AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成25年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 プロジェクト会計システムの監査に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 Z社は、情報システムの受託開発を主力事業とする情報処理サービス会社である。Z社では、開発プロジェクト(以下、プロジェクトという)ごとの原価計算と工事進行基準による損益管理を行うために、プロジェクト会計システムを使用している。 プロジェクト会計システムは、図1に示すように、プロジェクトマスタ管理、作業実績管理及びプロジェクト損益管理を行う、三つのサブシステムから構成されている。 内部監査部では、年度監査計画に基づいて、システム監査を実施することになった。 図1 プロジェクト会計システムの概要 〔予備調査の概要〕 システム監査人は、プロジェクト会計システムの概要を把握するために、予備調査を行った。その結果は、次のとおりである。 1. プロジェクトマスタ管理 (1)プロジェクトの担当部署は、新規システムの開発、既存システムの保守などの作業を受注すると、顧客からの注文書を添付して、プロジェクト番号発行依頼書を業務部へ提出する。業務部は、注文書の内容を確認した上で、プロジェクト番号を発行し、プロジェクトマスタに登録する。登録内容は、プロジェクト名、プロジェクト番号、プロジェクト責任者、プロジェクト管理者、プロジェクトメンバ、プロジェクトの開始日・終了予定日、受注金額、プロジェクトメンバごとの計画作業時間、予定原価総額などである。プロジェクトの内容によって、複数部署の技術者がプロジェクトメンバとなる場合もある。 (2)プロジェクトごとに、プロジェクト管理者が1名任命され、プロジェクトメンバへの指示、顧客との連絡・調整などを行う。プロジェクト管理者の上位者であるプロジェクト責任者は、プロジェクトの売上・損益などについて責任を負う。プロジェクトの売上・損益の規模、及び計画と実績との差異は、プロジェクト責任者及びプロジェクト管理者の業績評価の項目となっている。 (3)顧客から正式な注文書を受領する前にプロジェクトの作業に着手する必要がある場合には、仮発番を行うことによって、作業に着手できる。仮発番とは、仮プロジェクト番号を発行する手続であり、その内容は次のとおりである。 ① プロジェクトの担当部署は、顧客から発注内示書を受領すると、プロジェクト番号発行依頼書に、その発注内示書を添付して業務部へ提出する。 ② 業務部は、仮プロジェクト番号を発行して、プロジェクトマスタに登録する。仮プロジェクト番号の有効期間は、仮プロジェクト番号発行後2週間である。 ③ プロジェクトの担当部署が顧客から正式な注文書を入手し、業務部へ提出することによって、仮プロジェクト番号は正式なプロジェクト番号に切り替えられる。 2. 作業実績管理 (1)開発部門及び品質管理部門の技術者は、毎日の作業時間の実績を、作業実績管理サブシステムへ入力する。技術者は、同時に複数のプロジェクトのプロジェクトメンバとなる場合があり、その場合は、プロジェクトごとに作業時間の実績を入力する。営業支援活動、教育、職場内の打合せなど、どのプロジェクトにも該当しない作業については、“一般作業”として時間を入力する。 (2)技術者の所属部署の上長は、毎日、技術者の入力内容を確認し、承認処理を行う。上長は、毎月、月末までの作業時間の実績について、翌月の第1営業日に月次承認を行って、確定する。 (3)技術者は、作業実績管理サブシステムとは別に、就業規則に基づく実働時間を、勤怠管理システムへ入力する。上長は、正しい実働時間を把握できるように、入退室管理システムによる在室時間を確認した上で、技術者の実働時間を承認する。 3. プロジェクト損益管理 (1)作業時間の実績の月次承認後、プロジェクトごとに各技術者の作業実績集計データが、プロジェクト損益管理サブシステムへ取り込まれる。また、プロジェクト管理者は、プロジェクトの状況を基に、プロジェクト売上総額を毎月見直して入力し、また、今後発生予定のプロジェクトメンバごとの作業時間及び経費を入力する。その後、月次バッチ処理によって、プロジェクトごとの原価及び工事進行基準による売上が、表1に示す計算式によって算出される。 表1 プロジェクトの原価・売上の計算式 原価=技術者のランク別の原価単価×作業時間の実績+経費の実績(外部委託費、旅費など) 売上=プロジェクト売上総額(見直し後の総額)×プロジェクト進捗度 プロジェクト進捗度は、原価比例法によって、“プロジェクト原価の実績額の累計÷見直し後の予定原価総額”として、毎月算出する。このうち、見直し後の予定原価総額は、作業時間の実績及びプロジェクト管理者の入力データに基づいて算出する。 (2)プロジェクト管理者は、バッチ処理完了後、プロジェクト損益管理サブシステムの画面から、プロジェクトの原価、売上及び損益を参照できる。プロジェクト原価の実績額の累計が当初の予定原価総額を超えた場合は、プロジェクト管理者及びプロジェクト責任者に対して、電子メールでアラームが自動送信される。電子メールを受信したプロジェクト管理者は、原価超過の理由と今後の対策内容について、プロジェクト責任者の承認を得て、業務部へ連絡する。 〔本調査の内容(抜粋)〕 システム監査人は、予備調査の結果を受けて、次に示す本調査を実施した。 1. プロジェクトマスタ管理 発注内示書に基づいて行われる仮発番には、業務上のリスクがあると考えた。そのリスクを低減するためのコントロールの適切性を確かめるために、作業実績管理サブシステムの機能一覧表を閲覧した。 2. 作業実績管理 (1)予備調査の結果から、作業時間の正当性を確保するためのコントロールが不十分であると考え、補完的なコントロールの有無を確かめた。 (2)プロジェクトの作業時間の実績の信頼性を確保するためのコントロールを確認するために、作業実績管理サブシステムの機能一覧表を閲覧したところ、次の機能があった。 ① プロジェクトメンバとして登録されていない者は、作業時間を入力できない。 ② プロジェクトの開始日前及び終了日後には、作業時間を入力できない。 (3)技術者による作業時間の誤入力以外にも、技術者が実際の作業時間どおり入力しないリスクが考えられるので、そのリスクが顕在化しているかどうかを確認した。 3. プロジェクト損益管理 システム監査人は、プロジェクト損益管理の状況を把握するために、プロジェクト一覧表を閲覧した。その結果、過去半年間のプロジェクト件数は56件であり、そのうち、プロジェクト責任者が、プロジェクトの終了直前まで損益の悪化を把握できなかったプロジェクトが8件あった。システム監査人は、このような問題を防止するために、現行システムに対する機能の改善を提言することにした。 設問1〔本調査の内容(抜粋)〕1.について、(1)、(2)に答えよ。 (1)システム監査人が考えた業務上のリスクを、30字以内で述べよ。 (2)システム監査人が作業実績管理サブシステムの機能一覧表を閲覧して、確認したと考えられる機能を、30字以内で述べよ。 設問2〔本調査の内容(抜粋)〕2.(1)で、システム監査人が、作業時間の正当性を確保するためのコントロールが不十分であると考えた理由を、35字以内で述べよ。 設問3〔本調査の内容(抜粋)〕2.(3)について、(1)、(2)に答えよ。 (1)システム監査人が、技術者が実際の作業時間どおり入力しないリスクがあると考えた理由を、45字以内で述べよ。 (2)システム監査人が確認のために行った監査手続を、45字以内で述べよ。 設問4〔本調査の内容(抜粋)〕3.で、システム監査人が提言すべきと考えられる機能を、35字以内で述べよ。
図1 プロジェクト会計システムの概要。プロジェクト会計システムを構成する三つのサブシステムと、入力データ及び経費管理・管理会計システムとのデータ連携を示す概要図。
図1 プロジェクト会計システムの概要。プロジェクト会計システムを構成する三つのサブシステムと、入力データ及び経費管理・管理会計システムとのデータ連携を示す概要図。
表1 プロジェクトの原価・売上の計算式。プロジェクトの原価と売上の算出式を、原価単価、作業時間、経費、売上総額、進捗度などの関係で示した表。
表1 プロジェクトの原価・売上の計算式。プロジェクトの原価と売上の算出式を、原価単価、作業時間、経費、売上総額、進捗度などの関係で示した表。
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監査リスクと統制の対応を考える

この問題では、業務上起こり得るリスクを想定し、それを防止・発見する統制や監査手続が、どの情報や証跡に結び付くかを整理する視点が重要です。設問ごとの結論を急がず、流れの対応関係を見ます。

この問題で問われていること

各設問の対象となる業務プロセスについて、誰が何を入力・承認し、どの段階で不自然な状態を発見できる設計になっているかを一つの軸で確認してください。特定の答えではなく、監査上の着眼点を整理します。

視点

監査では、処理の流れを追いながら、想定されるリスク、対応する予防または発見の仕組み、監査人が確かめる証拠の関係を整理します。個別の機能名や結論を先に決めず、業務の責任分担と記録の信頼性に注目しましょう。

確認ポイント

  • 入力内容を誰が作成・承認し、責任の所在が明確か確認する
  • リスクが発生した場合に、どの統制や記録で気付けるか考える
  • 監査手続が、対象リスクを確かめる証拠と対応しているか見る
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解説

プロジェクト会計では、正式受注、作業時間の正確性、承認、原価及び損益の早期把握が重要です。設問は、各場面の業務リスクに対応する統制や監査手続を問う。

問題の全体像

Z社は、受託開発プロジェクトごとに原価と工事進行基準による売上・損益を管理している。仮発番、作業時間の入力・承認、勤怠管理との関係、予定原価と実績原価に基づく損益管理が監査対象です。出題の狙いは、単に機能を列挙するのではなく、正式受注前の着手、業績評価に伴う入力のゆがみ、承認不足、損益悪化の発見遅れといった業務リスクを読み取り、それに対応する統制や監査手続を説明できるかを確認することにある。

設問1(1)

着目点は、正式な注文書がなくても発注内示書に基づく仮発番で作業を開始でき、仮プロジェクト番号の有効期間を過ぎても作業や原価が発生し得る点です。正式注文を受けられなければ、売上に結び付かない原価だけが発生して損益が悪化する。公式解答例では、この因果関係を「顧客から正式な注文が得られず、損益が悪化するリスク」と表している。

設問1(2)

設問1(1)のリスクを低減するには、仮発番がいつまでも有効な状態にならないよう、2週間という有効期間を管理する必要がある。したがって、機能一覧表では、仮発番から2週間を過ぎた場合に警告を表示する機能を確認したと考える。公式解答例も、この期限経過時の警告表示機能を示している。

設問2

作業時間は技術者が入力し、所属部署の上長が毎日確認・承認しているが、プロジェクトの作業時間を管理するプロジェクト管理者による承認は本文に示されていない。プロジェクト管理者は売上・損益や計画と実績の差異について責任を負うため、入力された作業時間を承認しないことは正当性を確保する統制の不足になる。公式解答例では、「プロジェクト管理者が入力された作業時間を承認していない」点を理由としている。

設問3(1)

プロジェクトの売上・損益の規模や計画と実績との差異が、プロジェクト管理者の業績評価項目になっている点に着目する。この評価を良くするため、プロジェクト管理者が技術者に実際より少ない作業時間を入力させれば、原価実績を少なく見せられる。公式解答例では、この業績評価上の動機から過少入力が起こり得ることを理由としている。

設問3(2)

技術者は作業実績管理サブシステムとは別に、就業規則に基づく実働時間を勤怠管理システムへ入力し、上長が在室時間を確認して承認している。そこで、作業実績管理サブシステムの作業時間と、勤怠管理システムの実働時間を突合すれば、実際の労働時間に比べて作業時間を過少に入力していないか確認できる。公式解答例では、この二つの時間を突合する手続を示している。

設問4

過去半年で、プロジェクト責任者が終了直前まで損益悪化を把握できなかった案件が8件あった点が根拠です。現行機能は、実績原価の累計が当初予定原価総額を超えた場合に、プロジェクト管理者と責任者へアラームを送るが、入力された内容の妥当性を上位者が確認する仕組みまでは示されていない。公式解答例では、プロジェクト管理者の入力内容をプロジェクト責任者が承認する機能を提言している。

学習のポイント

業務上の動機とシステム統制を結び付け、誰が何を承認・照合するかを答案化する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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