NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 メールサーバの更改に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 D社では、老朽化したメールサーバの更改を計画している。D社の現行ネットワーク(以下、現行NWという)の構成を、図1に示す。 図1 現行NWの構成(抜粋) 〔現行NWの仕様〕 現行NWの仕様を次に示す。 (1)D社のプライマリDNSはDNS1である。DNS2は非公開のD社内ゾーン情報だけを保有するセカンダリDNSである。DNS3は公開ゾーン情報だけを保有するセカンダリDNSである。プライマリDNSは、セカンダリDNSとだけ通信を行う。ゾーン情報の更新時には、プライマリDNSがセカンダリDNSへ更新通知(NOTIFYメッセージ)を送信する。これを契機として、【a】が行われる。 (2)社員のメールボックス(以下、MBOXという)は、MSV1~3に分散収容しており、メールアドレスとそのMBOXを収容するMSVとの対応を、LDAPに登録している。MSV1~3は、LDAPを参照して、受信したメールの宛先メールアドレスに対応するMBOXが収容されているMSVを決定し、他のMSVへの転送、又は自分のMBOXへの格納を行う。この動作をメールルーティングと呼ぶ。 (3)①MGWからMSVへのメール転送は、DNSラウンドロビンを用いても、負荷の偏りが生じやすい。また、社外から届くメールを負荷分散しなくても、MSVの性能に問題がないので、MGWの転送先はMSV1に固定している。 (4)MGW1、2とも正常動作時には、社内から社外へのメールはMGW1が、社外から社内へのメールはMGW2が中継先として選択される。一方のMGWが停止しているときは、他方のMGWが、両方向のメールの中継先に選択される。 (5)FWによって、DMZ上の機器とMSV及びDNSとの間で許可されている通信を、表1に示す。 表1 DMZ上の機器とMSV及びDNSとの間で許可されている通信 〔新メールサーバの負荷分散の仕様〕 更改対象はMSVであり、MGWは更改しない。更改によって新規に設置されるMSV(以下、新MSVという)は2台である。更改後のネットワーク(以下、更改後NWという)における、社内-社外間の正常時のメール転送経路を図2に示す。 図2 社内-社外間の正常時のメール転送経路 図2のメール転送の負荷分散と冗長化の仕様を、次に示す。 (1)MBOXは新MSV1、2の共用ストレージに配置する。どちらの新MSVからも全てのMBOXにアクセスできる。 (2)新MSV1、2とも正常時には、PCからのアクセスが分散し、一方の故障時には他方にだけアクセスが行われるように、VRRPとDNSラウンドロビンを併用する。【d】と【e】に、VRRPを2グループ設定する。それぞれのグループをVRRPg1、VRRPg2と呼ぶ。 ・新MSV1の実IPアドレスはIP1、新MSV2の実IPアドレスはIP2、VRRPg1の仮想IPアドレスはVIP1、VRRPg2の仮想IPアドレスはVIP2である。 ・VRRPg1は【d】の優先度を高く設定し、VRRPg2は【e】の優先度を高く設定する。 ・新MSV1のホスト名はmsv1、新MSV2のホスト名はmsv2、新MSV1、2共通のホスト名はmsvcである。 ・PCのメールソフトのメール送受信サーバには、msvcを設定する。 (3)MGWから新MSV1、2へのメール転送は、正常時には新MSV1に転送されるように、転送先をVIP1に固定する。新MSV1の故障時には、VRRPによって転送先が切り替わる。 (4)メールの転送方向に応じたMGWの選択方法は、〔現行NWの仕様〕の(4)から変更しない。 〔MSVの移行〕 現行NWから更改後NWへの移行期間中のネットワーク(以下、移行中NWという)の構成を、図3に示す。 図3 移行中NWの構成(抜粋) 図3から旧MSV1~3と、それらに接続したストレージを撤去したものが、更改後NWの構成となる。 現行NWから移行中NWへの変更点を、次に示す。 ・旧MSVと新MSVとを並行稼働させる。すなわち、旧MSV、新MSVとも、社内・社外宛てのメール送信、及び社内・社外からのメール受信を可能にする。 ・②新MSVも、旧MSVと同様に、LDAPの情報を用いてメールルーティングを行う。 MSVの移行で、MBOXを新MSVのものに変更するが、旧MSV1~3のMBOX内のメールを移動や複製はしない。 移行中NWにおける、MSV移行工程の概要を、表2に示す。 表2 MSV移行工程の概要 以上の計画に基づいて、D社のメールサーバ移行は実施され、新サーバへの更改は完了した。 設問1 〔現行NWの仕様〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の【a】及び表1中の【b】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)表1中の【c】に入れる適切な機器名を、図1中の機器名を用いて答えよ。 (3)表1中の項番4で許可されている通信では、どのような情報が送信されるか。15字以内で答えよ。 (4)本文中の下線①は、送信元によって選択される宛先に偏りが生じやすく、その偏りが長時間継続しやすいからである。宛先に偏りが生じやすくなる条件を15字以内で答えよ。また、その偏りが継続しやすい理由を40字以内で述べよ。 設問2 〔新メールサーバの負荷分散の仕様〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)本文中の【d】、【e】に入れる適切な機器名を、図2中の機器名を用いて答えよ。 (2)本文で定義されている仕様において必要な、社内ゾーン情報に定義する2件のAレコードについて、そのホスト名とIPアドレスの組合せを答えよ。 設問3 〔MSVの移行〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1)現行NWから移行中NWへの変更において、DNSとMGW以外で、設定変更が必要な現行NWの機器名を、図3中の機器名を用いて答えよ。また、その設定変更内容を40字以内で述べよ。 (2)本文中の下線②が必要な理由は、移行期間中に、どのような送信元と宛先のメールが送受信されるからか。その組合せを一つ答えよ。 (3)表2中の移行工程におけるメールの転送経路の例を、次の(ア)、(イ)に示す。“旧MSV”、“新MSV”、“→”を用いて、経路を完成させよ。 (ア)送信元が社外、宛先が未変更社員 送信元のメールサーバ → MGW → 【A】 (イ)送信元が未変更社員、宛先が社外 送信元PC → 【B】 → MGW → 宛先のメールサーバ (4)表2中の下線③では、LDAPのどのような情報がどのように変更されるか。40字以内で述べよ。
図1 現行NWの構成(抜粋)。インターネット、DNS、LDAP、FW、L3SW、メールサーバ、メール中継サーバ、PCなどから成る現行ネットワークの構成図。
図1 現行NWの構成(抜粋)。インターネット、DNS、LDAP、FW、L3SW、メールサーバ、メール中継サーバ、PCなどから成る現行ネットワークの構成図。
表1 DMZ上の機器とMSV及びDNSとの間で許可されている通信。DMZ上のMGWやDNSと、MSVおよびDNSとの間で許可される通信について、送信元、宛先、プロトコルを整理した表。
表1 DMZ上の機器とMSV及びDNSとの間で許可されている通信。DMZ上のMGWやDNSと、MSVおよびDNSとの間で許可される通信について、送信元、宛先、プロトコルを整理した表。
図2 社内-社外間の正常時のメール転送経路。MGW1とMGW2、新MSV1と新MSV2、共用ストレージ、PC間の社内外メール転送経路を示す構成図。
図2 社内-社外間の正常時のメール転送経路。MGW1とMGW2、新MSV1と新MSV2、共用ストレージ、PC間の社内外メール転送経路を示す構成図。
図3 移行中NWの構成(抜粋)。旧MSVと新MSVを並行稼働させる移行中ネットワークの構成図で、共用ストレージや既存のDNS、FW、MGWも示す。
図3 移行中NWの構成(抜粋)。旧MSVと新MSVを並行稼働させる移行中ネットワークの構成図で、共用ストレージや既存のDNS、FW、MGWも示す。
表2 MSV移行工程の概要。開始工程、移行工程、終了工程に分けて、メールサーバ移行時の機器設定、利用者設定、LDAP変更、旧MSV停止を整理した表。
表2 MSV移行工程の概要。開始工程、移行工程、終了工程に分けて、メールサーバ移行時の機器設定、利用者設定、LDAP変更、旧MSV停止を整理した表。
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移行設計を整理する一つの視点

メール基盤の更改では、個別の設定値を先に決めず、現状の依存関係と変更の影響範囲を整理し、切替前後で確認すべき観点を時系列に並べて考えることが重要です。関係者間の前提もそろえます。

この問題で問われていること

この問題では、構成要素ごとの細部よりも、切替に伴って名前解決、到達性、継続運用へどのような影響が波及するかを、事前・切替時・切替後の順に確認する観点へ集中してください。

視点

変更対象と周辺の依存関係を分けて書き出し、利用者への影響、障害時の戻し方、確認の担当とタイミングを同じ枠組みで比較すると、設計上の抜けを見つけやすくなります。

確認ポイント

  • 切替前後で確認する対象と順序が整理されているか
  • 通常時だけでなく障害や想定外の状況も検討に含めているか
  • 関係者が同じ前提で影響範囲と確認方法を共有できるか
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解説

老朽化したメールサーバを、DNS・FW・VRRP・LDAPを活用して負荷分散と冗長化を実現しながら、新旧サーバを並行稼働させて移行する問題です。

問題の全体像

D社は、旧MSVで運用しているメールサービスを2台の新MSVへ更改する。現行NWではDNSのプライマリ・セカンダリ構成、MGWからMSVへのSMTP転送、LDAPによるメールルーティングが使われている。更改後は、共用ストレージ、VRRP、DNSラウンドロビンによって新MSVの負荷分散と冗長化を行い、移行期間中は旧MSVと新MSVを並行稼働させる。出題の狙いは、メール、DNS、FW、冗長化、利用者設定、LDAPをサービス全体として捉え、適切な通信経路と移行手順を設計する力を問うことです。

設問1(1)(a)

本文では、プライマリDNSがセカンダリDNSへNOTIFYメッセージを送信し、それを契機に処理が行われるとある。DNSのゾーン情報をセカンダリDNSへ複製する処理なので、公式解答例は「ゾーン転送」としている。

設問1(1)(b)

表1の項番1と2は、MGWとMSVの間でメールを転送する通信です。メールサーバ間の転送に用いるプロトコルを問うため、公式解答例は「SMTP」としている。

設問1(2)

DNS3は公開ゾーン情報だけを保持するセカンダリDNSであり、DNS1はプライマリDNSです。DNS3がDNS1から公開ゾーン情報を取得するため、宛先は図1の「DNS1」となる。

設問1(3)

項番4は、DNS1からDNS3へのDNSプロトコル通信です。DNS3が公開ゾーン情報を保持するため、送信される情報は公式解答例の「公開ゾーン情報の更新通知」となる。15字以内なので、公開ゾーン情報と更新通知の関係を簡潔に書く。

設問1(4)(条件)

DNSラウンドロビンでは、問い合わせ元ごとにDNSキャッシュが宛先を保持する。送信元が少数だと、選択される宛先の数も少なくなり、負荷の偏りが生じやすい。公式解答例は条件を「送信元が少数の場合」としている。

設問1(4)(理由)

一度選ばれた宛先は、送信元側のDNSキャッシュが生存している間、再問い合わせなしに使われ続ける。そのため、同じMSVへの転送が長時間継続する。公式解答例も、DNSキャッシュの生存中は宛先を変えない点を理由としている。

設問2(1)(d)

VRRPg1は新MSV1を通常時の優先側にし、VRRPg2は新MSV2を通常時の優先側にすることで、2台へのPCアクセスを分散する。したがって【d】は公式解答例の「新MSV1」となる。

設問2(1)(e)

VRRPg2では新MSV2の優先度を高くし、VIP2を通常時に新MSV2が保持する。これによりVRRPg1と異なるサーバへアクセスを分散できるため、【e】は「新MSV2」となる。

設問2(2)

PCは共通ホスト名msvcを使用し、DNSラウンドロビンで2件のAレコードを使い分ける。各レコードは同じホスト名msvcに、それぞれのVRRP仮想IPであるVIP1とVIP2を対応付ける。

設問3(1)(機器名)

図3では新MSVが追加され、MGWから新MSVへメールを転送する必要がある。本文はDNSとMGWを除く機器を問うため、許可通信を制御する「FW」が該当する。

設問3(1)(設定変更内容)

移行中は旧MSVと新MSVの双方がメール送受信を行うため、FWで新MSVとMGWの間のSMTP通信を双方向に許可する。公式解答例もこの通信許可を示している。

設問3(2)

移行期間中は、メールサーバ変更済み社員と未変更社員が混在し、社外との送受信も継続する。したがって、例えば送信元を変更済み社員または社外、宛先を未変更社員とする組合せが成立する。新MSVもLDAPを参照しないと、宛先が旧MSVにあるメールを適切に旧MSVへ転送できない。

設問3(3)(ア)

社外から未変更社員へのメールは、MGWから通常の新MSVへ入り、新MSVがLDAPを参照して宛先のMBOXを収容する旧MSVへルーティングする。したがって経路は「新MSV → 旧MSV」となる。

設問3(3)(イ)

未変更社員のPCは、メールソフトの設定が旧MSVのままなので、まず旧MSVへ送信する。その後、旧MSVからMGWを経由して社外へ送信されるため、【B】は「旧MSV」となる。

設問3(4)

移行工程では、申請を受けた社員について、LDAPに登録されたメールアドレスと収容MSVの対応を変更する。公式解答例は、申請者のメールアドレスに対応するメールサーバを新MSVへ変更するとしている。

学習のポイント

DNSの役割分担とメール移行時の経路設計を、図と本文から正確に読み取る力を身に付ける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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