AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成26年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 個人が所有するモバイル端末の業務利用の監査に関する次の記述を読んで、設問1~5に答えよ。 Z社は、中堅自動車メーカの販売子会社である。Z社では、社内LANに接続されたデスクトップPCを全従業員が使用しているが、近年のIT利用環境の変化を受けて、デスクトップPCに加え、スマートフォン、タブレット端末などのモバイル端末の業務利用を計画している。これに伴い、Z社システムへのリモートアクセスの仕組みを新たに構築する。また、全従業員の約半数に当たる営業職によるモバイル端末の効果的な活用を通じて、営業力の強化を図る計画である。 〔モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査の実施〕 2月に経営企画部と情報システム部が共同で、全従業員を対象に、モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査を電子メールで実施した。アンケート調査の目的は、Z社が貸与するモバイル端末の業務利用、又は個人が所有するモバイル端末の業務利用(以下、BYODという)の選択についての意向を把握することであった。 アンケート調査の項目は、図1のとおりであった。 図1 モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査の項目 アンケートの回収率は80%であった。アンケート調査の結果から、回答者の85%がスマートフォン又はタブレット端末をもっていること、そのうちの90%がBYODを望んでいることが分かった。 〔BYOD導入の目的〕 Z社は、アンケート調査の結果を受けて、3月の経営会議で、Z社と従業員の双方にとってメリットが期待できるとして、BYODの導入を決定し、目的を次のように定めた。 (1) 使い慣れたモバイル端末でZ社システムを利用することによる業務生産性の向上 (2) 端末導入コストの低減及びモバイル端末の購入・修理に係る業務負荷の軽減 (3) 通信コストの低減及び利用プランの契約・見直しに係る業務負荷の軽減 また、BYODは従業員の任意であり、希望者は上長の承認を得た上で、モバイル端末のOSのバージョン確認など、所定の手続を経て開始できること、及びモバイル端末の購入・修理に係る費用と通信費用について、Z社が一部負担することも決定した。 なお、営業職など、職務上、モバイル端末の業務利用を必要とするがBYODを希望しない従業員に対しては、Z社がモバイル端末を貸与することにした。 〔BYOD導入プロジェクトチームによる検討結果〕 経営会議での決定を受け、BYOD導入プロジェクトチーム(以下、プロジェクトチームという)が組織された。経営企画部、情報システム部及び営業部から数名ずつプロジェクトチームのメンバが選任され、8月に予定されている実運用の開始に向けて、BYOD導入に当たっての対応事項及びその内容について検討を始めた。 プロジェクトチームは、週次でプロジェクト会議を開き、検討内容及び決定事項を議事録として記録している。また、5月の経営会議に提出する“BYOD導入検討報告書”(以下、報告書という)を作成するために、検討結果を表1のとおりまとめた。 表1 BYOD導入に当たっての対応事項及び内容(抜粋) 〔システム監査の実施〕 Z社の社長は、BYODを導入している企業がまだ少なく、プロジェクトチームが、BYOD導入に当たっての対応事項及びその内容を検討するのに必要な情報を十分に得られない可能性があることに懸念をもった。そこで、プロジェクトチームによる検討内容が妥当かどうかを第三者の立場から検証させるために、監査室長に監査の実施を命じた。 監査室長によって任命されたシステム監査人は、アンケート調査の結果、プロジェクト会議の議事録及び報告書を入手し、それらを閲覧するとともに、プロジェクトチームにインタビューして検証を行った。そして、監査調書に発見事項を次のように記録した。 (1) 表1の項番1について、モバイル端末に関する技術は、ハードウェア、ソフトウェアともに進歩が速いので、Z社が定めるバージョンよりも古いOSを搭載したモバイル端末の使用禁止に関する項目を、セキュリティポリシに追加すべきである。 (2) 表1の項番2の(5)について、リモートロックやリモートワイプは、MDMサーバがモバイル端末と通信できない場合には実行できないので、これだけではセキュリティ対策として十分とはいえない。モバイル端末内に保存されているデータを保護するための対策を検討する必要がある。 (3) 表1の項番3について、MDMツールの利用によって運用負荷の増加が抑えられる見込みであることから、現状のZ社運用要員の数は増やさないとしている。しかし、モバイル端末に係るセキュリティ事故発生時に備えた運用の必要性を考慮すると、運用コストが現状よりも増加する可能性がある。外部ベンダによるサービスの利用などを含め、再度検討すべきである。 (4) 表1の項番4について、BYOD導入後の従業員の満足度及びBYOD実施率についての効果測定項目が欠けている。モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査の項目を考慮すると、従業員の満足度が低下し、BYOD実施率がアンケート調査の結果を下回る可能性がある。BYOD導入後の実態を把握するために、従業員のメリットに関するこれらの項目を効果測定項目に含めるべきである。 (5) プロジェクトチームが検討した対応事項の中に、ヘルプデスクの強化が含まれていない。モバイル端末の機種・OSの多様さによる、モバイル端末利用に関する問合せ件数の増加及び内容の多様化が考えられるので、ヘルプデスク業務の変化に応じた対策を検討する必要がある。 設問1 〔システム監査の実施〕の(1)について、システム監査人が挙げた、セキュリティポリシに追加すべき項目は、どのようなリスクを想定したものか。50字以内で具体的に述べよ。 設問2 〔システム監査の実施〕の(2)について、システム監査人が想定した対策を二つ挙げ、それぞれ30字以内で述べよ。 設問3 〔システム監査の実施〕の(3)について、システム監査人が“運用コストが現状よりも増加する可能性がある”と考えた理由を、運用におけるどのようなコストかを明確にして、45字以内で述べよ。 設問4 〔システム監査の実施〕の(4)について、システム監査人が“従業員の満足度が低下し、BYOD実施率がアンケート調査の結果を下回る可能性がある”と考えた理由を、50字以内で具体的に述べよ。 設問5 〔システム監査の実施〕の(5)について、システム監査人が想定した対策を二つ挙げ、それぞれ15字以内で述べよ。
図1 モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査の項目。スマートフォン又はタブレット端末の保有状況を確認し、保有者に機種・OS情報とBYOD希望を尋ねるアンケート項目を示す。
図1 モバイル端末の業務利用に関するアンケート調査の項目。スマートフォン又はタブレット端末の保有状況を確認し、保有者に機種・OS情報とBYOD希望を尋ねるアンケート項目を示す。
表1 BYOD導入に当たっての対応事項及び内容(抜粋)。BYOD導入に向けた対応事項を、セキュリティポリシの改訂、MDMツール、MDMサーバ運用体制、導入後の効果測定の4項目に整理した表。
表1 BYOD導入に当たっての対応事項及び内容(抜粋)。BYOD導入に向けた対応事項を、セキュリティポリシの改訂、MDMツール、MDMサーバ運用体制、導入後の効果測定の4項目に整理した表。
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監査指摘をリスクと目的から読む視点

この問題では、BYOD導入に伴う監査指摘を、記載された導入目的や運用上の懸念と結び付けて読むことが重要です。各設問が問う対象の範囲を見失わないように整理しましょう。

この問題で問われていること

一つの監査指摘について、想定されるリスク、必要な管理上の観点、導入後に確認すべき効果が、本文のどの記述と対応するかに絞って確認し、本文の根拠だけを追ってください。

視点

監査人の指摘は、単なる機能の説明ではなく、BYODを安全かつ継続的に運用するために見落とされた観点を示しています。設問ごとに、対象となる指摘が「何を守るためか」「誰の負担や利用状況に関係するか」「導入後に何を測るべきか」という切り口で本文と照合すると、必要な検討範囲を整理できます。

確認ポイント

  • 指摘が想定する問題の対象は、情報、端末、利用者、運用のどこにありますか。
  • 本文の導入目的や運用条件のうち、指摘と直接つながる記述はどれですか。
  • 問われているのは予防、事故対応、運用体制、効果測定のどの観点ですか。
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解説

本問は、BYOD導入計画を対象に、古い端末、端末内データ、運用体制、効果測定、ヘルプデスクに関する新たなリスクと対策を考える問題です。

問題の全体像

Z社は営業力強化やコスト削減を目的にBYODを導入し、セキュリティポリシ、MDM、MDMサーバ運用、導入効果測定を検討している。システム監査人は、計画に漏れているBYOD固有のリスクと、それに対応するコントロールが十分かを確認した。設問では、古いOSの利用、通信不能時の端末内データ保護、事故対応の運用費、従業員の理解不足、問い合わせ増加への対応を具体化する。

設問1

着目点は、表1項番1の「OSのバージョン確認」と、技術の進歩が速いという監査人の指摘です。古いOSを使い続けると、Z社が定めたセキュリティ要件を満たせなくなる。したがって、想定するリスクは、旧型端末の継続使用によるセキュリティ要件未達です。50字以内では「旧型の機種を使用し続けることによって、Z社が定めるセキュリティ要件を満たせなくなるリスク」という因果関係を押さえる。

設問2①

着目点は、MDMサーバと端末が通信できない場合、リモートロックやリモートワイプを実行できないという指摘です。そのため、遠隔操作に依存せず端末の不正利用を防ぐため、端末を使用するためのパスワードなどを設定する対策を書く。30字以内では、端末利用時の認証設定を簡潔に示す。

設問2②

同じく通信不能時にも端末内に保存された業務データを保護する必要がある。そこで、端末内に保存されているデータを自動的に暗号化する対策を書く。30字以内では、保存データの自動暗号化という対象と方法を明確にする。

設問3

表1項番3では、MDMツールで運用負荷を抑え、運用要員を増やさない前提になっている。しかし監査人は、モバイル端末のセキュリティ事故発生時に、要員が常時迅速に対応できる体制が必要になる点に着目した。その結果、人員配置や対応要員に関する人件費が増加する可能性がある。45字以内では、必要な運用体制と人件費の増加を結び付ける。

設問4

アンケートはBYODの希望を調べているが、導入後の制約事項や端末購入・修理費、通信費の一部負担方針について、従業員が十分理解しているかまでは確認していない。実際の制度を知ると期待と異なり、満足度が下がったりBYODを実施しなかったりする可能性がある。50字以内では、制約事項や費用負担方針への理解不足を理由として示す。

設問5①

機種やOSが多様になると、問い合わせ内容も増え、同じ質問への対応を個別に繰り返す負荷が高まる。そこで、想定される質問と回答をFAQとして作成し、利用者に公開する対策を挙げる。15字以内では「想定FAQを作成し公開する」程度に簡潔化する。

設問5②

FAQだけでは解決できない個別の問題や、機種ごとに異なる問い合わせに対応するため、専用の問い合わせ窓口を設ける。15字以内では「専用問合せ窓口を設置する」と、窓口設置の対策を明確に書く。

学習のポイント

BYODでは利便性だけでなく、端末管理、情報保護、運用負荷、従業員の理解まで一体で監査する。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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