NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 メールシステムの移行に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。 X社は,社員250名の出版社である。自社でメールシステムを運用しており,外部メールサーバ,自社のドメインを管理しているDNSサーバ,プロキシサーバをDMZに設置し,内部メールサーバを社内LANに設置している。PCでのメールの送受信には,内部メールサーバとの間でSMTPとPOP3を利用している。PCには固定IPアドレスを割り当てている。PCからインターネットへのアクセスは,プロキシサーバ経由のHTTPとHTTPSだけを許可している。X社のネットワーク構成を,図に示す。 図 X社のネットワーク構成(抜粋) X社では,情報漏えい防止のため,ファイルサーバを活用してPCにデータを保存しない運用を徹底してきたが,メールデータはPCに保存せざるを得ず,以前から問題になっていた。そこで,X社は,メールの閲覧,作成,送信などをブラウザで行うことができるWebメールへの移行を決めた。また,メールシステムの運用に負担がかかっていることから,ASPであるJ社のメールサービスを利用することにした。 〔J社のメールサービス〕 J社のメールサービスは,PCのメールソフトを利用した送受信にも対応しているが,JavaScriptの非同期通信の機能による,画面遷移が起こらない動的なユーザインタフェースを実現する【ア】と呼ばれる技術を使ったWebメールの評判が高い。この技術によって,J社のWebメールは,PCのメールソフトと比べてそん色ない機能と操作性を備えている。J社のメールサービスの主な設定項目を表に示す。 表 J社のメールサービスの主な設定項目(抜粋) 〔要件の整理〕 X社の企画会議にて,Webメールへの移行について次の要件を決定し,システム管理担当のR君が移行の検討を任された。 ・インターネット接続回線の高速化は実施しない。 ・Webメールの利用は社内からの接続に限定する。 ・PCに保存していたメールデータをWebメールへ移行する。 ・J社のメールサーバ(以下,ASPサーバという)との通信は暗号化する。 ・Webメールの利用開始後,PCのメールソフトとメールデータを削除する。 R君は,内部メールサーバのログを調査し,メールのトラフィックを確認したところ,迷惑メールなどPCに取り込んでも読まないメールが多いことが分かった。JavaScriptのコードの読込みなどWebメールの利用によって新たに増えるトラフィックもあるが,メールを読まないことで削減できるトラフィックもあることから,インターネット接続回線の帯域不足は発生しないと判断した。 次に,R君は,PCに保存しているメールデータをASPサーバに移行する方法を調査したところ,IMAPやIMAPSを利用すればASPサーバにメールデータをアップロードできることが分かった。まず,R君は,FWの【エ】という機能を利用して,一つのグローバルアドレスを共有し,同時に複数のPCがASPサーバと通信する方式を考えた。しかし,PCのメールソフトがIMAPSには対応していないことが判明し,この方式では,ASPサーバとの通信が暗号化できないことが分かった。そこで,R君は,プロキシサーバに,IMAPとIMAPSを相互に変換するSSLゲートウェイ機能をもたせることにした。 R君は,ホームページの閲覧によるウイルス感染を防ぐために,現在利用しているプロキシサーバのウイルスチェック機能が,Webメールにも効果があるのかを調査した。Webメールで利用するHTTPSでは,PCは【オ】メソッドを利用してプロキシサーバへ接続先を指定し,SSLセッションをASPサーバとの間で確立する。そのため,プロキシサーバのウイルスチェック機能は効果がないことが分かった。 そこで,ウイルスチェック対策として,ASPサーバのウイルスチェック機能を利用することにした。さらに,OSやブラウザの脆弱性を悪用され,①メールを閲覧するだけでPCがウイルスに感染することを防ぐための対策も実施することにした。 〔移行手順の検討〕 R君は,次の移行手順を作成した。手順は,(a)から(i)の順番に実施する。 (a)ASPサーバの設定 (b)プロキシサーバへのSSLゲートウェイ機能の追加とFWの設定変更 (c)DNSサーバでX社のドメインの【カ】レコードの値をASPサーバの【キ】へ変更 (d)J社のメールサービスの利用開始 (e)PCのメールソフトの設定変更 (f)PCからASPサーバへのメールデータのアップロード (g)ASPサーバ,FW及びプロキシサーバの設定変更 (h)PCに保存しているメールデータとメールソフトの削除 (i)内部メールサーバと外部メールサーバの運用停止 次は,移行手順に関するT課長とR君の会話である。 T課長:移行手順(c)の後,インターネットからのメールはASPサーバに保存されるわけだな。だが,移行手順(d)の後も,誤ってPCのメールソフトを使い続ける社員もいるだろう。そうなると,内部メールサーバにも新規のメールが保存され続けてしまう可能性があるが,何か防ぐ方法はないだろうか。 R君:②内部メールサーバの設定を変更すれば,PCのメールソフトでのメール送信はできなくなります。 T課長:では,その手順を追加しておいてくれ。メールデータのアップロードの際に考慮すべきことはないのかな。 R君:移行手順(e)と(f)の作業は各社員で実施してもらいます。手順書を作って説明会を実施する予定です。同時に作業を行う社員が多いと,インターネット接続回線が輻輳する可能性があります。そのため,社員をグループに分けて,グループ単位に作業期間を割り当てる予定です。 T課長:だが,作業期間を守らない社員が出そうだな。割り当てられた作業期間以外はアップロード作業ができないような対策はないのか。 R君:③FWの設定で対応したいと思います。手順に追加します。 R君の移行手順は企画会議で了承され,来月移行を開始する予定である。 設問1 本文中及び表中の【ア】〜【オ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔要件の整理〕について,(1)〜(3)に答えよ。 (1)Webメールの利用を社内だけに限定するためのJ社のメールサービスの設定を,35字以内で述べよ。 (2)メールのトラフィック確認について,R君が外部メールサーバのログを利用しなかった理由を,30字以内で述べよ。 (3)本文中の下線①の対策として有効なJ社のメールサービスの設定を,25字以内で述べよ。 設問3 〔移行手順の検討〕について,(1)〜(4)に答えよ。 (1)本文中の【カ】,【キ】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)本文中の下線②の設定変更の内容を,15字以内で述べよ。 (3)移行手順(e)の設定変更の内容を二つ挙げ,それぞれ20字以内で述べよ。 (4)本文中の下線③の設定の内容を,35字以内で述べよ。
図 X社のネットワーク構成(抜粋)。インターネットからルータ、FW、L3SWを経由してDMZと社内LANへ接続するX社のネットワーク構成図。
図 X社のネットワーク構成(抜粋)。インターネットからルータ、FW、L3SWを経由してDMZと社内LANへ接続するX社のネットワーク構成図。
表 J社のメールサービスの主な設定項目(抜粋)。J社メールサービスについて、利用プロトコル、接続を許可するクライアントIPアドレス、Webメール機能の設定項目を示す表。
表 J社のメールサービスの主な設定項目(抜粋)。J社メールサービスについて、利用プロトコル、接続を許可するクライアントIPアドレス、Webメール機能の設定項目を示す表。
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通信方式と安全対策の整理ポイント

メールシステムの移行を考えるときは、通信の目的と守るべき情報を切り分け、利用場面ごとに安全性・互換性・運用負担のバランスを確認し、全体の要件に照らして整理する視点が重要です。

この問題で問われていること

一つの方式名や用語の印象だけで判断せず、送受信のどの段階を対象にしているか、保護したい対象と運用上の制約が何か、さらに移行後も無理なく維持できるかを対応づけて考えてください。

視点

通信方式を検討する際は、経路・接続先・認証・保護対象を同じ観点で整理し、移行後の利用者操作や管理方法まで含めて比較します。個別の名称より、要件との対応関係に注目しましょう。

確認ポイント

  • どの通信段階を確認対象にするか整理する
  • 守るべき情報と想定されるリスクを分けて考える
  • 移行後の運用負担や継続的な管理方法を確認する
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解説

自社メールシステムをASPのWebメールへ移行する事例を通じて、メールプロトコル、プロキシ、FW、DNS、ウイルス対策、移行時の通信制御を問う問題です。

問題の全体像

X社は、PCにメールデータを保存する問題を解消するため、J社のASP型Webメールへ移行する。移行では、社内利用への限定、ASPサーバとの暗号化、既存メールデータのアップロード、旧メールサーバ停止を順に実施する。設問は、Webメール技術とメールプロトコル、プロキシ・FW・DNSの設定、ウイルス対策、移行期間中の通信制御を、本文の通信経路に対応付けて答えさせる構成です。

設問1(ア)

本文は、JavaScriptの非同期通信によって画面遷移を抑えた動的なユーザインタフェースを実現する技術を説明している。公式解答例では、この技術をAjaxとしている。

設問1(イ)

表ではTCPポート25のプロトコルを問うている。メール送信に使う標準プロトコルはSMTPなので、公式解答例はSMTPです。

設問1(ウ)

TCPポート995は、SSLで暗号化したPOP3です。したがって、公式解答例ではPOP3Sとしている。

設問1(エ)

複数のPCが一つのグローバルアドレスを共有してASPサーバと通信する方式を、FWのアドレス変換機能で実現しようとしている。公式解答例は、ポート番号も変換して多重化するNAPTです。

設問1(オ)

HTTPSでPCがプロキシへ接続先を指定し、その先のASPサーバとSSLセッションを確立する場面です。プロキシを通して任意の宛先へTCP接続を確立するHTTPメソッドはCONNECTであり、公式解答例もCONNECTとしている。

設問2(1)

Webメールの利用は社内からの接続に限定する要件です。表のアクセス設定は接続を許可するクライアントのIPアドレスを指定するため、社内PCの個々のアドレスではなく、社内PCが利用するプロキシサーバのIPアドレスだけを許可する。公式解答例も、プロキシサーバのIPアドレスだけを許可するとしている。

設問2(2)

外部メールサーバのログだけでは、社内メールサーバから社内宛てに配送されるメールの状況を把握できない。本文で確認したいメールトラフィックには社内間のメールも含まれるため、公式解答例は、社内から社内宛てのメールのログが残っていないことを理由としている。

設問2(3)

メールを閲覧するだけでPCが感染するリスクは、HTMLメールに含まれるスクリプトや悪用コードの実行と関係する。したがって、字数内ではHTMLメールの表示機能を無効にする設定を押さえる。公式解答例も同じ内容です。

設問3(1)(カ)

DNSでX社ドメイン宛てのメール配送先をASPサーバへ変更するため、対象となるDNSレコードはメール交換サーバを示すMXレコードです。

設問3(1)(キ)

MXレコードの値には、メールサーバをホスト名で指定する。本文の「ASPサーバの【キ】」に入るのは、公式解答例のFQDNです。

設問3(2)

誤って旧メールソフトを使い続けても内部メールサーバに新規メールが保存されないよう、送信に使うSMTP機能を停止する。公式解答例では、SMTPの機能を停止するとしている。

設問3(3)

PCのメールソフトはIMAPSに対応していない一方、プロキシにIMAPとIMAPSを相互変換するSSLゲートウェイを追加する。したがって、設定変更は、受信プロトコルをIMAPにすること、受信サーバをプロキシサーバにすることの二つです。これによりPCからはIMAPで接続し、プロキシ以降をIMAPSとして暗号化できる。

設問3(4)

社員が割り当てられた期間以外にアップロードできないよう、FWでIMAP通信を許可する送信元IPアドレスを期間ごとに制限する。公式解答例では、作業期間ごとにIMAPを利用できる送信元IPアドレスを制限するとしている。

学習のポイント

ネットワーク構成と各設定の役割を通信方向ごとに整理する力を身につける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成21年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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