AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

令和2年度10月 システム監査技術者 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 システム監査計画に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 R社は,中堅の証券会社である。新たに就任した社長は,AIなどの技術を積極的に取り入れて,顧客向けのサービス拡大を図ることを経営戦略として打ち出している。例えば,チャットボットを活用した自動応答システムをコールセンタに導入するなど,戦略的に重要なシステムについて積極的な投資を行う方針である。 R社監査部では,これまで,システム監査として,業務システムの監査及びテーマ別の監査を一定のサイクルで実施してきた。新社長の方針を受け,システム監査中長期計画の見直しを行い,今年度のシステム監査年度計画及び個別監査計画と併せて新社長に報告することになった。 〔システム監査中長期計画の概要〕 監査部が見直しを行ったシステム監査中長期計画の概要は,次のとおりである。 (1)システム部が中心となって,主要システムの構築計画,インフラの整備計画を立案し,併せて,R社の保有するハードウェア,ソフトウェア及び業務システムを“情報資産一覧表”として作成している。監査部は,“情報資産一覧表”のうち,業務システムについては,それぞれシステムの機密性,完全性及び可用性についてリスクの評価を行う。 (2)業務システムについては,R社を取り巻く環境の変化を鑑み,毎年リスクを再評価し,その結果を踏まえて,監査対象を選定する。一方,インフラは,大きな更改があったときにリスクの再評価を行う。 (3)次の事項に該当する業務システムの開発プロジェクトについては,プロジェクト監査の対象とする。 ① 業務への影響が大きい基幹系の業務システムの開発プロジェクト ② 開発予算が3億円を超える業務システムの開発プロジェクト (4)災害対策,サイバーセキュリティ対策など,経営上重要なテーマと判断した場合は,システムや部門を横断的に対象とするテーマ別の監査を実施する。 (5)情報技術の高度化に対応できるよう,システム監査チームのメンバの教育,他部署からの異動,新規の人材の採用を進める。 (6)監査業務を支援する監査用ソフトウェアを導入して,作業の効率向上を図る。 〔システム監査年度計画の概要〕 システム監査中長期計画を基に監査部が策定した,今年度のシステム監査年度計画の概要は,次のとおりである。 (1)監査対象 システム監査中長期計画に基づいて監査対象を選定し,表1のとおりシステム監査年度計画を作成した。業務システムについては,個人情報を取り扱う“顧客管理システム”などを対象とした。プロジェクト監査は,開発期間が1年以上に及ぶ“オンライントレーディングシステムの開発プロジェクト”を対象とすることになった。 表1 システム監査年度計画(抜粋) (2)システム監査チームメンバの教育計画 リスク評価やセキュリティに関する教育のほかに,システム開発のプロセス,法令に関する教育を行う。システム開発のプロセスについては,システム部から監査部に異動してきたメンバを講師役とした勉強会を実施する。また,監査チームメンバには,システム監査技術者試験に加え,プロジェクトマネージャ試験などを受験させる。法令については,改正が行われた法令を中心に部内研修を実施する。 (3)監査環境の整備 システム監査中長期計画に基づき,二つの監査用ソフトウェアの習得を進め,ノウハウを蓄積する。以前から利用している監査用ソフトウェアは,過去の監査手続書や監査調書,監査結果などが保存され,一覧形式での参照やキーワード検索の機能をもったソフトウェア(以下,電子監査調書ソフトという)である。また,今年度から新たに導入した別の監査用ソフトウェアは,収集したログなどを集計・分析する機能をもったソフトウェア(以下,データ分析ソフトという)である。 〔顧客管理システムの個別監査計画の概要〕 システム監査年度計画の監査対象となっている顧客管理システムの個別監査計画の概要は,表2のとおりである。顧客管理システムは3年前にも監査対象となっていたので,その際に監査の対象外となった営業店を対象として監査することとした。 表2 顧客管理システムの個別監査計画の概要(抜粋) 〔監査計画に関する社長からの指示〕 監査部長は,システム監査中長期計画,年度計画,及び個別計画について社長に説明した。管理部門の経験があり,監査の知見もある社長からは,次のようなコメントがあった。社長からのコメントを受け,監査部長は監査計画を見直すことにした。 (1)監査対象システムの選定 業務システムの監査対象候補について,環境の変化に応じてリスク評価を見直しているのは良いことだ。ただし,システムの機密性,完全性及び可用性の観点の評価結果だけで選定した場合,本来監査対象とすべきシステムが監査の対象とならない懸念がある。監査対象を選定する基準を見直す必要があるのではないか。 (2)プロジェクト監査 システム部からの報告によると,システムのリリース延期や本番稼働後のトラブルも少なくないと聞いている。これまでの開発プロジェクトの監査では,主に開発工程の終了時の状態を監査しているが,それだけでプロジェクトの状況を適時に把握できるのか。例えば,監査人が,工程の進行中に開発プロジェクトの進捗会議に出席することは利点があると考えられるので,検討すること。 (3)監査部門の人材育成 監査部門の要員の教育計画について,当社の経営戦略と整合させて具体的に作成すること。 (4)監査環境の整備 電子監査調書ソフトを導入しているが,活用が進んでいないようなので,計画を具体化して活用の推進を図ること。 (5)個別計画の顧客管理システムのアクセスログを確認する監査手続 アクセスログの確認は,サンプリング調査ではなく,データ分析ソフトを活用すれば,精度の高い監査が実施できるのではないか。 設問1 〔監査計画に関する社長からの指示〕(1)について,監査対象の選定方法をどのように見直すべきか,30字以内で述べよ。 設問2 〔監査計画に関する社長からの指示〕(2)について,次の(i),(ii)に答えよ。 (i)社長が考えた,監査人がプロジェクトの進捗会議に出席する利点を40字以内で述べよ。 (ii)監査部長は,(i)のような利点もある反面,問題点もあると考えた。その問題点を40字以内で述べよ。 設問3 〔監査計画に関する社長からの指示〕(3)について,監査部長が作成すべき教育計画の具体的な内容について,40字以内で述べよ。 設問4 〔監査計画に関する社長からの指示〕(4)について,電子監査調書ソフトを活用することでどのような効果が期待できるか,35字以内で述べよ。 設問5 〔監査計画に関する社長からの指示〕(5)について,データ分析ソフトを活用した具体的な監査手続を,35字以内で述べよ。
表1 システム監査年度計画(抜粋)。顧客管理システムとオンライントレーディングシステム開発プロジェクトについて、監査テーマ、対象部門、担当者、時期を整理した年度計画表。
表1 システム監査年度計画(抜粋)。顧客管理システムとオンライントレーディングシステム開発プロジェクトについて、監査テーマ、対象部門、担当者、時期を整理した年度計画表。
表2 顧客管理システムの個別監査計画の概要(抜粋)。顧客管理システムの監査目的、対象、実施時期、監査手続の概要、監査責任者及び担当者を整理した個別監査計画表。
表2 顧客管理システムの個別監査計画の概要(抜粋)。顧客管理システムの監査目的、対象、実施時期、監査手続の概要、監査責任者及び担当者を整理した個別監査計画表。
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システム監査計画を見直す視点

この問題では、監査計画を単なる対象の列挙として捉えず、経営上の重要性や変化を踏まえて、監査の対象・時期・方法・人材・道具をどう結び付けて考えるかに注目するという流れを意識します。

この問題で問われていること

一つの監査計画を考える際、リスクの捉え方が対象選定だけでなく、監査を行うタイミング、監査人の関与方法、必要な能力や支援手段まで一貫してつながっているかを確認する視点に絞ります。

視点

監査計画は、環境や経営方針の変化を踏まえて、重要なリスクを見落とさないように、評価、優先順位付け、実施方法、実施体制、記録や分析の活用を相互に関連付けて整理するものです。個々の設問では、示された指示が計画のどの部分に関係するかを考え、利点だけでなく実施上の留意点にも目を向けます。

確認ポイント

  • 経営方針や環境変化が、監査計画のどの判断に影響するか
  • 計画上の対応が、対象・時期・方法・体制のどれに関係するか
  • 提案された監査手段について、得られる情報と運用上の制約を分けて考えられるか
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解説

R社の経営戦略やAI活用方針を踏まえ、システム監査計画の対象選定、プロジェクト監査、人材育成、監査ソフトの活用を見直す問題です。

問題の全体像

R社では、AIなどの技術を活用した顧客向けサービスの拡大を経営戦略としており、システム監査にもその方針を反映する必要があります。従来計画では、リスク評価に基づく対象選定、開発工程終了時のプロジェクト監査、一般的な教育、監査ソフトの導入などが行われていました。社長の指示は、経営戦略上の重要度を対象選定に加えること、プロジェクトを適時に監視すること、AIなどを評価できる人材を育成すること、電子監査調書ソフトとデータ分析ソフトを具体的に活用することを求めています。

設問1

本文では、監査対象を機密性・完全性・可用性のリスク評価結果だけで選定しています。しかし社長は、戦略的に重要なシステムが対象外になる懸念を示しています。したがって、公式解答例では、これらのリスク評価に加えて、経営戦略上の重要度の観点も追加して対象システムを選定するとしています。30字以内では、追加する観点と選定方法を簡潔に示します。

設問2(i)

本文では、従来のプロジェクト監査が主に開発工程の終了時に行われ、リリース延期や本番稼働後のトラブルも少なくないとされています。進捗会議に出席すれば、工程の進行中に状況を把握できます。公式解答例では、その結果として、プロジェクトの状況を適時に把握し、早期に改善策を提案できる点を利点としています。40字以内では、この二つの効果を押さえます。

設問2(ii)

監査人が進捗会議に出席することには、監査対象者が監査を意識して問題を見せにくくする側面もあります。公式解答例では、進捗に遅延があっても、その根本原因を隠すことがある点を問題としています。利点だけでなく、監査人の関与がプロジェクトの報告行動に及ぼす悪影響を、40字以内で述べる設問です。

設問3

本文の経営戦略は、AIなどの技術を積極的に取り入れて顧客向けサービスを拡大することです。したがって、既存のリスク評価やセキュリティ教育だけでは不十分で、経営戦略上重要な技術を監査できる能力が必要になります。公式解答例では、AIなどの技術について評価できる人材を育成する内容を示しています。

設問4

電子監査調書ソフトには、過去の監査手続書、監査調書、監査結果の保存、一覧参照、キーワード検索の機能があります。社長は導入後の活用不足を問題にしています。公式解答例では、監査の実施状況やノウハウを共有でき、その結果として監査業務を効率化できる効果を挙げています。機能の列挙ではなく、活用による効果を35字以内でまとめます。

設問5

個別監査計画では、アクセスログをサンプリングして不正な端末利用の疑いを確認する予定でした。社長はデータ分析ソフトの活用を求めています。公式解答例では、アクセスログ全件を集計・分析し、不正な端末利用がないか確認する手続を示しています。サンプリングから全件分析へ変更することと、確認対象を答案に含めます。

学習のポイント

経営視点で監査計画を改善し、本文の事実と設問の要求を短い答案にまとめる力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和2年度10月 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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