SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和3年度春期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 IoT,AIを活用した消火ロボットシステムに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 F社は,消防署・消防団などの消防活動で使用する機材・システムの開発・製造を行っている。 石油・化学プラントなどの産業施設では,消防活動における課題がある。例えば,貯蔵する物質によっては消火に泡を用いるなど,消火方法が異なる場合があるほか,高熱,爆発の危険性によって消防士が近づくことができない場合もある。そのような大規模・特殊火災に対応した機材・システムへの期待が大きい。 F社は,大規模・特殊火災に対応できるよう高い放射熱に耐え,無人で消火活動を行う消火ロボットシステム(以下,現行システムという)を実用化している。しかし,放水を行う位置(以下,放水位置という),放水した水が到達する位置(以下,注水位置という)が適切でないなどの問題があり,F社では,それらを解決するための新しいシステムの開発を進めている。 [現行システムの概要] F社の現行システムは,監視・指令装置を備えた搬送指令車及び放水ロボットで構成される。放水ロボットは放水ユニットとホース敷設ユニットで構成される。現行システムは単体又は複数で運用する。 現行システムの運用例を図1に,現行システムの仕様・機能を表1に示す。 図1 現行システムの運用例 放水ロボットは,耐熱性能に優れており,消防士だけでの消火活動よりも高い放射熱の環境下で活動できる。放水を開始するまでの手順を次に示す。 ① 搬送指令車が火災現場に到着後,消防士は,放水ロボットを搬送指令車から降ろす。消防士は,放水ロボットに放水位置を指示し,自律走行を開始させる。 ② 放水ユニットは障害物を避けながら放水位置まで走行する。ホース敷設ユニットは放水ユニットに追従して走行する。 ③ 放水ロボットが放水位置に到着後,消防士は消火栓などの水源の位置をホース敷設ユニットに指令する。ホース敷設ユニットは,延長用消防ホースを敷設しながら水源まで自律走行する。 ④ 消防士は,ホース敷設ユニットと水源を接続した後,搬送指令車から放水ユニットの放水ノズルを遠隔で操作し,放水した水が目標とする位置(以下,注水目標という)に到達するように放水ノズルの方位・仰角を設定し,放水を開始する。放水中,消防士は,注水位置が適切になるように放水ノズルを操作する。 [現行システムの問題点] 現行システムの問題点を次に示す。 ・消防士が搬送指令車に搭乗し,監視しながら放水ロボットへの指令と操作を行う。複数の現行システムを運用する場合,全体を指揮する消防士は放水ロボットを操作する消防士に放水位置などを指示するが,“迅速性に欠ける”,“放水位置が適切でない”という問題がある。 ・自律走行している放水ロボットの走行ルート上に障害物がある場合,障害物を回避する走行ルートを放水ロボット自体で探索する必要がある。 ・消防士は放水ノズルを遠隔で操作しているが,上空の風向及び風速が地表と異なり,注水位置と注水目標がずれる場合がある。また,地上から観測できない場所に対して注水目標を適切に設定できない。 [新たなシステムにおける取組方針と開発目標] F社では,現行システムの問題を解決するために,新たな消火ロボットシステム(以下,NFRシステムという)を開発することになり,システムアーキテクトであるG氏が開発目標をまとめた。NFRシステムについてのF社の取組方針とG氏が設定した開発目標は,次のとおりである。 (1)火災現場全体の状況把握,放水位置・注水目標の設定,放水ロボットの走行ルートの探索などに必要なデータの取得を迅速かつ確実に行えるようにする。 このために,耐熱性を備え,火災現場の上空を無人で自律飛行できる監視ロボット(以下,飛行型監視ロボットという)を開発する。 (2)飛行型監視ロボットが取得したデータなどを用い,放水位置,注水目標及び放水ロボットの走行ルートを,消防士が介在せずに放水ロボットに指令できるようにする。さらに,火災現場で稼働中の全てのロボットに対して,搬送指令車1台だけで監視・指令が行えるようにする。 このために,稼働中の全てのロボットと無線で通信し,各ロボットからのデータを収集,処理し,監視用表示モニタに表示するとともに,各ロボットに指令を送信できる新たな監視・指令装置(以下,NSC装置という)を開発する。 (3)複数の放水ロボットが連携して消火活動を行えるようにする。 複数の放水ロボットを同時に運用する場合,NSC装置からの指令によって,全ての放水ロボットが連携して消火活動を行えるようにする。 (4)効果的な消火活動を目指す。 飛行型監視ロボットが取得したデータと,消防本部のサーバが保有する消火対象施設の情報とをAI技術で処理することによって,火災の状況を分析し,適切な放水位置,注水目標を各放水ロボットに指令する。また,飛行型監視ロボットが取得したデータを活用し,注水位置と注水目標のずれを補正して,効果的な消火活動が行えるようにする。 (5)最適な放水制御の実現と故障の予兆診断による稼働率の改善を目指す。 各ロボットの稼働中のデータを収集,蓄積し,AI技術を用いて,放水制御の最適化及び稼働率の改善を図るようにする。 [NFRシステムの概要] G氏は,設定した開発目標について検討し,NFRシステムの概要をまとめた。 NFRシステムの運用例を図2に,NFRシステムの仕様・機能を表2に示す。 図2 NFRシステムの運用例 表2 NFRシステムの仕様・機能 注記 複数のロボットを同時に運用する場合,搬送指令車で搬送するロボット以外は,搬送専用車両で搬送する。 G氏は,NFRシステムによる消火活動の手順,各ロボットの運用などを次のようにまとめた。 ① 搬送指令車が火災現場に到着後,すぐに,消防本部のサーバが保有する情報をNSC装置にダウンロードするとともに,飛行型監視ロボットを飛行させて監視データを取得させる。NSC装置は,その監視データを受信し,データ処理を行い,適切な,放水位置,注水目標,水源などを決定し,放水ロボットに指令を送信する。 なお,飛行型監視ロボットは,複数機を順次運用する。ただし,火災現場では,複数機を同時に飛行させる監視は行わない。 ② NSC装置は,飛行型監視ロボットが取得した障害物の位置情報を基に,放水位置までの走行ルートを決定し,放水ロボットに送信する。 ③ 放水ロボットは,放水位置に向けて走行を開始する。 ④ 放水ロボットが放水位置に到着後,NSC装置は水源までの走行ルートを決定し,ホース敷設ユニットに指令する。ホース敷設ユニットは,延長用消防ホースを敷設しながら水源まで自律走行する。ホース敷設ユニットと水源が接続されると,NSC装置は,注水目標への放水の開始を放水ユニットに指令する。 ⑤ NSC装置は,飛行型監視ロボットのカメラで撮影された映像を処理し,上空の風向及び風速,注水目標とその周辺の温度変化などを基に,注水位置と注水目標のずれを補正すべきか,又は注水目標を変更すべきかを判断し,放水している放水ロボットの放水ノズルの方位・仰角を調整する。 ⑥ 放水ロボットが放水している間,NSC装置は【a】及び放水ロボットに指令を送信し,⑤の制御を繰り返す。複数の放水ロボットを運用する場合は,①~⑤の指令・制御を各ロボットに順次行う。NSC装置は,これらの指令のデータと処理に用いたデータとをリンクさせ,消防本部のサーバに送信して蓄積する。 [消防本部のサーバに蓄積されたデータの活用] 消防本部のサーバに蓄積されたデータの活用方法を次に示す。 ・大規模・特殊火災のリスクがある施設及びその周辺の情報を平時からサーバに収集しておき,火災発生時に活用できるようにする。NSC装置は,サーバにある消火対象施設の構造図を用いて,適切な【b】を設定できる。 ・サーバに蓄積されたデータをAI技術で処理し,NSC装置及び放水ロボットの制御の迅速化,最適化を図るとともに,稼働管理の自動化,高度化を進める。 設問1 消火ロボットシステムについて,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の【a】, 【b】に入れる適切な字句を答えよ。 (2)複数の放水ロボットの運用について,現行システムと比較してNFRシステムで大きく変わり,改善できることは何か。35字以内で一つ述べよ。 (3)消防本部のサーバが保有する消火対象施設の情報として,構造図,危険物の種類と量などがある。これらの情報を活用する目的は何か。15字以内で答えよ。 設問2 飛行型監視ロボットについて,(1)~(3)に答えよ。 (1)NSC装置は,消防本部のサーバが保有する消火対象施設の情報を用いて,障害物を回避させながら飛行型監視ロボットを飛行させている。このとき,飛行ルートの安全性を確保するために,更に必要となる情報は何か。25字以内で具体的に述べよ。 (2)消防本部のサーバが保有する情報と飛行型監視ロボットが取得したデータとをAI技術で処理することで期待できることは何か。30字以内で述べよ。 (3)自律飛行による監視を継続しているとき,火災状況の変化を見落とさないようにするには,どのように飛行させるべきか。30字以内で述べよ。 設問3 NSC装置の利用について,(1),(2)に答えよ。 (1)各ロボットのセンサから得られたデータと指令のためのデータを消防本部のサーバに蓄積している。サーバに蓄積されたデータを処理するとき,センサから得られたデータと指令のためのデータを対応させるために必要な情報は何か。二つ答えよ。 (2)複数の放水ロボットを運用する場合,各放水ロボットの放水位置を定め,それぞれの水源を決定する。このとき,どのようなことを考慮しなければならないか。40字以内で述べよ。
図1 現行システムの運用例。搬送指令車と放水ロボットから成る現行システム1・2が火災現場で運用される構成図。
図1 現行システムの運用例。搬送指令車と放水ロボットから成る現行システム1・2が火災現場で運用される構成図。
表1 現行システムの仕様・機能。放水ロボット,搬送指令車,監視・指令装置の仕様・機能と搭載機器・センサを整理した表。
表1 現行システムの仕様・機能。放水ロボット,搬送指令車,監視・指令装置の仕様・機能と搭載機器・センサを整理した表。
図2 NFRシステムの運用例。火災現場の放水ロボットと飛行型監視ロボット,NSC装置,搬送指令車,消防本部サーバの接続関係を示す構成図。
図2 NFRシステムの運用例。火災現場の放水ロボットと飛行型監視ロボット,NSC装置,搬送指令車,消防本部サーバの接続関係を示す構成図。
表2 NFRシステムの仕様・機能。放水ロボット,飛行型監視ロボット,搬送指令車,NSC装置の仕様・機能と搭載機器を整理した表。
表2 NFRシステムの仕様・機能。放水ロボット,飛行型監視ロボット,搬送指令車,NSC装置の仕様・機能と搭載機器を整理した表。
解き方のヒントを見る

要件が成り立つ前提を確かめる

要件を検討するときは、その記述がどのような前提の下で成り立つのかに注目しましょう。身近な利用場面を勝手に当てはめず、与えられた条件の範囲で考えられているかを確かめることが大切です。

この問題で問われていること

考えようとしている要件と、その判断の前提となる条件との関係を意識してください。条件として明示された内容と、自分が補った想定を区別すると、どこまでの範囲について考えているかを整理しやすくなります。

視点

要件を考える際には、判断の土台となる前提を整理します。与えられた条件を確認し、書かれていない条件を無意識に加えていないかを意識しましょう。

確認ポイント

  • 判断の前提として、与えられた条件を確認しているか
  • 明示された条件と、自分が補った想定を区別しているか
  • 考えている範囲が、確認した前提から広がりすぎていないか
正解と解説を見る

解説

本問では、上空からの監視とNSC装置による指令の集約が、消火活動をどのように改善するかを読み取ります。施設情報と現場データの活用、監視方法の組合せ、データの対応付け、複数ロボット間の走行への支障が主要な論点です。

問題の全体像

F社は、高熱や爆発の危険がある産業施設で活動できる消火ロボットを実用化しています。しかし、現行システムには、複数台への指示が迅速に行えないことや、地上からの観測では適切な注水目標を設定しにくいことなどの問題があります。NFRシステムでは、飛行型監視ロボットによる上空からの情報取得と、NSC装置によるデータ処理・指令を組み合わせて改善します。出題趣旨では、現行システムの問題を解決するシステムアーキテクチャの決定と機能仕様の策定に必要な能力を問うとされています。各装置の機能だけでなく、情報の流れと複数ロボットの運用条件を捉える問題です。

設問1(1)(a)

公式解答例では「飛行型監視ロボット」です。着目するのは、NFRシステムの手順⑤と⑥です。⑤では、飛行型監視ロボットの撮影映像や上空の風向・風速などを基に、NSC装置が放水ノズルを調整します。⑥は、この制御を放水中に繰り返す手順なので、放水ロボットへの指令に加えて、判断材料を取得する飛行型監視ロボットへの指令が必要になります。データを取得する装置と、そのデータに基づいて制御される装置の関係から空欄を判断します。

設問1(1)(b)

公式解答例では「放水位置」又は「注水目標」です。空欄の直前にある「消火対象施設の構造図を用いて」という記述と、開発目標(4)に着目します。施設情報と飛行型監視ロボットのデータを処理することで、どこから放水するか、どこへ水を到達させるかを決められます。構造図は、施設の配置や地上から見えない部分を把握する材料になるため、これらの設定に結び付きます。「放水位置」はロボットが放水する場所、「注水目標」は水を到達させたい場所という違いも確認しましょう。

設問1(2)

公式解答例では「1台の搬送指令車で複数のロボットを操作できるようになること」です。現行システムでは、各搬送指令車の消防士がロボットを操作し、全体を指揮する消防士から指示を受けています。一方、開発目標(2)では、稼働中の全ロボットを搬送指令車1台だけで監視・指令できるようにすると明記されています。35字以内では「1台の搬送指令車」と「複数ロボットの操作」を押さえます。採点講評では、放水制御の自動化を述べた解答が見受けられたとされており、複数ロボットの運用改善という設問の対象を捉えることが重要です。

設問1(3)

公式解答例では「消火方法を決定するため」です。冒頭には、貯蔵する物質によって泡を用いるなど、消火方法が異なる場合があると書かれています。また、表1では、放水ユニットが危険物の種類に応じて水又は泡を放射するとされています。構造図や危険物の種類・量は、消火対象の性質や配置を把握し、適した消火方法を決めるための情報です。15字以内なので、個別の情報や処理手順を列挙せず、情報を活用する目的を端的に示します。

設問2(1)

公式解答例では「消火対象施設周辺の飛行可能な場所の情報」です。設問では、施設情報による障害物の回避は既に行っているとされています。したがって、追加で必要なのは、施設周辺を含めて安全に飛行できる空間を把握する情報です。本文のデータ活用方針にも、施設及びその周辺の情報を平時から収集するとあります。25字以内では、情報の対象を「消火対象施設周辺」、内容を「飛行可能な場所」と具体化します。単に「障害物の情報」とすると、設問で既に示されている条件を繰り返すだけになります。

設問2(2)

公式解答例では「適切な放水位置,注水目標による効果的な消火活動」です。根拠は開発目標(4)で、施設情報と飛行型監視ロボットの取得データをAI技術で処理し、火災状況を分析して適切な放水位置・注水目標を指令するとされています。施設の構造などの情報に、現場で取得した火災の状況を合わせることで、実際の状況に適した放水が可能になります。30字以内では、AI処理の説明よりも、その成果である「適切な放水位置・注水目標」と「効果的な消火活動」を示します。

設問2(3)

公式解答例では「継続監視飛行だけでなく,周回飛行も併せて行う。」です。表2では、継続監視飛行は特定箇所を監視し続ける機能、周回飛行は火災現場全体の状況を把握する機能とされています。特定箇所だけを見続けると、別の場所で起きる火災状況の変化を見落とす可能性があるため、両方を組み合わせます。採点講評では、「周回飛行へ切り替える」とだけ述べた解答が指摘され、継続監視飛行も続ける必要があると説明されています。30字以内でも、二つの飛行方法を併用することを明示します。

設問3(1)

公式解答例では、二つの情報は「時刻情報」と「位置情報」です。NFRシステムの手順⑥には、指令データと処理に用いたデータをリンクさせて蓄積するとあります。火災の状況もロボットの位置も変化するため、蓄積されたデータを対応させるには、いつ、どこで得られた情報なのかを把握する必要があります。時刻情報は同じ時間の状況と指令を、位置情報は同じ場所に関する状況と指令を結び付ける手掛かりになります。解答では、この二つをそれぞれ明確に挙げます。

設問3(2)

公式解答例では「ホースの敷設ルートの長さ,及び各ロボットの走行に支障がないこと」です。表1では消防ホースの延長が最大300メートルであり、NFRシステムでも放水ロボットの仕様は維持されます。このため、水源と放水位置の間は直線距離だけでなく、実際の敷設ルートの長さを考慮する必要があります。さらに、複数台を運用するので、敷設したホースなどが各ロボットの走行を妨げないようにします。採点講評でも、ホースの長さだけを述べた解答が指摘されています。40字以内では「敷設ルートの長さ」と「各ロボットの走行への支障がないこと」の両方を押さえます。

学習のポイント

設問が求める改善対象を見極め、本文の機能・運用・制約を結び付けて、必要な要素を字数内で具体的に表現する練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和3年度春期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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