AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成24年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問2

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問2 業務改革を伴うシステム導入後の監査に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 K社は,外資系のG企業グループの日本の販売子会社である。K社では,近年,顧客数が増加している。さらに,顧客が在庫を削減する傾向にあるので製品の売上は小口化しており,取引件数が増加していることから,債権管理が重要な課題となっている。K社は,今回,G企業グループとしての統一的なシステムを導入するという方針の基に,ERPシステム(以下,新システムという)を導入した。 新システムは,債権管理を行う上で重要な役割を担っている。監査室は,新システムの稼働後3か月が経過したので,債権管理に重点を置いたシステム監査を実施することにした。 〔新システムの導入に伴う債権管理の改革〕 旧システムは,図1に示すように,各営業部が独自に開発・運用している販売システム・請求システムと,本社の情報システム部が開発・運用している財務部利用の会計システムで構成されていた。 これに対して,新システムでは,図2に示すように,販売から会計までの一連のプロセスがERPシステムのグループ標準仕様を基に構築され,受注出荷モジュールは全ての営業部が利用するようになった。また,財務部が利用する財務会計モジュールのうちの債権管理は,財務部債権管理課が利用している。新システムの導入に伴い,旧システムは,各営業部で個別に策定した計画に基づいて廃止される。 図1 旧システムの概要 図2 新システムの概要 新システムは,システム統合によるシステムコストの最適化の他,次のような債権管理の改革を目的として導入された。 (1) 債権残高の明細管理による債権管理の強化 ① 旧システムでは,月次バッチ処理で販売システムの売上データを顧客別に集計して会計システムにデータ連携し,会計システムでは詳細な債権データを管理していなかった。実質的な債権管理は,各営業部が独自に行っていた。具体的には,どの売上に対する入金なのか分かるように,事前に支払予定データをほとんどの顧客からEDIで入手していた。そして,入手したデータと各営業部の請求システムの請求データをマッチングし,各営業部が独自の方針,手続に基づいて債権管理を行っていた。 ② 新システムの財務会計モジュールでは,債権残高の明細を一元的に把握できるので,全社ベースで債権の滞留状況などを管理できる。 (2) 請求書発行の一元化による職務分離の強化 ① 旧システムでは,各営業部の請求システムで請求書を発行していた。また,各営業部では,請求システムの請求データについて,製品未到着の売上取消,請求直前の単価間違いの修正などを行っていたので,会計システムの債権データと一致しないという状況もあった。 ② 新システムでは,ERPシステムの機能によって,債権管理課が財務会計モジュールで請求書の発行,債権データの処理などを行い,売上業務及び債権管理業務について営業部に対する内部牽制を強化できる。 〔新システムの債権管理プロセス〕 新システムを利用した債権管理プロセスは,次のとおりである。 (1) 受注出荷モジュールで生成された売上データは,リアルタイムで自動的に財務会計モジュールにデータ連携され,売上明細単位で債権データが生成される。新システム移行時の債権残高データは,旧システムの会計システムで管理していた債権データを利用している。 (2) 月末に,債権残高合計と当月売上明細が印刷された請求書が,債権管理課から顧客に発送される。 (3) 受注出荷モジュールで対応できない債権の修正がある場合には,各営業部が,債権管理課に請求書の修正依頼を電話で行う。この債権データの追加・修正入力は,債権管理課だけに許可し,各営業部には当該情報の参照だけを許可している。 (4) 営業部ごとに開設された入金用口座に,顧客から代金が振り込まれる。ファームバンキングからダウンロードした入金情報を財務会計モジュールに自動連携することで,入金データが作成される。この後,入金データと,対応する債権データとの消込処理が行われ,各債権データに入金済みのフラグが設定される。請求書の合計額と入金データが一致すれば自動的に消込処理が行われるが,一致しない場合には,債権管理課の担当者が債権データに対して消込入力を行う必要がある。実際,取引量の多い大手顧客ほど,顧客自身の債務データに基づいて支払うことが多いので,請求書どおりの入金は期待できない。 (5) 債権残高が売上明細単位で管理されるので,債権の滞留情報なども詳細に把握できる。また,各営業部を含め,CSV形式で債権データをダウンロードできる機能が提供されている。 〔システム監査の結果〕 監査担当者は,システム監査の結果として,監査室長に次のような報告を行った。 (1) 旧システムから新システムに移行した債権データが完全に消し込まれていない顧客が3割程度残っていた。この債権残高の管理状況では,新システムの導入目的を十分に満たしているとはいえない。これは,移行に利用した債権データに関する問題が想定できたにもかかわらず,十分な対応手続がとられていなかったことが原因だと判断する。更に調査したところ,新システムの開発プロジェクトでは,各営業部の請求システムの請求データを利用する代替案が検討されたものの,採用されなかったことが把握された。 (2) 新システム導入後の債権明細については,債権データとの消込作業が完了していないものが多かった。この点について具体的な原因を調査するために,業務量及び業務手順の面から追加の監査を実施する必要がある。 (3) 債権データの修正に関して,正当性を保証できる手続が整備されていない部分があった。この点を除けば,データ修正に関する正当性のコントロールについては,特に問題はなかった。 設問1 〔システム監査の結果〕(1)について,(1),(2)に答えよ。 (1) 監査担当者が指摘した,“移行に利用した債権データに関する問題”を,40字以内で述べよ。 (2) “請求データを利用する代替案”が採用されなかった理由として考えられる事項を,40字以内で述べよ。 設問2 〔システム監査の結果〕(2)について,どのような監査要点を追加すべきか。業務量及び業務手順の面から,それぞれ35字以内で述べよ。 設問3 〔システム監査の結果〕(3)の正当性に関して,(1),(2)に答えよ。 (1) 新システムの債権管理手続において考えられる問題点を,35字以内で述べよ。 (2) (1)の問題点を除き,データ修正に関する正当性のコントロールを確かめるために,監査担当者はどのような監査要点を設定したか。35字以内で述べよ。
図1 旧システムの概要。各営業部の販売・請求システムと財務部の会計システムを連携し,顧客への請求と銀行からの入金を管理する旧システムの構成。
図1 旧システムの概要。各営業部の販売・請求システムと財務部の会計システムを連携し,顧客への請求と銀行からの入金を管理する旧システムの構成。
図2 新システムの概要。受注出荷モジュールと財務会計モジュールを連携し,売上明細単位の債権管理と請求・入金処理を一元化する新システムの構成。
図2 新システムの概要。受注出荷モジュールと財務会計モジュールを連携し,売上明細単位の債権管理と請求・入金処理を一元化する新システムの構成。
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移行後データの整合性確認

この問題では、ERP導入による債権管理の変化を踏まえ、移行後データの信頼性と運用上の確認方法を切り分けて考える。個別の結論ではなく、監査で確かめる対象と証跡に注目する。

この問題で問われていること

中心に見るのは、旧環境から新環境へ引き継いだ情報と、その後の入力・修正・消込が、業務目的に沿って一貫して扱われているかです。原因、手続、権限を混同しないという視点。

視点

移行後の債権管理を評価するときは、データそのものの引継ぎ、処理が完了するまでの業務運用、修正を認める手続の統制を、同じ論点として整理する。どこで不一致や未処理が生じ得るかを、記録の連続性と担当間の確認という抽象的な観点から考える。

確認ポイント

  • 旧システムから引き継いだ情報について、完全性や整合性を確認する観点があるか
  • 導入後の処理量と担当者の手順が、未処理を生む可能性と結び付いていないか
  • 修正や例外処理について、依頼・承認・実施・記録のつながりを確認できるか
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解説

K社は、営業部ごとの個別システムからERPへ移行し、債権を売上明細単位で一元管理する改革を行った。設問は、移行データの適合性、消込業務の実行体制、債権データ修正の正当性を監査する観点を問う。

問題の全体像

旧システムでは、営業部ごとに販売・請求を行い、会計システムでは顧客別に集計されたデータを扱っていた。新システムでは、受注出荷から財務会計までを統合し、売上明細単位の債権管理と請求書発行の一元化を目指している。一方、移行した残高の消込未完了、導入後の消込作業の滞留、修正依頼に対する承認確認の不足が判明した。公式解答例は、これらを移行データの粒度、消込業務の要員・手順、データ修正のアクセス制御という監査観点に整理している。

設問1(1)

着目点は、移行に利用した債権データが新システムの管理単位に合っているかです。新システムは売上明細単位で債権を管理するのに対し、移行元の会計システムは顧客別合計を管理していた。そのため、通常の手続では個々の売上に対応する入金を特定できず、詳細な債権管理や消込ができない。公式解答例も、移行残高が顧客別合計であり、通常の手続では詳細管理できない点を示している。40字以内では「顧客別合計」と「詳細な債権管理ができない」という二つの要素を押さえる。

設問1(2)

代替案は、各営業部の請求システムの請求データを移行に利用する案です。しかし本文では、営業部が請求直前の単価修正や売上取消などを独自に行い、会計システムの債権データと一致しないことがあった。このため、請求データを使うと既存の債権データとの調整が難しいと判断されたと考える。公式解答例の「請求データは独自に修正されており、債権データとの調整は困難」という要点を、40字以内でまとめる。

設問2(業務量)

本文では、顧客数・取引件数が増加し、請求額と入金額が一致しない場合には債権管理課が手作業で消込入力を行う。また、消込未完了の債権明細が多い。したがって業務量の監査要点は、増加した手作業を処理できる要員が十分に配置されているかです。公式解答例も「債権消込作業を実施できる要員が十分に配置されているか」としている。

設問2(業務手順)

大手顧客は請求書どおりではなく、自社の債務データに基づいて支払うため、正確な消込には営業部から対応情報を得る必要がある。したがって、業務手順の監査要点は、各営業部から消込情報を正確に入手する手順が確立しているかです。公式解答例も、営業部から消込情報を正確に入手する手順の有無を確認する内容としている。

設問3(1)

新システムでは、営業部が電話で修正を依頼し、債権管理課が入力するが、本文には正当な承認を確認する手続が示されていない。したがって問題点は、修正依頼が正当な承認に基づくものか確認せずにデータを修正していることです。アクセス権を債権管理課に限定している点とは別に、修正の正当性を証明する承認確認が不足している点を35字以内で示す。

設問3(2)

設問3(1)の承認確認の不足を除き、本文では債権管理課だけに追加・修正入力を許可し、営業部には参照だけを許可している。この記述から、監査要点は債権データへのアクセス制限が適切に設定されているかを確かめることになる。公式解答例も、データ修正に関する正当性のコントロールとしてアクセス制限の適切性を確認するとしている。

学習のポイント

業務改革後に変化したデータ粒度、役割分担、承認、アクセス制御を事例から具体化する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問2(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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