SAシステムアーキテクト試験 午後Ⅰ

平成24年度秋期 システムアーキテクト 午後Ⅰ 問4

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問4 電気自動車専用カーシェアリング運営システムの開発に関する次の記述を読んで,設問1〜4に答えよ。 F社は,カーシェアリングを運営するためのシステムを開発し,企業,団体などに販売している。最近,電気自動車(以下,EVという)のカーシェアリングの需要が増えてきているので,F社では,登録会員が複数のEVを利用する方式のEV専用カーシェアリング運営システム(以下,運営システムという)を開発することになった。 〔運営システム開発の背景〕 EVは環境に優しいとされているが,走行距離に制約があること,ガソリン車に比べて購入価格が割高であることなどの理由で,個人への普及は遅れている。一方,短時間・短距離走行を主とする車利用者は,予約するだけで利用できるカーシェアリングへの関心が高い。F社はこのような状況から,運営システムを導入することで,充電の待ち時間が短くなり,手軽に利用できるようになれば,EVとカーシェアリングがともに普及していくものと期待している。 〔運営システムに対する要望〕 運営システムの開発に当たって,F社のシステムアーキテクトであるG氏は,カーシェアリングの運営者及び利用者からF社に寄せられた,運営システムに対する要望を次のようにまとめた。 ・利用希望者の予約受付,EVの割当て・貸出し・返却,及び充電の管理は,できるだけ人手を必要としないシステムにしてほしい。 ・利用者がEVの返却予定時刻を守らないなどのトラブルが,起きないような工夫をしてほしい。 ・事故が発生した時の画像記録を残し,要因及び責任の所在を調査できるようにしてほしい。 ・EVの盗難防止に配慮してほしい。 ・EV利用中にバッテリ残量が不足する場合の対策を考慮してほしい。 〔運営システムに用いるEVの仕様概要〕 G氏が運営システムで用いるEVの仕様を調べた結果,次のことが確認できた。 ・満充電のEVの走行可能距離は,最大160 kmである。ただし,運転の仕方,エアコンの使用状況などによっては,半分程度しか走行できないことがある。 ・カーナビゲーションシステム(以下,カーナビという)を標準装備している。カーナビは,USB I/F経由で他の機器と接続され,データの入出力,画像表示,音声の再生などができる。 ・EV各部の制御を行うために装備されている複数の電子制御ユニット間の通信には,LANを使用している。LANは,車両通信I/Fポートと呼ばれる接続コネクタを経由して,後から設置される機器にも接続でき,必要となる情報の通信が可能である。また,LANは,充電ケーブルを介して外部の充電スタンドと接続でき,EVと充電スタンドとの間でEVの識別情報,バッテリ残量の確認などの通信を可能とする。 〔運営システムの構成〕 G氏は,カーシェアリングの運営者及び利用者の要望に基づき,運営システムの構成を次のように考えた。 ・複数の駐車ステーションと一つの管理センタがあり,管理センタに設置したサーバが各駐車ステーションを一括して管理する。 ・各駐車ステーションには,充電スタンドを設置し,複数のEVを配備できる。 ・充電スタンドには,充電ケーブル,キーボックス及び無線通信方式によるICタグリーダ(以下,RFタグリーダという)が一体化されている。充電スタンドとサーバとは,インターネットで接続される。 ・各EVには,車載端末が搭載される。車載端末とサーバとは,移動体通信網を経由して,インターネットで接続される。 運営システムの構成を図1に示す。 図1 運営システムの構成 〔運営システムの運用〕 G氏は,運営システムの運用について検討した。 ・EV利用希望者は,携帯電話又はPCからサーバにアクセスし,希望する駐車ステーション及び利用時間帯を入力することによって,予約を行う。 ・サーバは,EVの予約状況を確認し,希望する利用開始時刻に満充電で引渡しできると予測される空車があれば貸出しの割当てを行い,予約を成立させる。その後,利用予約者及び割り当てられたEVの情報を充電スタンドに送信する。 ・利用予約者は,利用開始時刻に駐車ステーションに行き,充電スタンドで認証を済ませた後,充電ケーブルを取り外し,キーボックスからキーを取り出してEVを利用する。 ・利用者は,返却予定時刻までに,貸出しを受けた駐車ステーションにEVを返却する。そのとき,充電ケーブルを接続し,キーをキーボックスに返却する。 ・EVの充電は,充電ケーブルと接続されているときに,サーバからの指示によって行われる。 ・走行中にバッテリ残量が不足すると予測されたEVは,最寄りの駐車ステーションで充電できる。 〔運営システムの機能〕 G氏は,運営システムの機能を次のようにまとめた。 (1)充電スタンドの機能 ・駐車中のEVは充電ケーブルと接続され,充電ケーブルは取り外せないようにロックされている。 ・利用開始時に会員証の無線通信方式によるICタグ(以下,RFタグという)を読み取り,利用予約者の認証を行う。認証が完了すると,貸し出すEVに接続された充電ケーブルのロックを解除する。次に,充電ケーブルに対応するキーボックスの扉を開け,キーを取り出せる状態にして,サーバに利用開始情報を送信する。 ・EVが返却されたとき,充電ケーブルの接続を確認してロックする。次に,充電ケーブルに対応するキーボックスにキーが返却されたことを確認し,キーボックスの扉を閉め,サーバに返却確認情報を送信する。 ・充電ケーブルを介して,EVと定期的に通信し,バッテリ残量を読み取り,サーバに送信する。 ・EVが返却されてから次の利用者に貸し出すまでの間に,充電を行う。 ・30分以内に満充電になるように,急速充電を行う。接続されているEVが複数台でも,1台ずつ充電する。 充電スタンドの構成品とその説明を,表1に示す。 表1 充電スタンドの構成品とその説明 (2)車載端末の機能 ・車両通信I/F経由で,バッテリ残量,走行速度を監視し,走行可能距離を計算する。 ・USB I/F経由で,カーナビと通信し,現在位置,目的地までの距離及び所要時間の情報を得る。 ・カーナビから得られる情報を監視し,返却予定時刻の超過又は走行可能距離の不足が予測される場合は,サーバに通知し,利用者に警告する。 ・事故の状況を把握したり,車内の状況を確認したりするために,車内,車外を撮れる車内カメラによる画像を記録する。 ・サーバと通信し,貸出開始時に自車の予約情報を取得する。また,必要に応じて最寄りの駐車ステーションの位置情報・充電可否情報を得る。一方,定期的に,走行可能距離と各I/F経由で得られた自車の監視情報を,サーバに送信する。 ・駐車ステーションで充電ケーブルが接続されているときは,移動体通信網を利用したサーバとのインターネット接続を停止する。 車載端末の構成を図2に,車載端末の各部の機能を表2に示す。 図2 車載端末の構成 表2 車載端末の各部の機能 (3)サーバの機能 ・利用希望者からの予約を受け付け,EVの利用時間を割り当てる。 ・EVの利用時間割当てなどを参照し,各充電スタンドの充電スケジュールを管理する。そのとき,EVのバッテリ残量によって決まる充電所要時間を求めてスケジュールを決める。 ・車載端末から受信した情報によって,EVの現在位置,バッテリ残量,走行可能距離を監視し,状況によってはEVに必要な情報を送信する。 ・会員に対する連絡,会費・利用料金の請求などの管理を行う。 設問1 運営システムの機能に関する次の記述中の[a]〜[e]に入れる適切な字句を答えよ。 車載端末は,EVを返却するために[a]の位置情報をカーナビに送信する。カーナビは,現在位置から[a]までの最短経路を求め,道路の渋滞情報も参照して[b]時間を求め,車載端末に返信する。車載端末は,[c]に間に合わないと判断した場合は,サーバに通知する。 また,車載端末は,カーナビが示した最短距離に対して走行可能距離が不足すると判断した場合には,サーバに問い合わせて[d]の位置情報を得て,[e]に送信し,表示させる。 設問2 充電スタンドについて,(1),(2)に答えよ。 (1)EVを返却するとき,キーの確認を行いたい。それぞれのキーボックスに,表1の構成品のいずれかを増設して,EVとキーの対応を確認することを検討した。増設すべき構成品を答えよ。また,それを用いた確認方法を,30字以内で述べよ。 (2)ある充電スタンドの充電スケジュールを決める場合に,充電スタンドからサーバに送信しなければならない情報を,20字以内で述べよ。 設問3 車載端末について,(1),(2)に答えよ。 (1)車載端末は,定期的に,各I/F経由で得た自車の監視情報を,サーバに送信する。このとき用いられるI/Fを二つ挙げ,それぞれから得られる監視情報を答えよ。 (2)運転開始時に利用予約者を確認するために,運転者の顔認証を行うことを検討した。新たに専用機器を追加せずに,サーバで認証を行うようにしたい。車載端末から送信すべき情報は何か。また,その情報を車載端末に入力する方法を,20字以内で述べよ。 設問4 異常監視に関する機能について,(1),(2)に答えよ。 (1)車内カメラの画像を常時記録するためには,大容量の画像記録用メモリが必要になる。そこで,メモリ使用量を少なくするために,異常発生時にその前後それぞれの一定時間の記録を残すことにしたい。この場合の記録方法を,30字以内で述べよ。 (2)EVの盗難を監視するために,利用開始時の手続を無視して充電ケーブルがEVから切り離されたことを,充電スタンドの機能を用いて検知したい。検知に利用できる充電スタンドの機能は何か。また,その検知方法を,20字以内で述べよ。
図1 運営システムの構成。複数の駐車ステーション、管理センタのサーバ、インターネット、充電スタンド、EV、車載端末などの接続構成を示す図。
図1 運営システムの構成。複数の駐車ステーション、管理センタのサーバ、インターネット、充電スタンド、EV、車載端末などの接続構成を示す図。
表1 充電スタンドの構成品とその説明。充電ケーブル、キーボックス、制御部、RFタグリーダについて、それぞれの役割や設置数を整理した表。
表1 充電スタンドの構成品とその説明。充電ケーブル、キーボックス、制御部、RFタグリーダについて、それぞれの役割や設置数を整理した表。
図2 車載端末の構成。車載端末の制御部を中心に、車内カメラ、画像記録用メモリ、USB I/F、移動体通信モジュール、車両通信I/Fを接続した構成図。
図2 車載端末の構成。車載端末の制御部を中心に、車内カメラ、画像記録用メモリ、USB I/F、移動体通信モジュール、車両通信I/Fを接続した構成図。
表2 車載端末の各部の機能。車両通信I/F、USB I/F、移動体通信モジュール、カメラ入力I/F、画像記録用メモリ、制御部の機能を示す表。
表2 車載端末の各部の機能。車両通信I/F、USB I/F、移動体通信モジュール、カメラ入力I/F、画像記録用メモリ、制御部の機能を示す表。
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判断の前提となる条件を確かめる

この分野を学ぶ際は、判断の前提となる条件に着目しましょう。扱う内容の印象だけで結論を急がず、明示された条件と、自分で補っている前提を区別し、その判断がどこまで成り立つかを考えることが大切です。

この問題で問われていること

検討の焦点は、考えようとしている判断が、どの条件を前提としているかです。与えられた情報から確認できる条件を押さえ、確認できない条件を無意識に補っていないか、自分の考え方を点検してみましょう。

視点

前提とは、ある判断を考える際に土台として置く条件です。情報として示されている条件と、経験や印象から自分で補った条件を分けて整理すると、考え方を点検しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断の前提にしている条件は何か
  • その条件は与えられた情報で確認できるか
  • 明示されていない条件を自分で補っていないか
正解と解説を見る

解説

EV専用カーシェアリングの要望を、既存機器の機能と情報の流れに対応させて具体化する問題です。返却支援、充電計画、本人確認、画像の上書き記録、手続を無視したケーブル切離しの検知を、本文の条件に沿って説明します。

問題の全体像

F社は、予約から貸出し・返却・充電までを省力化するEV専用カーシェアリング運営システムを開発します。EVには走行可能距離や充電時間の制約があり、返却遅延、事故、盗難への対策も求められています。出題趣旨では、運営者及び利用者の要望に加え、EVの特性や実現コストなどの制約を考慮した機能仕様の策定を重視しています。本文と図表から、充電スタンド、車載端末、サーバの役割を読み取り、既存の機能を各要望に結び付けることが中心です。

設問1(a)

〔運営システムの運用〕に、利用者は貸出しを受けた駐車ステーションにEVを返却するとあります。ここでは返却のための目的地を問うので、公式解答例では「貸出しを受けた駐車ステーション」です。充電のために立ち寄る最寄りの駐車ステーションとは区別します。

設問1(b)

カーナビは、現在位置から返却先までの最短経路に加え、道路の渋滞情報も参照します。これは返却先までにかかる時間を求める処理なので、公式解答例では「所要」です。空欄の後ろに「時間」があるため、答案は「所要」とします。

設問1(c)

車載端末の機能には、返却予定時刻の超過が予測される場合にサーバへ通知するとあります。カーナビから得た所要時間を使って、返却が期限に間に合うか判断するため、公式解答例では「返却予定時刻」です。

設問1(d)

〔運営システムの運用〕には、走行中にバッテリ残量が不足すると予測されたEVは、最寄りの駐車ステーションで充電できるとあります。車載端末も、必要に応じてその位置情報・充電可否情報をサーバから得ます。したがって、公式解答例では「最寄りの駐車ステーション」です。

設問1(e)

EVの仕様概要には、カーナビはUSB I/F経由でデータを受け取り、画像表示ができるとあります。取得した駐車ステーションの位置を利用者に表示する機器なので、公式解答例では「カーナビ」です。サーバから位置情報を得る車載端末と、表示するカーナビの役割を区別します。

設問2(1)(構成品)

表1の構成品から、返却されたキーを識別できる機器を選びます。RFタグリーダはRFタグを読み取る機器であり、キーに付けたタグの情報を取得できます。公式解答例では、各キーボックスに増設する構成品を「RFタグリーダ」としています。

設問2(1)(方法)

キーが返却されたことだけでなく、EVに対応するキーであることを確認する必要があります。公式解答例では、キーにRFタグを付け、追加したRFタグリーダで読み取ります。読み取ったタグの識別情報によって対応を確認する考え方です。30字以内の答案では「キーにRFタグを付け、追加したRFタグリーダで読み取る。」と、タグの取付けと読取りを押さえます。

設問2(2)

サーバの機能には、EVのバッテリ残量によって決まる充電所要時間を求め、充電スケジュールを決めるとあります。充電スタンドがEVから読み取り、サーバへ送るべき情報は、その計算の入力となる残量です。公式解答例では「駐車中の各EVのバッテリ残量」で、20字以内に収まります。採点講評では「充電所要時間」という解答は不適切とされており、サーバが求める値と、そのために受信する情報を区別することが要点です。

設問3(1)(①)

車載端末の機能に、車両通信I/F経由でバッテリ残量と走行速度を監視するとあります。また、サーバは車載端末から受信したバッテリ残量を監視します。この対応から、公式解答例ではI/Fを「車両通信I/F」、監視情報を「バッテリ残量」としています。①と②は順不同です。

設問3(1)(②)

車載端末の機能に、USB I/F経由でカーナビと通信し、現在位置などの情報を得るとあります。サーバもEVの現在位置を監視するため、この取得経路を対応させます。公式解答例ではI/Fを「USB I/F」、監視情報を「現在位置」としています。

設問3(2)(情報)

顔認証をサーバで行う条件なので、車載端末からは認証対象となる運転者の顔の画像を送信する必要があります。公式解答例では「顔画像データ」です。車載端末で認証した結果を送るのではなく、サーバが認証に使う情報を答えます。

設問3(2)(方法)

新たな専用機器を追加しない条件に着目します。本文には車内を撮影できる車内カメラがあり、図2と表2には、その画像を車載端末へ入力するカメラ入力I/Fが示されています。公式解答例では「車内カメラで運転者の顔を撮影する。」とし、既存カメラを使う方法を20字以内で示しています。

設問4(1)

異常発生の前後それぞれの一定時間を残すには、異常が起きる前から直近の画像を保持しておく必要があります。公式解答例では「一定時間を経過した画像データ部分から順次上書きする。」とし、古い画像を順次置き換えてメモリ使用量を抑えます。異常発生時には必要な前後の記録を残すことが前提です。採点講評では、異常発生をきっかけに記録を開始するだけの解答では発生前の画像を残せないと指摘しています。30字以内では、一定時間を経過した部分からの順次上書きを押さえます。

設問4(2)(機能)

充電スタンドの機能には、充電ケーブルを介してEVと定期的に通信し、バッテリ残量を読み取るとあります。ケーブルが切り離されると、この通信経路も失われます。そのため、公式解答例では、検知に使う機能を「EVとの定期的な通信」としています。

設問4(2)(方法)

公式解答例では「通信が途絶えたことを検知する。」とし、20字以内で検知方法を示しています。ただし、本設問の条件は、利用開始手続が行われていない状態で充電ケーブルが切り離されることです。その状態でケーブル経由の定期通信が途絶えたことを検知します。正規の貸出しでも、認証後にケーブルを外せばこの通信は途絶えるため、通信の途絶だけを無条件に盗難と判断する説明にはしません。

学習のポイント

機器ごとの役割と情報の取得経路を整理し、設問の条件に合う機能・情報・方法を区別して記述する力を身に付けます。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成24年度秋期 システムアーキテクト試験 午後Ⅰ 問4(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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