AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

令和2年度10月 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 デジタルトランスフォーメーション推進プロジェクトの監査に関する次の記述を 読んで,設問1~5に答えよ。 製造業のP社では,昨年度から 3年間の中期経営計画に基づいて,売上の拡大, 収益力の強化などと併せて,“デジタル経営構想”の取組を進めている。“デジタル 経営構想”は,P社におけるデジタルトランスフォーメーション(以下,DXという) の推進を狙いとしており,P社の事業にとって重要な取組となっている。そのため, 2年目の活動を進めるに当たって,監査室では,T氏がシステム監査人となり,“デ ジタル経営構想”の推進状況について監査を行うこととした。 〔“デジタル経営構想”の概要〕 T氏は,予備調査として,中期経営計画における “デジタル経営構想”の内容を確 認した上で,経営企画室長にヒアリングを行った。その結果は次のとおりである。 (1) DXの捉え方 P社では,DXを“多様な大量データや先進のデジタル技術を利用して,様々な 業務の効率向上・迅速化や,製品・サービスの高度化と新機能の提供によって, 業務改革と製品・サービスの価値向上を実現すること”と定義し,図1のように 捉えている。 (2) 推進体制 “デジタル経営構想”を推進するために,昨年度から社内の各部門が参画した DX 推進プロジェクト(以下,DX-PJという)が発足している。経営企画室がDX-PJの事務局となり,各部門の代表者による DX-PJ定例会を月次で開催し,進捗状 況を確認している。 (3) DX-PJの活動目標 DX-PJでは,各部門に共通する活動目標を,表1のように定めている。 〔DX-PJの活動状況〕 T氏は,予備調査として,DX-PJ 定例会の議事録を閲覧して,DX-PJの活動状況を 把握した。その概要は,次のとおりである。 (1) 製品部門では,1年目に,AIを利用して,製品の動作を使用環境に応じて最適 化するPoCを行い,その計画と実施結果をPoC 報告書として,定例会で説明した。 2年目の今年度も,新しいデータを使って,2回目のPoCを予定している。 (2) 営業部門では,受注データを分析して営業戦略の立案に活用することを試行し ている。今後は,保守サービス部門のデータも含めた分析を検討している。 (3) 品質管理部門では,製品部門のデータと組み合わせた分析を予定している。た だし,品質管理システムは,製品番号の下位の枝番レベルの詳細度の品質データ を保持していないので,分析には制約がある。 (4) 保守サービス部門では,サービス窓口への問合せの分析を踏まえて,チャット ボットによる応答の自動化を試行している。ただし,サービスサポートシステム が老朽化しているので,問合せ内容の分析に基づいたチャットボットの回答用デ ータベースを1か月に2回以上の頻度では更新できないという制約がある。 (5)情報システム部門は,自部門のDXを推進するとともに,各部門のDXの案件に ついて,IT環境を準備するなど,実現を支援している。 (6) 各部門ともに,DX 推進の課題として,活動を進めるための人材が不足している ことを挙げており,求める人材像について,様々な意見が出ている。 (7) 各部門ともに,他部門のデータも活用したいというニーズが大きくなってきて いる。一方で,他部門へのデータの提供可否判断や,データ内容の正確性や網羅 性の確保について,責任や権限が不明確なため,活用が困難という意見がある。 〔情報システムに関係した施策の状況〕 T氏は,予備調査として,更に情報システム部門の関係者にヒアリングを行い,情 報システムに関係した施策の状況を把握した。その概要は,次のとおりである。 (1) 基幹システムには,老朽化して,業務と整合がとれなくなったり,システム運 用効率が低下したりしているものがある。そのため,2年前に,各部門とともに, 業務との整合性とシステム運用効率の観点から現行システムを評価して,“システ ム再構築計画”を策定した。現在もその計画に沿って,再構築を進めている。 (2)3年前に,社内におけるIT人材の不足が問題となった。P社では,人材確保の ためには,前提として,求める人材像を明確にするという方針のもとで,人事部 門が中心となって,P社としての人材類型定義書を作成している。そこで,人事部 門と協議して,人材類型定義書の中で,求めるIT 人材像を定義した。人材類型定 義書は,毎年1回,人事部門が中心となって見直すことになっている。 (3) P 社では,過去にプロジェクトで遅延や目標未達が発生したため,重要プロジェ クトにおいては,できるだけ進捗管理指標を設定するように運用している。 〔本調査のための検討〕 予備調査の内容を基に,監査室長(以下,室長という)とT氏は,本調査のため の検討を行った。そこでの両氏の発言内容(抜粋)は,次のとおりである。 T氏:現行の基幹システムが老朽化しているので,各部門のDX 推進にとって制約と なっているように思います。 室長:それは,DX 推進における大きなリスクだね。一方で,実施できるIT投資の 規模には限度があるので,全ての基幹システムを刷新することは困難だろう。 T氏:そのリスクを低減するためには,刷新の優先順位付けを行い, “システム再構 築計画”を見直す仕組みがコントロールとして有効と考えられます。 室長:2年前の “システム再構築計画”は,業務との整合性とシステム運用効率の観 点から現行システムを評価して,策定されていたね。 T氏:見直す際には,①品質管理部門や保守サービス部門でDX 推進の制約となって いる状況にも対応できるように,現行システムを再評価する必要があります。 そのような再評価も踏まえて “システム再構築計画”を見直しているかどうか を,本調査で確認します。 室長:製品部門は,昨年度に続いて,今年度もPoCを予定しているね。 T氏:先進技術の利用に積極的なことは良いのですが,一方で技術の利用そのものが 目的となってしまうと,PoC から役に立つ結果が得られないリスクがあります。 室長:②そのリスクが低減できているかどうかを監査する必要があるね。その監査 手続はDX-PJの活動目標で示している PoC実施の考え方を基に考えてほしい。 T氏:各部門に DX推進の人材が不足していることもリスクと考えられます。社外の 専門家の協力を得ることも考えられますが,社内の人材確保は不可欠です。 室長:社内の人材確保のためには,社外からの採用,社内での異動及び育成といっ た施策がある。どの施策にも共通して,DX 推進のための人材を確保する上で, 前提として必要なことがあるはずなので,その実施状況を確認してほしい。 T氏:それでは,本調査では,③人事部門を対象にした監査も行うことにします。 室長:DX推進のためには,データ活用がとりわけ重要だね。 T氏:そのためには,データ品質の改善や,データ分析環境の整備が必要と思います。 室長:さらには,④データの収集・蓄積・活用のための責任と権限を定めたルール の整備も必要になるだろう。 T氏:そのような施策の予定があるかどうかを,経営企画室に確認することにします。 室長:DX-PJの進捗状況を把握していないと,活動目標が,どの程度,達成できてい るかが曖昧になるリスクがある。 T氏:⑤そのリスクに対応できているかどうかの監査も実施することにします。 設問1 本文中の下線①の制約となっている状況への対応として,本調査で確認する べき具体的な内容を,40字以内で述べよ。 設問2 本文中の下線②の監査を行うための具体的な監査手続を,45字以内で述べよ。 設問3 本文中の下線③の監査を行うための具体的な監査手続を,45字以内で述べよ。 設問4 本文中の下線④について,室長がルールの整備も必要と考えた理由を,〔DX-PJの活動状況〕の内容を踏まえて,35字以内で述べよ。 設問5 本文中の下線⑤の監査を行うための具体的な監査手続を,45字以内で述べよ。
図1 「デジタル経営構想」におけるDXの捉え方。利用するデータと技術、活用方法、期待する成果及び影響の関係を示す。
図1 「デジタル経営構想」におけるDXの捉え方。利用するデータと技術、活用方法、期待する成果及び影響の関係を示す。
表1 DX-PJの活動目標。1年目から3年目までの各部門に共通する活動目標を示す。
表1 DX-PJの活動目標。1年目から3年目までの各部門に共通する活動目標を示す。
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リスク対応と監査視点の整理

DX推進では、想定される不確実性を洗い出し、影響と発生可能性、対応責任、監査で確かめる証拠の関係を分けて整理すると、論点の混同を避けやすくなります。さらに、実施時期や記録の残り方も同じ軸で確認します。

この問題で問われていること

一つの観点として、各リスクへの対応方針と、監査手続で確認しようとしている事実が、同じ目的に向かって対応しているかを見比べ、役割や証拠の扱いに飛躍がないかを確認してください。

視点

リスク管理と監査は、目的・責任・時点・根拠を切り分けて考えます。評価から対応を決める段階と、対応や統制の状況を確かめる段階を混同せず、記録の一貫性や追跡可能性に注目します。

確認ポイント

  • リスク評価の基準と対象が整理されているか
  • 対応を担う主体と確認する主体が区別されているか
  • 判断を支える記録や証跡を後から追えるか
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解説

P社のDX推進について、既存システム、人材、データ活用、PoC、進捗管理に関するリスクへの対応状況を監査する問題です。

問題の全体像

P社は中期経営計画に基づき、AIなどのデジタル技術を用いた業務改革と製品・サービスの価値向上を目指している。DX-PJでは各部門がPoCやデータ分析を進めているが、基幹システムの老朽化、人材不足、データの責任・権限の不明確さ、進捗管理の曖昧さなどが課題になっている。T氏は、これらの課題がDXの成果を妨げるリスクに対し、計画や定義書、ルール、議事録などを証拠として確認する監査手続を考える。

設問1

品質管理部門では詳細な品質データを保持せず、保守サービス部門でも老朽化したシステムがデータベース更新を制約している。したがって、単に再構築を続けているかではなく、DXの分析に必要なデータを取得できるよう、こうした制約を踏まえて現行システムを再評価し、システム再構築計画を見直しているかを確認する。公式解答例も、分析に必要なデータを取得できるよう計画を見直していることを示している。

設問2

製品部門はAI利用の2回目のPoCを予定しているため、技術を使うこと自体が目的化していないかがリスクになる。表1では、活動テーマに即した仮説を設定し、その仮説を基にPoCを実施する流れが示されている。そこでPoC報告書を閲覧し、活動テーマに即した仮説が設定されているかを確認する。

設問3

各部門がDX推進人材の不足を課題としている。採用、異動、育成のいずれの施策でも、まず必要な人材像が明確でなければ確保策を適切に実施できない。人事部門が作成し毎年見直す人材類型定義書を閲覧し、DXに必要な人材が明確になっていることを確認する。

設問4

各部門は他部門のデータを活用したい一方、データ提供の可否判断や正確性・網羅性の確保について、責任や権限が不明確なため活用できていない。したがって、データの収集・蓄積・活用に関するルールを整備し、責任や権限を明確にする必要がある。

設問5

DX-PJは月次の定例会で進捗状況を確認しているが、活動目標の達成度を把握する指標が不明確だと、進捗を適切に評価できない。重要プロジェクトでは進捗管理指標を設定する運用であるため、DX-PJ定例会の議事録を閲覧し、進捗管理指標が明確かどうかを確認する。公式解答例もこの手続を示している。

学習のポイント

DXの課題を監査リスクと捉え、証拠資料に結び付けて監査手続を記述する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和2年度10月 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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