AUシステム監査技術者試験 午後Ⅰ

平成23年度特別 システム監査技術者 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 データセンタ移転に伴うサーバ移転計画のシステム監査に関する次の記述を読んで、 設問1~4に答えよ。 A社は、大手のインターネット通信販売会社であり、国内3か所にデータセンタをもっている。その内訳は、A社で8年前に稼働を開始したデータセンタ(以下、DC-Aという)と4年前に稼働を開始したバックアップセンタ(以下、BCという)、及び3年前に吸収合併したB社のデータセンタ(以下、DC-Bという)である。 〔データセンタの概要及び移転計画〕 DC-A及びDC-Bは東京都内にある。DC-Aは、本社と同じビルの1フロア、DC-Bは、本社とは別のビルのオフィス用1フロアを、それぞれ賃借している。一方、BCは関西にあり、コンピュータ機器設置用に設計されたビルの1フロアを賃借している。 A社ではここ数年、業績が大幅に伸びたことから、多くのサーバを増設しており、今後も増設が予想されている。今年の7月には、DC-A及びDC-Bにおける消費電力、空調能力及び床荷重が許容値を超える可能性がある。そこで、A社では、これらによる障害の発生を予防し、かつ、データセンタの運用コストを削減するために、DC-A及びDC-Bを1か所に集約・移転して運用を統合することにした。DC-A及びDC-Bは、外部の専門ベンダであるN社が所有・管理するデータセンタ(以下、DC-Nという)に移転し、ハウジングサービスを利用することにした。 B社が所有していたDC-Bは、DC-Aとは異なるドメインネットワーク(以下、ドメインという)に属している。BCにはDC-A用及びDC-B用の異なるドメインが存在しているので、データセンタ移転を機にDC-B用ドメインを廃止し、DC-A用ドメインに統合することにした。 〔データセンタ移転に伴うサーバ移転計画〕 1. サーバ移転時期 A社の情報システム部は、各サーバで稼働するアプリケーションシステムのオーナ部門(以下、オーナ部門という)の協力を得て、サーバ移転計画、及びサーバ移転作業が失敗したときにサーバ移転作業の実施前の状態に戻すための切戻し計画を策定している。サーバ移転作業は、DC-Nでネットワーク設備の準備が完了した直後の4月に開始し、5月末までに完了する予定である。表1はサーバ移転スケジュールの抜粋である。 表1 DC-A、DC-B から DC-N へのサーバ移転スケジュール(抜粋) 2. サーバ移転作業 サーバ移転作業は情報システム部が行う。サーバ移転作業には、実機移設と新規設置がある。実機移設とは、現在使用しているサーバをDC-A又はDC-BからDC-Nに搬入し、設置する作業である。一方、新規設置とは、DC-Nに新たにサーバを設置し、バージョンアップされたOS及びミドルウェアの導入・カスタマイズを行う作業である。新規設置では、現在使用しているサーバのアプリケーションシステムのバックアップデータを使用して、新しいサーバにアプリケーションシステムを導入する。また、バージョンアップされたOS及びミドルウェア上で、各オーナ部門がアプリケーションシステムの互換性確認テストを実施する。 本番機の実機移設又は新規設置と同時に、それぞれ本番機と1対1に対応する開発機を実機移設又は新規設置する。開発機は、本番機と同じデータセンタ内に設置されている。 3. バックアップ機設置 4月第2週の週末にDC-AからDC-Nに実機移設される13台の本番機では、業務優先度の低い社内業務システムが稼働していたので、バックアップ機が存在しなかった。しかし、3か月前に用途が見直され、重要なアプリケーションシステムが導入されたので、移転作業期間中に13台のバックアップ機をBCに新規設置することになった。ほかの本番機については、すべてBCにバックアップ機が存在する。5月第1週の週末に、DC-Nに新規設置される27台の本番機については、27台のバックアップ機をBCに新規設置する。 また、DC-Bの本番機を使用停止し、DC-Nに本番機を新規設置する際には、ドメインが変わるので、BC内の対応するバックアップ機のIPアドレスを新規設定する。 〔システム監査の実施〕 内部監査室長は、年次監査計画に基づいて、データセンタ移転に伴うサーバ移転計画の妥当性を監査するために、システム監査人2名からなる監査チームを編成した。 1. 予備調査 予備調査の結果、サーバ移転について情報システム部では表2のような検討を行っていることが分かった。 表2 サーバ移転に関する主な検討事項と検討結果(抜粋) 2. 本調査での発見事項 監査チームは、策定した個別監査計画に基づいて本調査を行った。その際の発見事項は、次のとおりである。 (1) 表1中の4月第2週の週末にDC-AからDC-Nに実機移設されるサーバについて、サーバ移転作業で障害が発生した場合、サービスを再開できないリスクがある。 (2) 表2の項番1について、DC-Nに新規設置されるサーバのOS、ミドルウェア及びアプリケーションシステムの導入完了期限を移転1週間前としているが、この場合、互換性確認テストを十分に実施できない可能性が高い。 (3) 表2の項番3について、情報システム部が、サーバのIPアドレス変更に伴って影響を受けるアプリケーションプログラムを調査することになっているが、調査結果を検証する手続が定められていない。 (4) 表2の項番5について、BCP更新までの間、事業の継続性を確保するには、サーバ移転作業が失敗したときの切戻し計画だけでは不十分である。各週末の移転終了後に災害などが発生した場合、業務が中断するおそれがある。 設問1 〔システム監査の実施〕2. 本調査での発見事項の(1)について、システム監査人が認識したリスクを回避するためには、どのようなサーバ移転作業の実施手順に変更すべきか。35字以内で述べよ。 設問2 〔システム監査の実施〕2. 本調査での発見事項の(2)について、システム監査人は、どのような監査手続によって、“互換性確認テストを十分に実施できない可能性が高い”と判断したか。入手したと考えられる監査証拠と、それに基づいて検証した内容を、それぞれ25字以内で述べよ。 設問3 〔システム監査の実施〕2. 本調査での発見事項の(3)について、システム監査人が、情報システム部の調査結果が適切かどうかを合理的に判断するためには、どのような監査手続が必要か。具体的な監査手続を一つ挙げ、30字以内で述べよ。また、その監査手続が必要な理由を35字以内で述べよ。 設問4 〔システム監査の実施〕2. 本調査での発見事項の(4)について、システム監査人が切戻し計画だけでは不十分であると考えた理由、及び移転終了後のリスク低減のために追加すべき対策を、それぞれ35字以内で述べよ。
表1 DC-A、DC-B から DC-N へのサーバ移転スケジュール(抜粋)。DC-AとDC-BからDC-Nへサーバを移転する時期、台数、搬出入・使用停止・新規設置の予定を示す表。
表1 DC-A、DC-B から DC-N へのサーバ移転スケジュール(抜粋)。DC-AとDC-BからDC-Nへサーバを移転する時期、台数、搬出入・使用停止・新規設置の予定を示す表。
表2 サーバ移転に関する主な検討事項と検討結果(抜粋)。サーバ移転に関するOS・ミドルウェア導入、稼働確認、IPアドレス変更、切戻し、BCP更新の検討事項と結果を示す表。
表2 サーバ移転に関する主な検討事項と検討結果(抜粋)。サーバ移転に関するOS・ミドルウェア導入、稼働確認、IPアドレス変更、切戻し、BCP更新の検討事項と結果を示す表。
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移転計画を監査視点で点検する

データセンタ移転では、計画の妥当性を判断する前に、業務影響、依存関係、移行時の統制、復旧可能性を同じ観点で整理し、リスクと監査手続の対応を落ち着いて確認しましょう。

この問題で問われていること

一つの観点として、移転に伴うリスクが事前に識別・評価され、その評価結果に応じた確認手続が計画へ結び付いているかを、問題文の記述同士の関係から丁寧に確認しましょう。

視点

移転計画を読むときは、想定される影響と、それを確かめるための統制・証跡・実施時期が対応しているかという見方に絞ると、記述の役割を整理しやすくなります。

確認ポイント

  • リスクの発生要因と影響範囲が、計画上どの段階で扱われているか
  • 監査手続が、確認対象・実施時期・証跡の観点で具体化されているか
  • 移転後に問題が起きた場合の検知・報告・見直しのつながりが説明されているか
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解説

データセンタ移転では、移転作業中の障害だけでなく、互換性確認不足、調査漏れ、移転後の災害による業務中断まで考慮し、リスクに応じた対策と監査手続を選ぶ。

問題の全体像

A社は、DC-AとDC-Bのサーバを外部ベンダのDC-Nへ移転し、運用を統合しようとしている。実機移設、新規設置、ドメイン統合、バックアップ機の新設などにより、移転中や移転後にサービス停止、互換性不良、設定漏れ、災害による業務中断のリスクが生じる。設問では、発見されたリスクに対する具体的な作業手順、監査証拠に基づく検証、調査結果を確かめる監査手続、BCPを含む移転後対策を問う。公式解答例では、リスクの内容に対応した予防的なコントロールと、その有効性を確認する監査手続が重視されている。

設問1

4月第2週にDC-Aから移設する13台は、重要なシステムが導入されたにもかかわらず、当初はバックアップ機が存在しなかった。この状態で本番機を先に搬出すると、移転作業が失敗した際にサービスを再開できない。したがって、公式解答例のとおり、バックアップ機を先に設置して稼働確認を済ませ、その後に本番機を搬出する手順を書く。35字以内なので、「バックアップ機の設置・稼働確認」と「本番機の搬出」の順序を押さえる。

設問2(監査証拠)

表2では、各オーナ部門が互換性確認テスト計画を策定することになっている。監査人が導入完了期限とテスト量の妥当性を判断するには、実際に各オーナ部門が策定した互換性確認テスト計画を入手する。公式解答例もこの計画を監査証拠としている。

設問2(内容)

導入完了期限は移転1週間前であり、その後に互換性確認テストを行うため、テスト項目が1週間で完了できる量かを確認する。公式解答例では、全テスト項目を1週間で完了できる作業量かどうかを検証した内容としている。期限とテスト項目数・作業量の関係を簡潔に書く。

設問3(監査手続)

情報システム部は、IPアドレス変更の影響を受けるアプリケーションプログラムを調査するが、調査結果を確かめる手続がない。そこで、公式解答例のとおり、アプリケーションプログラム一覧と、調査済みの仕様書を突き合わせる。調査対象の全体と調査済み資料を比較する手続であることが重要です。

設問3(理由)

調査結果を検証しなければ、一覧にあるのに調査されていないアプリケーションプログラムを見落とすリスクが残る。公式解答例では、未調査のアプリケーションプログラムが存在するリスクを理由としている。単に「調査の正確性を確認するため」とせず、調査漏れのリスクまで具体化する。

設問4(理由)

切戻し計画は、サーバ移転作業が失敗した場合に移転前の状態へ戻す計画です。一方、各週末の移転終了後からBCP更新までに災害が発生すると、切戻し計画だけでは災害後の業務継続を確保できない。公式解答例では、サーバ移転後の災害などの発生を想定した計画ではないことを理由としている。

設問4(対策)

移転によりシステム構成が変わるため、旧構成を前提としたBCPでは移転後の災害に対応できない。公式解答例では、本番機移転の前に、システム構成の変更に合わせてBCPを更新する対策を示している。移転完了後に更新するのではなく、本番機移転前に更新する時期まで含めて書く。

学習のポイント

監査証拠、検証内容、監査手続、リスク対策を明確に対応付ける力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成23年度特別 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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