AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

令和7年度秋期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1 オープンAPI態勢の監査

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 オープンAPI態勢の監査に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 A銀行は,以前から個人預金者(以下,顧客という)向けにインターネットバンキングによるサービス(以下,IBサービスという)として,口座残高,入出金明細などの照会サービス,及び振込,振込状況確認などの決済サービスを提供している。数年前からオープンAPIを利用してIBサービスの利便性向上を図っており,顧客はフィンテック事業者が提供するスマートフォンやタブレット向けのアプリケーションソフトウェア(以下,アプリという)からIBサービスを利用できるようになった。 〔オープンAPIを利用したIBサービスの概要〕 A銀行がAPIを公開し,フィンテック事業者が提供する通帳,家計簿,決済などのアプリが,顧客の操作に応じてA銀行のIBサービスにオープンAPI経由でアクセスして結果を顧客に返す。当該アプリによるIBサービスへのアクセスは,A銀行とオープンAPI利用契約を締結したフィンテック事業者に対して,A銀行がアクセストークンを発行することによって許可される。アクセストークンは,A銀行のIBサービス利用に係る顧客との同意に基づく許可証であり,これによってフィンテック事業者のアプリがアクセスできるIBサービスの範囲が決定される。 〔金融オープン・イノベーションの推進〕 現在,インターネット経由で銀行口座の情報を取り扱うサービスを提供するフィンテック事業者には,電子決済などの代行業者(以下,電代業者という)としての登録が義務付けられている。また,銀行には努力義務として,オープンAPIを活用してセキュリティを確保しつつ電代業者との協業や連携を促進するオープンAPI態勢の整備が求められている。 〔A銀行のオープンAPI態勢〕 A銀行のIBサービスに係るオープンAPI態勢は,次の各機能から構成される。 (1) IBサービスの企画・改善 リテール業務部は,オープンAPI経由で顧客に提供するIBサービスを企画する。また,電代業者からの要望などを参考に,新規IBサービスの企画や現行IBサービスの改善を検討する。企画及び改善の内容は,IBサービス要件定義書にまとめられる。オープンAPIに係る新規公開,仕様変更及び廃止の通知は,実施の1か月前までにA銀行のホームページに掲載されるとともに,オープンAPI利用契約を締結している電代業者に送られる。 (2) オープンAPIの設計・開発・保守 情報システム部は,IBサービス要件定義書を基にオープンAPI仕様書を作成し,オープンAPIの開発及び保守を行う。当該仕様書は,処理の詳細,処理を制御するパラメータと指定可能値,接続方法などを記載したものであり,オープンAPIの仕様変更やバグ修正に伴って改訂される。 (3) オープンAPIの運用 情報システム部は,オープンAPI運用手順書に沿って,新規公開及び廃止を含めて運用を行う。運用ではオープンAPIが稼働するサーバ(以下,APIサーバという)の負荷状況,接続遮断などの各種イベントの発生状況,オープンAPI経由のアクセス状況が監視される。また,その結果は月次でオープンAPI運用報告書にまとめられ,情報システム部内で回付される。 (4) オープンAPIの接続審査 情報システム部は,公益財団法人金融情報システムセンター発行の“API接続チェックリスト”を基に,A銀行独自のAPI接続チェックリスト(以下,チェックリストという)を作成している。公開しているAPIに対する電代業者からのオープンAPI利用申請があった場合には,チェックリストを用いて,電代業者における情報セキュリティ対策の状況,認識している課題,課題への対応計画などについて審査を行う。そして,顧客情報の安全な提供が可能であることを確認した上でオープンAPI利用契約を締結する。 〔システム監査の実施指示〕 内部監査部長は,オープンAPI利用契約を締結する電代業者が増加してきたことから,オープンAPI態勢の各機能が有効に働かない場合に電代業者及び顧客に及ぼす影響を懸念した。そして,オープンAPI態勢の各機能の状況について監査を行うようシステム監査チームに指示した。 〔予備調査の結果〕 システム監査チームは,オープンAPI態勢の各機能を担うリテール業務部及び情報システム部に対して予備調査を実施し,把握した状況を表1にまとめた。 表1 オープンAPI態勢の各機能の状況(抜粋) 〔本調査の結果〕 システム監査チームは,本調査を実施し,指摘事項及び改善提案を次のようにまとめた。 (1) オープンAPI運用報告書が情報システム部内での回付にとどまっており,オープンAPI態勢において有効利用されていない。当該報告書にはオープンAPI経由のアクセス状況が記載されているので,他に有効利用できる余地がある。 (2) オープンAPI態勢における電代業者との協業や連携の促進の観点からは,セキュリティの確保だけでなく,電代業者におけるアプリ管理への影響を抑えるために,次の事項を考慮する必要がある。 (a) オープンAPIの仕様変更が頻繁に発生しないような設計にすること (b) オープンAPIの仕様変更が行われた場合,それによって電代業者がIBサービスを利用できなくなることを防ぐこと (3) APIレート制限値を超えた場合には,エラーメッセージがアプリに返され,オープンAPIへの接続が一時的に遮断されるが,APIサーバの能力に余裕がある状態でも接続が遮断される事象が発生している。DDoSなどのサイバー攻撃や不正アクセスの検知,及びそれに伴う接続遮断の形跡がないので,APIサーバで設定されているAPIレート制限値が適切でない可能性がある。不要な接続遮断によるIBサービス提供の中断を避けるために,APIレート制限値のチューニングが必要である。 (4) チェックリストによる審査に時間を要しており,契約の可否判断が遅れる傾向にあるので,IBサービスの利用開始に関して,直接的には電代業者,間接的には顧客に影響を及ぼすおそれがある。チェックリストの各確認項目を同等に取り扱うのではなく,アクセストークンに基づくリスクベースアプローチによって,審査の効率向上を図る必要がある。 設問1 〔本調査の結果〕(1)について,オープンAPI運用報告書の有効利用に関してシステム監査チームが提案すべき改善内容を,30字以内で答えよ。 設問2 〔本調査の結果〕(2)について,(i),(ii)に答えよ。 (i) システム監査チームは,オープンAPIの仕様変更によって電代業者でどのような対応が必要になると考えて,(a)に示す改善提案を行ったか。30字以内で答えよ。 (ii) システム監査チームによる改善提案(b)を行うために,仕様変更後のAPI公開に当たって情報システム部が取り得る方策を二つ挙げ,それぞれ30字以内で答えよ。 設問3 〔本調査の結果〕(3)について,APIサーバで設定されているAPIレート制限値以外にシステム監査チームが入手した監査証拠を含め,当該状況を発見した監査手続を,45字以内で答えよ。 設問4 〔本調査の結果〕(4)について,システム監査チームが意図したリスクベースアプローチの内容を,50字以内で答えよ。
表1 オープンAPI態勢の各機能の状況(抜粋)。オープンAPI態勢の4機能(IBサービスの企画・改善、オープンAPIの設計・開発・保守、運用、接続審査)ごとの状況を示す表。利用状況の分析、アクセストークンの範囲を超えるアクセスの防止、APIレート制限の実施、審査負荷の増加と効率向上の意向を記載している。
表1 オープンAPI態勢の各機能の状況(抜粋)。オープンAPI態勢の4機能(IBサービスの企画・改善、オープンAPIの設計・開発・保守、運用、接続審査)ごとの状況を示す表。利用状況の分析、アクセストークンの範囲を超えるアクセスの防止、APIレート制限の実施、審査負荷の増加と効率向上の意向を記載している。
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監査の目的と記述の対応を確かめる

システム監査の設問では、各記述が監査の目的やリスクとどう結び付いているかを意識すると整理しやすくなります。指摘・改善提案・監査手続のそれぞれが、何を確かめ、何を改めるためのものかという役割の違いに着目しましょう。

この問題で問われていること

まず、問われている箇所が事実の指摘なのか、改善の方向性なのか、それを確かめる手続なのかを見極めることが大切です。次に、示された事実とリスクの結び付きに照らして、その記述が監査人の立場として妥当かを考えます。

視点

システム監査では、何が問題かを示す指摘、どう改めるべきかを示す改善提案、どのように確かめるかを示す監査手続が、それぞれ異なる役割を担います。どの記述を検討する場合も、それがどのリスクや統制上の弱点に対応しているのかをたどると、記述同士のつながりや過不足を判断しやすくなります。また、監査人は独立した立場から評価し助言する存在であり、業務を自ら実施する立場ではない点も意識しましょう。

確認ポイント

  • 検討している記述が、指摘・改善提案・監査手続のどの役割に当たるかを確認したか
  • その記述が、状況から読み取れるリスクや統制上の弱点と対応しているかを確認したか
  • 記述の内容が、評価し助言する監査人の立場から見て無理のないものかを確認したか
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解説

A銀行のオープンAPI態勢を題材に、四つの機能(企画・改善、設計・開発・保守、運用、接続審査)ごとのリスクとコントロールを考える問題です。公式解答例では、運用報告書をリテール業務部が参照すること、仕様変更のたびにアプリ改修が必要になること、テスト環境の提供と旧APIの一定期間の並行稼働、運用報告書でサーバ負荷と接続遮断の関係を分析すること、アクセスを許可するIBサービスの範囲の広さで確認項目を決めることが示されています。

問題の全体像

A銀行は、フィンテック事業者(電代業者)のアプリからオープンAPI経由でIBサービス(照会・決済)を利用できるようにしています。オープンAPI態勢は、リテール業務部が担う(1)IBサービスの企画・改善と、情報システム部が担う(2)設計・開発・保守、(3)運用、(4)接続審査で構成されます。契約する電代業者が増えたため、内部監査部長は各機能が有効に働かない場合に電代業者や顧客へ及ぶ影響を懸念し、監査を指示しました。予備調査の結果(表1)と本調査の指摘事項(1)〜(4)は、四つの機能にそれぞれ対応しています。出題趣旨では、各機能で生じるリスクの知識、リスクに応じたコントロールを見分ける能力、コントロールの有効性を検証するための監査証跡の特定と監査手続の導出を問うとされています。採点講評では、全体の正答率は平均的で、設問2(ii)と設問4の正答率が低めだったと述べられています。

設問1

着目点は二つあります。一つは、運用報告書に『オープンAPI経由のアクセス状況』が記載されているのに、情報システム部内の回付で止まっていることです。もう一つは、表1項番1でリテール業務部が『提供している各IBサービスの利用状況を分析』して、顧客の利便性向上に役立つサービスを検討していることです。アクセス状況は、各IBサービスがどれだけ利用されているかを示す情報そのものなので、企画・改善を担う部門が使えば分析に役立ちます。そのため公式解答例では、改善内容を『リテール業務部がオープンAPI運用報告書を参照すること』としています。答案では、①誰が(リテール業務部)、②何を(運用報告書)、③どうするか(参照・活用する)の3要素を30字以内にまとめます。

設問2(i)

指摘事項(2)は、電代業者との協業・連携の促進の観点から『電代業者におけるアプリ管理への影響』を抑える必要があるとしています。オープンAPI仕様書には処理の詳細、パラメータと指定可能値、接続方法が記載されており、電代業者のアプリはこの仕様に合わせて作られています。仕様が変わると、アプリ側もそれに合わせて直さなければ動かなくなります。そのため公式解答例では、『仕様変更の都度、電代業者のアプリの改修が必要になること』を懸念点としています。答案では、『仕様変更のたびに』という頻度の要素と、『電代業者のアプリ改修』という対応内容の要素を入れることが大切です。

設問2(ii)①

改善提案(b)は、仕様変更によって電代業者がIBサービスを利用できなくなることを防ぐものです。現状は変更の通知が1か月前までに行われるだけで、電代業者が改修したアプリの動作を事前に確かめる手段が問題文には書かれていません。変更後のAPIに接続して試せる環境があれば、電代業者は切替え前に改修を検証でき、切替え時の利用不能を防げます。公式解答例の一つ目は『仕様変更後のオープンAPIのテスト環境を提供すること』です(二つの方策は順不同です)。答案では、『変更後のAPI』を『事前に検証できる環境を提供する』という点を押さえます。

設問2(ii)②

もう一つの考え方は、改修が間に合わない電代業者のために、切替え直後に旧仕様を止めないことです。旧APIをしばらく動かし続ければ、改修が終わるまでの間もIBサービスを利用できます。公式解答例の二つ目は『仕様変更前のオープンAPIを一定期間並行稼働させること』です。採点講評では、新旧両方のAPIを継続して存続させる旨の解答が散見されたと指摘され、APIの仕様を変更する意味や必要性(IBサービスの向上など)を理解するよう求められています。旧APIを無期限に残すと仕様変更の目的が果たせないため、『一定期間』という期間限定の要素を必ず入れてください。

設問3

発見された状況は、『APIサーバの能力に余裕がある状態でも接続遮断が発生している』ことと、『サイバー攻撃や不正アクセスによる遮断の形跡がない』ことです。これを確かめるには、サーバの負荷状況と接続遮断の発生状況を突き合わせる必要があります。〔A銀行のオープンAPI態勢〕(3)によると、運用ではAPIサーバの負荷状況、接続遮断などのイベント発生状況、アクセス状況が監視され、その結果が月次でオープンAPI運用報告書にまとめられています。そのため公式解答例では、『オープンAPI運用報告書を閲覧し、APIサーバの負荷と接続遮断との関係を分析した』としています。採点講評では、運用報告書が監査証拠として最も適しているのに、『各種のログ』といった明確でない解答が少なからず見られたと指摘されています。答案では、①監査証拠(オープンAPI運用報告書)、②監査技法(閲覧・分析)、③分析の観点(負荷と接続遮断の関係)を45字以内に入れます。

設問4

指摘事項(4)は、チェックリストの確認項目をすべて同等に扱うのをやめ、『アクセストークンに基づく』リスクベースアプローチで審査を効率化するよう求めています。問題文では、アクセストークンによって電代業者のアプリがアクセスできるIBサービスの範囲が決まるとされています。範囲が広い(例えば照会に加えて振込などの決済まで含む)ほどリスクは大きく、範囲が狭ければ確認項目を絞れます。そのため公式解答例では、『アクセスを許可するIBサービスの範囲の広さによってチェックリストの確認項目を決定する』としています。採点講評では、一般的なリスクベースアプローチの解答が多く、問題文の『アクセストークンに基づく』という趣旨に沿って答えるよう求められています。答案では、①判断基準(アクセストークンで許可されるIBサービスの範囲の広さ)と、②それに応じてチェックリストの確認項目を決める(重み付けする)ことの2要素を50字以内にまとめます。

学習のポイント

表1の状況と本調査の指摘事項を一対一で結び付けることと、監査証拠を問題文中の具体的な文書名で特定することが重点です。さらに、問題文の限定語(アクセストークンに基づく、仕様変更後のAPI公開に当たって、など)に沿って、一般論ではない具体的な解答を作る練習をしてください。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和7年度秋期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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