SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和4年度春期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 IoT,AIを活用した橋梁点検・診断システムに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 我が国では,高度成長期以降に整備された橋梁,トンネル,河川管理施設など,建設後50年以上経過する社会資本の割合が加速度的に高くなってきており,これらの老朽化対策が大きな社会課題となっている。これに対してアセットマネジメントの観点から,限られた財源の下で今ある社会資本をより長期にわたり生かそうという取組が行われるようになってきた。すなわち,従来行われてきた,“壊れてから直す”ではなく,壊れる前に,比較的小さな補修を繰り返すことで,結果的により少ない財源で社会資本の長寿命化を図ろうとする取組である。このような取組においては,効率的,効果的な点検・診断を高い頻度で行うことが極めて重要である。 F社は,各種センサの活用及び飛行型カメラロボット(以下,カメラロボットという)の活用によって,橋梁の状態を点検・診断するシステム(以下,現行システムという)の開発,実用化を行っている。また,現行システムを活用して,点検・診断作業の受託を行っている。しかし,複雑な構造の橋梁を点検するためには,カメラロボットを手動で操縦する必要があり,熟練操縦者の不足など幾つかの問題がある。F社では,それらを解決するための新しいシステムの開発を進めている。 〔現行システムの概要〕 一つの橋梁を点検・診断する際の現行システムの概要を図1に,現行システムの構成要素の仕様・機能を表1に示す。 図1 現行システムの概要 表1 現行システムの構成要素の仕様・機能 国や自治体などの顧客から橋梁の点検・診断作業を受託した後,現行システムを使用して行う点検・診断の手順を次に示す。 (1) 点検する橋梁について,カメラロボットを操縦しながら,順次橋梁全体の高精細画像及び赤外線画像を撮影する。 (2) 撮影後,カメラロボットからSDカードを取り出し,保存されている画像データを診断サーバにアップロードする。 (3) 診断サーバに蓄積された画像データを基に,解析を行う技術者が目視で状態の評価を行う。高精細画像からはコンクリート面のひび割れ,鋼材部分の腐食などの評価を,また,赤外線画像からはコンクリート内部の剥離などの評価を行う。 (4) 診断サーバに蓄積されたセンサデータから橋梁の振動やたわみなどを算出する。 (5) 診断サーバには,これまでの点検で得られたデータや,橋梁の設計図面から合成した橋梁の3Dモデルが蓄積されている。専用ソフトウェアを使用して,(3)及び(4)で得られた診断結果を当該橋梁の3Dモデル上で表示する。 (6) 顧客とともに3Dモデル上の診断結果を評価し,補修の必要性や工事内容,優先順位の決定などを行う。 〔現行システムの問題点〕 現行システムの問題点を次に示す。 ・手動でカメラロボットを操縦するが,操縦に熟練を要するので,複数のカメラロボットを用いた同時点検を行おうとする場合,操縦者の数がネックになりやすく,大規模な橋梁や複数の橋梁の点検には時間が掛かる。 ・センサノードは固定式で,使い捨ての電池で駆動するので,電池交換及びそれに伴う設置工事などの保守コストが増大化している。また,ゲートウェイは商用電源を使用する必要があるので,設置できる橋梁が限られてしまう。 ・撮影した画像から目視で評価を行うので,全画像を診断するまでに時間が掛かり,かつ見落としも発生している。また,センサからたわみや振動のデータ以外に様々なデータを取得しているが,それらが十分に活用されていない。 〔新たなシステムにおける取組方針と開発項目〕 F社では,これらの問題を解決するために,橋梁の状態の点検・診断を行う新たなシステム(以下,新システムという)を開発することになり,その取組方針を次のようにまとめた。 ・カメラロボットの自律飛行技術を開発し,操縦者なしでも点検を可能とする。また,一つの橋梁に対して,複数のカメラロボットでの同時点検を可能とする。 ・必要なときだけ,センサノードを設置し,必要なセンサデータが取得できたらセンサノードを低コストで回収可能な方式を検討する。 ・画像データから,ひび割れ,剥離,腐食などの診断データを自動的に得られるようにして,画像の診断の効率化を図る。 ・センサで収集した橋梁の環境を示すデータ(以下,環境データという),カメラロボットで収集した画像データ,画像データから得られた診断データ,及び橋梁の構造や材質などの設計データの相関関係を時系列に分析し,補修や対策が必要な状況のより早い検知を可能とする。 ・F社は,環境データ,画像データ及び設計データを業界横断的に共有,活用できるようにするため,各データのデータモデルの標準化,及び標準化されたデータモデルを提供するためのAPIの標準化を目的として,業界内でアライアンスを推進してきた。新システムではその成果を最大限活用する。 F社のシステムアーキテクトであるG氏は,新システムの開発を担当することになった。G氏が設定した開発項目は次のとおりである。 (1) カメラロボットの自律飛行技術の開発 診断サーバに蓄積されている橋梁の3Dモデルを活用することによって,自律飛行を行う複数のカメラロボットによる点検を可能とする。 (2) 必要なときだけセンサノードを設置 センサノードを自律飛行で運搬する小型の飛行ロボット(以下,センサロボットという)を開発する。センサノードはセンサロボットによって,橋梁に運搬,設置された後,必要な期間だけセンサデータの収集・送信を行い,センサロボットによって回収される。そのために,センサロボットでセンサノードの設置・回収を可能とするノード設置アダプタを開発し,橋梁に固定設置する。また,センサノードの通信方式をモバイル通信に変更する。 (3) 診断の効率化 画像の診断にAIを導入して診断の効率化を図る。また,橋梁の環境データ,診断データ及び設計データをAIで分析,学習することによって,劣化の予測モデルを構築することで予兆診断・保全を可能とする。 (4) アライアンスの成果の活用 現行システムにおける環境データ,画像データ及び設計データは独自のフォーマットで診断サーバに格納されているが,これらをそのまま活用し,かつアライアンスの成果も活用するため,診断サーバ上に変換層を開発し,他社へのデータの提供及び他社のデータの活用を図る。 〔新システムの概要〕 G氏は,各開発項目について検討し,新システムの概要を図2,新システムの構成要素の仕様・機能を表2のようにまとめた。 図2 新システムの概要 表2 新システムの構成要素の仕様・機能 G氏は,カメラロボットによる点検手順を次のようにまとめた。 (1) 橋梁の3Dモデル上で,点検を行うカメラロボットに設定する飛行計画を生成して点検前にカメラロボット及び点検制御装置に設定する。 (2) 点検時は,次の手順で自律的に点検を実施する。 ・点検を開始すると,カメラロボットは設定された飛行計画に従い,自律飛行を開始する。 ・飛行中,各カメラロボットは点検制御装置に対して,常に自機のGNSS位置,高度,姿勢,電池残量などを通知する。点検制御装置は各カメラロボットに設定された飛行計画とのずれを監視し,必要であればカメラロボットに対して飛行計画の修正を指示する。 ・点検制御装置は,飛行計画とのずれが許容範囲を超えた場合や,カメラロボットの姿勢制御が困難になった場合など,点検の継続が困難と判断される場合に,全カメラロボットに中断を指示し,指定した地点に着陸させる。 設問1 新システムについて,(1)~(3)に答えよ。 (1) 表2中の【a】に入れる適切な字句を答えよ。 (2) センサノードの通信方式をモバイル通信にした目的を20字以内で述べよ。 (3) センサロボットの導入によって,センサノードの運用面での改善を図ることができる。コストの削減以外にどのような改善が図れるか。25字以内で述べよ。 設問2 新システムでのカメラロボットの仕様及び運用について,(1),(2)に答えよ。 (1) カメラロボットが自律飛行を行うために全方位近接センサを用いる。全方位近接センサが障害物を検出した場合に,カメラロボットはどのような飛行を行うか。25字以内で述べよ。 (2) 点検制御装置がカメラロボットの運用を安定的に行うために,風向・風力計のデータを活用したい。診断サーバに蓄積されているデータを使用する場合の問題点を40字以内。その解決策を35字以内で述べよ。 設問3 診断の効率化のための施策について,(1),(2)に答えよ。 (1) 予兆診断・保全を可能とするため,F社が点検・診断した橋梁を分析するだけでなく,業界横断でのデータ共有が必要な理由を40字以内で述べよ。 (2) 表2中の診断サーバの仕様・機能において,新システムで開発する変換層の役割を40字以内で述べよ。
図1 現行システムの概要。橋梁に設置されたセンサノード、ゲートウェイ、診断サーバ、カメラロボット及び操縦者の構成を示す現行システムの概略図。
図1 現行システムの概要。橋梁に設置されたセンサノード、ゲートウェイ、診断サーバ、カメラロボット及び操縦者の構成を示す現行システムの概略図。
表1 現行システムの構成要素の仕様・機能。現行システムのセンサノード、ゲートウェイ、カメラロボット、診断サーバについて仕様と機能を整理した表。
表1 現行システムの構成要素の仕様・機能。現行システムのセンサノード、ゲートウェイ、カメラロボット、診断サーバについて仕様と機能を整理した表。
図2 新システムの概要。橋梁、複数のカメラロボット、センサロボット、ノード設置アダプタ、点検制御装置、診断サーバ及び他社を接続した新システムの概略図。
図2 新システムの概要。橋梁、複数のカメラロボット、センサロボット、ノード設置アダプタ、点検制御装置、診断サーバ及び他社を接続した新システムの概略図。
表2 新システムの構成要素の仕様・機能。新システムのセンサノード、カメラロボット、点検制御装置、センサロボット、ノード設置アダプタ、診断サーバの仕様と機能を整理した表。
表2 新システムの構成要素の仕様・機能。新システムのセンサノード、カメラロボット、点検制御装置、センサロボット、ノード設置アダプタ、診断サーバの仕様と機能を整理した表。
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情報を扱う前提をそろえて考える

システムに関する内容を検討するときは、情報を扱う前提がそろっているかに着目しましょう。名称や印象だけで判断せず、示された条件を手掛かりに、同じ前提で考えられているかを丁寧に確かめることが大切です。

この問題で問われていること

この話題では、情報について述べられている内容を、示された条件に沿って捉えることに集中しましょう。自分の経験から前提を補いすぎず、どこまでが与えられた条件で、どこからが自分の想定かを区別して考えてみてください。

視点

前提とは、検討を進める際の出発点となる条件です。情報の扱いを考えるときも、明示された条件と自分で補った想定を混ぜないようにすると、考える範囲を整理できます。

確認ポイント

  • 情報の扱いについて、明示された条件を押さえたか
  • 書かれていない前提を、自分で付け加えていないか
  • 判断の根拠を、示された条件までたどれるか
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解説

本問は、橋梁点検の課題を自律飛行、センサノードの設置・回収、通信方式の変更、AI分析、業界横断のデータ共有で解決する設計を扱う。機能の追加がどの課題を解消するかを読み取り、運用上の効果やデータ利用の条件を具体的に説明することが要点です。

問題の全体像

F社は、センサとカメラロボットを使って老朽化した橋梁を点検・診断している。現行システムには、熟練操縦者の不足、固定センサの保守負担、ゲートウェイの電源制約、画像の目視診断に要する時間などの問題がある。新システムでは、自律飛行、センサの設置・回収、モバイル通信、AI分析、標準化されたデータの共有を導入する。出題趣旨では、現行の課題を分析して要件を定義し、新たなシステムアーキテクチャと機能仕様を検討する能力を問うとしている。各設問では、追加される技術と、それによって得られる具体的な効果を結び付けて読む。

設問1(1)

表2の空欄は「AIを活用して【a】を構築し、予兆診断・保全を支援する」という位置にある。根拠は開発項目(3)で、環境データ、診断データ、設計データをAIで分析・学習し、劣化の予測モデルを構築すると明記されている。現在の画像から損傷を見つける機能と、将来の劣化を予測する機能を区別して読む。公式解答例では「劣化の予測モデル」としている。

設問1(2)

表1では、センサノードのデータをゲートウェイに集約し、ゲートウェイからモバイル通信で診断サーバへ送信している。また、現行の問題点には、ゲートウェイが商用電源を必要とし、設置できる橋梁が限られるとある。図2の注記では、変更後はセンサノードと診断サーバがモバイル通信で接続される。この変更によってゲートウェイを設置する必要がなくなる。公式解答例では「ゲートウェイの設置を不要にするため」としている。20字以内では、不要になる機器とその設置を示せばよい。

設問1(3)

開発項目(2)の「必要な期間だけ」データを収集し、その後センサロボットで「回収される」という記述に着目する。現行では橋梁に固定して使うセンサノードを、新システムでは回収して別の橋梁に設置できるため、同じノードを複数の橋梁の点検に使える。公式解答例では「異なる橋梁でセンサノードが再利用できる」としている。25字以内では、異なる橋梁と再利用の二点を押さえる。採点講評では、コスト削減を答えた例が見られたとし、より少ないセンサノード数で運用できることへの理解を求めている。

設問2(1)

表2では、カメラロボットは設定された飛行計画に従って自律飛行する。一方、近接センサは周囲の障害物を検出するための装置なので、障害物を検出したときには、衝突を避けながら飛行する必要がある。公式解答例では「検出した障害物を回避しながら飛行する。」としている。25字以内では、検出した障害物を回避する動作を明確に書く。本文にある全機への中断・着陸指示は、点検制御装置が点検の継続を困難と判断した場合の処置であり、この設問の障害物検出時の動作とは条件が異なる。

設問2(2)(問題点)

表1では、センサデータを診断サーバへ送る周期は1時間ごとであり、表2でも現行と同様の周期で取得・送信するとある。サーバに蓄積された風向・風力データは、飛行中の現在の風を示すとは限らない。そのため、変化する風に応じてカメラロボットを制御する用途には適さない。公式解答例では、データがリアルタイムでないことと、飛行制御に適さないことを結び付けている。40字以内の答案では「データがリアルタイムでなく、飛行制御に適さない。」と要点をまとめられる。採点講評でも、標準化の有無ではなく、データのリアルタイム性が重要だと指摘している。

設問2(2)(解決策)

表2には、診断サーバからの要求によってセンサノードがオンデマンドで計測できるとある。また、点検制御装置はモバイル通信で診断サーバと通信する。したがって、点検制御装置が必要とする風向・風力データを、診断サーバを経由して要求し、その時点で計測したデータを取得する。公式解答例では「必要なデータを診断サーバを経由してオンデマンドで取得する。」としている。35字以内では、診断サーバを経由する経路と、必要時に取得する方法を押さえる。

設問3(1)

開発項目(3)では、環境データ、診断データ、設計データをAIで分析・学習して劣化の予測モデルを構築する。ここで問われているのは、データ共有を行う理由です。F社が点検した橋梁のデータだけでは、予測モデルに必要な学習データを早期に充実させることが難しく、予測精度を早期に確保できない。他社のデータも活用することで、この不足を補う。公式解答例では「F社のデータだけでは劣化の予測モデルの精度が早期に確保できないから」としている。40字以内では、F社のデータだけという制約と、精度を早期に確保できないという結果を結び付ける。

設問3(2)

開発項目(4)では、既存データが独自のフォーマットで保存されており、それらをそのまま活用しながら、他社への提供と他社データの活用を行うとある。一方、アライアンスではデータモデルとAPIを標準化している。変換層には、F社のデータを標準化された形式に変換して提供する方向と、他社から得た標準化データを現行システムで扱える形式に変換する方向の両方が必要になる。公式解答例では「標準化されたデータモデルと現行システムのデータの相互変換を行う。」としている。40字以内では、変換する二つの形式と、相互変換であることを示します。

学習のポイント

現行と新システムの仕様を比較し、通信経路、機器の再利用、データのリアルタイム性、予測モデルの精度、双方向の形式変換を根拠に答案を組み立てる。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和4年度春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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