NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成22年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 ネットワークの評価に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 Z社では、家電製品・OA機器の故障品の受付、修理及び修理完了品の返送の業務をメーカから受託している。Z社の本社は東京にあり、修理業務は、仙台拠点と横浜拠点で行っている。両拠点への業務委託元及び取扱製品は異なるが、業務内容や作業量には大差がなく、ネットワークの使用状況もほぼ同じである。また、各拠点ではZ社の社員のほかに、派遣社員やパートタイマが作業員として勤務している。 本社に設置されている業務管理サーバ(以下、業務管理SVという)及びファイルサーバ(以下、ファイルSVという)には、全社のPCがアクセスしている。拠点では、業務の都合上、修理記録や各種伝票類を帳票で管理しており、常時、PCからプリンタへ印刷データを送信している。また、Z社には、IP電話による社内電話システムが構築されている。本社と各拠点間は、IP-VPNで接続されている。現在のところ、IP-VPNのピーク時の回線使用率は約8割であり、通信帯域は不足していない。Z社の現在のネットワーク構成を、図1に示す。 図1 Z社の現在のネットワーク構成(抜粋) Z社では、運用管理の省力化とセキュリティの強化を目的に、全社のPCをデータの記録蓄積機能のないシンクライアントと呼ばれる端末(以下、TCという)へ移行する計画がある。TCへの移行は、PCの更新時期を控えている仙台拠点を先行し、問題がなければ全社に拡大する方針である。移行計画では、TCへの移行のために、現在のネットワークを変更する必要があるかどうかを評価することが、検討課題の一つとして挙げられている。そこで、移行計画を担当することになった情報システム部のO主任と後輩のU君は、ネットワークの評価について打合せを行った。 次は、そのときのO主任とU君の会話である。 〔TCの実装方式と通信〕 O主任:会社の業務は変わらないとして、全社のPCをTCへ移行すると、現在のネットワーク構成で問題になるところは何かしら。 U君:調査しないと分かりません。ところで、TCの実装方式は決まったのですか。 O主任:ええ。画面転送型といって、仮想化機構を組み込んだサーバ(以下、仮想化SVという)に、PC単位の独立したプログラム実行環境(以下、仮想PCという)をソフトウェアで構築し、仮想PCの画面情報をTCに表示する方式に決まったのよ。仮想化SVは、本社に設置する計画よ。 U君:その構成だと、機器間の通信形態が変わるので、LANやWANでのトラフィックの流れと量が変わります。まずは、TCへ移行した後のIP-VPNの使用帯域の試算と、RTの優先制御設定の再検討が必要になります。 O主任:そうね。仮想PCとTC間の通信には、①画面転送時の伝送情報量の削減技術や、通信のバースト性の低減技術が採用されているので、TC 1台当たりの平均使用帯域が20kビット/秒になると聞いているわ。 U君:それならば、仙台拠点に設置する40台のTCの通信には、IP-VPNの伝送効率を0.8として[a]kビット/秒の通信帯域をIP-VPNで確保すればよいことになります。また、独立した複数のトラフィックを一つの伝送路に多重化することで、帯域を効率よく共用できる[ア]多重効果を期待すれば、確保する通信帯域をもう少し減らせるかもしれません。 O主任:でも、実際には画面の表示内容によって、使用帯域が一時的に増加することがあるのよ。仮想PCとTC間の通信帯域が不足するとTCの操作に影響するので、通信帯域の余裕を十分に見ておいてね。後で資料を一式渡すわ。 U君:はい。それと、拠点からは、新規配属の作業員向けの訓練に動画を活用したいという要望があります。[イ]と呼ばれる映像の符号化及び復号装置やソフトウェアについても調べ、TCの機能で対応できるかどうか確認しておきます。 U君は、仙台拠点でTCへ移行した後の、本社と仙台拠点間のIP-VPNのトラフィックについて検討することにした。U君が、O主任から渡された資料を基に対象機器を選定して、図1に反映させたネットワーク構成を、図2に示す。 図2 仙台拠点でTCへ移行した後のZ社のネットワーク構成(抜粋) 本社と仙台拠点間の通信には、仮想PCとTC間の通信のほかにも②新たに発生する通信があり、また、現在ある通信のうち発生しなくなる通信もある。それらの通信によるトラフィックの増減を見積もり、TCへ移行した後のIP-VPNの使用帯域を試算する。仮想PCとTC間の通信については、TCメーカの測定結果を使用し、そのほかの通信については、実際にネットワークを調査することにした。 〔ネットワークの調査〕 U君は、本社と仙台拠点間のIP-VPNのトラフィックを調査した。調査方法は、次のとおりである。本社内のPCで動作しているSNMPマネージャから、RT2のWAN側ポートのIPアドレスをあて先にしてRT2のSNMP[ウ]と通信を行う。RT2の[エ]と呼ばれる管理情報のオブジェクトのうち、ポートで受信又は送信した総バイト数を表すifInOctetsとifOutOctetsのカウンタ値を1分間隔で取得し、それぞれの増分を求める。カウンタ値は、LAN側ポートのものを取得する。RT2及びSNMPマネージャの動作が正常であっても③増分が負になることがあるので、その場合には定数を加えて補正する。増分を[b]で割り、トラフィックの1分間ごとの平均値を求める(単位:kビット/秒)。さらに、L2SW2にトラフィックモニタを接続して、拠点内の機器で発生するトラフィックを詳しく調査する。 以上の結果から、TCへ移行した後の仙台拠点でのIP-VPNのトラフィックは、現在の約6割に削減されることが分かった。また、横浜拠点についても同じ調査を行い、仙台拠点と同様の結果を得た。 続いて、U君はRTの優先制御設定の再検討を行った。現在は、IP電話に関連する通信を優先するよう設定している。RTの優先制御の動作は、次のとおりである。 ・入力パケットの量が出力パケットの量以下であれば、パケットを入力した順に出力する、[オ]と呼ばれる仕組みに基づいて転送する。 ・入力パケットの量が出力パケットの量を超えると、パケットを優先と非優先に分けてメモリ上の待ち行列として一時的に保存し、優先パケットから先に転送する。非優先パケットは、優先パケットの待ち行列が空になったときに転送する。待ち行列の長さが上限に達すると、次の入力パケットを待ち行列に追加せずに破棄する。 RTの優先制御の動作では、トラフィックの状態によっては、④非優先の通信におけるTCPの転送速度が極端に低下する場合がある。しかし、今回は、そのような場合はないと判断し、仮想PCとTC間の通信を優先する通信として追加することにした。 最後に、U君は拠点での動画表示について検討した。動画ファイルは、ファイルSVに保存する。一般に、画面転送型TCでの動画表示には制約を伴うが、導入予定のTCには、画面転送とは別セッションで仮想PCから動画情報を送り、TCで復号を行う機能がある。U君は、この機能を使用することと、⑤動画表示に必要な通信帯域をIP-VPNの見込余剰帯域以下にするための運用条件を検討することを提案することにした。 U君は、以上の検討・調査の結果をまとめ、O主任に、現在のネットワークを変更せずにTCを運用できることを報告し、O主任の了解を得た。 設問1 本文中の[ア]~[オ]に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔TCの実装方式と通信〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の[a]に入れる適切な数値を答えよ。 (2)本文中の下線①に示す技術を二つ挙げ、それぞれ10字以内で具体的に答えよ。 (3)本文中の下線②に示す新たに発生する通信を一つ、発生しなくなる通信を二つ、図1、2中の機器名を用いてそれぞれ答えよ。 設問3 〔ネットワークの調査〕について、(1)~(5)に答えよ。 (1)本文中の[b]に入れる適切な数値を答えよ。 (2)LAN側ポートのカウンタ値を取得する目的は何か。調査方法に着目して、30字以内で述べよ。 (3)本文中の下線③の現象は、何によるものか。15字以内で述べよ。 (4)本文中の下線④の原因は何か。TCPの動作に着目して、35字以内で述べよ。 (5)本文中の下線⑤で想定すべき項目を二つ挙げ、それぞれ20字以内で答えよ。
図1 Z社の現在のネットワーク構成(抜粋)。本社と仙台・横浜拠点をIP-VPNで接続し、各拠点のルータ、L2スイッチ、PC、プリンタ、IP電話機と本社サーバ類を示した構成図。
図1 Z社の現在のネットワーク構成(抜粋)。本社と仙台・横浜拠点をIP-VPNで接続し、各拠点のルータ、L2スイッチ、PC、プリンタ、IP電話機と本社サーバ類を示した構成図。
図2 仙台拠点でTCへ移行した後のZ社のネットワーク構成(抜粋)。仙台拠点のPCをTCへ移行し、本社に仮想化SVと仮想PCを配置した構成を、横浜拠点のPC構成と併せて示した図。
図2 仙台拠点でTCへ移行した後のZ社のネットワーク構成(抜粋)。仙台拠点のPCをTCへ移行し、本社に仮想化SVと仮想PCを配置した構成を、横浜拠点のPC構成と併せて示した図。
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判断の前提を同じ範囲にそろえる

見積りや運用上の判断を考えるときは、根拠となる前提が同じ範囲を扱っているかに注目しましょう。個々の情報だけで結論を急がず、何を対象とした条件なのかを整理すると、検討の出発点が明確になります。

この問題で問われていること

この分野では、判断に使う情報と、その情報が成り立つ前提の対応を確認することが大切です。対象の範囲が途中で変わっていないかという一点に絞り、与えられた条件に沿って自分の考えを点検してみましょう。

視点

ある情報を判断の根拠にするときは、その情報がどの範囲について述べているかを確かめます。同じ話題の情報でも、扱う範囲がそろっているとは限らないため、前提と対象の対応を意識して整理しましょう。

確認ポイント

  • 判断の対象となる範囲を把握したか
  • 根拠となる情報の対象範囲を確認したか
  • 考える途中で対象範囲を変えていないか
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解説

本問は、画面転送型シンクライアントへの移行に伴う通信経路と帯域の変化を評価する問題です。伝送効率を含めた帯域計算、測定用SNMP通信の影響を除いたトラフィック調査、TCPへの優先制御の影響、動画の再生帯域と同時再生数を関連付けて考えます。

問題の全体像

Z社は、拠点のPCを本社の仮想PCに接続する画面転送型シンクライアントへ移行し、既存ネットワークで運用できるかを評価しています。業務処理が本社へ移るため、画面転送の追加だけでなく、サーバアクセスや印刷の通信経路も変わります。公式の出題趣旨では、移行前後のトラフィック変化の推定、ネットワーク調査、優先制御が通信に与える影響などを問うとしています。各通信がどこで発生し、どの回線を通るかを整理することが出発点です。

設問1(ア)

「独立した複数のトラフィックを一つの伝送路に多重化する」という説明に着目します。各通信の使用量は時間とともに変動するので、帯域を共用すれば、個別に最大帯域を用意する場合より効率よく利用できます。公式解答例では「統計」で、本文では「統計多重効果」となります。ただし、通信のピークが重なる可能性があるため、平均使用量だけで帯域の余裕を判断してはいけません。

設問1(イ)

「映像の符号化及び復号装置やソフトウェア」という定義に着目します。映像を送信や保存に適した形式へ符号化し、再生時に復号する機能を担うものです。公式解答例では「コーデック」です。後半で説明されるTC側での動画の復号にもつながる用語です。

設問1(ウ)

本社のSNMPマネージャが、監視対象であるRT2上の機能と通信するという関係に着目します。監視対象側で管理情報を保持し、マネージャからの要求に応答するのはSNMPエージェントです。公式解答例では「エージェント」です。

設問1(エ)

ifInOctetsとifOutOctetsが「管理情報のオブジェクト」として示されている点に着目します。SNMPで扱う管理情報を体系化したものはMIBで、ポートの送受信バイト数などを管理対象として定義しています。公式解答例では「MIB」です。

設問1(オ)

「パケットを入力した順に出力する」という処理順序に着目します。先に入ったものを先に取り出す仕組みなので、公式解答例では「FIFO」又は「First In First Out」です。本文では、混雑時に優先パケットを先に転送する処理と区別して説明されています。

設問2(1)

TCは40台、1台当たりの平均使用帯域は20kビット/秒なので、合計は40×20=800kビット/秒です。伝送効率が0.8であるため、確保する回線帯域の80%がこの通信に使えると考え、800÷0.8=1、000kビット/秒を求めます。公式解答例ではaは「1、000」です。伝送効率を掛けると必要帯域を小さく見積もってしまうので、割り算になる理由を押さえます。

設問2(2)

下線①は、画面転送の情報量を減らす技術と、通信のバースト性を低減する技術を挙げています。公式解答例にある技術から、例えば「データ圧縮」と「帯域制御」を選べます。データ圧縮は送る情報量を削減し、帯域制御は送出量を調整して通信の集中を抑えます。いずれも10字以内です。公式解答例には「差分伝送」「プログレッシブ符号化」も示されています。

設問2(3)

図1では仙台拠点のPCが業務処理を行いますが、図2では本社の仮想PCが処理を行います。印刷先は仙台拠点に残るので、新たにIP-VPNを通る通信は「仮想PCと仙台拠点のプリンタ間の通信」です。公式解答例では「仮想化SVと仙台拠点のプリンタ間の通信」も示されています。一方、発生しなくなる通信は「仙台拠点のPCと業務管理SV間の通信」と「仙台拠点のPCとファイルSV間の通信」です。移行後のサーバアクセスは本社内の仮想PCが行うため、従来の拠点PCからのWAN通信がなくなります。採点講評では、TCと仮想PCの通信の関係を読み取れていない解答が指摘されています。

設問3(1)

ifInOctetsとifOutOctetsの増分は、1分間に送受信したバイト数です。これをkビット/秒に換算するには、8を掛けてビットにし、60秒と1、000で割ります。増分×8÷60÷1、000=増分÷7、500となるので、公式解答例ではbは「7、500」です。採点講評でも、提示された条件から計算式を導く力が求められています。

設問3(2)

本社のSNMPマネージャは、RT2のWAN側ポートのIPアドレスを宛先にしています。このSNMP要求はIP-VPNからRT2のWAN側へ届き、RT2のエージェントで終端されます。応答もWAN側から本社へ戻るため、この測定用通信はRT2のLAN側ポートを通過しません。WAN側のカウンタでは測定用SNMP通信も計上されますが、LAN側のカウンタを取得すれば、その影響を排除できます。公式解答例は「SNMPの通信によるカウンタ値の増加を排除するため」で、30字以内の答案でもこの目的を示します。採点講評では、インターネットVPNを想定した誤った解答が指摘されています。

設問3(3)

RT2とSNMPマネージャが正常でも、カウンタの増分が負になる点に着目します。カウンタは保持できる値に上限があり、上限を超えると小さい値へ戻ります。その前後の取得値を単純に引くと、後の値が前の値より小さくなり、増分が負になります。公式解答例では「カウンタのけたあふれ」で、15字以内です。本文の定数を加える補正は、この値の折り返しに対応する処理です。

設問3(4)

非優先パケットは優先側の待ち行列が空になるまで転送されず、待ち行列が上限に達すると新たなパケットが破棄されます。TCPでは、パケットの損失によって再送が必要になるだけでなく、輻輳への対応として送信量を抑えるためにウィンドウを縮小します。この両方が転送速度を低下させます。公式解答例は「パケットの破棄による再送とウィンドウサイズの縮小が起こるから」です。35字以内の答案では、破棄、再送、ウィンドウ縮小の因果関係を押さえます。

設問3(5)

導入予定のTCでは、通常の画面転送とは別セッションで動画情報を受信し、TC側で復号します。そのため、動画用通信の必要帯域を別に見積もる必要があります。公式解答例の二項目は「動画一つの再生に必要な通信帯域」と「拠点における動画の同時再生数」で、どちらも20字以内です。一つの動画に必要な帯域と同時再生数から合計の必要帯域を見積もり、見込余剰帯域以下になる運用条件を検討します。採点講評では、二項目を明確に示さない解答や、通信帯域の確保と優先制御を混同した解答が指摘されています。優先制御を設定しても、回線自体の帯域が増えるわけではありません。

学習のポイント

通信を実行する機器と経路を図から追い、カウンタの単位換算、測定通信の除外、TCPの再送とウィンドウ縮小を理解することが重点です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成22年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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