SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成28年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 生活支援ロボットシステムの開発に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。 K社は,生活支援ロボット及びそれを用いたシステムを開発し,製造・販売している。生活支援ロボットは,移動作業型,人間装着型及び搭乗型に分類されている。K社では,物をつかむ,つかんだ状態で移動する,つかんだ物を離すという基本機能をもつ移動作業型ロボット(以下,従来ロボットという)を製品化している。K社はこれまで,従来ロボットを用いて生活支援ロボットシステム(以下,従来システムという)を構成し,販売してきた。 近年,少子高齢化社会の到来が問題となってきており,高齢者世帯における生活支援の要求が高まっている。また,共働き世帯及び単身生活者の増加によって,一般家庭でも不在時の配達物受取りなどの生活支援の要求が高まっている。K社は,生活支援機能を充実させ,他社との差別化を図ることによって,移動作業型の生活支援ロボットの需要が更に見込まれると考え,新たな機能を追加した生活支援ロボットシステム(以下,新システムという)を開発することにした。 〔従来システムの概要〕 K社の従来ロボットは,基本機能以外に,タッチパネル付きディスプレイ,カメラ,マイク,スピーカ及び音声認識機能による人とのコミュニケーション能力を備え,人が生活する場所で生活支援の機能を果たすことができる。また,無線LAN通信機能も備え,無線LANアクセスポイントを介してデータ通信が可能である。 K社がこれまでに開発した生活支援機能は,従来ロボットと,LAN,無線LANアクセスポイント及びサーバで構成された従来システムが実現している。サーバは,システム管理,利用者の認証などを行う。従来システムの構成を図1に,従来システムが実現している生活支援機能を表1に示す。 図1 従来システムの構成 表1 従来システムが実現している生活支援機能 〔新システムに対する利用者の要望〕 新システムの開発は,K社のシステムアーキテクトであるL氏が担当することになった。L氏は開発に当たって,これまでに従来システムに対して利用者から寄せられた要望のうち,新たな機能追加の対象となる要望を次のとおりまとめた。 ① 外出中の居住者,又は別居している家族,知人が,ロボットを遠隔操縦できるようにしてほしい。 ② 単に物を運ぶだけでなく,日用品の在庫管理もしてほしい。 ③ 室内の備品,収納品などが,通常と違う場所に移動又は放置されたとき,それらを元の場所に戻せるようにしてほしい。 ④ 留守中に配達物を受け取れるようにしてほしい。また,受け取った配達物が在庫管理対象品の場合,在庫管理に反映できるようにしてほしい。 〔新システムの開発目標〕 L氏は,利用者の要望を考慮して,新システムの開発目標について検討し,次のとおり定めた。 ① インターネットを介して,遠隔操縦できるようにする。 ② あらかじめ在庫管理対象と定めた日用品を,専用収納ボックスのトレイ単位で在庫管理できるようにする。 ③ 片付けの指示があったとき,通常と違う場所に移動又は放置されている物を識別し,元の場所に戻せるようにする。 ④ 事前に連絡があった配達物を,受け取れるようにする。配達物が在庫管理対象品の場合は,受取りが在庫管理に反映できるようにする。 新システムへの追加機能を表2に示す。 表2 新システムへの追加機能 〔新システムの構成〕 L氏は,新システムの構成を次のとおりまとめた。 ① 従来ロボットに新たな機能を追加した移動作業型ロボット(以下,新ロボットという)と,サーバ,専用収納ボックスで構成し,これらをLAN,無線LANで接続してデータ通信を行えるようにする。また,配達物受入所の扉の錠,テレビドアホンなどを無線LANで接続する。 ② 新ロボットには,遠隔操縦のためのデータ送受信機能と遠隔操縦用カメラを追加する。 ③ 遠隔操縦に用いるモバイル端末を用意し,インターネット経由でサーバと通信できるようにする。操縦者の顔画像・音声をサーバに送信し,新ロボットのカメラ映像とマイクからの音声をサーバ経由で受信する。 ④ サーバには,新ロボット及びテレビドアホンからの映像の処理,居住者・操縦者・訪問者の顔認証,電子メールの送受信,在庫管理などの機能を追加する。 新システムの構成を図2に,新ロボットの各部の機能を表3に示す。 図2 新システムの構成 表3 新ロボットの各部の機能 〔新システムの追加機能の検討結果〕 L氏は,新システムの追加機能を検討し,結果を次のとおり整理した。 ① 遠隔操縦機能 遠隔操縦時には,セキュリティの観点から操縦要求者の顔認証をサーバで行う。また,操縦中も1分ごとに顔認証を行う。さらに,サーバで顔認証によって居住者かどうかを判断できるようにする。 居住者の在宅時の遠隔操縦は,操縦の輻輳を避けるため居住者の承諾を得てから行う。新ロボットは,赤外線センサ及びカメラ映像から近くに人がいることを確認した場合,サーバにカメラ映像を送信する。サーバは居住者かどうかの認証を行い,居住者と判断できたら,新ロボットが音声で居住者に[a],返事を聞く。居住者に拒否された場合,新ロボットは,その旨を操縦要求者に返信する。居住者の不在時は,操縦要求者が認証できたら操縦可能とする。 遠隔操縦は,新ロボットの遠隔操縦用カメラからの映像とマイクからの音声を見聞きしながら行う。新ロボットを移動させたり,アームを動かしたりする操縦指示は,モバイル端末を介して音声で行う。対象を特定して見る場合は,モバイル端末の画面を向けた方向に遠隔操縦用カメラが向くように制御する。 ② 在庫管理機能 在庫管理は,在庫管理対象品を,あらかじめサーバの在庫管理マスタに登録し,専用収納ボックスのトレイに1品目ずつ保管する。トレイには識別コードのラベルを貼付し,専用収納ボックスの収納位置及びトレイ自体の重量も特定できるようにしておく。新ロボットは,専用収納ボックスからトレイを引き出したとき,及び収納するときに,トレイを含む重量を量り,そのデータをサーバに送信する。そのために,専用収納ボックスの近くに電子はかりを用意する。入庫時は,新ロボットが在庫管理対象品を1個ずつトレイに移し,入庫数をカウントする。 サーバは受信したデータから在庫数を算出し,更新する。在庫数が定められた数量以下となった場合は,アラーム“在庫僅か”を出力し,補充を求める。 ③ 片付け機能 片付ける対象は,重さなどの制約から室内の家具などは除外し,床面に放置された器具,置物などに限定する。対象物の保管場所をあらかじめ定めておき,形状などを新ロボットに認識・記憶させておく。新ロボットは,片付け指示を受けると,近くの床面から順次,探索し,置かれている物を判別する。保管場所から移動又は放置された物と判別した場合,新ロボットは,記憶している保管場所に戻し,判別できない場合は,不明品保管場所に運ぶ。 ④ 配達物受取機能 定期的な配達物,及び事前に電子メールで連絡があった配達物は,人を介さずに受け取れるようにする。テレビドアホンの映像をサーバに取り込み,定期的な配達物の場合は配達人の認証を行い,事前に連絡があった配達物は伝票番号と照合する。認証又は照合ができれば配達物受入所の扉を開錠し,配達物受入所に置くよう案内する。新ロボットは,ステレオカメラで撮影した配達物の映像をサーバに送信する。 サーバは,受け取った配達物が在庫管理対象品であることを確認した場合,新ロボットに対し,開封し,[b]するよう指示する。 設問1 遠隔操縦機能について,(1),(2)に答えよ。 (1)本文中の[a]に入れる適切な字句を答えよ。 (2)遠隔操縦中に,1分ごとに顔認証を行う理由は何か。40字以内で述べよ。 設問2 在庫管理機能及び配達物受取機能について,(1)~(3)に答えよ。 (1)トレイ内の在庫数量をカウントするために電子はかりを用いる。入庫数をカウントした後,トレイの在庫管理対象品1個当たりの重量を求める場合の算出方法を,35字以内で述べよ。 (2)電子メールで送られてきた伝票番号と,配達物に貼付された伝票番号との照合を,新ロボットではなくサーバで行わせる。その理由を,35字以内で述べよ。 (3)本文中の[b]に入れる適切な字句を答えよ。 設問3 片付け機能について,(1),(2)に答えよ。 (1)片付け機能で,床面に置かれている物を判別するときに用いる,新ロボットのカメラ以外のものを表3中の項目名で答えよ。 (2)片付け機能の実行中に,同一形状の物が複数あった場合に問題が生じる。想定される問題とその対策を,それぞれ20字以内で述べよ。 設問4 〔新システムの追加機能の検討結果〕について,配達物受取機能実施中は,遠隔操縦機能を受け付けないようにした。その理由を30字以内で述べよ。
図1 従来システムの構成。従来ロボット,LAN,無線LANアクセスポイント,サーバで構成される従来システムの接続構成図。
図1 従来システムの構成。従来ロボット,LAN,無線LANアクセスポイント,サーバで構成される従来システムの接続構成図。
表1 従来システムが実現している生活支援機能。従来システムの運搬,案内,見守り・生活指導の機能を項目別に整理した表。
表1 従来システムが実現している生活支援機能。従来システムの運搬,案内,見守り・生活指導の機能を項目別に整理した表。
表2 新システムへの追加機能。新システムに追加される遠隔操縦,在庫管理,片付け,配達物受取りの機能一覧。
表2 新システムへの追加機能。新システムに追加される遠隔操縦,在庫管理,片付け,配達物受取りの機能一覧。
図2 新システムの構成。新ロボット,配達物受入所,テレビドアホン,無線LAN,サーバ,専用収納ボックス,インターネット,モバイル端末の構成図。
図2 新システムの構成。新ロボット,配達物受入所,テレビドアホン,無線LAN,サーバ,専用収納ボックス,インターネット,モバイル端末の構成図。
表3 新ロボットの各部の機能。新ロボットの本体,ハンド,認識制御部,走行脚,カメラ,通信,センサなど各部の機能を整理した表。
表3 新ロボットの各部の機能。新ロボットの本体,ハンド,認識制御部,走行脚,カメラ,通信,センサなど各部の機能を整理した表。
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検討の前提条件をそろえる

この分野を検討するときは、判断に使う前提条件がそろっているかに注目しましょう。与えられた情報と自分で補った想定を区別し、同じ条件のもとで考えているかを確かめることが、整理の出発点になります。

この問題で問われていること

考えを整理する際は、途中で前提条件を変えていないかを確認してください。明示された条件に基づく部分と、経験や印象から補っている部分を分けておくと、判断の根拠を落ち着いて見直しやすくなります。

視点

前提条件とは、考えを進める土台となる条件です。情報から読み取れることと、自分の想定を分けて整理し、検討の途中でもその区別を保ちましょう。

確認ポイント

  • 判断の土台にした条件は、与えられた情報に明示されているか。
  • 経験や印象から、自分で条件を付け加えていないか。
  • 考えを進める途中で、前提条件が変わっていないか。
正解と解説を見る

解説

利用者の要望を、ロボットとサーバの役割に応じた機能仕様へ具体化する問題です。継続的な認証、入庫前後の重量差による計算、照合処理の配置、対象物の個別識別、配達物受取りの中断防止を本文の記述から説明します。

問題の全体像

K社は、家庭内で物を運ぶ従来ロボットに、遠隔操縦、日用品の在庫管理、片付け、配達物受取りを追加します。新ロボットは移動・把持・計量などを行い、サーバは認証、映像処理、電子メールの送受信、在庫管理などを担当します。公式の出題趣旨では、機能性、確実性、安全対策などを考慮したシステムアーキテクチャと機能仕様の策定能力を問うとしています。各設問では、本文に示された装置の役割と処理手順を結び付け、仕様の目的や不具合への対策を具体的に説明することが求められます。

設問1(1)

〔新システムの追加機能の検討結果〕①の「居住者の在宅時の遠隔操縦は、操縦の輻輳を避けるため居住者の承諾を得てから行う」という記述に着目します。近くの人が居住者であると認証できた後は、遠隔操縦を認めるかどうかを本人に確認する必要があります。このため、公式解答例ではaを「承諾を求め」としています。「音声で居住者に承諾を求め、返事を聞く」とつながります。顔認証による本人確認と、遠隔操縦への承諾の取得は、それぞれ異なる確認です。

設問1(2)

操縦開始時だけでなく、操縦中も1分ごとに顔認証を行う点が手掛かりです。開始時に正しい操縦者を認証しても、その人がモバイル端末から離れると、別の人が端末を使って操縦するおそれがあります。公式解答例では、このような他人による操縦を防ぐことを理由としています。40字以内の答案では、「操縦者が端末を離れた際に、他人が操縦することを防ぐため。」のように、端末から離れる状況と防止したい行為を押さえます。「セキュリティを確保するため」だけでは、繰り返し認証する必要性が具体的に伝わりません。

設問2(1)

②在庫管理機能にある、トレイを引き出したときと収納するときに重量を量る処理、および入庫品を1個ずつ移して入庫数をカウントする処理に着目します。収納時の重量から引出し時の重量を引くと、今回入庫した対象品の合計重量が求まります。これを入庫数で割れば、1個当たりの重量になります。公式解答例では「トレイの収納時と引出し時の重量の差を求め、入庫数で割る。」としています。35字以内では、二時点の重量差と入庫数による除算を明記します。重量差を使うことで、トレイ自体や入庫前からある在庫の重量は相殺されます。

設問2(2)

〔新システムの構成〕④では、電子メールの送受信とテレビドアホンの映像処理をサーバに追加しています。照合に必要な事前連絡の伝票番号はサーバ側にあり、配達物に貼付された伝票番号を確認する映像もサーバで処理します。必要なデータと処理がサーバに集まっていることが、照合をサーバに担当させる理由です。公式解答例では「伝票番号がサーバにあり、テレビドアホンの映像の処理も行うから」としています。35字以内でも、この二つの要素を押さえます。採点講評では正答率が低かったとされ、システムの要件と構成を十分に把握して答えることが求められています。

設問2(3)

在庫管理対象品は専用収納ボックスのトレイに保管し、入庫時には新ロボットが対象品を1個ずつトレイに移して入庫数をカウントする、という②の処理に着目します。受け取った配達物が対象品であれば、開封後にこの入庫処理へつなげる必要があります。公式解答例ではbを「トレイに移替え」としており、「開封し、トレイに移替えするよう指示する」とつながります。採点講評では「在庫管理」という誤答が散見されたとしています。空欄で問われているのは機能の総称ではなく、新ロボットに指示する具体的な動作です。

設問3(1)

表3の「対象物の形状認識・把持制御部」は、物の3次元形状を認識し、認識した形状やつかみ方を記憶して、以後、同じ物かどうかを判断する機能を持っています。片付け機能では、あらかじめ記憶させた対象物と床面にある物を対応付けるため、この機能を使います。公式解答例は「対象物の形状認識・把持制御部」です。設問はカメラ以外のものを表3の項目名で答えるよう指定しているので、機能の説明やカメラの名称ではなく、該当する項目名をそのまま記します。

設問3(2)

片付け機能は、記憶した形状などから対象物を判別し、その物の保管場所へ戻します。同一形状の物が複数あると、個々の物を区別できず、戻すべき保管場所を取り違えるおそれがあります。公式解答例では、問題を「区別できずに保管場所を取り違える。」、対策を「対象物に識別マークを付ける。」としています。それぞれ20字以内で、問題には識別できないことの具体的な結果を、対策には形状以外で個々の物を区別する手段を示します。識別マークによって、対象物と保管場所の対応を判断できるようにする考え方です。

設問4

配達物受取りでは、新ロボットが配達物を撮影し、在庫管理対象品であれば開封やトレイへの移替えを行います。一方、遠隔操縦では、ロボットの移動やアームの動作を外部から指示できます。受取りの実行中に遠隔操縦を受け付けると、進行中の受取り動作が中断するおそれがあります。公式解答例では「新ロボットが実行中の配達物受取りが中断してしまうから」としています。この内容は30字以内に収まります。採点講評では、表面的な事象だけでなく、遠隔操縦を拒否しなかった場合に生じる不具合を考えて答えることが求められています。

学習のポイント

処理手順とデータの所在を根拠に仕様を説明し、制御を設けない場合に起こる具体的な不具合まで考える力を養います。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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