NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ

平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅱ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ネットワークシステムの拡張に関する次の記述を読んで、設問1~5に答えよ。 工務店のA社は、全国規模で住宅や店舗の施工を請け負っている。施主への情報提供に力を入れており、次の三つの機能をもつ情報システムを稼働させている。 ・施工情報管理:外出先又は社内にいるA社の社員や施主が、タブレット端末やPCで動作する、Webブラウザを使って、A社データセンタのWebサーバが管理する施工情報にHTTPSプロトコルでアクセスする(以下、Webブラウザと、Webブラウザが動作しているタブレット端末やPCを、どちらもブラウザという)。 ・コールセンタ:施主からの問合せ電話を、データセンタのIP-PBXを使って、A社コールセンタのオペレータが受け付け、必要に応じて営業部や技術部へ転送する。 ・インターネットアクセス:A社の社員が、社内からブラウザを使ってインターネットにアクセスする。 A社の現行情報システムの概要を図1に示す。 図1 A社の現行情報システムの概要 情報システム部は、現在、施主との情報連携を強化するために、ブラウザを活用した情報システムの機能拡張に取り組んでいる。ネットワーク担当のB君が、ネットワークシステムに関する現行仕様の調査と、機能拡張に伴うネットワーク拡張計画の作成を行っている。 情報システムの機能拡張の構想を次に示す。 ・マルチホーミング:今後、社外との通信が更に重要になるので、データセンタとインターネットとの接続を二重化する。 ・ブラウザを使ったビデオ電話:施主とA社の社員がブラウザを使って、施工状況などを動画で確認できるようにする。このビデオ電話はブラウザ上で動作するアプリケーション(以下、APという)をA社のWebサーバからダウンロードし、AP間の通信によって実現する。 ・ブラウザを使った音声電話:施主や外出先のA社の社員がブラウザを使って、社内のA社の社員と音声電話ができるようにする。この電話機能にもビデオ電話と同じAPを使う。IP-PBXを介した、社外のブラウザ上で動作するAPと社内のIP電話機との通信によって実現する。 〔現行ネットワーク構成〕 A社の現行ネットワーク構成を図2に、図2中のスイッチに定義された現行IPアドレス空間を表1に、それぞれ示す。 図2 A社の現行ネットワーク構成(抜粋) 表1 図2中のスイッチに定義された現行IPアドレス空間 B君が調査した、A社の現行ネットワークシステムの仕様を次に示す。 ・図2中のブラウザ1がWebサーバ1とWebサーバ2へアクセスする際に、FWのNAT機能が宛先IPアドレスを変換する。変換前と変換後の宛先IPアドレスは、それぞれ表1中のIPアドレス空間【ア】と【イ】に属し、変換前と変換後のIPアドレスの組合せは1:1に固定されている(以下、宛先NATという)。 ・図2中のブラウザ2がインターネットへアクセスする際に、FWのNAT機能が送信元IPアドレスと【ウ】の両方をそれぞれ動的に変換する(以下、送信元NAPTという)。(a)変換後のIPアドレス用に二つのグローバルIPアドレスが割り当てられている。 ・FWのフィルタリング定義は、図1に示す情報システムの通信だけを許可している。 ・FWには、A社のドメイン権限をもったDNS機能がある。 ・2台のWebサーバ(Webサーバ1、2)は、FWのDNSラウンドロビン機能を使って負荷分散しており、3台以上の構成へもスケールアウトができる。(b)スケールアウトの際には、DNS機能に関する設定変更など、FWに複数の設定変更が必要となる。 〔マルチホーミング〕 B君は、二つのISPサービス(ISP1、ISP2)を同時に利用するマルチホーミングの構成を考えた。この構成では、A社が負荷分散の仕組みを用意する必要がある。調査したところ、マルチホーミング用の負荷分散装置(以下、LBという)があり、この装置は、負荷分散機能の他に、DNS機能、NAT機能をもつことが分かった。 B君はLBを利用した新たなネットワーク構成を考えた。 A社の新ネットワーク構成を図3に、図3中のスイッチに定義されたLANの新IPアドレス空間を表2に、それぞれ示す。 図3 A社の新ネットワーク構成(抜粋) 表2 図3中のスイッチに定義された新IPアドレス空間 LBを使ったマルチホーミングの概要を次に示す。 ・インターネット向けのDNS機能をFWからLBへ移し、ISP2を経由してもそのDNS機能を提供できるように、ドメイン登録業者に定義の追加を依頼する。その際、ISP1、ISP2のいずれからでも同じゾーンファイルが参照されるようにする。 ・LBのDNSラウンドロビン機能を使い、インターネットからA社内への通信の負荷分散を行う。(c)現行のWebサーバ用のグローバルIPアドレスに、新たなグローバルIPアドレスを加え、DNSクエリに対してそれらが交互に返るようにする。 ・A社内からインターネットへの通信は、ISP1とISP2への接続ポートに対して負荷分散を行う。その際、ISPへ送信するIPパケットの送信元IPアドレスは、送信先のISPから貸与されたグローバルIPアドレスに変換されるので、FWのNAT機能をLBへ移して一元化する。 ・(d)LBは、通信の行きと戻りを同じISP経由にする。 ・LBからISP1のルータ及びISP2のルータへそれぞれ定期的にping確認を行い、ISPの障害を検知した場合には、正常なISPだけを利用する。 〔ブラウザを使ったビデオ電話の通信〕 情報システム部は、WebRTC(Web Real-Time Communication)に準拠したAPを導入する予定である。WebRTCは、ブラウザを使った音声、動画などの通信規約であり、W3C及びIETFから仕様が公開されている。このWebRTCを使ったビデオ電話では、APをダウンロードしたブラウザ間で直接通信(以下、AP間通信という)を行う。NAT機能が介在する場合のAP間通信の例を、図4に示す。 図4 NAT機能が介在する場合のAP間通信の例 サーバを介さない通信では、通信相手のIPアドレスを知る仕組みが必要である。 図4の例では、NAT機能によってブラウザ2のIPアドレス〈p〉が〈g2〉に変換されている。その場合、ブラウザ1上のAPは、通信相手のIPアドレスとして、〈p〉ではなく〈g2〉を用いなければならない。 A社が導入するAPは、NAT機能によって変換されたIPアドレスを、STUNサーバから得る仕様となっている。図4の例では、ブラウザ2上のAPがSTUNプロトコルを用いてSTUNサーバ1、2から〈g2〉を得て、それをブラウザ1上のAPに通知する。 STUNプロトコルの概要は次のとおりである。 ・STUNクライアントは、STUNサーバへBindingリクエストを送る。 ・STUNサーバは、受け取ったIPパケットのヘッダから送信元のIPアドレスとポート番号を取り出し、Bindingレスポンス中のデータに格納して返す。 ・(e)STUNクライアントは、Bindingレスポンス中のデータから、自分とSTUNサーバ間のNAT機能の有無を知り、NAT機能が介在する場合には、そのデータからNAT機能が変換した自分のIPアドレスを得る。 B君は、STUNサーバへのアクセスから音声、ビデオ、データなどの交換までのAP間通信の概要をまとめた。B君がまとめたAP間通信の概要を、図5に示す。 図5 AP間通信の概要 APをダウンロードしたブラウザは、図5中の①~③でNAT機能を経由した最適ルートを確立する(以下、ホールパンチという)。ホールパンチの概要を次に示す。 ①、①' APはSTUNサーバ1、2にアクセスし、NAT機能が介在する場合の変換後のブラウザのIPアドレスを取得する。 ② APは、SDP(Session Description Protocol)オブジェクトを使って、①、①'で取得したIPアドレスとブラウザ自身のIPアドレスを、通信相手のAPへ通知する。その際、ブラウザ1、2とWebサーバ1、2間にHTTPSが使われる。 ③ APは、通知されたIPアドレスを宛先IPアドレスにして通信相手との通信を試み、相互に通信が成功した場合に、その宛先IPアドレスの組合せを最適ルートとする。 (f)図4のAP間通信は、このようにして確立した最適ルートを使っている。 なお、ホールパンチには、ブラウザのIPアドレスとNAT機能の変換ルールが、それぞれ一定時間変わらないという前提条件が必要である。例えば、図4中の〈p〉と〈g2〉は、AP間通信の間、関連付けられている必要がある。また、IPアドレスだけではなくポート番号の考慮も必要である。 B君は、AP間通信においてAPが使用するポート番号はあらかじめ決められていること、及びSTUNサーバを図3のネットワーク内に適切に配置することによって、ホールパンチがLBのNAT機能に対して有効に働くことをベンダに確認した。そして、(g)片方のISPが障害の場合にも利用できるように、STUNサーバのインタフェース(図3中のA、B)を、図3中の適切なスイッチに接続することにした。 次に、B君は、A社のマルチホーミング運用によって、図5中の通信がISP1とISP2に負荷分散されるかどうかを検討した。そして、図5から、データ量が多い④に用いられるISPは、【エ】が【オ】をアクセスするときのLBの振分け結果によって決まることを確認し、負荷分散が行われると判断した。 〔ブラウザを使った音声電話の通信〕 ブラウザを使った音声電話の通信では、社外のブラウザ上で動作するAPがIP-PBXを介して社内のIP電話機と通信を行う。 B君はIP-PBXのベンダからIP-PBXのWebRTC機能の情報を入手し、通信方式を検討した。B君が考えた、社外のAPから社内のIP電話機への通信の概要を、図6に示す。 図6 社外のAPから社内のIP電話機への通信の概要 図6中の通信の概要は、次のとおりである。 ・APは、通信プロトコル【カ】を使ってIP-PBXへアクセスし、①-1と①-2によって、通信プロトコルを【キ】に切り替え、切り替えた通信プロトコルの上でSIPプロトコルに基づくシグナリングを行う。 ・IP-PBXは、2組のB2BUA(Back-to-Back User Agent)として動作する。(h)インターネット側の二つのUA(User Agent)には、それぞれグローバルIPアドレスを割り当てる。 ・IP-PBXはSession Border Controllerとして動作し、グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスを変換する。 ・(i)IP-PBXのLANインタフェース(図3中のC、D)を追加し、図3中の適切なスイッチと接続する。 ・図6中の通信の前に、【ク】のFQDNに関する【ケ】クエリが、APから【コ】へ発行されることによって、図6中のAPとIP-PBX間の通信はISP1とISP2に負荷分散される。 〔移行計画〕 情報システム部では、保守などでサービス停止の可能性がある場合には、サービス停止時間を関係部署へ連絡することになっている。また、連絡したサービス停止時間内に保守を終えてサービスを再開できるように、部内で作業計画を十分にレビューした上で保守を行う運用ルールも設けられている。 B君は、今回の機能拡張に関して、サービス停止時間を見積もりながら、利用者への影響が極力小さくなるような移行を考えた。ここで、サービス停止時間とは、切替作業、切替作業後の動作確認及び問題発生時の【サ】に要する時間の合計である。 B君が作成したネットワークの移行計画案を、図7に示す。 図7 ネットワークの移行計画案 ネットワーク移行のための切替えは2段階で行う。図7中の切替1と切替2について、B君は次のように考えた。 (切替1について) ・LBの設定は、切替1で全ての定義を盛り込み、その後の変更を不要にする。例えばDNS機能については、新たなネットワーク構成に必要な次のAレコードを全て設定する。 -(j)Webサーバ1とWebサーバ2に関する四つのAレコード -(k)APが名前解決しなければならないFQDNに関するAレコード(AP内の定義には、IPアドレスではなく、FQDNを用いることにする。) ・FWのフィルタリング変更は、中間のネットワーク構成の通信に関して変更する。 ・次の点を考慮し、切替1のサービス停止時間は2時間とする。 -(l)機器の変更は、あらかじめ2通りの定義ファイルをもたせておき、定義ファイルを指定した再起動によって行う。 -約1時間、一部の利用者に情報システムを利用してもらい、(m)3種類の通信を発生させて、動作の正常性を確認する。 -(n)ドメイン登録業者に依頼する定義変更に関しては、情報システム部が正常性を確認する。利用者サービスへ直接影響しないので、その作業はサービス停止時間には含まない。 (切替2について) ・(o)FWのフィルタリング変更は、新たなネットワーク構成の通信に関して変更する。 ・機器の変更と動作の正常性確認を含めた切替2のサービス停止時間について、IP-PBXのベンダに見積りを依頼する。 B君は、検討結果をまとめ、情報システム部長に報告した。その後、顧客システムの機能拡張のプロジェクトが発足し、B君はネットワークチームのリーダとして参画することになった。 設問1〔現行ネットワーク構成〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の【ア】~【ウ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線(a)について、送信元NAPTが同時に処理できるTCPコネクション数の上限を答えよ。ここで、2¹⁶=65、536である。 (3)本文中の下線(b)について、DNS機能以外のFWの設定変更内容を二つ挙げ、それぞれ20字以内で答えよ。 設問2〔マルチホーミング〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)本文中の下線(c)について、現行のグローバルIPアドレスと追加するグローバルIPアドレスとの違いを20字以内で述べよ。 (2)本文中の下線(d)において、通信の行きと戻りが同じISPではない場合の問題を、社外からWebサーバへのアクセスを例に、IPアドレスという用語を用いて40字以内で述べよ。 設問3〔ブラウザを使ったビデオ電話の通信〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の下線(e)について、STUNクライアントはどのようにしてNAT機能の有無を判定するかを、50字以内で述べよ。 (2)本文中の下線(f)について、図4の通信のために、ブラウザ2がSDPオブジェクトに格納する二つのIPアドレス候補を、図4中の字句を用いて答えよ。 (3)本文中の下線(g)の接続先を、表2中のVLAN名でそれぞれ答えよ。 (4)本文中の【エ】、【オ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問4〔ブラウザを使った音声電話の通信〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の【カ】、【キ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線(h)について、マルチホーミングのために、グローバルIPアドレスをどのように割り当てるかを、40字以内で述べよ。 (3)本文中の下線(i)の接続先を、表2中のVLAN名でそれぞれ答えよ。 (4)本文中の【ク】~【コ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問5〔移行計画〕について、(1)~(7)に答えよ。 (1)本文中の【サ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線(j)の四つのAレコードに記述されている、FQDNとグローバルIPアドレスの数をそれぞれ答えよ。 (3)本文中の下線(k)のFQDNに対応する機器名を、全て答えよ。 (4)本文中の下線(l)について、2通りの定義ファイルが必要な機器名を答えよ。 (5)本文中の下線(m)の3種類の通信を、それぞれ20字以内で答えよ。 (6)本文中の下線(n)の確認内容を、30字以内で述べよ。 (7)本文中の下線(o)のフィルタリング変更について、切替2で許可する通信を全て挙げ、図5中の記号(①、①'、②~④)を用いて答えよ。
図1 A社の現行情報システムの概要。外出先社員、施主、A社の各部門、データセンタ、コールセンタ間のブラウザ通信と電話通信の構成を示す図。
図1 A社の現行情報システムの概要。外出先社員、施主、A社の各部門、データセンタ、コールセンタ間のブラウザ通信と電話通信の構成を示す図。
図2 A社の現行ネットワーク構成(抜粋)。ISP1、L2SW1、FW、L2SW9、Webサーバ、IP-PBX、L3SW1、イントラネットなどの現行構成を示すネットワーク図。
図2 A社の現行ネットワーク構成(抜粋)。ISP1、L2SW1、FW、L2SW9、Webサーバ、IP-PBX、L3SW1、イントラネットなどの現行構成を示すネットワーク図。
表1 図2中のスイッチに定義された現行IPアドレス空間。現行ネットワークのスイッチ、VLAN名、IPアドレス空間、用途を一覧化した表。
表1 図2中のスイッチに定義された現行IPアドレス空間。現行ネットワークのスイッチ、VLAN名、IPアドレス空間、用途を一覧化した表。
図3 A社の新ネットワーク構成(抜粋)。ISP1とISP2をLBで束ね、FW、Webサーバ、STUNサーバ、IP-PBXなどを接続した新構成を示す図。
図3 A社の新ネットワーク構成(抜粋)。ISP1とISP2をLBで束ね、FW、Webサーバ、STUNサーバ、IP-PBXなどを接続した新構成を示す図。
表2 図3中のスイッチに定義された新IPアドレス空間。新ネットワークのスイッチ、VLAN名、IPアドレス空間、用途を一覧化した表。
表2 図3中のスイッチに定義された新IPアドレス空間。新ネットワークのスイッチ、VLAN名、IPアドレス空間、用途を一覧化した表。
図4 NAT機能が介在する場合のAP間通信の例。ブラウザ1とブラウザ2がNAT機能を介してIPパケットを交換する際の送受信元・宛先IPアドレスの変換を示す図。
図4 NAT機能が介在する場合のAP間通信の例。ブラウザ1とブラウザ2がNAT機能を介してIPパケットを交換する際の送受信元・宛先IPアドレスの変換を示す図。
図5 AP間通信の概要。ブラウザ間でSTUNサーバへのアクセス、SDP交換、最適ルート決定、音声・ビデオ・データ交換を行う流れを示す図。
図5 AP間通信の概要。ブラウザ間でSTUNサーバへのアクセス、SDP交換、最適ルート決定、音声・ビデオ・データ交換を行う流れを示す図。
図6 社外のAPから社内のIP電話機への通信の概要。ブラウザ、IP-PBX、IP電話機間でHTTPからWebSocketへ切替え、SIPシグナリングと音声データ交換を行う手順図。
図6 社外のAPから社内のIP電話機への通信の概要。ブラウザ、IP-PBX、IP電話機間でHTTPからWebSocketへ切替え、SIPシグナリングと音声データ交換を行う手順図。
図7 ネットワークの移行計画案。現行、中間、新ネットワーク構成と、切替1・切替2で実施する機器設置や設定変更の作業を示す計画図。
図7 ネットワークの移行計画案。現行、中間、新ネットワーク構成と、切替1・切替2で実施する機器設置や設定変更の作業を示す計画図。
解き方のヒントを見る

判断の前提となる条件を整理する

検討を始める前に、与えられた情報のうち、明示されている条件と、自分で補っている前提を区別しましょう。結論を急がず、判断の根拠に使う条件がどこに示されているかを確認することが大切です。

この問題で問われていること

この課題では、判断に使う前提が与えられた条件に基づいているかに注目してください。普段の知識から当然だと思ったことも、今回の条件として明示されているかを確かめ、無意識の補足を見直しましょう。

視点

明示された条件と、経験や知識から補った前提は区別して扱います。検討中に「当然こうなっている」と感じたら、その前提の根拠が与えられた情報の中にあるかを立ち止まって確認しましょう。

確認ポイント

  • 判断に使っている条件の出所を確認したか
  • 明示された条件と自分の推測を区別したか
  • 当然だと考えて補った前提がないか
正解と解説を見る

解説

本問は、二つのISPを利用した負荷分散と、WebRTCによるビデオ・音声通信を既存システムへ追加する事例です。アドレス変換と名前解決を通信経路に沿って読み解き、段階的な移行に必要な設定と動作確認まで導くことが要点です。

問題の全体像

A社は、施工情報管理、コールセンタ、社内からのインターネットアクセスを運用しています。これに、ISP接続の二重化と、ブラウザを使ったビデオ・音声電話を追加します。公式の出題趣旨では、従来のネットワーク技術の知識を基にWebRTCを理解し、実システムの拡張計画へ応用する力を問うとされています。各通信の経路、NAT前後のアドレス、DNSの役割を整理し、最後に移行時の設定と確認内容へ結び付ける問題です。

設問1(1)(ア)

着目するのは、社外のブラウザ1からWebサーバへのアクセスで、宛先NATを行う前のアドレス空間です。変換前はインターネットから到達できるグローバルIPアドレスを使います。表1では、ISP1接続用のvlan1に対応する空間がip1/29なので、公式解答例では「ip1/29」です。

設問1(1)(イ)

宛先NAT後の宛先は、実際のWebサーバのIPアドレスです。図2ではWebサーバ1、2がL2SW9の先にあり、表1ではそのDMZ用アドレス空間が10.0.9.0/24と示されています。したがって、公式解答例では「10.0.9.0/24」です。公開用アドレスとサーバ自身のアドレスを区別します。

設問1(1)(ウ)

本文では、社内からインターネットへの通信に送信元NAPTを使い、送信元IPアドレスともう一つの情報を動的に変換するとあります。複数の通信を変換後のアドレスで識別するため、送信元ポート番号も変換します。公式解答例では「送信元ポート番号」です。

設問1(2)

下線(a)では、NAPTの変換後に使うグローバルIPアドレスが二つあるとされています。ポート番号は16ビットなので、本問の上限計算では一つのIPアドレスにつき2¹⁶=65、536通りを使います。二つのアドレス分を合計すると2×65、536=131、072となり、公式解答例も「131、072」です。

設問1(3)

新しいWebサーバを追加すると、DNSへの登録だけでなく、社外からそのサーバへ届くための設定も必要です。本文には、FWが通信を限定して許可し、公開用アドレスとサーバのアドレスを1対1の宛先NATで対応付けるとあります。公式解答例の要点は、通信許可と宛先NATの追加です。各20字以内では「許可する通信を追加する」「宛先NATの定義を追加する」と整理できます。

設問2(1)

本文では、送信先のISPから貸与されたグローバルIPアドレスを使うとされています。現行の公開用アドレスはISP1側のもので、追加するアドレスはISP2側のものです。比較するのはサーバや用途ではなく、アドレスの払い出し元です。公式解答例では「異なるISPから払い出されている」となっており、この要点を20字以内で述べます。

設問2(2)

例えばISP1側の公開用IPアドレスへ届いた要求に対し、応答をISP2経由にすると、本文の変換規則では送信元がISP2側のIPアドレスになります。公式解答例が示す問題は、要求先と応答元のIPアドレスが一致しないことです。40字以内では「応答の送信元IPアドレスが行きの宛先IPアドレスと異なる」と整理できます。採点講評では、IP層とTCP層の動作を混同せず、正確に記述することが求められています。

設問3(1)

STUNサーバは、受信したパケットの送信元IPアドレスをBindingレスポンスのデータに入れて返します。クライアントは、その値と自分自身のIPアドレスを比較すれば、アドレスが変換されたか判断できます。公式解答例もこの比較を挙げています。50字以内では「Bindingレスポンス内のIPアドレスと自身のIPアドレスを比較する」とまとめられます。

設問3(2)

本文のホールパンチ手順②では、STUNで取得した変換後のIPアドレスと、ブラウザ自身のIPアドレスをSDPオブジェクトで通知するとあります。図4のブラウザ2では、自身のアドレスが〈p〉、NAT後のアドレスが〈g2〉です。公式解答例では「〈p〉」「〈g2〉」の二つです。候補を通知した後、相互に通信できる組合せを選びます。

設問3(3)(A)

STUNサーバは、LBのNATを通過した通信の送信元アドレスを観測できる位置に置きます。また、片方のISPが故障しても利用できるよう、二つのサーバを別々のISP接続用LANへ配置します。表2ではISP1接続がvlan1なので、公式解答例ではAを「vlan1」としています。A、Bの割当ては順不同ですが、両方のVLANを使う必要があります。

設問3(3)(B)

AとBを同じISP接続用LANに置くと、そのISPが故障したときに両方のSTUNサーバへのアクセスが影響を受けます。表2ではISP2接続用のLANがvlan2なので、公式解答例ではBを「vlan2」としています。Aをvlan1、Bをvlan2とすることで、二つのISP側へ配置を分けます。公式解答例では、この組合せは順不同です。

設問3(4)(エ)

図5では、社内のブラウザ2が①′でSTUNサーバへアクセスし、そのときのNAT後のアドレスを相手へ通知します。このアドレスが③の経路確認と④のデータ交換に使われるため、最初のLBの振分けが後続の通信経路に結び付きます。公式解答例では、アクセスする主体であるエは「ブラウザ2のAP」です。

設問3(4)(オ)

経路を決める契機は、図5の①′に当たるSTUNサーバへのアクセスです。ブラウザ2のAPは、この通信でLBが選んだISP側の変換後アドレスを取得し、相手へ通知します。本文ではNATの対応関係が通信中に維持されることも前提とされています。したがって、公式解答例ではオは「STUNサーバ」です。

設問4(1)(カ)

図6の①-1には「HTTP GET Upgrade:websocket」、①-2には「101 Switching Protocols」とあります。最初の要求はHTTPによって送られ、その応答を受けて別のプロトコルへ切り替えます。したがって、公式解答例ではカは「HTTP」です。後続のREGISTERやINVITEがSIPのメッセージであることと、最初に使う通信プロトコルを区別します。

設問4(1)(キ)

図6のUpgrade要求には、切替え先としてwebsocketが明記されています。101応答によって切替えが成立し、その後はWebSocket上でSIPに基づくシグナリングを行います。公式解答例ではキは「WebSocket」です。採点講評でも、図6とHTTPの一般知識から推論できる設問であり、SIPそのものを答えた誤答が多かったとされています。

設問4(2)

インターネット側の二つのUAを同じISPのアドレスだけで公開すると、二つのISPを使う構成になりません。それぞれを別のISP側から到達できるようにします。公式解答例の要点は、ISP1とISP2の払い出しアドレスを一つずつ割り当てることです。40字以内では「ISP1とISP2のグローバルIPアドレスを一つずつ割り当てる」とまとめられます。

設問4(3)(C)

本文では、インターネット側のUAへグローバルIPアドレスを直接割り当て、IP-PBX自身がグローバルとプライベートのアドレスを変換します。追加するインタフェースはISP接続用LANへ接続します。表2ではISP1側がvlan1なので、公式解答例ではCは「vlan1」です。C、Dの割当ては順不同です。

設問4(3)(D)

二つ目の追加インタフェースは、もう一方のISP接続用LANへ接続します。表2ではL2SW2のISP2接続用LANがvlan2なので、公式解答例ではDは「vlan2」です。Cをvlan1、Dをvlan2とすることで、IP-PBXの二つのインターネット側UAを別々のISP側へ接続できます。公式解答例では順不同とされています。

設問4(4)(ク)

図6で、社外のAPが最初にアクセスする相手はIP-PBXです。その接続先をFQDNで名前解決し、二つのISP側のアドレスへ振り分けます。したがって、問い合わせ対象となるクは、公式解答例では「IP-PBX」です。WebサーバはAPの配布などに使われますが、ここで問われているのは音声電話の接続先です。

設問4(4)(ケ)

FQDNから接続先IPアドレスを取得するために発行するのは、DNSのクエリです。本文では、LBのDNSラウンドロビン機能によってISP1側とISP2側への通信を負荷分散します。公式解答例ではケは「DNS」です。音声電話のシグナリングを始める前に行う名前解決を問う空欄です。

設問4(4)(コ)

マルチホーミングの説明では、インターネット向けのDNS機能をFWからLBへ移すとあります。IP-PBXのFQDNについても、このDNS機能が二つのISP側のアドレスを返して負荷分散します。したがって、公式解答例ではコは「LB」です。構成変更後にDNS機能を担当する機器を確認します。

設問5(1)

本文のサービス停止時間は、切替作業と動作確認に加え、問題発生時の作業時間も含めて見積もるとされています。切替え後に問題が見つかった場合、元の構成へ戻してサービスを再開するための時間が必要です。公式解答例ではサは「切り戻し」です。成功した場合の作業時間だけでは、停止時間の見積りとして不十分です。

設問5(2)(FQDN数)

現行のWebサーバ1、2はDNSラウンドロビンで負荷分散しています。同じサービスのFQDNに対して複数のアドレスを返す仕組みなので、サーバごとに別のFQDNを数えるのではありません。新構成では二つのISP側のアドレスを含めて四つのAレコードを設定しますが、公式解答例ではFQDN数は「1」です。

設問5(2)(グローバルIPアドレス数)

Webサーバは二台あり、宛先NATでは公開用アドレスと各サーバのアドレスを1対1で対応付けます。マルチホーミング後は、各サーバについてISP1側とISP2側の公開用アドレスが必要です。二台×二つのISPで四つとなるため、公式解答例ではグローバルIPアドレス数は「4」です。サーバ数と公開用アドレス数を分けて数えます。

設問5(3)

APが接続する相手を、ビデオ電話と音声電話の説明から拾います。ビデオ電話ではSTUNサーバ1、2へアクセスしてNAT後のアドレスを取得し、音声電話ではIP-PBXへアクセスします。WebサーバのAレコードは下線(j)で別に扱われています。公式解答例では「IP-PBX、STUNサーバ1、STUNサーバ2」の三つです。

設問5(4)

切替1では中間構成に必要な通信を許可し、切替2では新構成に必要な通信を許可します。この二段階でフィルタリング定義を変更する機器はFWです。一方、LBは切替1で新構成に必要な定義を全て設定し、その後の変更を不要にすると明記されています。したがって、公式解答例では「FW」です。

設問5(5)(1)

図7の切替1では、LBとISP2を追加して、既存の施工情報管理をマルチホーミング化します。社外からのアクセスでは、公開用アドレスへの到達、宛先NAT、FWの通信許可を確認できます。公式解答例の一つ目は「社外からWebサーバへのアクセス」で、20字以内の答案としてこの通信の方向と相手を示します。

設問5(5)(2)

施工情報管理は、社外だけでなく社内の社員も利用します。図2では、社内のブラウザ2からWebサーバへ向かう通信もFWを経由するため、設定変更後も利用できることを確認します。公式解答例の二つ目は「社内からWebサーバへのアクセス」です。社外からの確認だけで済ませず、社内からの経路も検証します。

設問5(5)(3)

切替1では、社内からインターネットへの通信もマルチホーミング化され、NAT機能がFWからLBへ移ります。そこで、社内のブラウザから外部サイトへアクセスし、変更した経路と送信元NAPTの動作を確認します。公式解答例の三つ目は「社内からインターネットへのアクセス」です。三つの確認対象を、通信元と通信先で整理します。

設問5(6)

ドメイン登録業者への依頼は、ISP2経由でもLBのDNS機能を利用できるようにする定義の追加です。したがって、確認対象はWeb画面の表示ではなく、新しいISP側からのDNS機能です。公式解答例では「ISP2を経由した外向きDNS機能を確認する」とされています。30字以内では、ISP2経由であることとDNS機能の確認であることを押さえます。

設問5(7)

図5の通信を図3の配置に重ね、FWを通過する新規通信を選びます。社内のブラウザ2からSTUNサーバへの①′、社外のブラウザ1との経路確認③、データ交換④はFWを通過するため、追加の許可が必要です。①は社外のブラウザとISP側のSTUNサーバ間の通信で、FWを通過しません。②は既存のWebサーバへのHTTPS通信として許可済みです。公式解答例では「①′、③、④」です。

学習のポイント

NATとNAPTの違い、STUNで取得するアドレス、DNSラウンドロビン、FWを通過する通信の判別を重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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