AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成29年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 在庫管理システム統合計画の監査に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 P社は,コンベアチェーン,コンベアベルトを主力製品とする機械部品販売会社である。P社の機械部品の製造・組立てを行っている子会社のA社とB社が,X年10月1日付けで合併し,両社の情報システムを統合することになった。P社の内部監査部は,統合する情報システムごとに監査チームを編成し,統合計画の監査を行うことにした。そのうち,在庫管理システムの監査を担当することになったのは,K氏をリーダとする監査チームである。 〔合併の背景〕 P社では近年,複数の機械メーカから,チェーン,モータといった単品製品だけではなく,複数の製品をあらかじめ組み立てた製品(以下,モジュール製品という)の注文が増加している。また,全国展開しているホームセンタから一括受注したDIY用の機械部品を,各地の店舗に配送することも多くなってきた。 P社は,A社及びB社との業務連携を強化することによって,こうした変化に対応してきた。しかし,A社及びB社の在庫管理システムの処理能力が限界に達しており,更に取引件数・品目数の増加,物流効率の低下も予想される。そこで,A社とB社の合併,及び工場と物流センタの再編によって,製造と物流の効率を抜本的に改善することにした。 〔A社及びB社の現状〕 (1)製品の製造と配送,売上・出庫処理 A社は主としてコンベアチェーン,コンベアベルトを3工場で,B社は主としてコンベアの駆動用モータ,制御機器を2工場で製造している。 A社及びB社の各工場で製造された製品は,P社からの指示によって,全国5か所に配置されたP社の物流センタに一旦搬入される。P社が顧客からの注文を受けて,製品を物流センタから顧客向けに出荷した段階で,P社から顧客への売上処理が行われる。このデータに基づき,A社及びB社では,P社への売上処理及び出庫処理が日々の夜間バッチ処理で行われる。 (2)モジュール製品の製造と在庫管理 モジュール製品の製造はA社が担当している。A社は,モジュール製品に組み込むB社の製品をB社から直接仕入れ,モジュール製品に組み込む前まではA社の製品在庫として管理している。完成したモジュール製品は,他の製品と同様に物流センタに搬入される。 〔在庫管理システム統合計画の概要〕 A社とB社の合併,及び工場と物流センタの再編に当たっては,大規模な在庫の移管,両社の在庫データの統合,及び在庫管理システムの変更が必要になるので,P社情報システム部は,A社及びB社の情報システム課と合同で,在庫管理システム統合プロジェクトチーム(以下,統合PTという)を編成した。統合PTは,各社の在庫管理部門,経理部門と連携して,在庫管理システム統合計画(以下,統合計画という)を策定した。 統合計画によると,A社の在庫管理システムを存続させ,B社の在庫データを移管することになっている。統合スケジュールは図1のとおりである。 図1 統合スケジュール ① 実地棚卸をX年8月31日に実施し,在庫数量の差異調整を行い,9月30日に在庫場所ごと・品目ごとの在庫数量を確定する。 ② 工場及び物流センタの再編計画に従って,在庫の移管を10月1日から開始し,10月31日に完了させる。 ③ A社の在庫管理システムにB社の在庫データを移管するためのシステム変更,マスタ登録を10月1日から11月30日の間で行い,11月30日の入出庫業務終了後に在庫データの統合を完了させる。 〔予備調査でのインタビュー結果〕 K氏をリーダとする監査チームは,X年4月に統合PTのリーダにインタビューを行った。次はその抜粋である。 (1)在庫データの統合 ・A社及びB社では,異なる製品を製造しており,A社の製品コードは10桁,B社の製品コードは9桁である。現状では,A社の製品コードの上から1桁目には“8”が使用されていないので,B社の製品コードの前に“8”を付加して10桁とし,統合後の製品コードとする。 ・A社及びB社の在庫管理システムは同じソフトウェアパッケージで構築されており,上記のB社の製品コードの変換を除き,コード変換,項目の再設定などを行うことなく,両社の在庫データはそのまま統合できる。 (2)実地棚卸と差異調整 A社及びB社では毎年2月末日と8月末日に,工場及び物流センタの全製品の実地棚卸を行っている。A社とB社の合併及び在庫の統合に当たっては,正確な在庫数量の確定が重要なので,実地棚卸及び差異調整の手続を次のように見直した。 ・実地棚卸で確認された在庫数量を在庫管理システムに入力し,在庫管理システム上の在庫数量と自動照合する。 ・照合の結果,一致しなかった(棚卸差異があった)品目について,棚卸差異データが生成される。 ・各在庫場所の担当者が棚卸差異の原因を調査し,棚卸差異データに判明した原因,及び調査後の適正数量の登録入力を行う。 ・棚卸実施責任者が,棚卸差異データに登録入力された原因の妥当性を判断し,承認入力を行う。 ・承認された棚卸差異データに基づき,在庫データを適正数量で自動修正し,在庫管理システム上の在庫数量を確定する。 (3)長期滞留品の取扱い A社及びB社では,12か月以上売上実績がない製品を長期滞留品としている。在庫管理システムの在庫データには,品目ごとに直近に出庫された日(以下,最終出庫日という)が記録されており,在庫管理システムから最終出庫日が実地棚卸実施日の12か月以上前の日付になっている品目を抽出し,長期滞留品リストを作成している。長期滞留品リストに基づき,実地棚卸時に現品を確認した上で,廃棄処理又は評価減処理を行うことになっている。 〔リスク及びコントロールの状況〕 K氏の監査チームのメンバが,〔予備調査でのインタビュー結果〕に基づいて統合計画におけるリスクを抽出し,各リスクに対するコントロールを表1のとおりまとめた。 表1 リスク及びコントロール(抜粋) 〔予備調査でのインタビュー結果〕の(1)~(3)及び表1をレビューしたK氏は,監査チームのメンバに次のとおり指摘した。 (1)表1中の項番1について,モジュール製品製造用の一部製品の在庫データが統合されず,複数の製品コードに分かれて記録されてしまうリスクを考慮する必要がある。 (2)表1中の項番2のコントロールについて,〔予備調査でのインタビュー結果〕の(2)に記載されている職務分離に関するコントロールの記述が漏れている。 (3)〔予備調査でのインタビュー結果〕の(3)について,最終出庫日を滞留期間算出の起算日にすると,次回(X+1年2月)の実地棚卸時に作成される長期滞留品リスト上に抽出漏れが生じるおそれがある。 設問1 〔リスク及びコントロールの状況〕の(1)について,K氏がこのように指摘した理由を,50字以内で述べよ。 設問2 〔リスク及びコントロールの状況〕の(2)について,表1中の項番2に追加して記述すべきコントロールを,40字以内で述べよ。 設問3 表1中のコントロール[a]に入れる適切な内容を,40字以内で述べよ。 設問4 〔リスク及びコントロールの状況〕の(3)について,長期滞留品の抽出漏れが生じないようになっているかを確かめるための監査手続を,統合計画に着目して,45字以内で述べよ。 設問5 〔合併の背景〕に記載されている状況を踏まえて,統合PTに対し,統合後の在庫管理システムに関して,確認すべき事項を,45字以内で述べよ。
図1 統合スケジュール。実地棚卸,在庫数量確定,在庫移管,システム変更・マスタ登録,在庫データ統合完了の時期と期間を示す統合スケジュール図。
図1 統合スケジュール。実地棚卸,在庫数量確定,在庫移管,システム変更・マスタ登録,在庫データ統合完了の時期と期間を示す統合スケジュール図。
表1 リスク及びコントロール(抜粋)。在庫データ統合,実地棚卸差異,移管開始前の在庫数量不一致に関するリスクと対応コントロールを示す表。
表1 リスク及びコントロール(抜粋)。在庫データ統合,実地棚卸差異,移管開始前の在庫数量不一致に関するリスクと対応コントロールを示す表。
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在庫統合計画の整合性を確認する視点

合併に伴う在庫データ移管、棚卸、滞留品管理を、計画上の前提と実際の業務手順・統制が矛盾なくつながっているかという観点で整理します。監査では個別の答えを当てに行かず、抜けや不整合が起きる箇所を見つけることに集中します。

この問題で問われていること

各設問では、統合前後でデータの意味や扱いが変わらないか、担当者の役割と承認が適切につながるか、計画された時点で必要な情報を確認できるかを一つの軸として考えます。

視点

在庫統合では、データの対応関係、作業手順、承認、更新時点が別々に設計されていないかを見ます。計画の各工程が前後の工程と整合し、誰が何を確認するかが明確か、また移行後も在庫の追跡可能性が保たれるかを概念的に整理してください。

確認ポイント

  • 統合前後で同じ在庫を同じ意味で追跡できる前提が崩れていないか
  • 作業・調査・承認・更新の役割が相互けん制になるよう整理されているか
  • 実施時期の違いによって、必要な対象が記録や確認から漏れないか
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解説

A社とB社の合併に伴う在庫管理システム統合を題材に、データ統合の不備、棚卸差異、在庫移管、長期滞留品、処理能力に関する監査上の着眼点を問う問題です。

問題の全体像

A社の在庫管理システムを残し、B社の在庫データを移管して両社を統合する計画です。製品コードの違い、棚卸差異の修正、在庫移管前の承認、長期滞留品の抽出条件、取引件数・品目数の増加が主な論点となる。公式解答例は、統合に伴う固有のリスクを識別し、状況に対応したコントロールや監査手続を設定することを重視している。

設問1

A社はB社から仕入れたモジュール製品用の製品を、組込み前までA社の製品在庫として管理している。一方、B社製品のコードには統合用の8を付加して別コードにするため、同じ製品がB社と異なる製品コードで記録される可能性がある。したがって、公式解答例のように、在庫データが複数コードに分かれて統合されないリスクを理由として示す。

設問2

棚卸差異の原因と適正数量を担当者が登録入力し、棚卸実施責任者が妥当性を判断して承認入力する手続が示されている。入力者と承認者が同一だと相互けん制が働かないため、公式解答例のとおり、登録入力担当者と承認入力責任者を別人にする職務分離を記述する。

設問3(a)

棚卸数量を確定するのは9月30日で、在庫移管は10月1日から始まる。棚卸差異の承認が未完了のまま移管を始めると、システム上の在庫数量と実在庫が一致しない状態で移管される。そこで、公式解答例のように、在庫移管開始前に全ての棚卸差異データの承認入力が完了したことを確認する。

設問4

統合計画では在庫移管やデータ統合が行われるため、最終出庫日が移管日などに置き換わると、実際の滞留期間を正しく算出できず、長期滞留品が抽出漏れになる。したがって、公式解答例のように、システム担当者へ質問し、最終出庫日が在庫移管日で置き換えられないことを確認する手続を示します。

設問5

合併の背景では、モジュール製品や一括受注の増加により、取引件数・品目数の増加が予想されている。また、既存システムは処理能力の限界に達している。したがって、統合後の在庫管理システムが増加する取引件数及び品目数を処理できる能力について検討済みかを確認する。

学習のポイント

統合計画の日程と業務変更から、リスク、コントロール、監査手続を結び付けて考える。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成29年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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