AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成25年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 情報システム運用の監査に関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。 M病院は、約200の病床を有する一般病院であり、7年前に電子カルテシステムを導入して現在に至っている。 〔電子カルテシステムの概要〕 電子カルテシステムは、従来紙カルテに記録していた情報を電子データに置き換え、院内での情報共有を図るものである。また、処方、検査などの指示(以下、オーダという)を行う機能も有しているので、医師は、電子カルテシステムに診療内容を記録し、薬剤部、検査部、放射線部、栄養管理部などの部門システムに、オーダを直接送信することができる。 M病院が導入した電子カルテシステムは、外部ベンダが開発したソフトウェアパッケージで、導入以降およそ2年ごとにバージョンアップが行われており、直近のバージョンアップが行われたのは1年前である。 〔システム運用環境の概要〕 (1) 電子カルテシステムが稼働するサーバを含め、全てのサーバは院内のサーバルームに設置され、事務部システム課に所属する5名の職員が管理している。 (2) 本番システムについては、システム障害発生時に備えてハードウェアを冗長化しているが、災害発生時に備えたバックアップサイトはもっていない。 (3) バックアップデータの保管については、専門業者の遠隔地データ保管サービスを1年前から利用している。バックアップデータは日次で取得し、サーバルームに一時保管した後、週次で専門業者に引き渡している。従来サーバルームに保管していた全てのバックアップデータの移動は完了している。 〔電子保存の要求事項及び代行操作の承認機能に関するガイドライン〕 電子カルテシステムについては、法的に保存が義務付けられている診療記録を電子データで保存するための前提として、表1に示す電子保存の要求事項を満たすことが求められている。 表1 電子保存の要求事項 また、M病院では、医療品質の向上及び業務運用の効率化を図るために、医師、看護師など専門性が必要とされる医療関係職員と、メディカルクラークと呼ばれる事務職員(以下、MCという)の役割分担が推進されている。 具体的には、役割分担の一環として、医師の指示の下でMCが医師に代わって電子カルテに記録する代行操作を認めている。ただし、オーダについては、従来どおり医師が行う必要がある。代行操作を依頼した医師は、電子カルテの記録内容を承認して確定操作を行わなければならない。記録内容の承認については、表1の項番1に示す要求事項を満たしていなければならない。そのために、表2に示すガイドラインに基づき、運用管理規程で運用方法を定めている。 表2 代行操作の承認機能に関するガイドライン(抜粋) 〔システム監査の実施〕 監査室長は、年次監査計画に基づき、2名のシステム監査人を任命し、電子カルテシステムの運用に関する監査を指示した。システム監査人は、文書などの閲覧及び関係者へのインタビューを通じて、次の事項を発見した。 (1) 電子カルテシステムの操作ログを用いて代行操作の状況を調査したところ、多数のMCが代行操作を行っており、医師とMCの役割分担が進んでいる。 (2) 電子カルテの記録内容について、医師がやむを得ず一定時間内に承認及び確定操作を行えなかった場合は、電子カルテシステムによる自動確定が行われる。これは、予約外の外来患者が多いといった、特別な理由がない日にも発生している。 (3) 業務継続計画(以下、BCPという)の訓練の一部として、電子カルテシステムのバックアップデータを参照するテストが初めて行われている。このテストの対象は、サーバルームに保管しているバックアップデータだけである。また、電子カルテシステムのデータはベンダ独自の形式なので、電子カルテシステムを使用できない場合にデータを参照するには、専用ソフトウェアが必要である。専用ソフトウェアは、電子カルテシステムのバージョンアップの際、ベンダからバージョンに対応したものが提供されている。 なお、処方、検査などの指示を行うオーダ業務については、手書き伝票の起票によって容易に代替できるという理由で、BCPが策定されていない。 〔システム監査における指摘事項〕 システム監査人は、指摘事項を次のようにまとめた。 (1) 代行操作について、誰(MC)が誰(医師)の代行者なのか、あらかじめ特定されていないケースが見られる。表2の項番1に関する内容が運用管理規程に含まれているが、明確に記述されておらず、正しく理解されていないことが原因だと考えられる。運用管理規程の明確化が必要である。 (2) 代行操作によって電子カルテに記録された内容について、自動確定が行われているケースが見られる。運用管理規程では、自動確定時における電子カルテの作成責任者は、代行操作を依頼した医師であると定めている。ただし、自動確定はやむを得ない場合の処置であり、原則として自動確定に至る前に医師が承認及び確定操作を行うことと定められている。自動確定を減少させるために、電子カルテシステムの機能強化を図るべきである。 (3) 電子カルテシステムのバックアップデータ参照テストにおけるテスト対象のデータは、サーバルームに保管されているものである。これだけでは、電子カルテシステムを使用できない場合に、業務が中断するおそれがある。業務上必要となる期間のバックアップデータを対象に、テストを実施する必要がある。 (4) オーダ業務について、電子カルテシステムを使用できない場合の運用手続が定められておらず、手書き伝票による代替運用が実質的に機能しない可能性がある。手書き伝票に切り替えた場合の運用手続を定め、BCPを策定し、訓練を行う必要がある。 設問1 〔システム監査の実施〕の(1)について、システム監査人が、操作ログの調査に際してあらかじめ確かめておくべき前提条件を、40字以内で具体的に述べよ。 設問2 〔システム監査における指摘事項〕の(2)について、システム監査人が想定した、電子カルテシステムの自動確定に関する機能強化に必要な内容を、35字以内で述べよ。 設問3 〔システム監査における指摘事項〕の(3)について、システム監査人が“業務が中断するおそれがある”と考えた理由を、表1の項番2の二つの観点から、それぞれ45字以内で述べよ。 設問4 〔システム監査における指摘事項〕の(4)について、システム監査人が、“手書き伝票による代替運用が実質的に機能しない可能性がある”と考えた理由を、40字以内で述べよ。
表1 電子保存の要求事項。電子保存に必要な真正性、見読性、保存性の三要件と、それぞれの具体的な要求内容を整理した表。
表1 電子保存の要求事項。電子保存に必要な真正性、見読性、保存性の三要件と、それぞれの具体的な要求内容を整理した表。
表2 代行操作の承認機能に関するガイドライン(抜粋)。代行操作の適用範囲、実施記録、医師による承認、自動確定時の作成責任者ルールを示したガイドライン表。
表2 代行操作の承認機能に関するガイドライン(抜粋)。代行操作の適用範囲、実施記録、医師による承認、自動確定時の作成責任者ルールを示したガイドライン表。
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リスクと統制の対応関係を確かめる

システム監査の問題では、記述された手続や対策が、どのリスクに向けられたものかを先に整理することが出発点です。リスクと統制の対応が取れているかという一つの観点に絞り、問題文の状況に照らして妥当性を落ち着いて判断しましょう。

この問題で問われていること

監査人の立場で、問題文に示された運用状況からどのような懸念が生じ得るかを自分の言葉で整理してください。そのうえで、提示された内容が実際に懸念を抑える働きを持つかを確かめる、という対応関係の観点に集中してください。

視点

監査では、統制が形式的に存在するかだけでなく、想定したリスクを実際に低減できる内容になっているかが評価の軸になります。業務の種類によらず、業務の目的、そこから生じるリスク、それに対する統制という順につなげて考えると、各記述の位置付けを整理しやすくなります。

確認ポイント

  • 問題文の状況から生じ得る懸念(リスク)を、自分の言葉で書き出したか
  • 提示された内容が、書き出した懸念のどれに向けられたものかを対応付けたか
  • 対応付けた内容が、その懸念を実際に抑える働きを持つかを、問題文の状況に照らして検討したか
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解説

約200床のM病院で使っている電子カルテシステムの運用を監査する問題です。操作ログを監査証拠として使うための前提、自動確定を減らすための機能強化、バックアップデータの見読性(容易に肉眼で見読できること、直ちに書面に表示できること)、オーダ業務を手書き伝票で代替する運用の実効性が問われています。公式解答例では、ユーザID・パスワード管理やログの完全性、自動確定前の通知機能、異なるバージョンのデータや遠隔地データを参照するテストの欠落、業務負荷と部門システム連携が検証されていないことが示されています。

問題の全体像

M病院は7年前に電子カルテシステム(ベンダのパッケージ)を導入しました。およそ2年ごとにバージョンアップしており、直近は1年前です。バックアップデータは日次で取得してサーバルームに一時保管し、週次で遠隔地の専門業者に引き渡しています。サーバルームにあった過去分の移動も完了しています。診療記録を電子保存するには、表1の真正性・見読性・保存性を満たす必要があります。MC(メディカルクラーク)による代行操作は、表2のガイドラインに沿って運用管理規程で管理されています。システム監査人は、代行操作の状況、自動確定の発生、BCP訓練でのバックアップ参照テスト、オーダ業務でBCPが策定されていないことを発見し、4点を指摘しました。公式解答例の出題趣旨では、エラーや障害に厳格な対応が求められる電子カルテシステムを例に、リスクの種類や程度に応じたコントロール、発見事項を裏付ける監査証拠、システム監査人の判断根拠を識別する能力を問うとされています。

設問1

着目点は、〔システム監査の実施〕(1)で操作ログを使って代行操作の状況を調査していることです。ログから『多数のMCが代行操作を行っている』と判断するには、ログ自体が監査証拠として信頼できなければなりません。そのための前提は二つ考えられます。一つは、ログに記録された利用者が本当にその本人であることです。ID・パスワードの貸し借りや共用があれば、医師の操作に見えても実際はMCが操作した可能性があります。もう一つは、ログが欠落なく揃っていて、改ざんされていないことです。公式解答例では『ユーザID及びパスワードの管理が適切で、なりすましの可能性がないこと』と『調査の対象となる操作ログが全てそろっており、改ざんが行われていないこと』の二つが示されています。答案では、どちらかの観点を具体的に40字以内でまとめます。

設問2

着目点は三つあります。〔システム監査の実施〕(2)で、自動確定が特別な理由のない日にも発生していること。指摘事項(2)で、自動確定はやむを得ない場合の処置であり、原則として自動確定に至る前に医師が承認・確定操作を行うと定められていること。表2項番3で、代行記録はできるだけ速やかに承認しなければならないことです。目的は『自動確定を減らすこと』なので、医師が確定し忘れる前に気付けるようにする機能が求められます。公式解答例では『自動確定前に、医師へ承認及び確定操作を促す通知を表示する機能』とされています。採点講評では、『自動確定後も医師が確定操作できる設定にする』や『自動確定しないようにする』といった、問題文の趣旨に沿わない解答が見られたと指摘されています。自動確定は、やむを得ない場合の措置として必要とされている仕組みです。これを残したまま、その前に医師に促すという方向で35字以内にまとめます。

設問3(1)

表1項番2(1)『情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること』の観点です。データはベンダ独自の形式で、参照にはバージョンに対応した専用ソフトウェアが必要です。システムは約2年ごとにバージョンアップされており、7年分のデータには異なるバージョンで作成されたものが含まれます。一方、テストの対象はサーバルームに一時保管している直近1週間以内のデータ、つまり現行バージョンのデータだけです。そのため、旧バージョンのデータを読めるかは確かめられていません。公式解答例では『異なるバージョンで作成されたバックアップデータを参照するテストが行われていないから』とされています。採点講評では、バックアップ取得時期と専用ソフトウェアのバージョンとの関係を把握していない解答が多かったと述べられています。答案には『異なるバージョンのデータ』と『参照テスト未実施』の2要素を、45字以内で入れます。

設問3(2)

表1項番2(2)『情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること』の観点です。1週間より前のバックアップデータは、すべて遠隔地の専門業者に保管されています。システムが使えないときに過去の診療記録が必要になれば、遠隔地から取り寄せて書面にするまでの時間が問題になります。ところが、テスト対象はサーバルームのデータだけなので、遠隔地データを入手して書面化するまでの時間や手順は検証されていません。公式解答例では『適切な時間内に遠隔地のバックアップデータを入手し書面化するテストが行われていないから』とされています。採点講評では、保存性など表1項番2以外の観点で書いた解答は趣旨から外れると指摘されています。答案では『適切な時間内』『遠隔地データの入手』『書面化』を45字以内に収めます。

設問4

着目点は、オーダ業務について『手書き伝票の起票で容易に代替できる』という理由だけでBCPが策定されていないことです。電子カルテシステムでは、オーダが薬剤部・検査部・放射線部・栄養管理部などの部門システムへ直接送信されています。手書き伝票に切り替えると、記入・搬送・転記などの負荷が増えます。また、伝票の内容をどう部門システムに取り込むか、各部門にどう伝えるかといった連携も問題になります。公式解答例では『手書き伝票で運用を代替した場合の業務負荷の増加分が検証されていないから』と『手書き伝票起票後の各部門システムとの連携方法が検証されていないから』が示されています。採点講評では、『運用手続が定められていないから』『BCPが策定されておらず、訓練も行われていないから』といった表面的な事象の解答が多く、正答率は低かったと述べられています。コントロールの不備から生じる具体的なリスクを、40字以内で書きます。

学習のポイント

表面的な事実を書き写すのではなく、統制の不備からどんなリスクが生じるかを識別し、問題文の数値や経緯(バージョンアップ周期、保管場所など)と結び付けて理由を書く練習をしましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成25年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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