SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成29年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 IoT,AIの利用を目指した農業生産システムの開発に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 X社は農業機械メーカであり,トラクタ,田植機などの開発・製造を行っている。これまでも,農業機械の自動化に対する要求は高く,既にX社でも自社開発した自動走行技術を搭載した製品を製造・販売している。 一方,我が国では,労働環境の改善と生産性の向上を図るために,IoT,AIの利用を目指した農業(以下,スマート農業という)が注目されている。 X社は,従来の農業機械主体の事業展開では今後,大幅な売上増加は期待できないと考え,農業機械の自動化を基本としながら,スマート農業に対応した農業生産システムの実現に向けた製品開発に取り組むことにした。 〔X社の農業機械の現状と課題〕 X社の現行製品は,モバイル端末からの指示に従って無人走行し,障害物センサで衝突などを未然に防ぐこともできる。農業機械の動作履歴は,内部に記録され,必要に応じて取り出せる。 適切かつ迅速な保守サービスへの利用者からの要望は強い。 〔スマート農業に対応した農業生産システムへの取組方針〕 X社は,スマート農業に対応した農業生産システム(以下,農業生産システムという)への取組方針を検討し,次のとおりまとめた。 ・自社開発した自動走行技術を高度化して,省力化及び大規模生産への対応を進める。 ・重労働及び危険な作業からの解放,並びに誰もが就労しやすい農業を実現する。 ・農場の情報ネットワーク化を通じて,環境モニタリングデータ,過去の作業及び生産結果のデータを活用する。 〔農業生産システムの概要〕 農業生産システムの開発は,X社のシステムアーキテクトであるY氏が担当することになった。Y氏はまず,農業生産システムへの取組方針と利用者からの要望を踏まえ,開発する農業生産システムの概要を図1に示すものとした。 図1 開発する農業生産システムの概要 次にY氏は,開発する農業生産システムの開発項目を,次のように設定した。 (1) 生産計画の立案と作業指示 過去の作業及び生産結果のデータ,並びに長期天気予報を用いて,農作物の生産計画を立案できるようにする。生産計画に基づいて,実施する作業,農業機械の運用・保守,資材調達などを指示・サポートできるようにする。そのために,農場内オフィスにサーバを設置し,農場内において収集したデータをデータベース化する。 (2) 農場の情報ネットワークの構築と環境モニタリング 農場内で無線LANが使用できるようにし,サーバと無線LANを接続する。長期天気予報などの情報を収集するために,農場内オフィスに設置したルータを介してインターネットに接続できるようにする。農場内オフィスにPCを設置し,監視と操作もできるようにする。 無線LAN中継機能を利用して,農場内のどこからでも無線LANに接続できるようにする。そのために,環境モニタリング機能と無線LAN中継機能を併せもつモニタリングポストを開発する。農場内に,モニタリングポストを必要な台数設置し,全てのモニタリングポスト,農業機械,及び作業従事者のモバイル端末を無線LANに接続して,相互にデータ通信を行えるようにする。 (3) 農業機械の自動走行の高度化 サーバとも連携させて,農業機械の一定範囲内の自動走行と,複数の農業機械による協調走行である縦列走行の実現を目指す。そのために,測位の精度向上,農業機械間のデータ通信機能,安全確保などの技術開発を行う。 (4) 農場内において収集したデータ(環境モニタリングデータなど)の活用 サーバは,モニタリングポストからの環境モニタリングデータを監視して,生産計画の立案時に使用したデータと比較し,必要に応じて,警告を出したり,生産計画を変更したりする。環境モニタリングデータ,実施した作業及び生産結果の履歴をサーバでデータベース化し,農作物の将来の生産計画の立案に利用できるようにする。また,複数の農場のデータベースを連携させて,より高い精度の生産計画を立案できるようにする。 〔開発項目の検討結果〕 Y氏は,各開発項目について検討し,結果を次のとおりまとめた。 (1) サーバの機能 サーバには,農業機械の走行に関する指示を行う機能,農業機械による現在位置の測位をサポートする機能,農場内の機器の監視・制御を行う機能,環境モニタリングデータを監視して必要な措置を行う機能,農場内において収集したデータをデータベース化する機能,これらのデータを分析して生産計画を立案・変更する機能を実装する。生産計画に基づいて,実施する作業,農業機械の運用・保守,資材調達などを指示・サポートできるようにする。サーバをX社が提供するクラウドサービスと接続し,複数の農場のデータベースが連携できるようにする。 (2) モニタリングポストの設置 農場内のどこからでも無線LANを使用できるようにモニタリングポストを設置する。設置した位置は正確に測位し,モニタリングポストの位置情報としてサーバに登録する。 (3) モニタリングポストによる環境モニタリング モニタリングポストは,各種センサを備え,農場の環境モニタリングを行う。15分に1回の頻度で,測定した環境モニタリングデータなどをサーバにアップロードする。また,必要な電源を,太陽電池パネルで供給できるようにする。 モニタリングポストの仕様・機能の検討結果を,表1に示す。 表1 モニタリングポストの仕様・機能の検討結果 環境モニタリングデータは,サーバに保存する。ここで,隣接するモニタリングポストからのデータは同じ傾向を示す場合が想定できるので,内容によっては,保存するデータをサーバが選択できるようにする。 太陽電池パネルの発電量から日射量を求めることを検討した。その結果,各農場の年間日射量と太陽電池パネルの発電量の関係を基に,測定した発電量から日射量をサーバで推計できることが分かった。 (4) 農業機械の現在位置測位の高精度化 農業機械のGPS受信機による測位は誤差が大きいので,モニタリングポストの位置情報を用い,次の2方式のいずれかによって正確な測位を行う。 ・自律算出測位:農業機械はGPS受信機による測位データを基に,近くのモニタリングポストを検索し,ステレオカメラと方位センサを用いてその距離と方位を測定する。測定したデータ及びモニタリングポストの位置情報を用い,農業機械が正確な現在位置を算出する。 ・サーバ算出測位:農業機械は,ステレオカメラをスキャンさせて,近くのモニタリングポストを認識する。モニタリングポストの識別コード,測定した距離と方位をサーバに送信して,サーバが農業機械の正確な現在位置を算出する。サーバは算出した測位データを保存し,農業機械にも送信する。 (5) 農業機械の自動走行の高度化 一定範囲内の自動走行の場合,サーバが農業機械に作業域を指示し,自動走行させる。複数の農業機械に,異なる作業域を自動走行させることもできる。縦列走行の場合,後方の農業機械からステレオカメラで前方の農業機械を監視し,一定の距離を保って自動走行させる。ステレオカメラによって,前方の農業機械との間の障害物も検出できる。障害物を検出した場合は走行を停止し,前方の農業機械にも通知して停止させる。 農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能を,表2に示す。 表2 農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能 設問1 モニタリングポストについて,(1),(2)に答えよ。 (1) モニタリングポストを農場内に設置した後,確認すべき機能は何か。二つ挙げ,それぞれ15字以内で答えよ。 (2) 受信した発電量データを用いて,太陽電池パネルの異常もサーバにおいて検出できるようにしたい。その方法を,30字以内で述べよ。 設問2 〔開発項目の検討結果〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1) 何らかの異常によってサーバとのデータ通信が切断された場合の対策として,農業機械に実装しておくべき機能を検討している。 (a) サーバ算出測位を採用した場合に必要となる安全上の対策を,25字以内で述べよ。 (b) データ通信復帰後に,サーバへのデータを漏れなく送るために必要な機能のうち,データの一時保管以外の機能を,25字以内で述べよ。 (2) 農業機械の現在位置測位の高精度化について,2方式を検討している。 (a) 自律算出測位の場合,走行開始前に農業機械がサーバに要求するデータを,20字以内で述べよ。 (b) サーバ算出測位の場合,算出したデータを農業機械に送信する必要がある。この場合,自動走行の高度化を実現するために配慮しなければならないことを,20字以内で述べよ。 (3) 縦列走行において,前方の農業機械の走行経路を,後方の農業機械に送信して走行させるのではなく,ステレオカメラを用いて前方の農業機械に追走するようにした利点を,20字以内で述べよ。 設問3 農業機械の適切かつ迅速な保守サービスを実現するための仕組みを,農業生産システムに組み込むことを検討する。この場合,サーバでどのようなデータを用い,どのような機能を実現すればよいか。それぞれ10字以内で答えよ。 設問4 Y氏は,クラウドサービスで複数の農場のデータベースが連携できるようにすることと併せて,サーバの機能の一部をクラウドサービスにも実装することを検討した。その場合,クラウドサービスへの実装が適切でない機能が幾つかある。それらに共通する特徴は何か。15字以内で述べよ。
図1 開発する農業生産システムの概要。農業機械、モバイル端末、モニタリングポスト、農場内オフィスのサーバやPCなどを無線LANとLANで接続した農業生産システムの構成図。
図1 開発する農業生産システムの概要。農業機械、モバイル端末、モニタリングポスト、農場内オフィスのサーバやPCなどを無線LANとLANで接続した農業生産システムの構成図。
表1 モニタリングポストの仕様・機能の検討結果。モニタリングポストの構成、センサ測定、無線LAN通信、電力供給、認識用マーカについて仕様と機能を整理した表。
表1 モニタリングポストの仕様・機能の検討結果。モニタリングポストの構成、センサ測定、無線LAN通信、電力供給、認識用マーカについて仕様と機能を整理した表。
表2 農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能。一定範囲内の自動走行、縦列走行、現在位置測位、無線LANによるデータ通信の仕様と機能を整理した表。
表2 農業機械の自動走行の高度化に関する仕様・機能。一定範囲内の自動走行、縦列走行、現在位置測位、無線LANによるデータ通信の仕様と機能を整理した表。
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与えられた条件と仮定を分ける

設計の検討では、与えられた条件と、自分で補った仮定を区別することが大切です。まず条件の根拠を確認し、一般的な経験やイメージを無意識に加えていないか、一つずつ振り返りながら考えましょう。

この問題で問われていること

この問題では、判断の根拠が与えられた条件にあるかという一点に注目しましょう。考えを進める際は、条件から読み取った内容と、自分が推測した内容を分け、推測だけに頼って結論を急いでいないか確かめてください。

視点

条件に基づく内容と、自分の経験から補った内容は分けて整理します。考えに迷ったときは、判断を支える根拠がどちらに由来するかを確かめると、検討の出発点を見直せます。

確認ポイント

  • 判断の根拠を与えられた条件に戻せるか
  • 自分で補った仮定を条件と混同していないか
  • 推測だけで結論を急いでいないか
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解説

スマート農業の実現に向け、環境測定、無線LAN中継、高精度な測位、自動走行、保守支援を結び付けて機能を設計する問題です。本文のデータの流れを根拠に、通信障害時の安全確保、受信確認、通信遅延による位置ずれ、クラウドへの機能配置を判断します。

問題の全体像

X社は、自動走行する農業機械の製造・販売から、農場内のデータを活用する農業生産システムへ事業を広げようとしています。モニタリングポスト、農業機械、サーバを無線LANで接続し、生産計画、協調走行、保守支援を実現する事例です。公式の出題趣旨では、機能性、確実性、安全対策などを考慮したシステムアーキテクチャの決定と機能仕様の策定が問われています。機器の役割を読み取るだけでなく、通信が途切れたり遅れたりしたときの影響まで考えることが解答の軸になります。

設問1(1)

開発項目(2)の、モニタリングポストは「環境モニタリング機能と無線LAN中継機能を併せもつ」という記述に着目します。設置後は、農場の環境を測定できることと、農場内の通信を中継できることを確認する必要があります。表1にも、センサによる測定と機器間の無線LAN中継が示されています。公式解答例では「環境モニタリング機能」「無線LAN中継機能」の二つです。それぞれ15字以内なので、個々のセンサや通信相手を列挙せず、二つの主要機能を名称で答えます。

設問1(2)

表1では各ポストが太陽電池パネルの発電量を送信し、その後の本文では隣接するポストのデータが同じ傾向を示す場合があるとされています。近隣の発電量を比較すれば、周囲と異なる値を示すパネルの異常を検出する手掛かりになります。公式解答例では「隣接するモニタリングポストの発電量データと比較する。」としています。30字以内の答案では、比較対象が隣接ポストの発電量であることを押さえます。採点講評では、発電量は気象状況にも左右されるため、「サーバで予測した発電量と比較する」という解答は誤りとして挙げられています。

設問2(1)(a)

サーバ算出測位では、農業機械が距離と方位などを送信し、サーバから算出済みの現在位置を受け取ります。通信が切断されると、この方式による正確な現在位置を取得できず、走行を続けることが安全上の問題になります。したがって、通信断を契機として農業機械自身が停止する機能が必要です。公式解答例では「データ通信切断時に自動的に走行を停止する。」としています。25字以内で、通信切断という条件と、自動停止という対策を結び付けて答えます。

設問2(1)(b)

表2には、農業機械からサーバへ動作履歴などを送信する機能が示されています。通信復帰後にデータを漏れなく送るには、一時保管に加え、送信したデータがサーバに届いたことを確認する必要があります。送信を実行しただけでは、相手が受信できたとは判断できないためです。公式解答例では「サーバがデータを受け取ったことを確認する機能」としています。25字以内の答案では、設問で除外された一時保管を繰り返さず、サーバの受信を確認する機能を明示します。

設問2(2)(a)

自律算出測位では、農業機械が測定した距離・方位と、モニタリングポストの位置情報を用いて現在位置を算出します。一方、ポストの正確な設置位置は、検討結果(2)でサーバに登録するとされています。農業機械が自ら位置を算出するためには、走行開始前にその登録済みの位置情報を取得する必要があります。公式解答例では「モニタリングポストの位置情報」です。20字以内で、対象と必要な情報を特定します。GPSによる測位データだけでは、ポストを基準とした高精度な位置算出に必要な情報がそろいません。

設問2(2)(b)

サーバ算出測位では、測定データの送信から算出済みの位置データの受信までに時間が掛かります。その間にも農業機械は移動するので、受信した位置と、その時点の実際の位置にずれが生じます。公式解答例では「データ送受信の遅延による位置ずれ」としています。20字以内で、遅延の存在だけでなく、走行制御に影響する位置ずれまで述べることが重要です。採点講評でも、送受信に時間が掛かるという説明に加え、その間に農業機械が移動していることを記述してほしかったとされています。

設問2(3)

検討結果(5)では、ステレオカメラで前方の農業機械を監視し、両機械の間の障害物も検出できるとされています。表2にも、前方の障害物を高精度に検出する機能が明記されています。前方機械の走行経路を受信するだけでは把握できない、後方機械の進路上の障害物を直接検出できる点が利点です。公式解答例では「前方の障害物を高精度に検出できる。」としています。20字以内で、障害物の検出と、その精度の高さを押さえます。

設問3(データ)

現状と課題では、農業機械の動作履歴が内部に記録されるとされています。さらに表2では、その動作履歴をサーバへ送信する機能が示されています。保守サービスを支援するためにサーバで利用できる、機械の稼働状況を表すデータとして、この履歴に着目します。公式解答例では「農業機械の動作履歴」です。10字以内の答案では、環境データや生産結果ではなく、保守対象である農業機械の動作履歴を特定します。

設問3(機能)

利用者が求めているのは、適切かつ迅速な保守サービスです。サーバに集めた農業機械の動作履歴を分析し、故障を予測できれば、保守の必要性を事前に判断して対応を準備することにつながります。公式解答例では、実現する機能を「故障予測」としています。10字以内なので、抽象的な「保守支援」や単なる履歴の保存ではなく、履歴を活用して何を判断するのかを、この機能名で明確に答えます。

設問4

サーバの機能には、走行指示、測位の支援、農場内機器の監視・制御などがあります。こうした機能のうち、現在の機器状態にすぐ対応する必要があるものは、通信遅延が処理結果の有効性や安全性に影響します。設問2(2)(b)の位置ずれも、その具体例です。クラウドへの配置を判断する際は、機能が要求する応答の速さに着目します。公式解答例では、共通する特徴を「高い応答性が要求される。」としています。15字以内で、個別の機能名を列挙せず、応答性という共通の要求を答えます。

学習のポイント

本文の機能とデータの対応を整理し、通信の切断・遅延が安全性、確実性、応答性に与える影響を具体的に説明する練習が重要です。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成29年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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