NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

令和3年度春期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 企業ネットワークの統合に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 D社は,本社及び三つの支社を国内にもつ中堅の商社である。D社の社内システムは,クラウドサービス事業者であるG社の仮想サーバでWebシステムとして構築されており,本社及び支社内のPCからインターネット経由で利用されている。このたびD社は,グループ企業のE社を吸収合併することになり,E社のネットワークをD社のネットワークに接続(以下,ネットワーク統合という)するための検討を行うことになった。 〔D社の現行のネットワークの概要〕 D社の現行のネットワークの概要を次に示す。 (1)PCは,G社VPC(Virtual Private Cloud)内にある仮想サーバにインターネットを経由してアクセスし,社内システムを利用する。VPCとは,クラウド内に用意されたプライベートな仮想ネットワークである。 (2)本社と支社間は,広域イーサネットサービス網(以下,広域イーサ網という)で接続している。 (3)PCからインターネットを経由して他のサイトにアクセスするために,ファイアウォール(以下,FWという)のNAPT機能を利用する。 (4)PCからインターネットを経由してVPC内部にアクセスするために,G社が提供している仮想的なIPsec VPNサーバ(以下,VPC GWという)を利用する。 (5)FWとVPC GWの間にIPsecトンネルが設定されており,PCからVPCへのアクセスは,FWとVPC GWの間に設定されたIPsecトンネルを経由する。 (6)社内のネットワークの経路制御には,OSPFを利用しており,OSPFプロトコルを設定している機器は,ルータ,レイヤ3スイッチ(以下,L3SWという)及びFWである。 (7)本社のLANのOSPFエリアは0であり,支社1~3のLAN及び広域イーサ網のOSPFエリアは1である。 (8)FWにはインターネットへの静的デフォルト経路を設定しており,①全社のOSPFエリアからインターネットへのアクセスを可能にするための設定が行われている。 D社の現行のネットワーク構成を図1に示す。 図1 D社の現行のネットワーク構成 D社の現行のネットワークにおける各セグメントのIPアドレスを表1に示す。 表1 D社の現行のネットワークにおける各セグメントのIPアドレス G社は,クラウドサービス利用者のためにインターネットからアクセス可能なサービスポータルサイト(以下,サービスポータルという)を公開しており,クラウドサービス利用者はサービスポータルにアクセスすることによってVPC GWの設定ができる。D社では,VPC GWとFWに次の項目を設定している。 ・VPC GW設定項目:VPC内仮想セグメントのアドレス(192.168.1.0/24),IPsec VPN認証用の事前【a】,FWの外部アドレス(t.u.v.5),D社内ネットワークアドレス(172.16.0.0/16,172.17.0.0/16) ・FW設定項目:VPC内仮想セグメントのアドレス(192.168.1.0/24),IPsec VPN認証用の事前【a】,VPC GWの外部アドレス(x.y.z.1),D社内ネットワークアドレス(172.16.0.0/16,172.17.0.0/16) 〔OSPFによる経路制御〕 OSPFは,リンクステート型のルーティングプロトコルである。OSPFルータは,隣接するルータ同士でリンクステートアドバタイズメント(以下,LSAという)と呼ばれる情報を交換することによって,ネットワーク内のリンク情報を集め,ネットワークトポロジのデータベースLSDB(Link State Database)を構築する。LSAには幾つかの種別があり,それぞれのTypeが定められている。例えば,【b】LSAと呼ばれるType1のLSAは,OSPFエリア内の【b】に関する情報であり,その情報には,【c】と呼ばれるメトリック値などが含まれている。また,Type2のLSAは,ネットワークLSAと呼ばれる。OSPFエリア内の各ルータは,集められたLSAの情報を基にして,【d】アルゴリズムを用いた最短経路計算を行って,ルーティングテーブルを動的に作成する。さらに,OSPFには,②複数の経路情報を一つに集約する機能(以下,経路集約機能という)がある。D社では,支社へのネットワーク経路を集約することを目的として,③ある特定のネットワーク機器で経路集約機能を設定している(以下,この集約設定を支社ネットワーク集約という)。支社ネットワーク集約がされた状態で,本社のL3SWの経路テーブルを見ると,a~gのそれぞれを宛先とする経路(以下,支社個別経路という)が一つに集約された,【e】/16を宛先とする経路が確認できる。また,D社では,支社ネットワーク集約によって意図しない④ルーティングループが発生してしまうことを防ぐための設定を行っているが,その設定の結果,表2に示すOSPF経路が生成され,ルーティングループが防止される。 表2 ルーティングループを防ぐOSPF経路 〔D社とE社のネットワーク統合の検討〕 D社とE社のネットワーク統合を実現するために,情報システム部のFさんが検討することになった。Fさんは,E社の現行のネットワークについての情報を集め,次のようにまとめた。 ・E社のオフィスは,本社1拠点だけである。 ・E社の本社は,D社の支社1と同一ビル内の別フロアにオフィスを構えている。 ・E社の社内システム(以下,E社社内システムという)は,クラウドサービス事業者であるH社のVPC内にある仮想サーバ上でWebシステムとして構築されている。 ・E社のPCは,インターネットVPNを介して,E社社内システムにアクセスしている。 ・E社のネットワークの経路制御はOSPFで行っており全体がOSPFエリア0である。 ・E社のネットワークのIPアドレスブロックは,172.18.0.0/16を利用している。 情報システム部は,Fさんの調査を基にして,E社のネットワークをD社に統合するための次の方針を立てた。 (1)ネットワーク統合後の早急な業務の開始が必要なので,現行ネットワークからの構成変更は最小限とする。 (2)E社のネットワークとD社の支社1ネットワークを同一ビルのフロアの間で接続する(以下,この接続をフロア間接続という)。 (3)フロア間接続のために,D社の支社1のL3SW1とE社のL3SW6の間に新規サブネットを作成する。当該新規サブネット部分のアドレスは,E社のIPアドレスブロックから新たに割り当てる。新規サブネット部分のOSPFエリアは0とする。 (4)両社のOSPFを一つのルーティングドメインとする。 (5)H社VPC内の仮想サーバはG社VPCに移設し,統合後の全社から利用する。 (6)E社がこれまで利用してきたインターネット接続回線及びH社VPCについては契約を解除する。 Fさんの考えた統合後のネットワーク構成を図2に示す。 図2 Fさんの考えた統合後のネットワーク構成 Fさんは,両社間の接続について更に検討を行い,課題を次のとおりまとめた。 ・フロア間を接続しただけでは,OSPFエリア0がOSPFエリア1によって二つに分断されたエリア構成となる。そのため,フロア間接続を行っても⑤E社のネットワークからの通信が到達できないD社内のネットワーク部分が生じ,E社からインターネットへのアクセスもできない。 ・下線⑤の問題を解決するために,⑥NW機器のOSPF関連の追加の設定(以下,フロア間OSPF追加設定という)を行う必要がある。 ・フロア間接続及びフロア間OSPF追加設定を行った場合,D社側のOSPFエリア0とE社側のOSPFエリア0は両方合わせて一つのOSPFエリア0となる。このとき,フロア間OSPF追加設定を行う2台の機器はいずれもエリア境界ルータである。また,OSPFエリアの構成としては,OSPFエリア0とOSPFエリア1がこれらの2台のエリア境界ルータで並列に接続された形となる。その結果,D社ネットワークで行われていた支社ネットワーク集約の効果がなくなり,本社のOSPFエリア0のネットワーク内に支社個別経路が現れてしまう。それを防ぐためには,⑦ネットワーク機器への追加の設定が必要である。 ・E社のネットワークセグメントから仮想サーバへのアクセスを可能とするためには,FWとVPC GWに対してE社のアドレスを追加で設定することが必要である。 これらの課題の対応で,両社のネットワーク全体の経路制御が行えるようになることを報告したところ,検討結果が承認され,ネットワーク統合プロジェクトリーダにFさんが任命された。 設問1 本文中の【a】~【e】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 本文中の下線①について,設定の内容を25字以内で述べよ。 設問3 〔OSPFによる経路制御〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の下線②について,この機能を使って経路を集約する目的を25字以内で述べよ。 (2)本文中の下線③について,経路集約を設定している機器を図1中の機器名で答えよ。 (3)本文中の下線④について,ルーティングループが発生する可能性があるのは,どの機器とどの機器の間か。二つの機器を図1中の機器名で答えよ。 (4)表2中の【f】,【g】に入れる適切な字句を答えよ。 設問4 〔D社とE社のネットワーク統合の検討〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線⑤について,到達できないD社内のネットワーク部分を,図2中のa~lの記号で全て答えよ。 (2)本文中の下線⑥について,フロア間OSPF追加設定を行う必要がある二つの機器を答えよ。また,その設定内容を25字以内で述べよ。 (3)本文中の下線⑦について,設定が必要なネットワーク機器を答えよ。また,その設定内容を40字以内で述べよ。
図1 D社の現行のネットワーク構成。D社の支社1~3,本社,広域イーサ網,FW,VPC GW及びインターネットの接続構成を示すネットワーク図。
図1 D社の現行のネットワーク構成。D社の支社1~3,本社,広域イーサ網,FW,VPC GW及びインターネットの接続構成を示すネットワーク図。
表1 D社の現行のネットワークにおける各セグメントのIPアドレス。D社の現行ネットワークにおけるセグメントa~nと、それぞれに対応するIPアドレスを示す表。
表1 D社の現行のネットワークにおける各セグメントのIPアドレス。D社の現行ネットワークにおけるセグメントa~nと、それぞれに対応するIPアドレスを示す表。
表2 ルーティングループを防ぐOSPF経路。ルーティングループ防止用のOSPF経路について、設定機器、宛先ネットワークアドレス、ネクストホップを示す表。
表2 ルーティングループを防ぐOSPF経路。ルーティングループ防止用のOSPF経路について、設定機器、宛先ネットワークアドレス、ネクストホップを示す表。
図2 Fさんの考えた統合後のネットワーク構成。D社とE社のネットワーク統合後の構成を示す図。フロア間接続、OSPFエリア0・1、各スイッチ及びセグメントを示す。
図2 Fさんの考えた統合後のネットワーク構成。D社とE社のネットワーク統合後の構成を示す図。フロア間接続、OSPFエリア0・1、各スイッチ及びセグメントを示す。
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条件の適用範囲をそろえて考える

企業ネットワークの構成を検討するときは、与えられた条件がどの範囲に適用されるかに注目しましょう。条件を全体に関わるものとして扱う前に、その対象が明示されているかを確かめることが整理の出発点です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、条件とその適用対象の対応です。ある範囲について示された条件を、別の範囲にも当てはめていないか確認しましょう。記載された対象と、自分が考えている対象の範囲をそろえて整理してください。

視点

条件の内容だけでなく、その条件が適用される対象まで含めて整理します。対象が明示されている部分と、自分で範囲を補って考えている部分を区別すると、条件を広げて解釈していないか確認できます。

確認ポイント

  • 各条件の適用対象を確認したか
  • 明示された範囲を超えて条件を広げていないか
  • 検討中の対象と条件の適用範囲がそろっているか
正解と解説を見る

解説

本問は、OSPFによる経路集約とデフォルト経路の配布、両者の相互作用によるループの防止、仮想リンクによるエリア0の接続を扱います。IPsecの認証設定と合わせて、企業ネットワークを統合する際の設計判断を学びます。

問題の全体像

D社は、本社と三つの支社をOSPFで接続し、本社のFWからインターネット及びIPsecトンネル経由のクラウドへアクセスしています。E社を支社1経由で接続すると、両社のエリア0がエリア1を挟んで分断されるため、追加設定が必要になります。公式の出題趣旨では、OSPFによるルーティング設計とIPsecによるクラウド接続を題材に、ネットワーク設計・構築の基本的スキルを問うとしています。経路を配布する機器とエリア境界を、図に沿って判断することが中心です。

設問1(a)

VPC GWとFWの設定項目に共通してある「IPsec VPN認証用の事前【a】」に着目します。両端であらかじめ同じ鍵を設定して認証に使用するので、公式解答例では「共有鍵」です。空欄に入れると「事前共有鍵」となります。

設問1(b)

本文では、Type1のLSAの名称と、そのLSAが情報を表す対象に同じ語が入ります。Type1は、各ルータが自分のリンク情報などをエリア内に通知するルータLSAなので、公式解答例では「ルータ」です。直後に示されたType2のネットワークLSAと区別します。

設問1(c)

「メトリック値」という説明に着目します。OSPFでは、経路の評価にコストを用い、経路上のコストの合計を基に最短経路を求めます。したがって、公式解答例では「コスト」です。

設問1(d)

LSAから構築したネットワークトポロジを基に、最短経路を計算するアルゴリズムを問う空欄です。OSPFで用いる最短経路計算はダイクストラアルゴリズムなので、公式解答例では「ダイクストラ」です。

設問1(e)

表1では、支社側のセグメントa~gが全て172.16で始まるアドレス範囲にあります。本文で集約経路のプレフィックス長が/16と指定されているので、集約先は172.16.0.0/16です。空欄の後ろに/16が印刷されているため、公式解答例ではアドレス部分だけの「172.16.0.0」です。

設問2

本文の(8)では、FWにインターネットへの静的デフォルト経路が設定されています。全社のOSPF機器がその出口を利用するには、FW自身の設定に加え、デフォルト経路をOSPFへ導入して配布する必要があります。公式解答例では「OSPFへデフォルトルートを導入する。」です。25字以内の答案では、導入先がOSPFであり、導入するものがデフォルト経路であることを押さえます。採点講評でも、OSPFでのデフォルト経路の取扱いを基本事項として挙げています。

設問3(1)

下線②は、複数の経路情報を一つにまとめる機能を説明しています。支社個別経路a~gを一つの集約経路に置き換えると、本社側で保持する経路エントリ数を減らせます。公式解答例では「ルーティングテーブルサイズを小さくする。」です。25字以内では、経路集約によってルーティングテーブルを小さくするという目的を示します。

設問3(2)

図1で、エリア1の広域イーサ網とエリア0の本社LANを接続する機器に着目します。この境界にあるのは「ルータ」であり、エリア境界ルータ(ABR)として支社個別経路を集約し、本社側へ通知できます。公式解答例も「ルータ」です。支社側のL3SW1~3は、現行構成ではエリア1内の機器です。

設問3(3)

公式解答例では「ルータとFWの間」です。ループ防止設定がない場合、FWはOSPFで学習した172.16.0.0/16の集約経路に従って、支社側宛てのパケットをルータへ送ります。しかし、集約範囲内でも個別経路が存在しない宛先については、ルータはFWがOSPFへ導入したデフォルト経路に従ってFWへ送り返します。FWでは/16の集約経路がデフォルト経路より優先されるため、再びルータへ転送され、両機器間を往復します。集約経路とデフォルト経路の相互作用が原因であり、表2のNull0経路はこの往復を防ぐためのものです。

設問3(4)(f)

表2は、集約範囲内に個別経路がない宛先へのパケットをNull0で廃棄する経路です。集約を行うルータでこの経路を持てば、該当パケットをデフォルト経路でFWへ送り返すことを防げます。したがって、設定機器について公式解答例では「ルータ」です。

設問3(4)(g)

廃棄経路の宛先は、支社ネットワークの集約範囲と同じにするので、公式解答例では「172.16.0.0/16」です。実在する支社セグメントへの通信には、より長いプレフィックスを持つ個別経路が優先されます。個別経路がない宛先では、この/16のNull0経路がデフォルト経路より優先され、パケットを廃棄してループを防ぎます。

設問4(1)

図2では、E社側とD社本社側のエリア0の間にエリア1があり、フロア間接続だけではバックボーンが分断されています。この状態でE社から到達できないのは、D社本社側のエリア0に属するセグメントです。図2の記号ではh、i、j、k、lに当たり、公式解答例も「h,i,j,k,l」です。支社側のa~gと、本社側のh~lをエリアの所属で区別します。

設問4(2)

本文は、分断された二つのエリア0を、構成変更を最小限にして接続する必要があるとしています。エリア1を通過するOSPF仮想リンクを、その両端となるABRに設定します。D社本社側のABRは「ルータ」、E社側のエリア0にフロア間接続でつながるABRは「L3SW1」です。公式解答例では、この二台を挙げ、設定内容を「OSPF仮想リンクの接続設定を行う。」としています。この設定内容は25字以内です。採点講評では、ネットワーク統合で仮想リンクを活用する仕組みの理解を求めています。

設問4(3)

仮想リンク設定後は、ルータとL3SW1が、エリア0とエリア1を並列に接続するABRになります。既存のルータだけで経路集約しても、L3SW1から支社個別経路がエリア0へ通知されるため、L3SW1にも同じ集約設定が必要です。公式解答例では、機器は「L3SW1」、設定はエリア1の支社個別経路を172.16.0.0/16へ集約する内容です。40字以内では「エリア1の支社個別経路を172.16.0.0/16に集約する。」と要点を示せます。採点講評では、ABRではない機器を挙げる誤答が多かったとされており、機器の役割をエリア境界から判断することが重要です。

学習のポイント

集約経路とデフォルト経路の相互作用、Null0による廃棄、ABRの識別と仮想リンクの役割を重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和3年度春期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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