求められる。そこで,K社の近隣に位置するL社と協力してK社プロジェクトを遂行することにした。L社は小規模なSI企業であり,技術力はあるが,大規模システムの開発経験が少ないので,プロジェクト管理能力に不安がある。 C社のK社プロジェクトのプロジェクトマネージャ(PM)はD氏である。D氏は営業担当者とともにK社を訪問し,K社プロジェクトの要件を確認した。その結果,D氏は,これまでC社が構築してきた生産管理システムの経験で十分に対応が可能であると判断した。また,K社の画面・レポートの要件にも特殊性はなく,要件定義に関するリスクは小さいと判断した。 C社からK社,L社へは交通手段が限られており,出張には多くの時間と費用が掛かる。要件定義から外部設計まではK社に集まって実施し,内部設計から結合テストまでは分担してC社,L社にそれぞれ持ち帰って実施する予定である。内部設計以降もL社との定期的な進捗会議及び成果物レビュー会議の実施が必要となるので,D氏は,出張に掛かる時間と費用の削減を目的として,テレビ会議システムを積極的に利用することにした。 C社は,P社製の生産管理用のソフトウェアパッケージの現在普及しているバージョン(以下,現バージョンという)をベースとして,顧客要件に合わせて,機能や画面を追加する開発方法をとっている。P社は,先月から大幅に機能を強化したバージョン(以下,新バージョンという)の提供を開始したが,C社は新バージョンでの開発経験はまだない。K社は,システムの稼働開始後にバージョンアップ作業を改めて行うことは避けたいとして,K社プロジェクトでは新バージョンを適用するように,C社に要求している。 〔リスク分析〕 D氏は,K社プロジェクトの計画策定に当たって,リスクの分析を行うことにした。表1に示すC社のプロジェクト管理規程のリスク評価マトリックスでは,発生確率と影響度の積が,0.20以上は高優先,0.08以上0.20未満は中優先,0.08未満は低優先として必要な対応を行うこととしている。D氏は,リスクを洗い出して,表2に示すリスク管理表を作成した。 表1 リスク評価マトリックス 表2 リスク管理表 〔予防処置〕 リスク分析の結果に基づき,D氏は,対応の優先順位の高い順に対応策を検討することにした。各リスクに対して,事前に予防処置を講じることによって,リスクを回避又は軽減することに注力することにした。 新バージョンの機能仕様が把握できず設計が進まないリスクへの予防処置としては,[a]ことで対応することにした。K社に対し,新バージョンが市場に出て間もないことから発生する品質面のリスク要因と,C社に新バージョンの開発経験がないことから発生するプロジェクト体制面でのリスク要因を説明して説得に当たり,その結果,K社もC社の方針に同意した。 L社のプロジェクト管理能力が低く,スケジュールが遅れるリスクへの予防処置としては,C社のプロジェクト管理のノウハウを提供して対応することにした。 L社への技術移転が進まないリスクへの予防処置としては,プロジェクトの初期に教育を徹底し,プロジェクト期間を通してフォローすることで対応することにした。 中優先であるK社の合併によってプロジェクトが中断するリスクへの予防処置としては,発生確率も低いことから,万が一起きた場合に必要となる請負契約部分の費用の回収方法に焦点を絞り,[b]ことで対応することにし,K社もこの提案に同意した。 低優先となるテレビ会議による週次レビューでの指示が正確に伝わらないリスクへの予防処置としては,①L社の成果物をネットワーク上の共通ファイルサーバに保管し,双方で確認できるようにすることにした(下線①)。 C社のプロジェクト管理規程では,計画策定時に想定したリスクに対応するための予備費(以下,コンティンジェンシ予備という)はプロジェクトの予算に含まれ,PMの判断で使用できる。一方,計画策定時に想定していないリスクに対応するための予備費(以下,マネジメント予備という)はプロジェクトの予算に含まれず,その使用には,事業部長の承認を得る必要がある。 D氏は,対応策の検討結果を踏まえて,リスクが現実化した場合の具体的な対応計画であるコンティンジェンシプランの見直しを行った。その結果,D氏は,予防処置によって,コンティンジェンシプランの必要がなくなった二つのリスクを除いて,コンティンジェンシ予備を設定した。また,D氏は,マネジメント予備の確保を,上司である事業部長に申請した。D氏は,プロジェクト予算の承認を得て,K社プロジェクトを開始した。 〔リスクの監視コントロール〕 内部設計の開始からしばらくして,L社の進捗が遅れ始めた。D氏が原因を分析した結果,テレビ会議での指示が正確に伝わっていない点,L社がプロジェクト管理に不慣れな点,L社への技術移転が遅れている点の3点の複合的な影響であることが分かった。D氏は,影響はまだ軽微であるが,技術移転の遅れへの対応は早めに実行する必要があると,リスク管理表から判断した。 内部設計が半ばに差し掛かった段階で,C社のほかのプロジェクトで緊急事態が発生し,K社プロジェクトの要員の1人を応援に出さなければならなくなった。D氏は,交代要員を早めに配置し,K社プロジェクトの仕様の理解と,異動する要員との引継ぎを行わせることにした。②D氏は,この対応を実行するには,コストへの影響が出るので,事業部長の承認を得る必要があると判断した(下線②)。 設問1 〔リスク分析〕について,表2中の[a],[b]に入れる予防処置は何か。それぞれ30字以内で述べよ。 設問2 〔予防処置〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 新バージョンを使うことで発生する,品質面とプロジェクト体制面のリスク要因とは何か。それぞれ30字以内で述べよ。 (2) 本文中の下線①について,D氏が,L社の成果物をネットワーク上の共通ファイルサーバに保管し,双方で確認できるようにしたリスク管理上の目的は何か。30字以内で述べよ。 (3) D氏が,予防処置によって,コンティンジェンシプランの必要がなくなったと判断した二つのリスクとは,どのリスクか。表2の項番で答えよ。 設問3 〔リスクの監視コントロール〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) D氏はなぜ,影響が軽微な段階でも,技術移転の遅れへの対応は早めに実行する必要があると,リスク管理表から判断したのか。20字以内で述べよ。 (2) D氏が実行することにした技術移転の遅れへの対応とは何か。20字以内で述べよ。 (3) 本文中の下線②について,D氏は,なぜ,事業部長の承認を得る必要があると判断したのか。30字以内で述べよ。
表1 リスク評価マトリックス。発生確率(高い0.50・普通0.30・低い0.10)と影響度(小0.20・中0.40・大0.80)の積を示すマトリックス。値0.02~0.40のセルを網掛けで高優先・中優先・低優先に分け、凡例を右側に示している。
表1 リスク評価マトリックス。発生確率(高い0.50・普通0.30・低い0.10)と影響度(小0.20・中0.40・大0.80)の積を示すマトリックス。値0.02~0.40のセルを網掛けで高優先・中優先・低優先に分け、凡例を右側に示している。
表2 リスク管理表。項番1~5のリスク(新バージョン仕様、L社の管理能力、技術移転、K社合併による中断、テレビ会議での指示伝達)について、発生確率、影響度、優先順位、予防処置(空欄a・bを含む)、発動の契機、コンティンジェンシプランを示す表。
表2 リスク管理表。項番1~5のリスク(新バージョン仕様、L社の管理能力、技術移転、K社合併による中断、テレビ会議での指示伝達)について、発生確率、影響度、優先順位、予防処置(空欄a・bを含む)、発動の契機、コンティンジェンシプランを示す表。
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判断に用いる前提をそろえる

プロジェクトのリスクを検討するときは、判断に用いる前提がそろっているかに注目しましょう。気になる用語から結論を急がず、与えられた情報の範囲を確かめ、条件を補いすぎていないか振り返ることが大切です。

この問題で問われていること

この問題では、検討の途中で、与えられた条件とは別の前提を持ち込んでいないかを確認してみましょう。自分が根拠としている情報と、経験や印象から補った内容を区別すると、判断の出発点を落ち着いて整理できます。

視点

判断の根拠を整理するときは、与えられた情報に明示された条件と、自分が補った前提を分けて捉えましょう。一般的な経験が思い浮かんでも、その内容が今回の条件に含まれるかを確認する、という一つの視点に集中します。

確認ポイント

  • 判断の根拠は、与えられた条件に含まれているか
  • 経験や印象から、条件を付け足していないか
  • 検討の途中で、前提が変わっていないか
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解説

本問は、分担開発に伴う技術・管理・意思伝達のリスクと、顧客の合併による中断リスクを扱います。発生確率と影響度に基づく優先順位、予防処置と現実化後の対応、契約による費用回収、予備費の使用権限を結び付けて理解することが要点です。

問題の全体像

C社は、地方の製薬会社K社の生産管理システムを、近隣のL社と協力して構築します。K社は未経験の新バージョンの採用を要求し、L社にはプロジェクト管理や技術移転の課題があります。また、遠隔レビューでの意思伝達や、K社の合併によるプロジェクト中断もリスクです。公式の出題趣旨では、リスクを識別し、発生確率と影響度から優先順位を決め、対応策を計画・予算に組み込む手順と実践力を問うとしています。表1の評価では両者の積が0.20以上なら高優先、0.08以上0.20未満なら中優先、0.08未満なら低優先です。各設問では、この評価と具体的な予防処置、現実化後の対応、費用の扱いを結び付けます。

設問1(a)

着目するのは、C社には現バージョンでの開発経験がある一方、新バージョンでの経験はなく、K社が説明を受けてC社の方針に同意したという記述です。公式解答例では「現バージョンで開発することでK社を説得する」としています。経験のある現バージョンを採用すれば、新バージョンの機能仕様を把握できず設計が進まない原因を避けられます。30字以内の答案では、現バージョンでの開発とK社の説得を押さえます。P社への支援依頼は表2のコンティンジェンシプランであり、ここで問われる予防処置とは区別します。

設問1(b)

本文は、合併による中断の発生確率が低いことから、請負契約部分の費用回収方法に焦点を絞ると述べています。公式解答例では「中断時の費用精算方法を事前に合意して契約に盛り込む」、又は「中止するまでに掛かった費用を支払う旨を契約に明記する」としています。合併自体を防ぐのではなく、中断時の費用回収をあらかじめ契約で確保する処置です。30字以内では、中断時の費用精算と事前の契約明記を中心に書きます。

設問2(1)品質面

着目するのは、新バージョンが先月提供されたばかりであることと、C社がその機能仕様に習熟していないことです。公式解答例では「洗い出されていない初期の不具合が発生する」、又は「機能仕様の理解が不十分で設計不具合が発生する」としています。前者はパッケージに残る初期不具合、後者は仕様理解の不足に起因する設計不具合を指します。30字以内では、いずれかの要因と品質上の問題を具体的に示します。「品質が低下する」だけでは、何が原因かを説明できません。

設問2(1)プロジェクト体制面

C社に新バージョンでの開発経験がないという記述から、必要な経験や知識を備えた要員の確保に着目します。公式解答例では「新バージョンでの開発を経験した要員を確保できない」、又は「新バージョンの機能が分かる要員を確保できない」としています。品質面が不具合の発生を扱うのに対し、体制面では開発を担う人材の不足を説明します。30字以内では、新バージョンの経験又は機能知識を持つ要員を確保できないことを押さえます。

設問2(2)

表2の項番5は、テレビ会議によるレビューの指示が正確に伝わらず、成果物への反映が遅れるリスクです。共通ファイルサーバで成果物を確認できれば、指示後の修正内容を双方で確かめられます。公式解答例では「レビューの指摘が正確に反映されているかを確認するため」としています。30字以内では、指摘の正確な反映を確認する目的を書きます。単に「成果物を共有するため」とすると、実施手段の説明にとどまり、リスク管理上の目的が伝わりません。

設問2(3)

公式解答例では「1と4」です。項番1は、現バージョンで開発することにK社が同意したため、新バージョンの採用を原因とするリスクを回避できます。項番4は、中断時の費用精算を事前に契約へ盛り込むことで、費用回収を中断後に交渉するという対応が不要になります。合併や中断の可能性そのものがなくなったわけではありません。項番2・3・5は、ノウハウ提供、教育、成果物共有を行ってもリスクが残るため、現実化後の対応を用意します。答案は指定どおり項番で答えます。

設問3(1)

現在の遅れが軽微であることと、リスクがもつ影響度は区別して読みます。表2の項番3では、技術移転の遅れの影響度が「大」とされています。発生確率は「普通」で、評価値も0.30×0.80=0.24となり、高優先です。公式解答例では「リスクの影響度が大きいから」としています。20字以内の答案では、現時点の遅れの程度ではなく、リスク評価上の影響度が大きいことを理由として示します。

設問3(2)

表2の項番3のコンティンジェンシプランに着目します。設計・開発段階でL社の生産性が目標に達しない場合、技術移転の専任者を派遣する計画です。公式解答例では「技術移転の専任者をL社へ派遣する」としています。20字以内では、専任者の役割と派遣先を押さえます。プロジェクト初期の教育や期間中のフォローは予防処置であり、この設問では遅れが生じた段階で実行する対応を答えます。

設問3(3)

着目するのは、予備費の区分と使用権限です。想定済みのリスクに対応するコンティンジェンシ予備はプロジェクト予算に含まれ、PMの判断で使用できます。一方、ほかのプロジェクトへの応援に伴う要員交代は計画時に想定していない事態で、早期配置や引継ぎに追加費用が掛かります。公式解答例では「マネジメント予備の使用が必要だから」「計画時に想定していないコストだから」「K社プロジェクトの予算外のコストだから」としています。30字以内では、想定外の費用又はマネジメント予備の使用を理由として書きます。単にコストが増えるからではなく、PMの使用権限を超える費用である点が要点です。

学習のポイント

リスクの原因・影響・予防処置・発動条件・対応策を対応付け、二種類の予備費と使用権限の違いを学びましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度春期 プロジェクトマネージャ試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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