SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

令和元年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 IoT,AIを活用する自動倉庫システムの開発に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 F社は,自動倉庫システムのメーカである。 電子商取引(以下,ECという)の増大に伴い,EC運営業者は,受注した商品を早く確実に低コストで顧客に届けることができるように,新たな自動倉庫システムの導入を進めている。F社は,この要求に応えるために,EC用途向けの自動倉庫システムも開発・販売を行っている。 従来の自動倉庫システムでは,商品を出荷するために,取り扱う商品が格納されたコンテナから,商品を選択して取り出す作業(以下,ピッキングという)を人手で行っていた。現在,ピッキングの無人化を目指す取組が行われている。しかし,ピッキングの無人化が多様な形状の商品に十分に対応できるまでには至らず,限定された形状の商品に対応するシステムにとどまっている。 その結果,取り扱う商品の種類・数量が多ければピッキングに人手と時間を要することになり,EC運営業者には要員の確保及び倉庫内での作業への配慮が求められている。 また,F社の顧客から,“冷凍倉庫内という厳しい環境での作業を無人化してほしい”との要望があったので,F社は,冷凍倉庫向けのピッキングの無人化を実現する自動倉庫システムの開発を進めることにした。 〔従来の自動倉庫システムの概要〕 F社が既に製品化しているEC用途向けの従来の自動倉庫システムの構成を表1に,例を図1に示す。 表1 従来の自動倉庫システムの構成 従来の自動倉庫システムでは,定型のコンテナに保管できるサイズの商品を対象とし,ピッキングのために作業者が倉庫内の配置エリアを歩き回る必要がない。 従来の自動倉庫システムを用いたピッキングは,次のように行われる。 ・搬送ロボットは,管理・制御部からの指示によって,商品が保管されているラックをピッキング場所まで搬送する。 ・ラックを積載した搬送ロボットがピッキング場所に到着すると,作業者が作業指示モニタを見ながらラック内の商品を確認してピッキングを行い,配送用の配送箱に詰め,コンベヤに載せて配送エリアへ送る。 ・ピッキング後のラックは,配置エリアへ戻るか,ピッキング待機エリアへ移動して次のピッキングを待つ。 〔冷凍倉庫の無人化に向けての問題点とその解決方針〕 従来の自動倉庫システムを使用した冷凍倉庫内での問題点は,次のとおりである。 ・作業者が倉庫内を歩き回る必要がないものの,冷凍倉庫内のように環境が厳しい場所では作業者の負担が大きく,短時間で交代しながらの作業が必要となる。 ・同一の配送先に向けて多品種の商品のピッキングを行う場合は,多数のラックを待機させて,ピッキング待機エリアが広くなってしまう。 F社では,これらの問題を解決するために,搬送ロボットに替えて,個別商品の補充及びピッキングが可能なロボット(以下,Hロボットという)を導入して,新しい自動倉庫システム(以下,NWHシステムという)を開発することとなり,その取組方針を次のとおりまとめた。 ・冷凍倉庫の特殊な温湿度環境下でも稼働できるHロボットを開発する。取り扱う商品を箱詰めされた冷凍商品に限定することによって,ピッキングを確実に行う。 ・ラックを固定する。Hロボットが移動して個別商品の補充及びピッキングを行う。 ・商品の先入れ先出しを確実に守る。 ・Hロボットの割当て,ピッキングのスケジューリングなどを効率よくできるようにする。 〔NWHシステムの概要〕 F社のシステムアーキテクトであるG氏は,NWHシステムの開発を担当することになった。G氏は,NWHシステムの開発項目を次のように設定した。 (1)倉庫内の配置の見直し 従来のラックに替えて,傾斜した棚板にローラが付いたフローラックを使用し,固定して設置する。コンテナは用いない。Hロボットは,個別商品の補充及びピッキングをそれぞれ異なる走行路で行う。そのために,フローラックを挟んで,商品補充用走行路とピッキング用走行路を設ける。全ての走行路には,各フローラックに対応した停止位置及び分岐位置にマーカを設け,Hロボットはマーカを読み取りながら走行・停止を行う。 (2)Hロボットの開発 Hロボットはカートをけん引しながら,冷凍商品の補充及びピッキングを行う。 Hロボットは,空配送箱受取場所で配送箱をカートに搭載してピッキング用走行路に進み,ピッキングを行う商品があるフローラックの位置ごとに走行を停止し,ピッキングを行って直接配送箱に収納する。ピッキング後,コンベヤに進み,カートから配送箱を持ち上げてコンベヤへ移す。 (3)管理・制御部の変更 Hロボットへの指示などを行う。Hロボットの位置を把握し,Hロボット同士の衝突を避けるために,一時停止とその解除を指示する。 (4)稼働管理 Hロボットの充電,故障などの稼働停止時間を考慮して,Hロボットの適切な台数の決定,メンテナンスの実施時期の決定などを行う。また,全体としてピッキングの失敗率を下げるように管理する。 NWHシステムの概要を図2に示す。 図2 NWHシステムの概要 〔開発項目の検討結果〕 G氏は,各開発項目について検討し,NWHシステムの仕様・機能を表2のようにまとめた。 表2 NWHシステムの仕様・機能 (1)倉庫内の配置の見直し フローラックを用いて,先に入庫した商品から出庫されるようにする。 ピッキング用走行路は,複数のHロボットが同一の走行路をスムーズに走行できるよう,走行路ごとに一方通行とする。さらに,1本ごとに走行方向が互い違いになるようにし,Hロボットが周回できるようにする。 (2)Hロボットの開発 Hロボット及びカートを開発する。Hロボットはカートをけん引して冷凍商品の補充及びピッキングを行う。 1回の走行で最大5件の配送先の商品のピッキングを行い,各配送先に対応する配送箱に間違いなく収納するために,配送箱には識別用バーコードを個別に貼り付けておく。Hロボットは,配送箱1箱をカートに移すたびに識別用バーコードを読み取り,あらかじめ管理・制御部から受信している配送先の情報の一つとリンクさせ,そのリンク情報を管理・制御部に送信する。 (3)管理・制御部の変更 作業の対象となる商品などを決定し,AP経由でHロボットに指示する。IoTを活用してHロボットの稼働状況を常時把握する。ピッキングについては,複数の配送先の適切な割り付けをする。Hロボットの走行距離が短くなるように,ピッキングの順番を最適化する。また,商品配置の見直しを定期的に行う。 (4)稼働管理 Hロボットの適切な稼働管理を行うために,管理・制御部は,Hロボットのバッテリ残量を監視し,適切なタイミングでバッテリ充電開始の指示を行う。充電は1台ずつ行う。 Hロボットによるピッキングの失敗率が低くなるように,AIによる画像認識を利用して改善させる。そのため,個々の商品をつかんだり持ち上げたりするのに要した時間,失敗した回数などを測定するのと同時に,[a]し,それらのデータを管理・制御部で収集・蓄積する。 検品用監視カメラによる出荷チェックを行い,商品の間違い,異常,[b]を検出する。また,その映像を記録し,今後の対策に用いる。 設問1 NWHシステムの特徴について,(1),(2)に答えよ。 (1)Hロボットが扱う商品を,箱詰めされた冷凍商品に限定することにした。その理由を,20字以内で述べよ。 (2)商品の先入れ先出しを守るために行ったことは何か。25字以内で述べよ。 設問2 倉庫内の配置の見直し及びHロボットの開発について,(1),(2)に答えよ。 (1)Hロボットは,商品の補充又はピッキングを行う場合,マーカで停止位置を判断する。この判断において,Hロボットはあらかじめどのような情報をもつ必要があるか。20字以内で述べよ。 (2)Hロボットが個別商品のピッキングを行い,適正な配送箱へ収納するために,管理・制御部からあらかじめ受信すべき情報は何か。15字以内で述べよ。 設問3 管理・制御部の変更及び稼働管理について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の[a],[b]に入れる適切な字句を答えよ。 (2)Hロボットのバッテリへの充電タイミングをHロボット自身が判断するのではなく,管理・制御部が指示するようにしている。その目的を,30字以内で述べよ。 (3)管理・制御部は,全てのHロボットの走行を監視し,特定のHロボットに一時停止などを指示する場合がある。管理・制御部は,Hロボットのどのような情報を監視しているのか。15字以内で答えよ。 (4)各Hロボットがピッキングを行うときに得たデータを,管理・制御部で収集・蓄積してAIで処理する目的として考えられることは何か。40字以内で述べよ。
表1 従来の自動倉庫システムの構成。従来の自動倉庫システムを構成するコンテナ,ラック,搬送ロボット,管理・制御部などの項目と役割を整理した表。
表1 従来の自動倉庫システムの構成。従来の自動倉庫システムを構成するコンテナ,ラック,搬送ロボット,管理・制御部などの項目と役割を整理した表。
図1 従来の自動倉庫システムの例。配置エリアのラックを搬送ロボットがピッキング場所へ運び,作業者が商品を取り出して配送エリアへ送る従来システムの構成図。
図1 従来の自動倉庫システムの例。配置エリアのラックを搬送ロボットがピッキング場所へ運び,作業者が商品を取り出して配送エリアへ送る従来システムの構成図。
図2 NWHシステムの概要。冷凍倉庫内で,商品補充用走行路とピッキング用走行路をHロボットが移動し,配送箱をコンベヤへ渡すNWHシステムの概要図。
図2 NWHシステムの概要。冷凍倉庫内で,商品補充用走行路とピッキング用走行路をHロボットが移動し,配送箱をコンベヤへ渡すNWHシステムの概要図。
表2 NWHシステムの仕様・機能。フローラック,Hロボット,検品用監視カメラ,密封・ラベル貼付装置,管理・制御部の仕様と機能を整理した表。
表2 NWHシステムの仕様・機能。フローラック,Hロボット,検品用監視カメラ,密封・ラベル貼付装置,管理・制御部の仕様と機能を整理した表。
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自動倉庫を整理する一つの視点

自動化された倉庫を考えるときは、個々の機器名に引きずられず、現場の情報がどこで扱われ、判断や作業へどうつながるかという流れに注目して整理します。全体の役割分担を同じ基準で見比べることが大切です。

この問題で問われていること

確認する観点は、入出庫に関する情報の流れと各役割の対応関係です。収集、判断、実行、結果の確認が、どの順序と関係で結び付くかを丁寧に追い、処理の前後で何が受け渡されるかを確かめてください。

視点

システムを、現実の対象・情報の収集・判断・作業・結果の確認という役割のつながりとして捉えます。役割同士の境界と情報の受け渡しを比べると、構成と運用を落ち着いて整理できます。

確認ポイント

  • 現場で起きる事実と、システムが扱う情報を区別して見る
  • 情報を受け取る役割と、それを次の処理へ渡す役割を確認する
  • 判断や作業の後に、結果を確かめて次へ反映する関係を追う
正解と解説を見る

解説

冷凍倉庫の厳しい環境と多品種ピッキングの問題に対し、固定フローラック、Hロボット、IoTによる集中管理、AIによる作業改善を組み合わせたNWHシステムの設計を問う問題です。

問題の全体像

従来システムはラックを作業者の場所へ運び、作業者が冷凍倉庫内でピッキングしていた。そのため作業者の負担や、多品種注文時の待機ラック増大が問題となった。NWHシステムでは、商品を箱詰め冷凍品に限定し、固定したフローラックをHロボットが巡回して補充・ピッキングする。設問は、この変更に伴う商品条件、在庫管理、ロボットが必要とする情報、集中管理、AI活用の目的を確認している。

設問1(1)

本文は、箱詰めされた冷凍商品に限定することでピッキングを確実に行う方針を示している。多様な形状の商品では無人ピッキングが難しいという前段の問題と結び付け、「ピッキングを確実にしたいから」とまとめる。20字以内なので、冷凍環境への耐性ではなく、箱詰めによる把持・認識の確実性に絞る。

設問1(2)

先入れ先出しは、傾斜した棚板とローラを備えたフローラックの商品移動によって実現する。本文の「先に入庫した商品から出庫されるようにする」と、商品収納にフローラックを用いる仕様を対応させ、公式解答例の「商品の収納にフローラックを用いたこと」に至る。

設問2(1)

マーカだけでは停止対象を特定できないため、各マーカがどのフローラックに対応するかの対応情報が必要になる。本文には、各フローラックに対応した停止位置・分岐位置にマーカを設けるとあるので、「マーカとフローラックを対応させた情報」と答える。採点講評でも、マーカ単独またはフローラック単独ではなく、両者の対応関係が要点とされている。

設問2(2)

Hロボットは一回の走行で最大5件の配送先の商品を扱い、配送箱のバーコードと配送先情報をリンクする。したがって、どの商品をどの配送先の箱へ入れるかを判断できる「配送先ごとの個別商品情報」を事前に受信する。単なる配送先情報だけでなく、配送先と個別商品との対応まで含める。

設問3(1)(a)

ピッキングの失敗率を下げるため、把持時間や失敗回数だけでなく、作業の様子を後から分析できるデータも収集する。本文はAIによる画像認識を利用すると述べているため、空欄aは「動画撮影」となる。

設問3(1)(b)

検品用監視カメラは、商品の間違い、異常に加えて、配送箱への収納状態を確認する。表2には配送箱からの商品はみ出しを確認するとあるため、空欄bは「配送箱からのはみ出し」となる。

設問3(2)

充電を各Hロボットの個別判断に任せず管理・制御部が指示するのは、故障や稼働停止時間を考慮し、全体の作業を妨げない順序・タイミングで充電するためです。公式解答例の「Hロボットの充電を最適なスケジューリングで行うため」という目的を押さえる。

設問3(3)

特定のHロボットを一時停止させて衝突を避けるには、各ロボットがどこを走行しているかを把握する必要がある。したがって監視対象は「Hロボットの位置情報」です。バッテリ残量や作業結果ではなく、走行制御に直接関係する情報を答える。

設問3(4)

収集データは単一ロボットの記録保存が目的ではなく、多数のHロボットの作業結果をAIで分析し、把持時間や失敗などのピッキング上の問題点を見つけて改善するために用いる。40字以内では、データの集約、AI処理、ピッキング改善の因果関係を簡潔に示す。採点講評でも、単に問題点を発見するだけでなく、改善につなげる目的が重視されている。

学習のポイント

業務上の問題を機能仕様へ結び付け、短い答案で原因と目的を明確に表現する力を養う。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)令和元年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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