SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和5年度春期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 システム再構築における移行計画に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。 A社は,医療用品の製造及び販売を行うメーカーである。A社とその関連会社の3社(以下,Aグループという)は,基幹システムとしてX社のERPパッケージ製品(以下,ERPという)と,情報系システムとしてERPのオプション製品である分析ツールを使用している。 しかし,現在使用しているERPと分析ツールのサポート期限が2年後に迫っているので,これらをバージョンアップし,新しいシステムとして再構築するための移行計画を立案することになった。A社情報システム部のB課長がプロジェクトチームのリーダーに任命された。 〔現行のシステムと業務の概要〕 Aグループは現行の基幹システム(以下,現行基幹システムという)として,ERPのうち財務会計,管理会計,販売管理,生産管理,購買管理の五つのサブシステムを利用している。現行基幹システムは各社で独立した構成となっており,ERPに対する定義やマスターデータを独自に設定している。また,各社の業務に応じて個別に開発されたアドオンプログラム(以下,アドオンという)が存在している。 現行の情報系システム(以下,現行情報系システムという)では,前月や前年度といった過去の売上や製造原価などの経営状況を翌月以降に必要に応じて分析するための帳票を,各社の要望に応じて個別に定義している。新たな切り口によるデータの集計が必要な帳票を定義する場合は,あらかじめ,基となるデータを現行基幹システムから抽出し,必要な集計を行ったデータを現行情報系システム内に保存している。 運用スケジュールは,8時から24時までがオンライン運用時間,それ以外はアドオンとして開発された夜間バッチ処理やシステムメンテナンスの時間となっている。毎月上旬の数日間に分割して実行される夜間バッチ処理では,実績データに対する各種の締め処理が行われる。 Aグループが得意先からの受注や出荷を行う営業日は,年末年始を除き平日と土曜日である。受注にはEDIを用いる。受注データ中の納品日には受注日の翌営業日から7日先までの営業日を設定可能であり,受注日の翌営業日が設定されることが多い。 〔物流システムの概要〕 Aグループは各社共通の物流システムを使用している。現行基幹システムでオンライン運用時間内に受信した受注データを基に,夜間に出荷指示データ送信処理が出荷指示データを作成し,物流システムに送信する。 Aグループは出荷当日に得意先に納品可能な体制を整備しており,物流システムは出荷指示データに基づき,受注データで指定された納品日に得意先への出荷を行う。 〔情報システム担当役員から提示された再構築と移行に関する指示〕 A社の情報システム担当役員から再構築と移行に関して次の指示があった。 ・ERPと分析ツールのサポート期限までの期間が短いので,新しい基幹システム(以下,新基幹システムという)と新しい情報系システム(以下,新情報系システムという)の構築では,業務プロセスの見直しは行わない。 ・ERPと分析ツールのバージョンアップを作業の中心とし,重要な経営方針である,業務の効率化と高付加価値型業務へのシフトに直接関連する改善案件の実施だけをプロジェクトの対象とする。 ・過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。 ・移行作業によるシステムの停止に伴う,受注や出荷などの業務への影響は最低限に抑える。特に受注や出荷において,得意先からの受注データが移行期間中に滞留して出荷が遅れることは避ける。 〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針〕 A社の情報システム部長からは再構築と移行に関する次の方針が提示された。 ・マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが,A社と関連会社との間で統一されていない。新しいシステムとして再構築する時に関連会社のコードをA社のコードに統一し,4社を一斉に移行する。コードの統一が必要な理由は,予算管理や連結決算の際に,関連会社の経理担当者が表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計を別々に実施しており,各社から,これらに必要な経理担当者の事務処理の負担が大きいとの意見が以前から寄せられているからである。 ・業務への影響が少ないいずれかの土日を移行期間とし,新基幹システムの本稼働日を月曜日とする移行計画としたい。この場合,移行期間中の土曜日の受注を停止するために,本稼働日の月曜日に品物を受け取りたい得意先に対して,①移行期間前の適切なタイミングに協力を依頼する。 ・各社の既存のアドオンは,新基幹システムでも継続利用する。 ・現行情報系システムの帳票の定義は,新情報系システムでも継続利用する。 ・現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる。このことを利用して移行作業によるシステムの停止期間を短縮したい。 ・移行期間前後のマスターデータの登録や情報系システムの使用に対する運用制限が必要な場合は,各社に協力を仰ぐ。 〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕 X社からは,バージョンアップに関する次の情報提供を受けた。 ・新基幹システムを新規に構築する場合は,サーバに新バージョンのERPをインストールした上で,各種の定義の設定やアドオン追加などによる構築を行う。 ・現行基幹システムを基にして新基幹システムを構築する場合は,サーバに新バージョンのERPをインストールした上で,ERP移行ツールを用いてERPの標準機能と各種の定義を新基幹システムに移行する。 ・ERPの現行バージョンと新バージョンとではデータ構造が異なる。そのため,現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更した上でデータを移行する必要がある。データ移行の要件に基づき,ERP移行ツールを使用したデータ移行とするか,個別のデータ移行プログラムを使用したデータ移行とするかを選択する必要がある。ERP移行ツールを使用する場合,データ構造の変更はERP移行ツールの中で行われるが,コード変換のようにデータの値を加工することはできない。なお,現行基幹システムでコード変換などのデータの値の加工を行ってからERP移行ツールを使用する方法は,作業手順が複雑になるので推奨していない。 ・既存のアドオンは,X社が提供する手順書を用いて移行する。 ・現行基幹システムを停止した後に新基幹システムに移行するデータ量が多ければ多いほど,システムの停止期間が長くなる。 ・分析ツールは,新バージョンを導入しても既存の帳票の定義がそのまま使用できる。 X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターンを表1に示す。 表1 X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターン 〔立案した移行計画〕 B課長は,再構築と移行に関する指示と方針に合致する移行パターンを検討した。その過程で,パターン1は再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断した。また,パターン2はデータ移行時に制約事項があり,再構築後も現在発生している業務上の問題を解決できないことから,再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断し,パターン3を選択した。 新情報系システムへのデータ移行においては,②A社のデータは現行情報系システムから新情報系システムにそのまま移行するが,関連会社のデータは,新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした。 これらを踏まえ,B課長は再構築と移行に関する指示と方針に基づいた移行計画を立案した。立案した移行計画の概要を表2に示す。 表2 立案した移行計画の概要 設問1 〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針〕について,本文中の下線①で,得意先に依頼すべき内容を30字以内で答えよ。 設問2 〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕について,表1中の空欄[a]に入れる適切な字句を35字以内で答えよ。 設問3 〔立案した移行計画〕について答えよ。 (1)パターン2を選択した場合に再構築後も解決できない業務上の問題とは何か。25字以内で答えよ。 (2)本文中の下線②において,関連会社のデータ移行に当たりA社のデータと同じ移行方法を採らず,新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした理由を35字以内で答えよ。 (3)表2中の下線③は,再構築と移行に関するどのような指示又は方針に基づいた施策か。35字以内で答えよ。 (4)表2中の下線④で示す実績データの範囲を10字以内で答えよ。また,その範囲の実績データを事前移行期間に移行できる理由を25字以内で答えよ。ここで,移行するデータ量については問題がないことを確認できているものとする。
表1 X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターン。ERPの新バージョンへの移行について,新規構築,ERP移行ツールを使用したデータ移行,個別のデータ移行プログラムを使用したデータ移行の3パターンを比較した表。
表1 X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターン。ERPの新バージョンへの移行について,新規構築,ERP移行ツールを使用したデータ移行,個別のデータ移行プログラムを使用したデータ移行の3パターンを比較した表。
表2 立案した移行計画の概要。立案した移行計画を,基本施策,得意先への出荷に関する対応,データ移行手順,物流システムへの対応などの分類別に整理した表。
表2 立案した移行計画の概要。立案した移行計画を,基本施策,得意先への出荷に関する対応,データ移行手順,物流システムへの対応などの分類別に整理した表。
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判断の前提となる範囲をそろえる

移行に関する内容を検討するときは、判断の対象となる範囲をそろえることから始めましょう。何を含めて考えているかを意識し、異なる範囲の話を同じものとして扱っていないか確かめる視点が役立ちます。

この問題で問われていること

この問題では、取り上げられている事柄について、どこまでを判断の対象に含めるのかに注目しましょう。自分が想定した範囲を無意識に広げたり狭めたりせず、示された条件に沿って考えているかを確認します。

視点

対象範囲とは、ある判断でどこまでを扱うかという区切りです。考えを整理する際は、扱う範囲を短い言葉で表しておくと、途中で別の範囲の話へ移っていないか振り返りやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の対象となる範囲を意識できているか
  • 示された範囲に自分の想定を加えていないか
  • 考える途中で対象範囲が変わっていないか
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解説

本問は、ERPのバージョンアップに伴い、コード統一と業務継続を両立する移行計画を考える問題です。受注の前倒し、業務負担の解消、分析用データの再集計、更新されない過去データの事前移行を、本文の条件から導きます。

問題の全体像

Aグループは、サポート期限が迫るERPと分析ツールをバージョンアップし、4社を一斉に移行します。業務プロセスや既存アドオン、帳票定義を継続しながら、関連会社のコードをA社に統一し、受注・出荷への影響を抑える必要があります。公式の出題趣旨では、システムの仕様を理解し、上層部の指示・方針、社外を含む業務要件、各種の制約条件に基づいて適切な移行計画を立案する能力を問うとしています。各設問では、具体的な移行施策がどの条件から導かれるかを説明します。

設問1

土曜日の受注を停止し、月曜日に新基幹システムを本稼働させる方針に着目します。通常なら土曜日の受注で月曜日の納品を指定できますが、移行期間中はその受注ができません。受注データは夜間に出荷指示へ変換されるため、月曜日に納品する品物も金曜日までに受注しておく必要があります。納品日は翌営業日から7日先までの営業日を指定できるので、金曜日の発注で月曜日を指定できます。公式解答例では「金曜日までに,月曜日が納品日の品物を発注すること」としています。30字以内では、発注期限と対象の納品日を押さえます。

設問2

X社の説明にある、ERPの現行バージョンと新バージョンではデータ構造が異なるという条件に着目します。表1のパターン3では、抽出したデータを新バージョンで扱える構造に変更する処理が必要です。コード変換は次の(イ)で別に行うため、空欄aにはデータ構造の変更を入れます。公式解答例では「現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更」としています。35字以内では、変更前と変更後の構造を明示します。空欄の後に「する」があるため、解答は「変更」で終わる形です。

設問3(1)

部長の方針にある、コード統一が必要な理由に着目します。関連会社の経理担当者は、予算管理や連結決算の際に表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計を別々に行い、大きな事務処理負担を抱えています。パターン2のERP移行ツールはデータの値を加工できず、コードを統一できないため、この負担が残ります。公式解答例では「経理担当者の事務処理の負担が大きいこと」としています。採点講評では、コードが統一されていないというシステム上の問題を答えた例が多かったと指摘しています。25字以内では、担当者に生じている業務上の負担を答えます。

設問3(2)

関連会社のコードをA社のコードに統一する方針と、現行情報系システムが基幹システムのデータを集計して保存している点を結び付けます。関連会社の現行情報系データは統一前のコードに基づく集計結果ですが、新基幹システムのデータにはコード変換が行われます。そのため、変換後のデータに基づいて再集計し、新情報系システムへ登録します。公式解答例では「関連会社の新基幹システムのデータはコード変換が行われるから」としています。35字以内では、関連会社のデータにコード変換が行われる点を押さえます。採点講評では、基幹システムの移行方法を選ぶ理由との混同が指摘されており、ここでは情報系データを再集計する理由を答えます。

設問3(3)

表2の下線③は、現行システムの全ての過去データを移行対象とする施策です。対応するのは、担当役員の「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする」という指示です。現行情報系システムに保存された集計結果だけでは、新たな切り口に必要な集計ができるとは限りません。過去の基となるデータも移行対象にすることで、必要に応じた新たな集計につなげられます。公式解答例では「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにすること」としています。35字以内では、過去の経営状況と新たな切り口での分析という目的を答えます。

設問3(4)(範囲)

部長の方針にある「現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる」という条件に着目します。事前移行後も更新される可能性がある前月分と当月分を除くと、先に移行できるのは前々月以前の実績データです。公式解答例では、範囲を「前々月以前」としています。10字以内では、この期間を簡潔に示します。「過去データ」だけでは、前月分を含むかどうかが不明確になるため、月の境界を明示します。

設問3(4)(理由)

前々月以前の実績データは、現行基幹システムで更新できる期間の対象外です。そのため、稼働中に先に移行しても、その後の更新によって移行先との内容に差が生じません。これにより、システム停止後に移行するデータ量を減らし、停止期間を短縮できます。公式解答例では「前々月以前の実績データは更新されないから」としています。25字以内では、対象データが更新されないことを直接答えます。設問ではデータ量に問題がないことが確認済みなので、理由の中心は処理量ではなく更新の有無です。

学習のポイント

業務上の問題とシステム上の制約を区別し、基幹システムと情報系システムそれぞれの移行理由を説明する力を身に付けましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和5年度春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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