NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ

平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅱ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 無線LANシステムの構築に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 通信機器や通信サービスの販売会社である A 社は,分散していたオフィスを集約することになった。集約に当たっては,工事を極力少なくし,費用の削減や期間の短縮を図るために無線LANの活用を考えている。加えて,集約を契機に,座席はフリーアドレスとし,座席数は在席率を考慮して社員数より少なくし,代わりに不足気味のミーティングスポットを確保するなど,オフィススペースの有効活用と業務の効率向上を図りたいと考えている。 また,最近,来訪者から,“応接室,会議室及びロビー(以下,応接エリアという)で,無線LANを利用してインターネット経由で自社に接続したい”という要望が出ている。 現状,A社内ではVLANを使用した部門ごとのLAN(以下,部門LANという)が用意されており,当該部門の業務サーバもそこに設置されている。社員は,各人に支給されたPCを所属する部門LANに接続し,サーバを利用している。 〔要件の整理〕 システム部のB主任とC君は,集約後の無線LANシステム構築の担当者に任命された。具体的な設計に当たり,B主任はC君に(1)~(5)の考慮すべき要件を示した。 (1)A社内のPCは,無線LANを使用して社内のネットワーク(以下,社内ネットワークという)に接続する。 (2)来訪者は,応接エリアから無線LANを経由してインターネット接続だけを利用できる。 (3)無線LANを利用して,社員がどのエリアから社内ネットワークに接続する場合でも,所属する部門LANに接続して,これまでと同様の使い方ができるポータビリティを実現する。 (4)許可された利用者のPCだけが社内ネットワークに接続できる。 (5)社員は,許可されたサーバだけを利用できる。 無線LANは有線LANと比べてセキュリティ面のリスクが高いので,要件(1)~(4)の実現に当たっては,それに配慮した設計を行うことにする。 図1は,集約後の無線LANシステム構成図である。 図1 集約後の無線LANシステム構成図 C君は,システム検討に当たり,まず無線LANを使う上でのセキュリティ確保の方式について検討し,その後,必要となる認証基盤の構築,無線LAN規格の混在による影響とその対応,及び社員の利便性を高めるポータビリティの実現,の順に検討を進めることにした。 〔セキュリティ確保の方式〕 無線LANは,電波の届く範囲ならどこからでもアクセスできるので,暗号化や利用者の認証が重要になる。C君は,無線LANの使用に当たって,WEP(Wired Equivalent Privacy)方式では,認証方式,暗号方式及び鍵の秘匿性について脆弱性が問題になっていることから,セキュリティが強化されたIEEE 802.11i規格の採用を検討することにした。 IEEE 802.11iではセキュリティを高めるため,IEEE 802.1X認証方式を採用し,より強固な暗号鍵の生成と配送方式を規定している。IEEE 802.1X認証方式は,IETF(Internet Engineering Task Force)が規定したEAP(Extensible Authentication Protocol)という,認証や暗号鍵配送用のフレームワークを利用している。EAP-TLS(Transport Layer Security)方式では,電子証明書を使用した認証を行う。C君は,セキュリティ重視の観点からEAP-TLS方式を採用することにした。 図2は,C君が調査したIEEE 802.11iに基づくEAP-TLS方式の認証と鍵配送の概略シーケンスを示している。 図2 IEEE 802.11iに基づくEAP-TLS方式の認証と鍵配送の概略シーケンス EAP-TLS方式において,PCと認証サーバ間でやり取りされるEAPパケットは,PCと無線AP間はEAPOLフレームのデータとして送られ,無線APと認証サーバ間はRADIUSパケットのデータとして送られる。 認証処理は,無線APからPCにEAP要求を送信することから始まる。この応答として,PCは,利用者が入力した自分自身の識別情報を送信する。その後,PCと認証サーバとの間で認証方式の選択処理が行われる。認証方式(今回はEAP-TLS)が決定すると,PCと認証サーバ間で電子証明書が送受信され,相互の認証が行われる。単に,PCと認証サーバの電子証明書を相互に送受信しただけでは,相互認証はできないので,認証を可能にする追加の情報も送受信する。 EAP-TLS方式では,暗号鍵作成のための機能強化も図られている。認証処理に加えて,暗号鍵を生成するための乱数などの情報が認証過程でやり取りされ,図2中の⑲のシーケンスが終了した時点で,256ビットのPMKと呼ばれる暗号鍵がPCと認証サーバで共有される。PMKは,PCと無線AP間のデータを暗号化するために使われるので,認証サーバから無線APにも転送される。 実際のフレーム転送時に使われる128ビットの暗号鍵TK(Temporal Key)は,4ウェイハンドシェイクと呼ばれる手順でPCと無線AP間で送受される情報と,PMKを基に生成される。これによって,TKは①WEP方式の暗号鍵とは異なり,予測されにくい暗号鍵となっている。 IEEE 802.1Xは,スイッチのポートベースのアクセス制御を実現する技術である。有線LANで使用する場合は,スイッチの物理ポート単位に通信を制御している。IEEE 802.1Xを実装するスイッチの配下にHUBを接続するような場合には,認証されていないPCとの通信が行われることを防止するため,有線LANでは独自の実装が必要である。一方,無線LANでは,PCと無線APとの論理的接続である【ア】をポート接続と見なすようにポートの概念を拡張している。これによって,②有線LANで使用する場合と比べて,接続制御上の問題が少なくなる。 このように,EAP-TLS方式を使うことで,要件の一つである,許可された利用者のPCだけが社内ネットワークに接続できることになった。 〔認証基盤の構築〕 EAP-TLS方式の実現には【イ】と呼ばれる認証基盤の構築が必要であり,認証局の設置,電子証明書の発行と配布,及び社員の異動や有効期限切れに伴う電子証明書のメンテナンスが必要になる。C君は,電子証明書の初期配布やその後のメンテナンスを容易に行えるように配慮して,認証基盤を構築することにした。 認証サーバとしては,認証局機能とRADIUS機能の両方の機能を備えたアプライアンス型の認証サーバ製品を使い,プライベート認証局を設置することにした。 社員への電子証明書の配布については,個別対応の負担をできるだけ軽減する必要があるので,電子証明書のダウンロード用Webサーバ(以下,配布サーバという)を用意し,そこからダウンロードさせることを検討した。配布サーバには,必要なファイルを認証サーバからコピーして格納しておく。配布サーバの設置に関しては,社員の社内ネットワーク接続方法に関係するので,C君は,ポータビリティの実現と併せて検討することにした。 C君が考えた電子証明書の運用手順の概略は,次のとおりである。 (1)社員には利用申請書を提出してもらう。ただし,今回の集約に伴う移転に関しては,システム部が対象者の情報を人事部から入手し,一括処理するので,提出は不要とする。 (2)社員には,配布サーバのURLと,ダウンロード専用の社員ごとのパスワードをメールや郵便で通知する。 (3)社員は,移転先で初めて社内ネットワークに接続するとき,配布サーバに接続し,各自のクライアント証明書,クライアントの【ウ】及び認証局証明書(以下,証明書類という)をダウンロードしてPCにセットする。 証明書類の継続更新処理は,電子証明書の有効期限内であれば,有効期限の1か月前から,申請手続なく社員各自が,配布サーバから更新済の証明書をダウンロードできるようにする。有効期限内に更新処理を行わなかった場合は,利用申請書を再度提出する(1)~(3)の運用手順が必要になる。 電子証明書の有効期限内であっても,異動などに伴い,社内ネットワークに接続できないようにする必要が生じた場合は,【エ】を作成して電子証明書を無効にする。 C君が,(1)~(3)の運用手順及び証明書類の継続更新処理手順の案をB主任に報告したところ,③“PCに証明書類をセットするだけでは,ユーザ認証という観点では問題がある”という指摘を受けた。そこでC君は,対策としてPCの運用方法を改善することにした。更に調べてみると,証明書類をより安全に管理するためのUSB接続のデバイス(以下,トークンという)があることが分かった。トークンは,証明書類を格納するが,USBメモリとは異なり,パスワードによる不正利用防止機能及びトークン内での暗号処理機能を実現している。A社では,社外に持ち出すPCをシンクライアント化し,トークンを利用することにした。 〔無線LAN規格の混在による影響とその対応〕 A社で使用しているPCは,ほとんどノート型である。デスクトップ型のPCについては集約時に,最新型のノートPCに入れ替える予定である。ノートPCが対応する無線LAN規格にはIEEE 802.11a,IEEE 802.11b及びIEEE 802.11gと複数種あり,中にはIEEE 802.11bにだけ対応するPCもあった。特に同一周波数帯域を使用するIEEE 802.11bとIEEE 802.11gの場合には,混在による影響が懸念された。そこでC君は,その影響について調べてみた。 無線LANでは,イーサネットと異なる【オ】方式と呼ばれるアクセス方式が使われている。通信を開始する無線端末が,ほかの端末が電波を出していないかを,事前に確認する方式である。しかし,電波の伝搬にかかわる無線端末の位置関係,障害物の影響などの空間的な原因や無線LAN規格の混在が原因で,事前の確認ができない場合もある。これを回避する方法として考えられたのが,RTS(Request To Send)及びCTS(Clear To Send)という制御フレームを利用する方式(以下,RTS/CTS方式という)である。このRTS/CTS方式を使用した衝突回避の通信シーケンス例を図3に示す。 図3 RTS/CTS方式を使用した衝突回避の通信シーケンス例 図3は,送信無線端末が無線APに向けてデータを送る場合の例を示している。データ送信に先立ち,送信無線端末がRTSを送信し,RTSを受信した無線APがCTSを送信する。RTS及びCTSには送信抑止時間が含まれており,これらの制御フレームを受信したほかの無線端末は,指定された時間の送信を抑止し,アクセスの衝突を回避する。 RTS/CTS方式では,RTS及びCTSの2個のフレームを送信するので利用効率が低下する。そこで,送信無線端末がRTSの代わりに,CTSを送信する方式(以下,自己CTS方式という)も考えられている。 C君は,RTSやCTSのような衝突回避に使われる制御フレームの送信に必要な時間を試算してみた。これらは無線APに接続する無線端末が認識できるように,互換性のあるフレーム形式で送信される必要がある。そのために,MACフレームの先頭に付加されるプリアンブル部144ビットと物理ヘッダ部48ビットは,固定の1Mビット/秒で送られる。MACフレーム部は,IEEE 802.11bとIEEE 802.11gが混在した場合,11Mビット/秒で送られる。したがって,14バイトのCTSフレームの送信には,合計【a】μ秒の時間がかかる。一方,データフレームについては,1、500バイトのフレームを54Mビット/秒で送る場合,約230μ秒かかることから,制御フレームのオーバヘッドは非常に大きいことが分かる。 C君は,混在による性能低下が大きいので,共存時に性能低下が大きいIEEE 802.11bの利用をやめ,IEEE 802.11bだけに対応するPCの利用者には,IEEE 802.11g対応の無線LANカードを支給することにした。IEEE 802.11gより高速の伝送が可能な新規格であるIEEE【カ】規格の標準化が進んでいることから,支給する無線LANカードには,将来制御用ソフトウェアの更新によって,新規格にも対応可能な無線LANカードを選定した。 このように,A社では,使用する無線LAN規格をIEEE 802.11aとIEEE 802.11gに統合し,さらに,将来の無線LAN高速化への対応を図った。 〔ポータビリティの実現〕 応接エリアでは,社員だけでなく来訪者も無線LANを使用することになるので,社員か来訪者かによって接続先を切り替える制御が必要になる。C君は社員用のESS-IDとは別に,来訪者用のESS-IDを設定することにした。応接エリアの無線APに接続された来訪者のPCからのトラフィックは,インターネット接続用のルータに転送する。 無線LANを利用したい来訪者には,接続のための設定情報が書かれたカードを受付で渡し,持ち込んだPCにその情報を設定してもらうことにした。 部門LANを経由したサーバの利用では,ポータビリティを実現するためには,どの無線APに接続しても,社員の所属部門を認識し,所属部門の部門LANに接続できる仕組みが必要である。その際に,PC側の操作が必要だと,使い勝手が悪いので,PC側の操作を不要にしたい。 C君は,PCを無線LANに接続したときに,社員の所属を区別するVLAN IDを付与できればよいと考えた。VLAN ID付与の方式として,無線APへの設定を工夫する方式と,IEEE 802.1X認証の仕組みを活用する方式の二つを考え,B主任に相談した。 B主任からは,“無線LANのアクセス認証にEAP-TLSを使用しているのだから,それを生かした方式の方がよいのではないか”というアドバイスを受けた。 また,C君は,④認証基盤の構築で用意した配布サーバへの最初のアクセス制御にもIEEE 802.1X認証の仕組みを利用することを考えたが,これについてもB主任から“セキュリティに関して大丈夫か”との指摘を受けた。C君は,当初考えていた配布サーバへのユーザIDとパスワードによるアクセス保護に加え,不正にダウンロードされにくい対策をとることにして,B主任の了承を得た。 IEEE 802.1X認証の仕組みを活用する方式では,⑤社員の所属部門が変わった場合の運用が容易なこともあり,C君は,この方式で進めることにした。 このようにして,C君はA社の無線LANシステムの設計を終え,集約先オフィスへのシステム導入の準備を開始した。 設問1 〔セキュリティ確保の方式〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)PCがクライアント証明書を送出するシーケンスはどれか。図2中のシーケンス番号で答えよ。また,このときに,電子証明書とともに送る認証用データは何か。10字以内で答えよ。 (2)本文中の下線①に関して,どのような手段によって,WEP方式に比べて暗号鍵の予測を困難にしているのか。40字以内で述べよ。 (3)本文中の【ア】に入れる適切な字句を答えよ。 (4)本文中の下線②に関して,有線LANで使用する場合と比べて,接続制御上の問題が少ない理由を30字以内で述べよ。 設問2 〔認証基盤の構築〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の【イ】~【エ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線③に関して,B主任が指摘した問題点を40字以内で述べよ。 (3)B主任が指摘した問題点への対策として,C君が考えたPCの運用方法の具体的な改善案を25字以内で述べよ。 (4)トークン内で暗号処理を行うことで,セキュリティ管理上得られる利点を30字以内で述べよ。 設問3 〔無線LAN規格の混在による影響とその対応〕について,(1)~(5)に答えよ。 (1)本文中の【オ】,【カ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)自己CTS方式の場合,RTS/CTS方式と比べて衝突を回避できない場合は,どのような場合か。25字以内で述べよ。 (3)図3中の制御フレームのうち,同一の無線APに接続するすべての無線端末で受信される必要のあるフレームはどれか。図3中の字句で答えよ。 (4)図3において,ACKを送信しなければならない理由を,無線LANの技術的特性に触れて,50字以内で述べよ。 (5)本文中の【a】に入れる数値を求めよ。答えは,小数点以下を切り上げて整数で求めよ。 設問4 〔ポータビリティの実現〕について,(1)~(5)に答えよ。 (1)IEEE 802.1X認証を用いた場合,VLAN IDが有効になる契機は,図2中のどのシーケンスによるものか。図2中のシーケンス番号で答えよ。 (2)C君が採用したIEEE 802.1X認証の仕組みを活用する案は,どのようなやり方と考えられるか。55字以内で具体的に述べよ。 (3)本文中の下線④に関して,配布サーバへのアクセスの制御をどのように実現しようとしたのか。40字以内で述べよ。 (4)配布サーバ上に格納したクライアントの証明書類の管理について,C君が採用した不正にダウンロードされにくい対策とはどのような方法と考えられるか。40字以内で述べよ。 (5)本文中の下線⑤に関して,無線APへの設定を工夫する方式と比べた場合の運用上の利点を45字以内で述べよ。
図1 集約後の無線LANシステム構成図。インターネットからルータ、FW、L3SWを経由し、認証・DHCPサーバ、DMZ、業務サーバエリア、応接エリア、オフィスエリアの無線APとPCへ接続する構成図。
図1 集約後の無線LANシステム構成図。インターネットからルータ、FW、L3SWを経由し、認証・DHCPサーバ、DMZ、業務サーバエリア、応接エリア、オフィスエリアの無線APとPCへ接続する構成図。
図2 IEEE 802.11iに基づくEAP-TLS方式の認証と鍵配送の概略シーケンス。PC、無線AP、認証サーバ間で、EAPOL、EAP、RADIUSによる認証処理と、PMK生成後の4ウェイハンドシェイク及びフレーム転送を示すシーケンス図。
図2 IEEE 802.11iに基づくEAP-TLS方式の認証と鍵配送の概略シーケンス。PC、無線AP、認証サーバ間で、EAPOL、EAP、RADIUSによる認証処理と、PMK生成後の4ウェイハンドシェイク及びフレーム転送を示すシーケンス図。
図3 RTS/CTS方式を使用した衝突回避の通信シーケンス例。無線AP、送信無線端末、ほかの無線端末の間で、DIFS、RTS、CTS、データフレーム、ACKを用いて送信抑止と衝突回避を行う時間系列図。
図3 RTS/CTS方式を使用した衝突回避の通信シーケンス例。無線AP、送信無線端末、ほかの無線端末の間で、DIFS、RTS、CTS、データフレーム、ACKを用いて送信抑止と衝突回避を行う時間系列図。
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企業内の接続条件を捉える視点

企業内の接続に関する事項を整理するときは、条件が適用される範囲に着目しましょう。個々の用語から結論を急がず、与えられた条件が誰や何について述べているのかを確かめ、検討の土台をそろえることが大切です。

この問題で問われていること

この問題では、扱われている条件の適用範囲を意識して考えてみましょう。ある対象について示された条件を、別の対象にもそのまま当てはめていないかを点検すると、情報を整理する際の思い込みに気づきやすくなります。

視点

条件の内容と、その条件が及ぶ範囲は分けて捉えます。検討中に対象の範囲が変わっていないかを意識し、明示されていない広がりを自分で補わないようにしましょう。

確認ポイント

  • 条件が対象とする範囲を確認したか
  • 検討の途中で対象の範囲を広げていないか
  • 明示されていない範囲を思い込みで補っていないか
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解説

オフィス集約に伴う無線LAN化を題材に、EAP-TLSによる認証と鍵生成、証明書の安全な運用、規格混在時の衝突回避と通信時間、認証結果を利用したVLAN割当てを検討する問題です。利用者の認証と端末の認証を区別し、安全性と利便性を両立させる設計が要点です。

問題の全体像

A社はオフィス集約に合わせて無線LANとフリーアドレスを導入し、社員がどこからでも所属部門のLANを利用できる環境を目指しています。同時に、来訪者にはインターネット接続だけを提供し、社内ネットワークへの不正接続を防ぐ必要があります。出題趣旨では、電波という伝送媒体の特性を踏まえた構成設計、セキュリティへの配慮、運用上の注意を問うとされています。認証方式だけでなく、証明書の配布・保護、規格混在による性能低下、認証結果に応じたVLAN割当てまでを一連の設計として捉えます。

設問1(1)(a)

公式解答例では「⑫」です。本文の「認証方式が決定すると、電子証明書が送受信される」という説明と、図2の「認証方式の決定」の位置に着目します。その後、無線APからPCへの⑪のEAP要求に対して、PCが⑫のEAP応答でクライアント証明書を送ります。⑬は無線APがその内容を認証サーバへ中継する段階なので、PC自身の送出を問う本設問では⑫を選びます。

設問1(1)(b)

公式解答例では「クライアント署名」です。着目するのは、本文の「電子証明書を相互に送受信しただけでは、相互認証はできない」という説明です。証明書を提示するだけでは、そのPCが対応する秘密鍵を持っていることを確認できません。クライアント署名を検証することで秘密鍵の保有を確認します。10字以内の答案では「クライアント署名」と端的に示します。

設問1(2)

公式解答例では、送り合った乱数を使ってミキシングし、ランダム性を実現する点を挙げています。本文の、TKが「4ウェイハンドシェイクで送受される情報とPMKを基に生成される」という記述に着目します。答案では暗号鍵の長さだけを説明せず、予測を困難にする生成方法を示します。40字以内なら「互いに送った乱数をミキシングし、鍵のランダム性を高める。」とまとめられます。

設問1(3)

公式解答例では「アソシエーション」です。空欄の直前にある「PCと無線APとの論理的接続」が用語の定義になっています。図2の①にも「アソシエーションの確立処理」とあり、本文と図が対応しています。IEEE 802.1Xでは、この端末ごとの論理的接続をポート接続として扱い、認証に応じた通信制御を行います。

設問1(4)

公式解答例では、認証が端末と無線APの1対1の関係で行われるからとしています。有線LANでは、スイッチの同じ物理ポートの配下にHUBを介して複数のPCを接続できるため、ポート単位の制御だけでは未認証PCの通信が問題になります。無線LANでは端末ごとのアソシエーションを制御できます。30字以内なら「端末と無線APの一対一の関係で認証するから。」とまとめます。

設問2(1)(a)

公式解答例では「PKI」又は「公開鍵基盤」です。空欄に続く、認証局の設置、電子証明書の発行・配布、有効期限や異動に伴うメンテナンスという説明に着目します。これらは公開鍵とその所有者の対応を証明し、証明書の信頼性を管理する基盤の機能です。認証局は基盤を構成する要素であり、空欄では基盤全体を表すPKIを答えます。

設問2(1)(b)

公式解答例では「秘密鍵」です。クライアント証明書と認証局証明書に加え、PCがクライアント署名を作成するために必要なものを考えます。証明書に含まれる公開鍵だけでは署名を作成できず、それと対になる秘密鍵が必要です。本問では認証サーバ側で用意した証明書類を配布する運用なので、ダウンロード対象にクライアントの秘密鍵が含まれます。

設問2(1)(c)

公式解答例では「失効リスト」又は「CRL」です。着目するのは、有効期限内の証明書でも、異動などにより接続を禁止する必要があるという条件です。期限切れを待つのではなく、失効した証明書の情報をリストとして管理し、認証時に確認することで利用を拒否します。有効期限の管理と、期限内の失効処理を区別することがポイントです。

設問2(2)

公式解答例では、許可されていない利用者でも当該PCを使えばネットワークに接続できる点を問題としています。証明書類をPCにセットするだけでは、そのPCを操作している人物が許可された利用者かを確認できません。端末に認証情報があることと、利用者本人の確認は別です。40字以内なら「許可されていない利用者も、そのPCで社内ネットワークに接続できる。」とまとめます。

設問2(3)

公式解答例では「PCへの利用者パスワードの設定を徹底する。」です。前問の問題は、証明書類が入ったPCを他人が使えてしまうことなので、PCを利用する段階で本人確認を行う運用に改善します。25字以内の答案では、利用者パスワードの設定を徹底することを示します。後段のトークン導入の説明と混同せず、ここではPCの運用方法への対策を答えます。

設問2(4)

公式解答例では、秘密鍵を読み出すことなく処理できるので秘匿性が増すとしています。本文では、トークンにパスワードによる保護と内部での暗号処理という二つの機能が示されています。本設問が問うのは後者の利点です。秘密鍵をPC側へ取り出さずに処理できる点を説明し、30字以内なら「秘密鍵をトークン外へ読み出さずに処理できる。」とまとめます。

設問3(1)(a)

公式解答例では「CSMA/CA」です。本文の「通信を開始する無線端末が、ほかの端末が電波を出していないかを事前に確認する」という説明に着目します。無線LANでは、媒体が使用中かを確認し、待機時間などによって衝突を回避します。衝突を検出する方式との違いは、後のACKが必要な理由にもつながります。

設問3(1)(b)

公式解答例では「802.11n」です。空欄の前後には、IEEE 802.11gより高速で、標準化が進められている新規格という条件があります。問題の時代設定に沿って、無線LAN高速化の規格を特定します。IEEE 802.11iは本文でセキュリティ強化の規格として登場しているため、高速化を問うこの空欄と区別します。

設問3(2)

公式解答例では、端末間で電波が直接届かない位置関係にある場合です。RTS/CTS方式では無線APがCTSを送るため、送信端末の電波が届かない端末にも送信抑止時間を知らせられます。自己CTS方式では送信端末自身がCTSを送るので、その電波が届かない端末には通知できません。25字以内なら「端末間で電波が直接届かない場合。」とまとめます。

設問3(3)

公式解答例では「CTS」です。図3で、無線APから送られ、ほかの無線端末へ送信抑止時間を通知するフレームに着目します。RTSは送信端末が送るため、端末間の位置関係によって受信できない端末があり得ます。無線APからのCTSを各端末が受信することで、データ転送中の送信を控え、衝突を回避します。

設問3(4)

公式解答例では、無線LANでは衝突の検出ができないので、確実に届いたことを通知する必要があるからとしています。単に「受信確認のため」とせず、送信側が衝突を検出できないという技術的特性を理由に含めます。図3のACKは、無線APがデータフレームを受信した後に送っています。50字以内なら「無線LANでは衝突を検出できず、データが確実に届いたことを通知する必要があるから。」とまとめます。

設問3(5)

公式解答例では「203」です。本文で指定された速度を部分ごとに使います。プリアンブルと物理ヘッダは合計144+48=192ビットなので、1Mビット/秒では192μ秒です。CTSのMACフレームは14×8=112ビットなので、11Mビット/秒では112÷11≒10.18μ秒です。合計は約202.18μ秒となり、小数点以下を切り上げて203μ秒です。フレーム間隔やバックオフ時間は、この送信時間の計算には加えません。

設問4(1)

公式解答例では「⑱」です。図2の⑱は、認証サーバから無線APへのRADIUS Acceptです。認証サーバが認証成功とともに所属部門に対応するVLAN IDを無線APへ通知するため、この応答がVLAN割当ての契機になります。⑲はPCへのEAP成功通知であり、本設問では無線APが認証結果を受け取る⑱を答えます。

設問4(2)

公式解答例では、ESS-IDに同一のIDを設定し、認証サーバから通知されたVLAN IDを無線APにセットする方式です。本文の「どの無線APでも所属部門のLANに接続」「PC側の操作を不要にしたい」という要件に対応します。接続先の識別情報を共通にし、認証した利用者に応じてVLANを割り当てます。55字以内なら「社員用ESS-IDを共通にし、認証サーバが通知する所属部門のVLAN IDを無線APに設定する。」とまとめます。

設問4(3)

公式解答例では、無線APが認証失敗時に割り当てるVLANに配布サーバを設置する方式です。初回は証明書類を持っていないため、EAP-TLS認証を成功させてから証明書を取得する手順では行き詰まります。そこで、認証に失敗した端末にも配布サーバへの経路を用意します。40字以内なら「認証失敗時に無線APが割り当てるVLANに配布サーバを設置する。」とまとめます。

設問4(4)

公式解答例では、ダウンロードされた証明書を削除し、それ以降ダウンロードできないようにする方法です。本文ではユーザIDとパスワードによる保護は既に採用しているため、それに加える管理方法を答えます。取得後も配布サーバに残しておくと再取得される余地があるので、配布済みのファイルを削除します。40字以内なら「ダウンロード済みの証明書類を削除し、再ダウンロードを防ぐ。」とまとめます。

設問4(5)

公式解答例では、認証サーバ内の該当社員に付与するVLAN IDの設定を変更するだけで済む点です。所属部門の情報を認証サーバで管理すれば、異動のたびに無線APごとの設定を変更する負担を抑えられます。答案では「管理が容易」と抽象的に書かず、変更対象を明示します。45字以内なら「認証サーバで該当社員に割り当てるVLAN IDを変更するだけで済む。」とまとめます。

学習のポイント

図の通信順序を本文と対応付け、秘密鍵の保護、隠れ端末への対処、動的VLANと証明書初期配布の関係を理解しましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅱ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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