NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成22年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 ネットワーク構成の見直しに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 F社は,中堅の輸入食品卸売会社であり,5年前から営業支援システムを運用している。F社における現在の営業支援システムのネットワーク構成を,図1に示す。 図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋) F社の営業部員は,社内では自席のPCを使い,社外ではモバイル端末を使って,営業支援システムにアクセスする。 営業支援システムが提供している主なサービスは,次のとおりである。 (1)案件管理サービス 営業部員がWeb画面のメニューから,活動中の営業内容をDBに登録し,随時更新することで進捗状況を管理する,対話型のサービスである。自席のPCからは,社内のネットワークを通じてWebサーバにアクセスするが,モバイル端末からはSSLを実装したRPサーバを経由して,Webサーバにアクセスする。 (2)商品検索サービス Web画面のメニューから,F社で取り扱っている多種多様な商品を検索できる照会サービスである。営業部員だけでなくF社の顧客を含めた一般の利用者も,インターネットに接続されたPCなどの端末を使って,RPサーバを経由してアクセスすることができる。 〔現在のネットワーク構成の問題点〕 最近になって,営業部員から情報システム部に対して,“外出先からアクセスしたとき,Webサーバのレスポンスが以前より悪くなった”とのクレームが寄せられた。そこで,FWのアクセスログを確認したところ,インターネットからのアクセスが2~3か月前から増大していることが判明した。営業部員数や業務量は以前と変わらず,一般の利用者からのアクセスが急増するような新商品の発売もなかったので,情報システム部では,原因は不正なアクセスではないかと考え,ピーク時間帯における30分間のFWのアクセスログを分析し,表に示すあて先ポート別分析レポートをまとめた。 表 FWのアクセスログのあて先ポート別分析レポート(抜粋) 分析レポートの内容を確認したところ,3か月前のレポートと比較して,正常なアクセスに加えて,インターネットの特定のグローバルIPアドレスからの不正と思われるアクセスが大量に記録されていた。このことによって,RPサーバの負荷が増大し,レスポンス悪化の原因となっていることが分かった。これを受け,情報システム部は,営業支援システムのセキュリティ向上のためのプロジェクトを立ち上げ,担当にはH君が任命された。 H君が営業支援システムのネットワーク構成を確認した結果,現在のFWには不正なアクセスに対する高度な検知機能がないことを確認した。また,FWは1台だけの構成となっており,故障が発生した場合の代替機がないことも確認した。そこでH君は,FWの機能に詳しいベンダE社のG氏に助言を求めた。 次は,FWの機能向上に関するH君とG氏の会話である。 H君:不要なポートをブロックするなど,パケットのTCPヘッダを参照して不正侵入を防ぐFWの機能を利用していましたが,今回のような攻撃は防御できていません。不正侵入を確実に防ぐには,どのような仕組みが必要でしょうか。 G氏:現在の構成では,FWで通過が許可されているパケットを使った不正侵入は防御できないので,より高度な機能をもった侵入検知システム(以下,IDSという)が必要です。IDSには,監視対象のネットワークに設置するネットワーク型IDSと,監視対象のWebサーバなどにインストールする【ア】型IDSの2種類があります。また,侵入検知の仕組みとして,不正なパケットに関する一定のルールやパターンを使う【イ】型と,平常時のしきい値を超えるアクセスがあった場合に不正と見なすアノマリ型(異常検知型)の2種類があります。アノマリ型の場合,しきい値を高く設定したときだけでなく,①しきい値の設定が低すぎたときにも弊害が発生するので,注意が必要です。 H君:なるほど。適切な設定が重要ですね。更に必要な対策はありますか。 G氏:Webサーバへのアクセスを通じて不正なSQLが実行される【ウ】や,Webフォームに不正なスクリプトを埋め込んで送る【エ】など,TCPヘッダのチェックやしきい値の設定では識別できないようなWebサーバへの攻撃にも対応できるIDSの導入をお勧めします。もちろん,FWの冗長化についても考慮が必要です。 H君:分かりました。では,ネットワーク構成の具体的な見直しについて,早速検討を開始します。 〔見直し後のネットワーク構成〕 G氏の助言を受け,H君は現在のFWを,IDSの機能をもった機種に置き換えることにした。また,FWの障害に備え,2台による構成にした。見直し後のネットワーク構成を図2に示す。 図2 見直し後のネットワーク構成(抜粋) 新たに導入したFWは,通過パケットのTCPヘッダの【オ】をセッションログとして保管しておき,パケットの到着順序に矛盾がないか確認する,ステートフルパケットインスペクションの機能をもっている。ステートフルパケットインスペクションでは,LAN側から送信したパケットとWAN側から到着したパケットが矛盾した場合,パケットを遮断し,不正アクセスを防止する。さらに,このFWは,1台のFWが故障したときでも処理を中断させることなく,もう1台のFWで処理を継続させる,ステートフルフェールオーバの機能も備えている。 ステートフルフェールオーバを利用するため,2台のFWをネットワークに接続し,更にFW同士をケーブルで接続した。通常はFW1だけが機能しているが,管理情報をFW1からFW2に一定間隔で複製し,FW1に障害が発生した場合には,それまで稼働していないFW2が自動的に処理を引き継ぐ設定とした。この設定によって,②営業部員は,FWが切り替わったことを意識せずに営業支援システムを継続利用できるようになった。ただし,FW2からFW1に管理情報を自動的に複製していないので,FWを切り戻すときは,手動の作業を必要とする設定にした。したがって,この切り戻し時,営業部員は営業支援システムを継続利用できないことになる。 F社では,H君の案に基づいてネットワーク構成を変更した後,テストのためにFW1をシャットダウンしたところ,設定どおりFW2への切替えが自動的に行われ,営業支援システムは継続利用できることを確認した。その後,FWの切り戻しを行って,元の状態に復旧させた。復旧後も営業支援システムは順調に稼働し,ネットワーク構成の見直しは完了した。 設問1 本文中の【ア】~【オ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔現在のネットワーク構成の問題点〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)FWで防御できない不正と思われるアクセスとは何か。表を参考にして,20字以内で述べよ。 (2)G氏が指摘した,TCPヘッダのチェックやしきい値の設定では識別できないようなWebサーバへの攻撃に対応するために,侵入検知の際に着目すべきパケットの部分を,15字以内で述べよ。 (3)本文中の下線①について,発生する弊害を,40字以内で具体的に述べよ。 設問3 〔見直し後のネットワーク構成〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)FWの切替えが発生した場合に,FW1からFW2に引き継がれる情報を,OSI基本参照モデルの第3層以下から二つ挙げ,それぞれ10字以内で答えよ。 (2)本文中の下線②の実現に必要な管理情報を,45字以内で具体的に述べよ。 (3)実際にFWの故障による切替えが発生したとき,修理完了後にFW2からFW1に手動で切り戻す際に必要な運用上の留意点を,40字以内で述べよ。
図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋)。インターネット、社内PC、モバイル端末、FW、DMZ内のDNS・RPサーバ、Webサーバ、DBサーバなどの接続構成を示す図。
図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋)。インターネット、社内PC、モバイル端末、FW、DMZ内のDNS・RPサーバ、Webサーバ、DBサーバなどの接続構成を示す図。
表 FWのアクセスログのあて先ポート別分析レポート(抜粋)。送信元・宛先IPアドレス、プロトコル、宛先ポート番号、受信件数、通過可否によるFWアクセスログの分析表。
表 FWのアクセスログのあて先ポート別分析レポート(抜粋)。送信元・宛先IPアドレス、プロトコル、宛先ポート番号、受信件数、通過可否によるFWアクセスログの分析表。
図2 見直し後のネットワーク構成(抜粋)。FWをFW1とFW2の2台構成にし、ルータ、スイッチ、DMZ内サーバ、社内PC・サーバとの接続を示す図。
図2 見直し後のネットワーク構成(抜粋)。FWをFW1とFW2の2台構成にし、ルータ、スイッチ、DMZ内サーバ、社内PC・サーバとの接続を示す図。
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判断に用いる前提の範囲を確認する

ネットワークの安全性や運用について考える際は、判断に用いる前提の範囲を意識しましょう。記載された条件と、自分が経験や知識から補った条件を区別しておくと、条件の取り違えを防ぎながら検討を進められます。

この問題で問われていること

判断の根拠として使おうとしている条件が、今回扱う範囲に含まれているかに注目してください。普段は当然だと思っている前提もいったん分けて捉え、その条件をここで用いてよい理由があるかを確認しましょう。

視点

知っている一般論を当てはめる前に、その一般論が想定する条件を今回の検討にも置けるかを確かめます。検討の範囲に含まれる条件と、自分で追加した仮定を混同しないことが、この視点の中心です。

確認ポイント

  • 判断に使う前提の範囲を意識できているか
  • 与えられた条件と自分の仮定を区別しているか
  • 追加した仮定を使う根拠を確認しているか
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解説

本問は、許可ポートへのDoS攻撃やWebへの攻撃を検知する仕組みと、FWの冗長化を扱います。ログの数値から攻撃を具体化し、通信継続に必要なアドレス・セッション情報と、切り戻し時の利用制限を整理することが要点です。

問題の全体像

F社では、社外から営業支援システムへアクセスした際の応答が悪化しています。調査により、不正と思われる大量アクセスでRPサーバの負荷が増大していることと、FWが単一構成であることが分かりました。そこで、IDS機能を備えたFWを2台導入し、検知能力と可用性を高めます。公式の出題趣旨では、防御と冗長化の実現方法の特徴・利点・構築上の留意事項を問うとしています。各設問では、攻撃の見分け方、検知対象、通信を継続するための情報、切り戻し時の運用を結び付けて考えます。

設問1(ア)

「監視対象のWebサーバなどにインストールする」という設置場所に着目します。ネットワークに設置するネットワーク型に対し、監視対象の機器に導入するものがホスト型IDSです。公式解答例では「ホスト」としています。空欄の直後に「型IDS」があるので、答案には「ホスト」と記します。

設問1(イ)

「不正なパケットに関する一定のルールやパターンを使う」という検知方法が手掛かりです。攻撃の特徴を表すパターンと照合する方式はシグネチャ型であり、平常時のしきい値を基準とするアノマリ型と区別します。公式解答例では「シグネチャ」としています。採点講評では、この空欄の正答率が低かったとされ、基本用語の習得が求められています。

設問1(ウ)

「Webサーバへのアクセスを通じて不正なSQLが実行される」という記述に着目します。入力などを通じてSQLの処理に不正な命令を混入させる攻撃を指しており、公式解答例では「SQLインジェクション」としています。ポート番号や通信量だけでは、SQLの内容が不正かどうかを識別できないという後続の説明にもつながります。

設問1(エ)

「Webフォームに不正なスクリプトを埋め込んで送る」という攻撃内容が手掛かりです。公式解答例では「クロスサイトスクリプティング」としています。不正なSQLを扱う直前の空欄と区別し、こちらはスクリプトの混入に着目します。この攻撃への対応でも、TCPヘッダやアクセス数だけでなく、送信されたデータの内容を調べる必要があります。

設問1(オ)

「TCPヘッダ」と「パケットの到着順序に矛盾がないか確認する」という二つの記述に着目します。TCPでデータの順序を表す情報はシーケンス番号です。公式解答例では「シーケンス番号」としています。本文では、この情報をセッションログとして保持し、過去の通信状態との整合性を確認するステートフルパケットインスペクションを説明しています。

設問2(1)

表では、TCPの80番ポートへの受信件数が30分間で8、976、340件と突出し、通過も許可されています。本文には、特定のグローバルIPアドレスから大量アクセスがあり、RPサーバの負荷が増大したとあります。これらを結び付け、公式解答例では「80番ポートに対するDoS攻撃」としています。20字以内の答案では、対象ポートと攻撃名を押さえます。採点講評でも、本文の抜き出しにとどまらず、表から攻撃のパターンを読み取ることが求められています。

設問2(2)

対象となる攻撃は、不正なSQLやスクリプトを含むWebへのアクセスです。TCPヘッダの情報や通信量を調べるだけでは、送られた内容の不正を識別できません。そのため、パケットが運ぶデータの内容に着目します。公式解答例では「データ部分の内容」としています。15字以内では、この表現で検査すべき部分と内容の両方を示せます。

設問2(3)

アノマリ型では、アクセスが設定したしきい値を超えると不正と見なします。しきい値を低くしすぎると、正常なアクセスでも基準を超え、異常と判定される場合があります。公式解答例では、適正な通信まで異常として検知される弊害を挙げています。40字以内なら「不正な通信だけでなく適正な通信も異常として検知されてしまう。」とまとめられます。採点講評では、しきい値の高低とアクセス数の多少の混同が指摘されています。

設問3(1)

設問は、引き継ぐ情報を「OSI基本参照モデルの第3層以下」に限定しています。公式解答例では、第3層の「仮想IPアドレス」と第2層の「仮想MACアドレス」を挙げています。切替え後も同じ接続先として通信を受けるため、これらの仮想アドレスを引き継ぎます。答案は各10字以内で、この二つを記します。TCPのシーケンス番号は第4層の情報なので、この設問の層の条件には合いません。

設問3(2)

下線②は、FWの切替えを意識せず、営業部員が利用を継続できるという効果です。社外のモバイル端末はFWを通ってRPサーバへ接続するため、FW2が処理を引き継ぐには、FW1が保持していた接続の状態も必要です。公式解答例では、モバイル端末との接続のセッションログ情報を挙げています。45字以内なら「切替え前のFW1が保持していたモバイル端末との接続のセッションログ情報」とまとめられます。アドレスの引継ぎに加え、通信途中の状態を保持する点が重要です。

設問3(3)

本文では、管理情報をFW1からFW2へ複製する一方、逆方向には自動複製せず、切り戻し時には利用を継続できないと明記しています。修理が完了しても、稼働中の通信状態をそのままFW1へ引き継げる条件ではありません。公式解答例では、営業支援システムの利用を一時制限して切り戻すとしています。40字以内なら「営業支援システムの利用を一時制限して、切り戻し作業を行う。」と記せます。採点講評でも、システム全体の運用まで含めて考えることの重要性が示されています。

学習のポイント

IDSの設置形態と検知方式、ヘッダ検査とデータ検査の違い、ステートフルフェールオーバの引継ぎ情報と運用条件を学習してください。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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