AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

令和2年度10月 システム監査技術者 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 システムの有効性の監査に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 保険会社であるA社の内部監査部は,毎年,経営陣の課題認識をインタビューし,翌年度のシステム監査計画の策定に活用している。昨年度のインタビューでは,社長が“投資をして開発したにもかかわらず,十分に使われていないシステムがあるのではないか”と発言していた。そこで内部監査部は,今年度,A社の情報システム部と,このところシステム開発案件が増えている営業推進部を対象として,システムの有効性を監査することにした。これまでに判明した事実は,次のとおりである。 〔ITガバナンス〕 A社は,経済産業省の“システム管理基準”に記載されたITガバナンスの定義に基づき,ITガバナンスを実践するために,経営陣が,情報システムに関するマネジメントとそのプロセスを評価し,指示し,モニタするように努めている。 〔IT投資の決定プロセスと情報システム戦略委員会〕 A社は,情報システム戦略委員会(以下,情シス委員会という)を設置している。情シス委員会は,A社のIT投資計画全般の調整を行うことなどを目的とした委員会であり,IT投資の年度計画案を策定している。A社は,情シス委員会で協議した年度計画案を経営会議で審議し,取締役会で決議することで,IT投資を決定している。 また,情報システム関連事項を経営会議に付議・報告する際には,事前に情シス委員会で協議するルールとしており,情シス委員会がA社のITガバナンスの要になっている。情シス委員会の事務局(以下,情シス事務局という)は,情報システム部と経営企画部が務めている。情シス委員会の体制は,図1に示すとおりである。 図1 情シス委員会の体制 〔システム開発体制とシステム開発年度計画案の策定手順〕 A社では,システムごとに管理責任をもつ部(以下,オーナ部という)を定め,情報システム部とオーナ部が連携してシステムを開発する体制になっている。情シス事務局を務める経営企画部は,オーナ部を代表している。オーナ部の主な役割は,システム開発の起案,要件検討,テストの一部実施及び稼働後の活用推進などである。システム開発年度計画案は,表1に示す手順で策定され,情シス委員会によって承認されている。これらの役割・手順は,情報システム部が主管する“システム開発標準化規程”に定められている。 表1 システム開発年度計画案の策定手順の概要 〔IT投資効果検証の現状〕 A社は,表2に記載のとおり,1案件当たりの投資額が5億円以上の大規模システム開発案件と,それ以外の中・小規模システム開発案件(以下,自己評価対象案件という)について,2分類して投資効果検証を実施している。 表2 IT投資効果検証の現状 〔自己評価対象案件に関するヒアリング結果〕 内部監査部は,予備調査の初期段階で,自己評価対象案件の中に,計画どおりに活用されていないシステムが存在するという仮説を立てた。そして,営業推進部がオーナ部を担う自己評価対象案件のうち,直近3年分のシステム開発計画に関する資料を情報システム部から入手した。次に,内部監査部は,資料に記載されたシステムの用途と推定利用者数などを閲覧した。 そして,稼働開始から短期間で多数の利用者数を見込んでいる“Web契約更改システム”が,計画どおりには活用が進んでいない可能性が高いと考えて,本調査で営業推進部にヒアリングした。ヒアリングの結果は,表3のとおりであった。 表3 “Web契約更改システム”のヒアリング結果(抜粋) 〔営業推進部の課題認識〕 本調査でのヒアリングを通じて,営業推進部は,“Web契約更改システム”の実態を踏まえて,システム計画段階での対策と稼働後の活用推進などのための対策が必要と認識していることが分かった。営業推進部は,特に,計画どおりには活用されていないことを認識した時点で,利用を継続するか,又は廃止するかの判断を確実かつ速やかに実施するための新たなルールが必要だと,強い課題認識をもっていた。 〔情報システム部の課題認識と対策検討状況〕 本調査での情報システム部へのヒアリングを通じて,情報システム部が,自己評価対象案件について営業推進部と同じ課題認識をもち,経営企画部と連携して対策の検討を開始していることが分かった。情報システム部は,対策として,次の2点を基本方針とする“システム開発標準化規程”の改訂を検討中であり,現在,改訂原案の策定を終えて,部内のりん議を上げる直前の段階であった。 (1) 自己評価対象案件の活用状況と期待効果の達成状況の最終報告先を,情シス委員会に変更する。 (2) システム開発年度計画案の審査と稼働後の活用推進・評価のための新たなルールを設ける。 設問1 〔IT投資効果検証の現状〕について,内部監査部は,IT投資効果を評価する際のプロセスには問題点があり,リスクがあると考えた。その問題点を,原因とともに50字以内で述べよ。 設問2 内部監査部は,計画どおりに活用されるシステムを開発するために,システム開発案件の絞り込みの際に,情シス事務局がオーナ部に対して確認すべきことがあると考えた。情シス事務局が確認すべきことを,表3の項番3のヒアリング結果を踏まえて,40字以内で述べよ。 設問3 表3の項番4及び項番5のヒアリング結果を踏まえて,内部監査部が確かめるべき,稼働後の活用状況の確認を適切に実施するための対策を二つ挙げ,それぞれ25字以内で述べよ。 設問4 〔営業推進部の課題認識〕の記述を踏まえて,内部監査部が確かめるべき,利用の継続か廃止かの判断を確実かつ速やかに実施するための対策を,35字以内で述べよ。 設問5 〔情報システム部の課題認識と対策検討状況〕の記述を踏まえて,情報システム部が策定した“システム開発標準化規程”の改訂原案が,情報システム部だけでなく,オーナ部にとっても適切な内容であることを確認するための監査手続を,35字以内で述べよ。
図1 情シス委員会の体制。情シス委員会の体制図。最上位は委員長(情報システム部担当役員)と副委員長(経営企画部担当役員)。情シス事務局は情報システム部と経営企画部が務める。委員は情報システム部長、経営企画部長、営業推進部長、商品開発部長で、その他は(略)となっている。
図1 情シス委員会の体制。情シス委員会の体制図。最上位は委員長(情報システム部担当役員)と副委員長(経営企画部担当役員)。情シス事務局は情報システム部と経営企画部が務める。委員は情報システム部長、経営企画部長、営業推進部長、商品開発部長で、その他は(略)となっている。
表1 システム開発年度計画案の策定手順の概要。項番1〜6の手順表。情シス事務局が申請受付を開始し、オーナ部が優先順位付きで案件を申請する。情報システム部が工数・コストを見積もり、情シス事務局が第1次・第2次事務局案を策定する。第2次案の策定前にはオーナ部に確認して案件を絞り込む。最後に情シス委員会が年度計画案を承認する。
表1 システム開発年度計画案の策定手順の概要。項番1〜6の手順表。情シス事務局が申請受付を開始し、オーナ部が優先順位付きで案件を申請する。情報システム部が工数・コストを見積もり、情シス事務局が第1次・第2次事務局案を策定する。第2次案の策定前にはオーナ部に確認して案件を絞り込む。最後に情シス委員会が年度計画案を承認する。
表2 IT投資効果検証の現状。大規模システム開発案件と自己評価対象案件を比較した表。適用ルール、対象案件数(年約20件と約200件)、投資額(開発費の約7割と約3割)、検証主体、検証方法を並べている。最終報告先は大規模案件が経営会議、自己評価対象案件がオーナ部長。
表2 IT投資効果検証の現状。大規模システム開発案件と自己評価対象案件を比較した表。適用ルール、対象案件数(年約20件と約200件)、投資額(開発費の約7割と約3割)、検証主体、検証方法を並べている。最終報告先は大規模案件が経営会議、自己評価対象案件がオーナ部長。
表3 “Web契約更改システム”のヒアリング結果(抜粋)。項番1〜5のヒアリング結果。システムの用途、現時点の活用状況(利用者数は当初推定の約3%)、計画段階の利用者ニーズの把握(外部コンサルタントの助言を参考に企画)が並ぶ。さらに、稼働後の活用状況を監視する仕組みがないこと、検証予定時期を定めておらず利用者数を確かめていなかったことが記載されている。
表3 “Web契約更改システム”のヒアリング結果(抜粋)。項番1〜5のヒアリング結果。システムの用途、現時点の活用状況(利用者数は当初推定の約3%)、計画段階の利用者ニーズの把握(外部コンサルタントの助言を参考に企画)が並ぶ。さらに、稼働後の活用状況を監視する仕組みがないこと、検証予定時期を定めておらず利用者数を確かめていなかったことが記載されている。
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統制の目的と手段の対応を確かめる

有効性監査の論点では、ある統制がどのリスクや目的に対応して置かれているかを意識すると整理しやすくなります。示された手続が、その段階で確かめたい事柄の裏付けになっているかという一つの視点に絞って検討してみましょう。

この問題で問われていること

IT投資の評価や稼働後の活用推進といった局面ごとに、統制が何を達成するために設けられているのかを自分の言葉で言い表し、その目的と実際の手続・確認内容が噛み合っているかを監査人の立場から見比べる力が問われています。

視点

統制は、防ぎたい事態や達成したい目的があって初めて意味を持ちます。監査で有効性を検討するときは、まず「この局面で何が確かめられていれば安心できるか」を考えます。次に、その手続や確認の内容がその目的の裏付けになっているかを見ます。形式上は整って見える手続でも、目的とのつながりが弱ければ判断の根拠としては不十分になり得ます。この対応関係を一つずつ丁寧に確かめる姿勢が、整理の軸になります。

確認ポイント

  • その局面で統制が果たすべき目的を、自分の言葉で一文にまとめられるか
  • 示された手続や確認の内容が、その目的を裏付ける根拠として機能しているか
  • 目的と手段の結び付きを、監査人として第三者に説明できる程度に言語化できるか
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解説

保険会社A社の内部監査部が、社長の「投資したのに十分使われていないシステムがあるのでは」という問題意識を受けて、システムの有効性を監査する事例です。表2では、自己評価対象案件の投資効果検証の結果がオーナ部長で止まっています。表3からは、利用者ニーズの把握不足、活用状況をモニタリングする仕組みの欠如、検証予定時期が決まっていないことが分かります。ここから、ITガバナンスの観点で必要なリスク、コントロール、監査手続を導きます。

問題の全体像

A社では、情シス委員会がITガバナンスの要になっています。一方で、年間約200件、システム開発費の約3割を占める中・小規模案件(自己評価対象案件)は、オーナ部だけで投資効果を検証し、結果の最終報告先はオーナ部長にとどまっています。内部監査部は「Web契約更改システム」を調べ、次の実態を確認しました。

・利用者数が当初推定の約3%にとどまっている

・計画は外部コンサルタントの助言に頼っていた

・活用状況をモニタリングする仕組みがない

・検証予定時期を決めていなかった

出題趣旨では、システムの有効性に着目した内部監査を通じてITガバナンスが適切かを評価・検証する際の、リスク・コントロール・監査手続に関する能力を問うとしています。採点講評でも、ITガバナンスに関する内部監査としての監査人の対応がポイントだったとされています。

設問1

着目するのは〔ITガバナンス〕の定義と表2の最終報告先の欄です。A社は、経営陣が情報システムに関するマネジメントを評価・指示・モニタするよう努めています。しかし表2を見ると、大規模案件の最終報告先は経営会議なのに、自己評価対象案件はオーナ部長です。案件数は年間約200件、金額は開発費の約3割に上るにもかかわらず、その検証結果が経営陣に届かず、経営陣が評価・モニタできない状態になっています。公式解答例では「自己評価対象案件の投資効果検証の結果がオーナ部内にとどまっているので、経営会議に伝わらない」という趣旨が示されています。答案では、原因(検証結果がオーナ部内で完結している)と問題点(経営会議・経営陣に伝わらない)の二つを50字以内に入れます。採点講評によると正答率は低く、評価の時期や評価基準を書いた解答が散見されました。経営陣への報告や情シス委員会への報告という、ITガバナンスにおける経営陣の関与の観点から書くことが求められています。

設問2

表3の項番3によると、計画段階の利用者ニーズの把握は、外部コンサルタントの助言を参考にしただけでした。その結果、項番2のとおり、利用者数は推定の約3%にとどまっています。表1の項番5では、情シス事務局がオーナ部に確認したうえで開発案件を絞り込む手順になっているので、この確認の場面で利用者ニーズとの整合を確かめるべきだと分かります。公式解答例では「開発するシステムが利用者ニーズに合致しているかどうかを確かめていること」とされています。40字以内で、確認の対象(オーナ部が開発しようとするシステム)と確認の観点(利用者ニーズとの合致)を示します。採点講評では、利用者アンケートの実施といった特定の対策に限った解答が散見されたとあり、状況を正しく捉えた汎用的なコントロールとして書くことが求められています。

設問3①

表3の項番4によると、活用状況をモニタリングする仕組みがないため、今回のヒアリングのためにわざわざ情報システム部に依頼して利用者数を把握していました。これでは稼働後の活用状況を継続的・適時に確認できません。公式解答例の一つ目は「活用状況のモニタリングの仕組みを構築する」です。25字以内で、活用状況を常に把握できる仕組みを整えることを書きます。

設問3②

表3の項番5によると、稼働直後の数か月は利用者数を把握していましたが、検証予定時期をあらかじめ決めていなかったこともあり、その後は確かめていませんでした。仕組みがあっても、いつ検証するかが決まっていなければ確認は続きません。公式解答例の二つ目は「活用状況の検証予定時期を定めておく」です。①が仕組みの整備(項番4への対応)、②が検証時期の設定(項番5への対応)と、それぞれ別の項番に対応していることを意識して、二つを重複させずに書き分けます。

設問4

〔営業推進部の課題認識〕では、計画どおりに活用されていないと分かった時点で、利用を続けるか廃止するかを「確実かつ速やかに」判断するための新たなルールが必要だとされています。判断の拠り所になる基準がないと、その都度の議論になって判断が遅れたり、先送りされたりします。そこで、判断に使う基準値を前もって決めておくことが有効なコントロールになります。公式解答例では「利用継続か廃止かを判断するための基準値を稼働前に定めておく」とされています。35字以内で、何を(継続か廃止かの判断基準値を)、いつ(稼働前に)定めるかを押さえます。採点講評では、特定の部署に限った対策が散見されたとあり、汎用的なルールとして書くことが求められています。

設問5

〔情報システム部の課題認識と対策検討状況〕によると、改訂原案は情報システム部内でりん議を上げる直前の段階です。一方、本文には、情シス事務局を務める経営企画部がオーナ部を代表していること、そして情報システム部が経営企画部と連携して対策を検討していることが書かれています。したがって、改訂原案がオーナ部にとっても適切かどうかは、オーナ部の代表である経営企画部が原案に賛同しているかで確かめられます。公式解答例では「経営企画部が改訂原案に賛同していることをヒアリングで確認する」とされています。採点講評では正答率はやや低く、監査項目だけを書いた解答が散見され、何をどのように確認するかまで書いた解答は少なかったと指摘されています。35字以内で、確認の相手(経営企画部)、確認の方法(ヒアリング)、確認事項(改訂原案への賛同)をそろえて書くことが大切です。

学習のポイント

システム管理基準にあるITガバナンスの定義(経営陣による評価・指示・モニタ)を理解しておくことが土台になります。そのうえで、IT投資の計画・稼働後確認・継続か廃止かの判断・報告経路の各段階について、コントロールの抜けを本文の事実から見つける練習をしましょう。監査手続は「確認対象・方法・確認事項」をそろえて書くことが重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和2年度10月 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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