NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 eラーニングシステムの増強に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 H社では、社員の業務スキル向上のために、PCのブラウザから利用できるeラーニングシステム(以下、eシステムという)を導入して、一部の部署で活用してきた。 その結果、eシステムの活用効果を確認できたので、研修コースを拡充して全社に展開することにした。各コースのコンテンツは、文字、図表、音声及び動画を使って作成されている。eシステムは、全社員が利用することになるので、eシステムのサーバ(以下、eSVRという)を複数台の構成にして、負荷分散装置(以下、LBという)で処理を振り分けることにした。H社のネットワーク構成を、図に示す。本社と営業所のネットワークのIPアドレスは、サブネットを設定せず、それぞれクラスAとクラスBが用いられている。 図 H社のネットワーク構成(抜粋) 〔増強するeシステムの構成〕 eシステムの増強は、情報システム部のP君が担当することになった。P君は、eシステムの利用者数と、ベンダから入手したパフォーマンスに関する仕様を基に、eSVRとLBの機種を選定した。また、コンテンツと管理情報の一元管理のために、ファイルサーバも併せて導入することにした。 選定したLBは、(i)処理の振分け機能、(ii)【ア】維持機能、(iii)ヘルスチェック機能をもっている。(i)には、様々な方式がある。本システムの応答時間は、eSVRの負荷の増加とともに長くなると考えられたので、応答時間が最短のeSVRに処理を振り分ける方式を採用することにした。(ii)には、リクエスト元のIPアドレスに基づいて行うレイヤ3方式や、Webページにアクセスしたユーザに関する情報を保持する【イ】に埋め込まれた、セッションIDに基づいて行うレイヤ7方式などがある。eシステムを利用するPCには、IPアドレスが固定設定されているので、レイヤ3方式を利用することにした。(iii)には、レイヤ3、レイヤ4及びレイヤ7の各レイヤで稼働状況を監視する方式がある。eシステムのサービスポートの稼働状況を監視するために、レイヤ4方式を利用することにした。 LBの故障時に、ネットワーク構成を変更しなくてもeシステムの運用が継続できるように、LBとeSVRは、図の構成で設置することにした。PCからのeシステム利用には、社内のPCを三つのブロックに分け、各ブロックのPCごとに、異なったeSVRのホスト名を指定させる。DNSで、三つのホスト名に一つのVIPを対応付けることによって、LB経由でeSVRに接続できる。このように、eSVRのホスト名を使い分けることで、LBの故障時にも①DNSの設定変更によって、3台のeSVRに処理を振り分けることができる。選定したLBには、PCからVIPあてに送信されたパケットの、送信元IPアドレスをLBの実アドレスに変換してeSVRに転送する、ソースNAT機能がある。ソースNAT機能を利用すると、既設eSVRのネットワーク情報の設定変更が不要になる。しかし、②管理上必要な情報が、eSVRのログから取得できなくなってしまう問題があるので、ソースNAT機能は利用しないことにした。 〔eシステムの増強〕 まず、P君は、検証環境で動作テスト実施済の2台のeSVRと1台のファイルサーバを、本社のLANに接続して、3台のeSVRに必要な情報を設定した。その後で、あらかじめ作業を依頼していた営業所のY君とともに、PC-x1とPC-y1から各eSVRにpingコマンドを発行し、正常応答を確認した。次に、PC-x1とPC-y1から各eSVRに接続して、eシステムが正常に利用できることを確認した。eシステムが利用できたので、P君はLBを本社のLANに接続して、DNSとLBに必要な情報を設定した。Y君にPC-y1からLB経由でeシステムを利用してもらったところ、eシステムの開始画面がPC-y1に表示されず、eシステムが利用できなかった。P君は、障害の原因究明のために、本社のLANにトラフィックモニタを接続して、通信データを収集した。収集した通信データのフレームの中から抽出した、eシステム接続に関連するフレームのアドレス情報を、表1に示す。 表1 eシステム接続に関連するフレームのアドレス情報 収集したフレームのアドレス情報から、eSVR1からPC-y1にパケットが返送されているにもかかわらず、③PC-y1で処理が継続されないという問題が発見できた。P君は、各eSVRのネットワーク設定情報の設定間違いが原因と判断し、設定情報を変更したところ、PC-y1からeシステムが利用できるようになった。P君は、営業所からLB経由でeシステムが利用できれば、本社のPC-x1からも問題なく利用できると考えていたが、PC-x1からのeシステム利用でも、PC-y1と同様の障害が発生してしまった。再度、トラフィックモニタで通信データを収集した。eSVR1から返送されたフレームのアドレス情報は表2のとおりであり、変更が不十分であったことが判明した。P君は、各eSVRのネットワーク設定情報を追加変更して障害を解決した。 表2 eSVR1から返送されたフレームのアドレス情報 〔eシステムの運用〕 eシステムの増強が完了したので、eシステムの本格運用を開始した。eシステムの利用拡大によって、配信される音声が聞き取りにくいとか、動画が頻繁に停止するというクレームが多発するようになった。eSVRの性能やLANとWANの帯域には問題ないと判断できたので、P君はLBが原因ではないかと考えて、LBベンダの技術者に対応策について相談した。LBベンダの技術者から、LBの最新ファームウェアには、eSVRから返送されたパケットを直接PCあてに送信できるようにする機能(以下、DSR(Direct Server Return)という)が追加されていて、eシステムではDSRを利用できる構成なので、DSRを機能させればクレームに対処できるとの助言を受けた。 DSRを有効に機能させるためには、各eSVRにループバックインタフェースを追加設定する必要がある。DSRを機能させると、LBはPCから受信したパケットに変更を加えないで、eSVRあてに転送する。eSVRが受信したパケットのあて先IPアドレスが、ループバックインタフェースに設定されたIPアドレスと同じとき、このIPアドレスがeSVR自身のものとして、eSVRから返送されるパケットに使われる。この結果、LBを経由させなくてもPCとの間で処理が継続できることになる。 P君は、LBベンダの技術者から得たこれらの情報を基に、LBのファームウェアをバージョンアップし、LBとeSVRの関連する情報を設定、変更して、問題を解決することができた。その後、eシステムの稼働は安定し、活用は更に促進された。 設問1 〔増強するeシステムの構成〕について、(1)~(4)に答えよ。 (1) 本文中の【ア】、【イ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2) 利用予定の稼働監視では、eシステムの稼働状況を、どのような方法で監視するか。30字以内で具体的に述べよ。 (3) 本文中の下線①の設定変更の内容を、35字以内で述べよ。 (4) 本文中の下線②の取得できなくなる情報を、20字以内で述べよ。 設問2 〔eシステムの増強〕について、(1)~(3)に答えよ。 (1) 表1中の【a】~【d】に入れる適切なMACアドレス又はIPアドレスを、図中の表記を用いて答えよ。 (2) 本文中の下線③の原因を、受信したパケットに着目して、30字以内で述べよ。 (3) 二度目の障害の対策として変更した、eSVRのネットワーク情報を、10字以内で答えよ。 設問3 〔eシステムの運用〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1) LBによって引き起こされたクレームの発生原因を、パケットが通信されたときの状態に着目して、35字以内で述べよ。 (2) DSRを機能させた場合に、eSVRから返送されるフレームは、表2中のアドレス情報がどのように変わったものになるかを、30字以内で述べよ。ただし、PC-x1からのeシステムの利用は、eSVR1に振り分けられたものとする。
図 H社のネットワーク構成(抜粋)。本社と営業所をIP-VPNで接続し、LBを介して3台のeSVRへ負荷分散するネットワーク構成と機器のIPアドレス・MACアドレスを示す図。
図 H社のネットワーク構成(抜粋)。本社と営業所をIP-VPNで接続し、LBを介して3台のeSVRへ負荷分散するネットワーク構成と機器のIPアドレス・MACアドレスを示す図。
表1 eシステム接続に関連するフレームのアドレス情報。eシステム接続時に観測された三つのフレームについて、送信元・あて先のMACアドレスとIPアドレスを示す表。
表1 eシステム接続に関連するフレームのアドレス情報。eシステム接続時に観測された三つのフレームについて、送信元・あて先のMACアドレスとIPアドレスを示す表。
表2 eSVR1から返送されたフレームのアドレス情報。eSVR1からPC-x1へ返送されたフレームの送信元・あて先MACアドレスとIPアドレスを示す表。
表2 eSVR1から返送されたフレームのアドレス情報。eSVR1からPC-x1へ返送されたフレームの送信元・あて先MACアドレスとIPアドレスを示す表。
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検討に使う前提条件をそろえる

検討を始める前に、与えられた条件がどの範囲に当てはまるかを整理しましょう。途中で条件の適用範囲を広げたり狭めたりしていないかを確かめ、同じ前提を保ちながら考えることが大切です。

この問題で問われていること

この問題では、判断の根拠にする条件の適用範囲に注目してください。与えられた条件と自分で補った仮定を混同せず、考えを進める途中でも、最初に確認した範囲を保てているかを振り返りましょう。

視点

前提条件は、適用される範囲と合わせて捉えます。条件の意味を整理するときは、自分の推測によってその範囲を変えていないかに注意しましょう。

確認ポイント

  • 条件が当てはまる範囲を確認したか
  • 条件の範囲を推測で補っていないか
  • 検討の途中で条件の範囲を変えていないか
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解説

本問は、負荷分散装置によるセッション維持と稼働監視、DNSによる障害時の切替え、アドレス変換と返送経路の関係を扱います。観測したLANのMACアドレスと通信相手のIPアドレスを区別し、障害原因とDSRによる改善を説明することが要点です。

問題の全体像

H社はeラーニングシステムを全社に展開するため、サーバを3台に増設し、LBで負荷を分散します。導入時には応答がLBを経由せずに返ることで接続障害が生じ、運用時にはLBでの転送遅延が問題になります。公式資料の出題趣旨では、TCP/IP通信の基本技術の理解と、障害原因を特定して解決策を考える能力を問うとされています。要求と応答の経路を追い、各地点のMACアドレスとIPアドレスを区別することが解答の軸です。

設問1(1)(ア)

リクエスト元のIPアドレスやセッションIDを基に、継続する通信を同じeSVRへ振り分ける機能に着目します。公式解答例では「セッション」です。一連の処理の途中で振分け先が変わることを防ぐ機能なので、本文の「セッション維持機能」につながります。

設問1(1)(イ)

「Webページにアクセスしたユーザに関する情報を保持する」と、そこに埋め込まれたセッションIDを利用するという説明に着目します。公式解答例では「Cookie」です。Cookieに含まれるセッションIDをLBが参照し、同じセッションの要求を同じeSVRへ振り分けます。

設問1(2)

本文は、サービスポートの稼働状況を監視するためにレイヤ4方式を利用するとしています。公式解答例では、監視対象のポートに対してコネクションの確立を試みます。30字以内では「監視対象ポートにTCPコネクションの確立を試みる。」と要点をまとめられます。採点講評では、pingはレイヤ3の監視であり、レイヤ4ではTCPの接続確立を確認するという区別が示されています。

設問1(3)

通常は三つのホスト名が同じVIPに対応し、PCはLBへ接続します。LB故障時には、各ホスト名が別々のeSVRを指すようにDNSを変更すれば、三つのPCブロックを各サーバへ振り分けられます。公式解答例では、三つのホスト名にそれぞれ3台のサーバのIPアドレスを設定します。35字以内では「三つのホスト名に各eSVRのIPアドレスを対応付ける。」とまとめられます。

設問1(4)

ソースNATは、要求パケットの送信元IPアドレスをPCのアドレスからLBの実アドレスへ変換します。eSVRのログにはLBのアドレスが記録され、元のPCのIPアドレスを取得できなくなります。公式解答例では「サーバに接続したPCのIPアドレス」です。20字以内の答案では、取得できない情報が接続元PCのIPアドレスであることを示します。

設問2(1)(a)

通信データを収集した場所が「本社のLAN」であることに着目します。PC-y1の要求は、営業所のルータ2からIP-VPNを通り、本社のルータ1に到達します。表1の項番1は、そのルータ1が本社LAN上のLBへ送ったフレームなので、公式解答例の送信元MACアドレスは「HRTMAC」です。ルータ2のERTMACやPC-y1のPCy1MACは、この本社LAN上のフレームの送信元にはなりません。

設問2(1)(b)

表1の項番1のあて先IPアドレス10.10.0.1は、図に示されたLBのVIPです。本社LAN上では、ルータ1がこのVIPをもつLBへフレームを送るため、あて先MACアドレスはLBのものになります。公式解答例では「LBMAC」です。VIPはIPアドレスであり、MACアドレス欄には図のLBMACを記入します。

設問2(1)(c)

項番2は、LBが要求をeSVR1へ転送したフレームです。あて先IPアドレス10.10.10.1がeSVR1の実アドレスなので、あて先MACアドレスもeSVR1のものになります。公式解答例では「SVR1MAC」です。LBがあて先IPアドレスを変換しても、実際に転送する相手がeSVR1であることを追います。

設問2(1)(d)

本文の「ソースNAT機能は利用しない」という条件に着目します。LBは要求のあて先IPアドレスをeSVR1の実アドレスへ変換しますが、送信元IPアドレスはPC-y1のものを保持します。公式解答例では「172.16.0.1」です。フレームの送信元MACアドレスがLBMACに変わることと、パケットの送信元IPアドレスが保持されることを区別します。

設問2(2)

PC-y1が接続した相手はVIPの10.10.0.1ですが、表1の項番3の応答はeSVR1の実アドレス10.10.10.1を送信元としています。応答がLBを経由せず、PCが通信相手としているIPアドレスと異なる送信元で届くため、処理が継続しません。公式解答例では「通信相手でないサーバからのパケットを受信したこと」です。これは30字以内で、受信パケットに着目した原因を示しています。

設問2(3)

表2では、eSVR1が応答をPC-x1のMACアドレスへ直接送っています。本社は10.0.0.0/8なので、eSVR1は10.128.1.1のPC-x1を同じネットワークと判断し、ゲートウェイを経由せずに返送します。営業所向けの返送経路だけを変更しても、この直接返送は防げません。公式解答例では「サブネットマスク」です。PC-x1を別ネットワークと判断してLBへ返送するようにするための変更であり、10字以内で情報名を答えます。

設問3(1)

eSVRの性能とLAN・WANの帯域には問題がなく、DSRで返送パケットがLBを通らなくなると改善する点に着目します。問題はLBでの返送パケットの転送遅延です。公式解答例では、LBでのPCあてパケットのロスと再送などによる遅延、又はLBの負荷による返送パケットの転送遅延が示されています。35字以内では「LBの負荷によるPCあての返送パケットの転送遅延」とまとめられます。

設問3(2)

DSRでは、要求パケットのあて先IPアドレスであるVIPを変更せずにeSVRへ転送します。eSVRはループバックインタフェースに設定したVIPを自身のアドレスとして扱い、応答の送信元に使います。公式解答例では、表2の送信元IPアドレスが仮想IPアドレスに変わります。30字以内では「送信元IPアドレスが仮想IPアドレスに変わる。」と答えられます。具体的には10.10.10.1から10.10.0.1へ変わり、表2のほかのアドレスはそのままです。

学習のポイント

ルータ通過時のMACアドレスの変化、LBのアドレス変換、サブネットマスクによる経路選択、DSRの仕組みを重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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