AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成26年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 予算管理システムのプロジェクト計画及び要件定義の監査に関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。 X社は,様々な生活用品を製造し,卸業者やスーパーマーケットなどに販売している。 X社では,現在,会計システムの一部の機能(予算管理機能)を利用して予算管理を行っているが,詳細な予算・実績管理ができず,十分に役立っていない。そこで,経営者から予算管理の強化が求められ,新たに予算管理システムを構築することになった。X社において,広範囲な利用者を対象とした情報系のシステムを構築するのは初めてなので,導入目的を達成できるように利用者の立場に立って,慎重に検討する必要がある。この開発プロジェクトがプロジェクト計画及び要件定義フェーズまで進んだ段階で,監査室はシステム監査を実施することにした。 〔現状の予算管理〕 X社では現在,購買・製造・販売システムなどの基幹システム及び会計システムを運用している。このうち,会計システムの予算管理機能は,経理部だけが利用している。 (1) 予算は,年度開始の1か月前に経営会議で最終決定される。経理部は,決定した予算を会計システムに登録する。 (2) 購買・製造・販売などの主要な会計データは,基幹システムで管理されている各種実績情報から会計システムに取り込まれる。会計システムの月次決算で確定した実績データに基づいて,経理部が予算に対応する実績情報をレポートにまとめ,経営会議で報告する。各部は,この実績情報に基づいて分析を行う。 〔予算管理システムの目的と概要〕 新たに構築する予算管理システムの導入目的は,次の3点である。 (1) 部門別損益管理の他,製品カテゴリ別業績管理を含めた,現状よりも詳細な予算・実績管理を実現する。 (2) 各部で予算登録及び予算修正を行えるようにし,各部の予算管理責任を明確にする。 (3) 各部で予算・実績に関する情報を有効に利用できるようにする。 予算管理システムと関連システムの概要を図1に示す。予算管理システムには,会計システムと同じベンダが提供しているソフトウェアパッケージを採用する予定である。 図1 予算管理システムと関連システムの概要 〔予備調査の実施〕 システム監査担当者のY氏が,予備調査で理解した内容は次のとおりである。 (1) 予算管理システムは,製品カテゴリ別の売上・粗利,部ごとの予算・実績に関する情報を詳細に管理するので,X社として機密レベルの高い情報が含まれる。 (2) 経営会議で決定された概算予算に基づいて,各部で詳細な予算を予算管理システムに登録する。 ① 各部は,経理部から入手した概算予算に基づいて,詳細な予算を立て,予算担当者が予算登録を行う。この予算登録に対して部長が承認入力を行うことで,予算として正式に確定される。各部で予算登録を行うことは,各部の予算管理に関する責任を明確にするだけでなく,経理部の臨時増員を行わなくても済むことになる。ただし,経理部は,各部の予算登録・修正が適切に実施されているかどうか確認する必要がある。 ② 予算の見直しは,3か月ごとに実施する。業績予測に影響するような大幅な見直しの場合は,年度の予算と同じプロセスで予算を見直す。一方,一定金額未満の修正などのような軽微な見直しであれば,各部で独自に修正入力及び承認入力を行い,その内容と理由を予算修正申請書に記載し,部長の承認を受けて経理部に提出する。 (3) 実績データは,全て会計システムから予算管理システムに取り込まれる。 ① 実績データは,正確性を重視し,月次決算で確定した後の会計システムの財務情報から自動的に生成する。 ② 現在の会計システムで管理されている情報に比べ,予算管理システムで管理される情報は,詳細である。そのために,予算管理システムに提供可能な情報を管理できるように会計システムの勘定科目や部の設定を変更する。 (4) 予算管理システムのアクセス管理では,次の方針に従って,部別・役職別に利用可能な機能・データ項目を表した権限マトリックスを作成している。 ① 予算の登録・修正権限は,各部の予算担当者に付与する。また,登録・修正の承認権限は,各部の部長に付与する。 ② 予算・実績情報に基づいて,必要な対応を迅速に行うために,当該システムの情報は,経営者から各部の主任レベルまで幅広く,柔軟に利用できるようにする。そのために,情報管理において,参照権限については違いがあるものの,できる限り利用制限を行わないで情報の有効利用を促進する。 (5) 予算・実績に関する情報は,ソフトウェアパッケージに組み込まれたレポート機能を利用することで,利用者が必要な情報を柔軟に出力できるので,定型の帳票は開発しない。 このレポート機能は,会計システムにも組み込まれていて,操作経験がある経理部員の意見では,操作方法は簡単で,短時間の説明を受けるだけで操作できるとのことであった。そこで,この意見に基づき,操作方法に関する利用者向けの研修だけが,プロジェクト計画に盛り込まれている。 〔本調査の実施計画〕 システム監査担当者のY氏は,予備調査の結果に基づいて,予算管理システムの統制目的と,この目的に対応した監査要点を表1にまとめた。 表1 統制目的・監査要点対応表(抜粋) Y氏は,表1に基づいて,本調査に当たっての留意事項を次のとおり整理した。 (1) 監査要点①aについて,各部での予算登録の網羅性をチェックする機能が組み込まれているかどうか留意する。 (2) 監査要点①bについて,軽微な予算修正を統制するための機能が,予算管理システムに組み込まれているかどうか留意する。 (3) 監査要点②aについて,会計システムの勘定科目・部の見直しが予算項目と一致しているか,会計システムの変更要件に留意する。 (4) 監査要点②bについて,実績の取込みが月次決算確定後でよいかどうか十分な検討が行われていない可能性があるので,その妥当性に留意する。 (5) 監査要点③aについて,プロジェクト計画で検討されている研修計画では,研修内容として不十分な可能性があるので,その妥当性に留意する。 (6) 監査要点③bについて,利便性を重視し,情報管理の面からアクセス管理について十分に検討されていない可能性があるので,その妥当性に留意する。 設問1 〔本調査の実施計画〕の(2)に関して,システム監査担当者が予算管理システムに組み込まれるべきと考えた機能を,30字以内で述べよ。 設問2 表1の監査要点②aを満たすためには,〔本調査の実施計画〕の(3)だけでは不十分である。追加すべき留意事項を,45字以内で述べよ。 設問3 〔本調査の実施計画〕の(4)において,システム監査担当者が,十分な検討が行われていない可能性があると考えた理由を,40字以内で具体的に述べよ。 設問4 〔本調査の実施計画〕の(5)において,システム監査担当者が,プロジェクト計画で検討されている研修計画では,予算管理システム導入後に顕在化するであろうと考えた課題を,35字以内で述べよ。 設問5 〔本調査の実施計画〕の(6)において,情報管理の面から本調査で実施すべき監査手続を,50字以内で述べよ。
図1 予算管理システムと関連システムの概要。基幹システムから会計データ、会計システムから実績データを経由して、予算管理システムへ情報が流れる構成図。
図1 予算管理システムと関連システムの概要。基幹システムから会計データ、会計システムから実績データを経由して、予算管理システムへ情報が流れる構成図。
表1 統制目的・監査要点対応表(抜粋)。予算の登録・修正、実績データの収集、予算・実績情報の利用・管理という統制目的と、それぞれの監査要点を対応付けた表。
表1 統制目的・監査要点対応表(抜粋)。予算の登録・修正、実績データの収集、予算・実績情報の利用・管理という統制目的と、それぞれの監査要点を対応付けた表。
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統制目的と監査可能性の接点

予算管理の仕組みを考えるときは、業務上の統制目的と、後から経緯を確かめられる記録のつながりに注目します。機能の多さではなく、説明責任を支える観点で整理してください。

この問題で問われていること

一つの観点として、予算に関する判断や変更が、誰の責任で、どの時点に、どの根拠に基づいて行われたかを後から追跡できるか、という監査可能性に絞って各記述を見比べます。

視点

統制は、単に処理を制限するだけでなく、判断の根拠と経緯を説明できる状態との関係で捉えます。利用者、時点、変更内容、根拠資料などの結び付きを、具体的な方式の暗記ではなく、監査で確認しやすい情報のまとまりとして考えてください。

確認ポイント

  • 判断や変更の責任の所在を確認できるか
  • 処理の時点と経緯を一貫して追えるか
  • 記録が根拠や説明責任と結び付いているか
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解説

X社の予算管理システム導入計画について、予算修正、実績データの取込み、利用者教育、機密情報のアクセス管理に潜む不足を監査の観点から確認する問題です。

問題の全体像

X社は、会計システムだけでは不足していた詳細な予算・実績管理を強化するため、各部が予算を登録・修正し、各部で情報を活用する予算管理システムを導入しようとしている。監査では、導入目的に対して、予算修正の統制、必要な実績データの取込み、情報活用のための研修、機密情報を含むデータのアクセス管理が十分かを確認する。出題趣旨でも、情報の質、利用方法、情報管理をシステム監査人の立場から検討する能力が問われている。

設問1

本調査の実施計画(2)では、軽微な予算修正を各部が独自に入力・承認できる。金額によっては本来、年度予算と同様に慎重な統制が必要になるため、システム側で一定金額以上の修正を入力できないようにする機能が必要になる。これにより、軽微な修正として扱える範囲を超えた修正が、簡易な手続で行われることを防ぐ。公式解答例も、一定金額以上の予算修正を入力できないようにする機能を示している。

設問2

監査要点②aは、必要な実績データを取り込めるかを問う。本調査計画(3)は、会計システムの勘定科目や部の設定を予算項目に合わせる点に着目しているが、それだけでは、上流の基幹システムにある対応データを実際に全て受け渡せるとは限らない。したがって、予算項目に対応する会計データを基幹システムから全て取り込める計画かを確認する。

設問3

実績データは正確性を重視して月次決算確定後に自動生成する計画だが、予算・実績情報を各部が有効に利用する目的から見ると、月次決算後では情報提供が遅くなり、迅速な対応に使えない可能性がある。そのため、単に正確であることだけでなく、取込み時期が業務上適切か、月次決算後では遅すぎないかを検討していない点が理由になる。

設問4

研修計画は、会計システムの操作経験がある経理部員の意見を根拠に、操作方法の説明だけを想定している。しかし、今回は広範囲の利用者を対象とする新しい情報系システムであり、各部が予算・実績情報を分析し活用することも目的です。操作方法だけでは情報の活用方法を理解できず、予算・実績情報が効果的に利用されないという課題が導入後に現れると考える。

設問5

予算管理システムは製品カテゴリ別の売上・粗利など機密レベルの高い情報を扱う一方、利便性を重視して参照制限をできる限り設けない方針です。本調査では、作成済みの権限マトリックスを閲覧し、機密レベルの高い情報について、部別・役職別の参照権限が適切に制限されているかを確かめる。

学習のポイント

目的・現状・予備調査を対応付け、監査上の懸念を具体的な機能や手続に落とし込む力を身に付ける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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