AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成24年度春期 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 パブリッククラウドサービスを利用したシステムの監査に関する次の記述を読んで, 設問1~4に答えよ。 M社は,中規模の金融機関である。M社の情報システムは,メインフレームシステムとサーバシステムに大別され,メインフレームシステムはベンダ保有のデータセンタで稼働し,サーバシステムは自社保有のデータセンタで稼働している。バックアップセンタは,各データセンタに対応させて遠隔地に設置されている。バックアップセンタにはシステム開発環境があり,バックアップデータも保管されている。 M社では,自社保有のデータセンタ及びバックアップセンタの規模縮小に向けたシステム移行が予定されていることから,内部監査部で企画段階におけるシステム監査を実施することになった。 〔パブリッククラウドサービス利用の検討経緯〕 M社の経営戦略会議において,自社保有のデータセンタ及びバックアップセンタの規模を段階的に縮小し,最終的には自社保有のデータセンタ及びバックアップセンタを基幹システムの運用に限定する方針が打ち出された。第一段階として,サーバシステム上で稼働する社内向けシステムの一部について,パブリッククラウドサービスの一形態であるSaaSを利用することが決定された。 この決定を受けて,システム企画部及び社内向けシステムのオーナ各部の代表で構成されるパブリッククラウド移行プロジェクト(以下,移行プロジェクトという)が立ち上げられた。移行プロジェクトでは,システムの運用管理に関する業務負荷とコストの最適化,及びシステム資源利用の柔軟性向上を目指して検討を進めている。移行プロジェクトは,週に1回,移行プロジェクト会議を開き,会議での検討内容及び決定事項を記載した議事録を作成して,関係者に回付している。 〔パブリッククラウドサービス利用に関する検討内容及び検討結果〕 初めに,移行プロジェクトは,社内で利用している各情報システムが提供する機能の汎用性,及びSaaSを利用した場合の業務への影響度の観点から,パブリッククラウドサービス利用の候補となる情報システムを調査した。調査の結果,現在,個別に稼働している電子メール,電子掲示板,文書共有及び会議室予約の各情報システムが,候補として挙げられた。 次に,これらの全ての機能をもったグループウェアをSaaSとして提供するクラウドサービスプロバイダ(以下,CSPという)について調査した。調査の結果,A社,B社及びC社を選定し,表1に示す観点から検討を行った。 表1 パブリッククラウドサービス利用に関する検討項目及び検討内容 表2はCSPに関する評価項目及び評価結果である。移行プロジェクトは,C社が提供するSaaSがM社の要求仕様に最も適していると評価した。また,移行プロジェクトでは,パブリッククラウドサービス利用に関する検討結果を,表1及び表2を含めて“クラウド移行検討報告書”(以下,検討報告書という)にまとめた。 表2 CSPに関する評価項目及び評価結果 〔システム監査の実施〕 内部監査部長は,検討報告書の作成を受けて,移行プロジェクトが行った検討内容の妥当性を監査することにし,その担当としてシステム監査人2名を任命した。システム監査人は,検討報告書,議事録などを入手して閲覧するとともに,関係者にインタビューを行い,監査結果を次のように整理した。 (1)表1の項番9の検討内容について,CSPのサービス停止時におけるM社への影響を最小限に抑えるには,これだけでは不十分である。CSPの事業撤退,倒産などによるサービス停止を想定した検討を含める必要がある。 (2)B社のパフォーマンスに関する評価結果について,表2の項番3の内容だけで“要求仕様を満たしていない”と評価している。しかし,追加可能なシステム資源の上限を評価するには,これだけでは不十分である。 (3)表2の項番4の評価結果について,各CSPが定めている稼働率を検証したところ,稼働率の算出項目及び稼働率算出の対象期間が各CSPで異なっていた。検討報告書には,これらの分析方法に関する記載がない。また,関係者へのインタビューにおいても明確な回答を得られなかった。これらの点から,可用性の評価結果は妥当性に欠けているのではないかという懸念がある。 (4)B社について,機密保護及び個人情報保護の評価結果は,表2の項番6でコストの観点から要求仕様を満たさないとしている。しかし,B社のSaaSを利用することによる総合的なコストメリットを考慮に入れた検討が不十分で,評価結果が誤っている可能性がある。 設問1 〔システム監査の実施〕(1)について,(1),(2)に答えよ。 (1)システム監査人が必要と考えた“CSPの事業撤退,倒産などによるサービス停止を想定した検討”とは,どのような内容か。M社の資産保全の観点から,35字以内で述べよ。 (2)CSPの事業継続性について,M社がSaaS利用開始後に定期的に確認すべき事項は何か。万一の場合における他CSPへの乗換えも含めた観点から,45字以内で述べよ。 設問2 〔システム監査の実施〕(2)について,システム監査人は,“追加可能なシステム資源の上限を評価する”際に,他にどのような観点からの評価が必要だと考えたか。15字以内で述べよ。 設問3 〔システム監査の実施〕(3)について,(1),(2)に答えよ。 (1)システム監査人が評価結果の妥当性に関して懸念をもった理由を,30字以内で述べよ。 (2)評価結果が妥当でなかった場合に生じると考えられる影響を一つ挙げ,30字以内で述べよ。 設問4 〔システム監査の実施〕(4)について,システム監査人が不十分と考えた“総合的なコストメリットを考慮に入れた検討”とは,どのような内容か。比較対象と考えられる二つの項目を含め,50字以内で述べよ。
表1 パブリッククラウドサービス利用に関する検討項目及び検討内容。パブリッククラウドサービスの検討項目を、機能、コスト、パフォーマンス、可用性、完全性、機密保護及び個人情報保護、コンプライアンス、運用及び監視、事業継続性の9項目で整理した表。
表1 パブリッククラウドサービス利用に関する検討項目及び検討内容。パブリッククラウドサービスの検討項目を、機能、コスト、パフォーマンス、可用性、完全性、機密保護及び個人情報保護、コンプライアンス、運用及び監視、事業継続性の9項目で整理した表。
表2 CSPに関する評価項目及び評価結果。A社、B社、C社について、機能、コスト、パフォーマンス、可用性、完全性、機密保護及び個人情報保護、コンプライアンス、運用及び監視、事業継続性の評価結果を示した表。
表2 CSPに関する評価項目及び評価結果。A社、B社、C社について、機能、コスト、パフォーマンス、可用性、完全性、機密保護及び個人情報保護、コンプライアンス、運用及び監視、事業継続性の評価結果を示した表。
解き方のヒントを見る

監査観点を整理するための一つの視点

パブリッククラウドの利用計画を考えるときは、便利さだけでなく、組織の目的や管理責任との整合性を確認し、判断の根拠が一貫しているかを見直します。関係者間で共有できる形かも確認します。

この問題で問われていること

一つの観点に絞り、計画で想定している利用目的と、必要な統制・責任分担・継続的な見直しの考え方が矛盾なくつながっているかを、問題文の記述に沿って確認してください。

視点

クラウド固有の答えを暗記するのではなく、目的、前提、管理の境界、評価方法を順に切り分け、記述同士の関係が整っているかという観点で整理します。

確認ポイント

  • 利用目的と計画上の判断理由が一貫しているか確認する
  • 誰が何を管理する想定かを整理して記述間のつながりを見る
  • 導入後も状況を確認し見直せる考え方になっているか確認する
正解と解説を見る

解説

M社が自社データセンタを縮小してSaaSを利用する際、機能や価格だけでなく、CSPの事業継続性、資源拡張性、可用性の比較方法、総合コストを監査する問題です。

問題の全体像

M社は、電子メールなどの社内向けシステムをSaaSへ移行し、運用負荷とコストを下げ、資源利用を柔軟にしようとしている。移行プロジェクトはA社、B社、C社を機能、コスト、性能、可用性、情報保護などの観点で比較し、C社を最適と評価した。しかし監査では、CSPの事業停止時のデータ保全、資源拡張性の評価方法、稼働率比較の妥当性、追加費用を含む総合コストの検討不足が指摘された。出題の狙いは、クラウド利用の企画段階で、サービス提供者への依存から生じるリスクと、それに備える契約・評価・監査の着眼点を問うことです。

設問1(1)

事業撤退や倒産によってサービスが停止すると、M社が預けたデータを利用できなくなったり、回収できなくなったりする。したがって、資産保全の観点では、サービス停止時に契約顧客のデータを保全する契約内容が妥当かを検討する。公式解答例も「サービス停止時の契約顧客のデータ保全に関する契約」を挙げているため、サービス停止の原因そのものではなく、停止後のデータ保全を答える。

設問1(2)

利用開始後もCSPの事業継続性は変化し得るため、契約中のCSPだけでなく、競合CSPへの乗換え可能性を判断できる情報を定期的に確認する。公式解答例では、契約中及び競合CSPの経営状況、経営方針の変化、契約顧客数の増減を挙げている。これらを確認し、サービス継続の見込みや、万一の他CSPへの移行判断につなげる。

設問2

B社は、システム資源ごとの追加回数に制限があることだけを理由に要求仕様を満たさないと評価している。しかし、上限を評価するには、資源を一度にどれだけ追加できるかという追加単位も確認しなければ、実際の拡張性を判断できない。公式解答例は「システム資源の追加単位」です。

設問3(1)

各CSPで稼働率の算出項目と対象期間が異なり、検討報告書にも分析方法の記載がないため、同じ基準で比較・評価されたか確認できない。したがって、表面上の稼働率の数値だけでは評価結果の妥当性を判断できず、公式解答例のいう「共通の基準で比較及び評価されなかった可能性」が生じる。

設問3(2)

可用性の評価が妥当でなければ、実際のサービス稼働率がM社の想定を下回る可能性がある。その結果、SaaSを利用する業務が停止・遅延する。公式解答例は、想定した稼働率を下回り、業務が遅延する可能性を影響として示している。30字以内なので、原因の説明を広げず、稼働率低下と業務遅延を簡潔に押さえる。

設問4

B社はデータ暗号化機能が有料オプションであるため、項番6だけでは要求仕様を満たさないとされた。しかし、SaaS利用によって得られる別のコストメリットと合算して比較しなければ、総合的な費用対効果は判断できない。公式解答例では、データ暗号化機能オプションの追加コストと、ユーザライセンス料のボリュームディスカウントを比較する。採点講評でも、B社に関する設問として、他のCSPの評価項目ではなく、B社のSaaS利用による総合コストメリットを比較することが求められている。

学習のポイント

クラウド特有の依存リスクを、契約・比較基準・業務影響の観点で具体化する力を身につける。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度春期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

関連する過去問一覧

IPA Advancedは非公式の学習サイトです。解説にはAIによる補助生成を含む場合があります。公式の問題冊子・解答例・採点講評を優先し、誤りは確認後に訂正します。運営・編集方針