NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ

平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅱ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 WAN回線の冗長化設計に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 Y社は,従業員400名の医療機器販売会社で,東京本社の他に名古屋,大阪,福岡に営業所がある。本社と営業所間は,広域イーサネットサービス網(以下,広域イーサ網という)で接続されている。本社で各種のサーバを運用し,営業所は,広域イーサ網経由でサーバにアクセスしている。また,本社及び営業所からのインターネットアクセスは,本社のプロキシサーバ経由で行っている。現在のY社のネットワーク構成を図1に示す。 図1 現在のY社のネットワーク構成 このたび,Y社では,WAN回線の可用性向上を目的に,ネットワーク再構築プロジェクトを発足させた。プロジェクト責任者には情報システム部のM課長が任命され,M課長は,ネットワーク担当のN主任とJ君をプロジェクトメンバに指名し,新ネットワークの検討を指示した。その際,M課長が示した新ネットワークの要件を,次に示す。 ・インターネットVPNを新たに導入してWAN回線を冗長化し,アクセス先のサーバによって使用するWAN回線を分け,WAN回線を有効に活用すること ・本社のDMサーバ以外のサーバを,Z社のデータセンタに移設する。このとき,サーバのIPアドレスの変更が生じないようにすること N主任は,インターネットVPNと既設の広域イーサ網間でOSPFを稼働させれば,これらの要件を満たすことができると考えた。そこで,J君に,インターネットVPNの構築技術の検討を指示した。 〔インターネットVPNの構築技術の検討〕 J君はまず,インターネットVPNの構築に広く利用されているIPsecを調査し,その結果を次のとおり整理した。 (1) IPsecルータ ・IPsecで使用される認証方式,暗号化方式,暗号鍵などは,IPsecルータ同士によるIKE(Internet Key Exchange)のネゴシエーションによって,IPsecルータ間で合意される。この合意は,SA(Security Association)と呼ばれる。 ・SAの内容が確定すると,SAに関連付けされたSPI(Security Parameters Index)が,【ア】ビットの整数値で割り当てられる。SPIは,IPsec通信の各パケット中に挿入され,そのパケットに適用されたSAの識別キーとなる。 ・IPsecルータは,通信相手のIPsecルータにパケットを送信するとき,IPsec通信を行うか否か,IPsec通信を行うときはどのSAを使うかなど,当該パケットに施す処理を示したセキュリティポリシ(以下,SPという)を選択する。処理には,PROTECT(IPsecを適用して送信),BYPASS(IPsecを適用せずに送信),DISCARD(廃棄)の3種類がある。 ・SPを選択するキーを【イ】と呼び,IPアドレス,プロトコル,ポート番号などが利用される。SPは,SPデータベースで管理される。SPデータベースは経路表に似た構造をもっている。 ・IPsecルータは,通信相手のIPsecルータからパケットを受信すると,パケット中のSPIでSAを識別し,当該SAに関連する情報を取り出す。その情報を基に,受信したパケットを処理する。 (2) IPsecの通信 ・IPsecの通信手順は,図2のとおりである。 図2 IPsecの通信手順 ・IKEフェーズ1では,IKEフェーズ2で使用するISAKMP(Internet Security Association and Key Management Protocol)SA又はIKE SA(以下,両方をISAKMP SAという)に必要なパラメータの交換,鍵交換及び認証が行われる。IKEフェーズ1には,メインモードと【ウ】モードがある。メインモードでは3往復の通信が行われるが,【ウ】モードは1往復半の通信で完了する。IKEフェーズ1で決定されるパラメータを表1に示す。 表1 IKEフェーズ1で決定されるパラメータ(抜粋) ・IKEフェーズ2では,IPsec SAに必要なパラメータが決定される。IKEフェーズ2で決定されるパラメータを表2に示す。 表2 IKEフェーズ2で決定されるパラメータ(抜粋) ・IKEフェーズ2の通信は,IKEフェーズ1で確立したISAKMP SAを使って行われる。IKEフェーズ2では,1往復半の通信でIPsec SAを確立する。IPsec通信は,IKEフェーズ2で確立したIPsec SAを使って行われる。 ・IPsecは,暗号化機能とトンネリング機能をもち,通信相手のIPsecルータの認証,安全な鍵生成,転送データの暗号化,転送データの完全性の認証などを行う。 ・トンネリングは,インターネットのような共用ネットワーク上の2点間で,仮想の専用線を構築することである。トンネリングは,あるプロトコルのトラフィックを別のプロトコルでカプセル化することで実現する。 ・IPsecでは,ユニキャストのIPパケットをカプセル化して転送する。 調査の結果,(a)Y社で検討中のIPsecルータは,OSPFの通常の設定では,リンクステート情報の交換パケットをカプセル化できないので,J君は,IPsecによってインターネットVPNを構築したとき,OSPFを稼働することができないと考えた。静的経路制御でも広域イーサ網との間で負荷分散を行うことができるが,運用管理を容易にするためにOSPFを稼働させたい。 そこで,J君は,調査結果を基にN主任に相談したところ,“他のトンネリング技術についても調査するように”という指示を受けた。 〔トンネリング技術の調査〕 ネットワーク層のプロトコルをトンネリングするプロトコルには,GRE(Generic Routing Encapsulation)があり,データリンク層のプロトコルをトンネリングするプロトコルには,L2TP(Layer 2 Tunneling Protocol)がある。 J君が調査した結果,OSPFのリンクステート情報の交換パケットをGRE又はL2TPでカプセル化すれば,そのパケットはIPsecでカプセル化できるので,インターネットVPNでOSPFを稼働できることが分かった。 そこで,J君はまず,GREを調査した。 GREは,RFC 1701,RFC 2784で仕様が公開されている。GREは,ネットワーク層のプロトコルのパケットをカプセル化して転送する機能をもつ。GREでは,IPブロードキャストもIPマルチキャストパケットもカプセル化して転送できる。カプセル化とカプセル化の解除は,GREトンネリングを行う両端の機器で行われる。IPパケットがGREでカプセル化されたときのパケット形式を,図3に示す。 図3 IPパケットがGREでカプセル化されたときのパケット形式 IPパケットをGREでカプセル化すると,カプセル化された元のパケットの宛先への【エ】情報をインターネットがもたなくても,元のパケットによるエンドツーエンドの通信が可能になる。GRE利用時の通信例を図4に示す。 図4 GRE利用時の通信例 図3に示したカプセル化によって,図4中の,GREトンネルインタフェースのMTUは,イーサネットインタフェースのMTUよりも24バイト小さくなる。このとき,図4中のPC及びサーバのイーサネットインタフェースのMTUサイズを適切な値に変更することによって,パケットの【オ】を防げる。 次に,J君は,RFC 2661で仕様が公開されているL2TPを調査した。 L2TPは,PPPフレームをカプセル化して転送する機能をもつ。カプセル化とカプセル化の解除は,L2TPトンネリングを行うLAC(L2TP Access Concentrator)又はLNS(L2TP Network Server)の機能をもつ両端の機器で行われる。LACは,トンネリングを要求する機器で,LNSは受け入れる機器である。L2TPでカプセル化されたときのパケット形式を,図5に示す。 図5 L2TPでカプセル化されたときのパケット形式 L2TPを利用することによって,LAC機能を実装したPCは,LNS機能をもつVPN装置にインターネット経由で接続して,イントラネット内のサーバにリモートアクセスできる。PCがPPPoEでWANに接続する構成における,L2TP利用時の通信例を図6に示す。 図6 L2TP利用時の通信例 J君は,GRE及びL2TPの機能と動作については理解できたが,どちらのプロトコルを利用すべきか判断できなかったので,調査結果を基にN主任に相談した。N主任からは,“トンネリングプロトコルを使用する目的と,使用したときの影響の度合いを考慮して判断するように”という指示を受けた。 J君は,(b)GREを利用することにして,GRE over IPsecを稼働させる方法について検討した。 〔GRE over IPsecの稼働方法の検討〕 インターネットVPNではデータの暗号化が必要になるので,ESPを利用する。(c)通信モードは,トランスポートモードを選択する。そのときの,GRE over IPsecのパケット形式を図7に示す。 図7 GRE over IPsecのパケット形式 J君は,GRE over IPsecを稼働させたときのOSPFの通信の概要を図8にまとめた。 図8 GRE over IPsecを稼働させたときのOSPFの通信の概要 図7に示したように,GRE over IPsecを稼働させるとカプセル化のオーバヘッドが大きくなる。そこで,必要に応じてIPsecルータでMSS(Maximum Segment Size)を適切な値に書き換えるとともに,トンネルインタフェースに適切なMTUの値を設定する。 図8中のIPsecルータには,IPsec,GRE及びOSPFの設定を行う。PCとサーバからインターネットVPN向けに送信されるパケット,及びOSPFによってインターネットVPNに広告されるリンクステート情報には,GREによるカプセル化とIPsecによる暗号化を設定する。 J君は,GRE over IPsecの稼働方法をまとめた後に,WANの設計を行った。 〔WANの設計〕 現在使用中の広域イーサ網へのアクセス回線は,継続して使用する。本社とデータセンタ間は,10Mビット/秒の専用線を新たに導入して直接接続する。インターネットVPNのアクセス回線は,営業所に100Mビット/秒,データセンタに1Gビット/秒のものを新たに導入する。本社では,既設のインターネットアクセス回線をインターネットVPNのアクセス回線として転用する。データセンタには,インターネットアクセス用に,1Gビット/秒のアクセス回線を導入する。インターネットに公開されるDMZのサーバのグローバルIPアドレスは,FWの静的NAT機能によって,サーバに設定されているプライベートIPアドレスに変換される。J君が設計したWAN回線の構成を図9に示す。 図9 J君が設計したWAN回線の構成 図9中のIPsecルータとL3SWでOSPFを稼働させる。インターネットVPNは,データセンタと本社間,及びデータセンタと営業所間で設定する。 図9中の,本社,営業所及びデータセンタ内のL3SWとIPsecルータ間では,それぞれVRRPを稼働させる。OSPFのリンクステート情報の交換は,L3SWとIPsecルータのWANへのアクセス回線を接続するポートだけでなく,L3SWとIPsecルータを直接接続するポートでも行わせる。このとき,L3SWとIPsecルータのポートには,図中に示したコスト値を設定する。 図9に示したWAN回線の構成で,図中のコスト値を設定することによって,営業所のPCからサーバへのアクセスは,広域イーサ網とインターネットVPNを使い分けることができる。PCからサーバへのアクセス経路の一覧を表3に示す。 表3 PCからサーバへのアクセス経路の一覧(抜粋) 以上の検討を基に,J君はM課長から示された要件を満たすWAN回線の冗長化構成の設計を完了させ,検討結果をN主任に説明した。N主任は,設計内容に問題がないことを確認し,J君とともに検討結果をM課長に報告したところ,設計内容が承認された。 設問1 本文中の【ア】~【オ】に入れる適切な字句又は数値を答えよ。 設問2 〔インターネットVPNの構築技術の検討〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 表2中のライフタイムの終了時点に,IPsecルータで行われる処理を答えよ。 (2) 表2中の認証方式によって認証できる対象と,その認証内容を,40字以内で述べよ。 (3) 本文中の下線(a)について,カプセル化できない理由を,“OSPF”及び“リンクステート情報”という字句を用いて,40字以内で述べよ。 設問3 〔トンネリング技術の調査〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1) 図3中の【あ】及び図5中の【い】に入れる最大バイト数を,それぞれ答えよ。ここで,ジャンボフレームは使用されないものとする。 (2) 図4中のPCからサーバへの通信における,図3中のIPヘッダ1とIPヘッダ2の送信元IPアドレス及び宛先IPアドレスを,図4中の字句を用いて,それぞれ答えよ。 (3) 図6中の①及び②の通信でPCが取得するIPアドレスが格納されるヘッダを,図5中の項目名でそれぞれ答えよ。 (4) 本文中の下線(b)について,GREを利用する利点を,L2TPを利用する場合と比較して,60字以内で述べよ。 設問4 〔GRE over IPsecの稼働方法の検討〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 本文中の下線(c)については,トンネルモードで行う必要がない。その理由を,トンネリングに着目して,20字以内で述べよ。 (2) 図7中のESP認証データ長は,表2中のパラメータで選択された方式によって変化する。その理由を,40字以内で述べよ。 (3) 図7において,暗号化される項目名を全て答えよ。 設問5 〔WANの設計〕について,(1)~(6)に答えよ。 (1) 図9の構成において,図1の構成からサーバをデータセンタに移設するのに伴い,サブネットを再設計して,データセンタに移動するサブネットを全て答えよ。ここで,移動するサブネットのプレフィックス長は16,20又は24とする。 (2) 図9中のデータセンタのIPsecルータ,L3SW,L2SWa及びL2SWbの間でレイヤ2のループを発生させないためには,どのようにサブネットを設計すればよいか。“L2SWa”及び“L2SWb”という字句を用いて,30字以内で述べよ。 (3) 図9において,本社,営業所及びデータセンタで設定する仮想IPアドレスの最少の個数を,それぞれ答えよ。 (4) 図9中の名古屋営業所のIPsecルータとL3SWを直接接続する経路が切断されたときの,名古屋営業所のPCから本社及びデータセンタのサーバへのアクセス経路を,“VRRPのマスタルータ”という字句を用いて,60字以内で述べよ。 (5) 表3中の下線(d)について,インターネットVPN経由の経路とならないことを,コスト値を示して,60字以内で述べよ。ここで,PCが接続するVRRPのマスタルータは,L3SWで稼働しているものとする。 (6) 表3中の【う】,【え】に入れる適切な経路を,表3中の表記に従って全て列挙せよ。
図1 現在のY社のネットワーク構成。本社(ルータ,FW,L3SW,L2SW,DMZのWeb・中継メール・プロキシサーバ,DM・社内メールサーバ)と名古屋・大阪・福岡営業所が広域イーサ網で接続され,本社がインターネットに接続する構成図。サーバのIPアドレス一覧表と,データセンタへ移設予定の機器に関する注記付き。
図1 現在のY社のネットワーク構成。本社(ルータ,FW,L3SW,L2SW,DMZのWeb・中継メール・プロキシサーバ,DM・社内メールサーバ)と名古屋・大阪・福岡営業所が広域イーサ網で接続され,本社がインターネットに接続する構成図。サーバのIPアドレス一覧表と,データセンタへ移設予定の機器に関する注記付き。
図2 IPsecの通信手順。2台のIPsecルータ間で,IKEフェーズ1(フェーズ2用の暗号化方式決定と鍵生成),IKEフェーズ2(IPsec用の暗号化方式決定と鍵生成),IPsec通信(セキュアな通信)が順に行われる手順図。
図2 IPsecの通信手順。2台のIPsecルータ間で,IKEフェーズ1(フェーズ2用の暗号化方式決定と鍵生成),IKEフェーズ2(IPsec用の暗号化方式決定と鍵生成),IPsec通信(セキュアな通信)が順に行われる手順図。
表1 IKEフェーズ1で決定されるパラメータ(抜粋)。IKEフェーズ1で決定されるパラメータとして,暗号化方式,ハッシュ方式,ライフタイム(ISAKMP SAの生存期間),認証方式(IPsec通信相手機器の認証方式),鍵交換方式とその説明を示す表。
表1 IKEフェーズ1で決定されるパラメータ(抜粋)。IKEフェーズ1で決定されるパラメータとして,暗号化方式,ハッシュ方式,ライフタイム(ISAKMP SAの生存期間),認証方式(IPsec通信相手機器の認証方式),鍵交換方式とその説明を示す表。
表2 IKEフェーズ2で決定されるパラメータ(抜粋)。IKEフェーズ2で決定されるパラメータとして,セキュリティプロトコル,暗号化方式,認証方式(IPsec通信で使用する認証アルゴリズム),ライフタイム(IPsec SAの生存期間),通信モードとその説明を示す表。
表2 IKEフェーズ2で決定されるパラメータ(抜粋)。IKEフェーズ2で決定されるパラメータとして,セキュリティプロトコル,暗号化方式,認証方式(IPsec通信で使用する認証アルゴリズム),ライフタイム(IPsec SAの生存期間),通信モードとその説明を示す表。
図3 IPパケットがGREでカプセル化されたときのパケット形式。IPヘッダ1(20バイト),GREヘッダ(4),IPヘッダ2(20),TCP/UDPヘッダ(20),データ(空欄あ)の順に並ぶパケット形式。IPヘッダ2以降が元のIPパケット。
図3 IPパケットがGREでカプセル化されたときのパケット形式。IPヘッダ1(20バイト),GREヘッダ(4),IPヘッダ2(20),TCP/UDPヘッダ(20),データ(空欄あ)の順に並ぶパケット形式。IPヘッダ2以降が元のIPパケット。
図4 GRE利用時の通信例。PC(192.168.0.100)とルータ1(α.0.0.1)のイントラネットと,ルータ2(β.0.0.1)とサーバ(192.168.10.1)のイントラネットがインターネット経由で接続され,ルータ間がGREトンネル,PCとサーバ間で通信する例。
図4 GRE利用時の通信例。PC(192.168.0.100)とルータ1(α.0.0.1)のイントラネットと,ルータ2(β.0.0.1)とサーバ(192.168.10.1)のイントラネットがインターネット経由で接続され,ルータ間がGREトンネル,PCとサーバ間で通信する例。
図5 L2TPでカプセル化されたときのパケット形式。IPヘッダ1(20),UDPヘッダ(8),L2TPヘッダ(16),PPPヘッダ(2),IPヘッダ2(20),TCP/UDPヘッダ(20),データ(空欄い)の形式。PPPヘッダ以降が元のPPPフレーム。
図5 L2TPでカプセル化されたときのパケット形式。IPヘッダ1(20),UDPヘッダ(8),L2TPヘッダ(16),PPPヘッダ(2),IPヘッダ2(20),TCP/UDPヘッダ(20),データ(空欄い)の形式。PPPヘッダ以降が元のPPPフレーム。
図6 L2TP利用時の通信例。LACのPCがアクセス回線網のPPPoEサーバと①PPPoEで接続し,インターネット経由でLNSのVPN装置との間にL2TPトンネルと②PPPセッションを張り,イントラネットのサーバと通信する例。
図6 L2TP利用時の通信例。LACのPCがアクセス回線網のPPPoEサーバと①PPPoEで接続し,インターネット経由でLNSのVPN装置との間にL2TPトンネルと②PPPセッションを張り,イントラネットのサーバと通信する例。
図7 GRE over IPsecのパケット形式。元のパケット(IPヘッダ,TCP/UDPヘッダ,データ)と,カプセル化後のパケット(IPヘッダ1 20,ESPヘッダ8,GREヘッダ4,IPヘッダ2 20,TCP/UDPヘッダ20,データ可変,ESPトレーラ不定,ESP認証データ不定)の構成。
図7 GRE over IPsecのパケット形式。元のパケット(IPヘッダ,TCP/UDPヘッダ,データ)と,カプセル化後のパケット(IPヘッダ1 20,ESPヘッダ8,GREヘッダ4,IPヘッダ2 20,TCP/UDPヘッダ20,データ可変,ESPトレーラ不定,ESP認証データ不定)の構成。
図8 GRE over IPsecを稼働させたときのOSPFの通信の概要。本社又は営業所のIPsecルータ1とデータセンタのIPsecルータ2がインターネット経由で接続され,IPsec(トランスポートモード),GREトンネル,OSPFの通信が両ルータ間で行われる概要図。
図8 GRE over IPsecを稼働させたときのOSPFの通信の概要。本社又は営業所のIPsecルータ1とデータセンタのIPsecルータ2がインターネット経由で接続され,IPsec(トランスポートモード),GREトンネル,OSPFの通信が両ルータ間で行われる概要図。
図9 J君が設計したWAN回線の構成。本社,名古屋営業所(大阪・福岡も同構成),データセンタのIPsecルータ・L3SW・L2SWとサーバの配置,インターネットVPN,広域イーサ網,専用線での接続,及び各ポートのOSPFコスト値(10,50,200,(220)など)を示す構成図。
図9 J君が設計したWAN回線の構成。本社,名古屋営業所(大阪・福岡も同構成),データセンタのIPsecルータ・L3SW・L2SWとサーバの配置,インターネットVPN,広域イーサ網,専用線での接続,及び各ポートのOSPFコスト値(10,50,200,(220)など)を示す構成図。
表3 PCからサーバへのアクセス経路の一覧(抜粋)。障害なし,名古屋営業所のインターネットVPN接続障害,広域イーサ網接続障害の各場合について,本社・営業所のPCからデータセンタのサーバ,インターネット,DMサーバへのアクセス経路を示す表。空欄う・えと下線(d)を含む。
表3 PCからサーバへのアクセス経路の一覧(抜粋)。障害なし,名古屋営業所のインターネットVPN接続障害,広域イーサ網接続障害の各場合について,本社・営業所のPCからデータセンタのサーバ,インターネット,DMサーバへのアクセス経路を示す表。空欄う・えと下線(d)を含む。
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検討の前提条件をそろえる

通信の設計を検討するときは、まず判断の前提となる条件をそろえましょう。与えられた情報に書かれた条件と、自分が補って考えた条件を区別し、同じ前提で考えているかを確かめることが出発点になります。

この問題で問われていること

検討する内容が、どの前提条件の下で成り立つものとして示されているかに注目しましょう。普段の知識から条件を付け足さず、与えられた範囲に立ち戻ることで、判断の土台を整理しやすくなります。

視点

前提条件は、検討を進める際の土台です。明示された条件と自分の想定を分けて整理し、考えている途中で前提が変わっていないかを振り返りましょう。

確認ポイント

  • 与えられた前提条件を整理できているか
  • 明示されていない条件を補っていないか
  • 検討の途中で前提条件を変えていないか
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解説

広域イーサ網とインターネットVPNを併用し、サーバのIPアドレスを維持しながらWANを冗長化する設計問題です。GREとIPsecの役割、ヘッダの構成、サブネット分割、VRRPとOSPFによる正常時・障害時の転送経路を結び付けて理解します。

問題の全体像

Y社は、本社と営業所を接続する広域イーサ網にインターネットVPNを追加し、可用性向上とアクセス先に応じた回線の使い分けを目指しています。同時に、DMサーバ以外をデータセンタへ移設し、サーバのIPアドレスを維持する必要があります。公式の出題趣旨では、IPsec、トンネリング、OSPFの知識を実務の設計・構築・運用に適用できるかを問うとしています。設問は、VPNの基礎からパケット構造、サブネット設計、障害時の経路判断へと進みます。

設問1

公式解答例では、アは「32」、イは「セレクタ」、ウは「アグレッシブ」、エは「経路」、オは「断片化」です。アはSAの識別に使うSPIのビット数、イはIPアドレスやプロトコルなどからセキュリティポリシを選択するキーの名称です。ウはIKEフェーズ1で1往復半の通信を行うモードを指します。エは、GREの外側のIPヘッダで転送するため、インターネットが元の宛先への経路を知らなくてもよいという説明に対応します。オは、追加ヘッダによってMTUを超えるパケットが生じることと結び付けます。採点講評では、特にアとイの正答率が低かったとしています。

設問2(1)

表2のライフタイムは「IPsec SAの生存期間」です。その終了に伴って鍵を更新し、通信を保護するSAを更新する処理に着目します。公式解答例では「リキー(ReKey)」です。表1のISAKMP SAのライフタイムと混同せず、設問が表2のIPsec SAについて尋ねていることを確認します。

設問2(2)

表1の認証方式は通信相手機器の認証ですが、表2はIPsec通信で使う認証アルゴリズムです。本文の「転送データの完全性の認証」と対応させると、対象は送受信されるメッセージ、確認する内容は通信中に改ざんされていないことになります。公式解答例もこの二点を示しています。40字以内では「IPsec通信で送受信されるメッセージが改ざんされていないこと。」とまとめられます。採点講評では、フェーズ1とフェーズ2の認証の違いを、表と本文から導くことを求めています。

設問2(3)

本文には、検討中のIPsecルータがユニキャストのIPパケットをカプセル化するとあります。一方、通常のOSPFではリンクステート情報の交換にIPマルチキャスト通信を使います。この通信形態の違いが、下線(a)の理由です。公式解答例では、OSPFのリンクステート情報交換がIPマルチキャスト通信で行われることを挙げています。指定語句を含めた40字以内の表現は「OSPFのリンクステート情報交換がIPマルチキャスト通信だから。」です。

設問3(1)

ジャンボフレームを使用しないので、イーサネットのMTUである1500バイトから、図中の全ヘッダ長を差し引きます。図3では、あ=1500-(20+4+20+20)=1436バイトです。図5では、い=1500-(20+8+16+2+20+20)=1414バイトです。公式解答例も、あを1436、いを1414としています。求めるのはデータ欄の最大長なので、追加された外側のヘッダだけでなく、内側のIPヘッダとTCP/UDPヘッダも差し引きます。

設問3(2)

図3のIPヘッダ1はGREトンネルの外側、IPヘッダ2は元のIPパケットのヘッダです。図4でトンネルの両端はルータ1とルータ2なので、公式解答例ではIPヘッダ1の送信元が「α.0.0.1」、宛先が「β.0.0.1」です。元の通信の両端はPCとサーバなので、IPヘッダ2の送信元は「192.168.0.100」、宛先は「192.168.10.1」です。外側はトンネルを運ぶためのアドレス、内側は元の通信相手を示すアドレスと整理します。

設問3(3)

図6の①はPCとアクセス回線網のPPPoEサーバとの通信、②はPCとLNSであるVPN装置とのPPPセッションです。①で取得するアドレスは、インターネット経由でL2TPパケットを送るための外側のアドレスです。②で取得するアドレスは、トンネル内でイントラネットのサーバと通信するための内側のアドレスです。公式解答例では、①が「IPヘッダ1」、②が「IPヘッダ2」です。採点講評では、この設問の正答率が低く、通信手順とパケット形式を対応させて考えることを求めています。

設問3(4)

目的は、OSPFの通信をカプセル化してIPsecで運べるようにすることです。GREとL2TPのどちらでも目的を達成できるので、図3と図5の追加ヘッダを比較します。GREの追加分は24バイト、L2TPはPPPヘッダも含めると46バイトで、同じMTUならGREの方がデータを多く収容できます。公式解答例も、オーバヘッドが小さく一つのパケットで転送できるデータ量が多いことを利点としています。60字以内では「GREはL2TPよりカプセル化のオーバヘッドが小さく、1パケットで転送できるデータ量が多い。」とまとめられます。

設問4(1)

図8では、IPsecルータ間にGREトンネルが構成されています。元のパケットを包んで両端間で運ぶ役割は既にGREが担うので、IPsecではそのGREパケットを保護すればよく、トンネルモードを使う必要がありません。公式解答例では「GREでトンネリングが行われるから」です。この表現で20字以内の条件を満たします。

設問4(2)

表2の「認証方式」は、IPsec通信で使う認証アルゴリズムを選択するパラメータです。図7のESP認証データは、そのアルゴリズムに応じた長さになるため、選択する方式によって変化します。公式解答例も、使用する認証アルゴリズムによる違いを理由としています。40字以内では「使用する認証アルゴリズムによってESP認証データ長が異なるから。」とまとめられます。

設問4(3)

図7はESPのトランスポートモードなので、外側のIPヘッダ1を残し、その内側のGREパケットを暗号化します。公式解答例で列挙されている項目は「GREヘッダ、IPヘッダ2、TCP/UDPヘッダ、データ、ESPトレーラ」です。ESPヘッダとESP認証データは暗号化する項目に含まれません。元のデータだけでなく、内側の各ヘッダとESPトレーラまでが対象であることを確認します。

設問5(1)

図1のサーバIPアドレスと、DMサーバだけを本社に残す要件に着目します。Web・中継メール・プロキシサーバは172.16.128.0/20に収まるので、このサブネットを移動します。一方、DMサーバの172.16.16.1と社内メールサーバの172.16.17.1は、もともと同じ172.16.16.0/20に属します。このサブネットを分割し、社内メールサーバを含む172.16.17.0/24を移動すれば、サーバIPアドレスを維持してDMサーバを本社に残せます。公式解答例では「172.16.128.0/20、172.16.17.0/24」です。

設問5(2)

図9では、L2SWaとL2SWbの双方がIPsecルータとL3SWに接続されています。二つのL2SW側を同一のレイヤ2ネットワークとしてつなぐ構成を避け、それぞれを別のサブネットとして収容する設計に着目します。公式解答例では「L2SWaとL2SWbを異なるサブネットにする。」です。指定された二つの機器名を含み、30字以内で必要な設計方針を示しています。

設問5(3)

VRRPの仮想IPアドレスは、冗長化するデフォルトゲートウェイをサブネットごとに用意するものとして数えます。本社はDMサーバ側のL2SWaとPC側のL2SWbで二つ、各営業所はPCを収容するL2SW側で一つ、データセンタはL2SWa側と社内メールサーバを収容するL2SWb側で二つです。公式解答例では「本社2、営業所1、データセンタ2」です。機器の台数やWAN回線の本数ではなく、VRRPで冗長化するサブネットの数を確認します。

設問5(4)

切断されるのは、名古屋営業所のIPsecルータとL3SWを直接接続する経路です。PCを収容するL2SW側の接続と各機器のWAN回線は残りますが、直接接続を経由して相手機器のWANへ転送する経路は使えなくなります。したがって、PCの転送先となるVRRPのマスタルータ側のWANを使用します。公式解答例に沿った60字以内の表現は「各サーバへは、VRRPのマスタルータが稼働する機器に接続されたWAN回線を経由する。」です。採点講評では、VRRPの状態と障害後の経路テーブルを基に考えることを求めています。

設問5(5)

本社PCのVRRPのマスタルータがL3SWなので、経路比較の起点は本社L3SWです。図9で専用線へ出るコストは200です。自拠点のIPsecルータを通ってVPNへ出る場合は、直接接続の10とトンネルの220を足して230となります。公式解答例では、VPN経由の最小コスト230より専用線経由の200が小さいため、専用線を選ぶとしています。60字以内では「専用線経由のコスト200が、インターネットVPN経由の最小230より小さいため。」とまとめられます。

設問5(6)

うは名古屋営業所のVPN接続に障害がある場合です。広域イーサ網で本社へ行き、本社から専用線でデータセンタへ向かうので、公式解答例では「広域イーサ網→本社→専用線」です。えは名古屋営業所の広域イーサ網接続に障害がある場合です。VPNでデータセンタへ行き、専用線で本社へ向かうので「インターネットVPN→データセンタ→専用線」です。本文でVPNはデータセンタと各拠点の間に設定すると指定されています。採点講評では、うの誤答から、この接続条件を見落とした受験者が多かったとしています。

学習のポイント

IKEの機器認証とデータの完全性認証を区別し、カプセル化の計算、サブネット単位のVRRP、OSPFのコスト比較と障害後の経路変化を重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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