NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 電子メールシステムに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。 A社は、一般消費者向け製品を製造・販売している。現在、販売後の自社製品の購入者向けサポート業務(以下、サポート業務という)を自社内で行っているが、今後はサポート業務をB社に委託する方針である。サポート業務での購入者とのやり取りは、これまでは電話が中心であったが、電子メール(以下、メールという)を活用した運用を開始したところである。現在、A社はISPであるP社のインターネット接続サービスを利用している。また、B社はISPであるQ社のインターネット接続サービスを利用している。A社、B社、P社及びQ社のネットワーク構成を、図1に示す。 図1 A社、B社、P社及びQ社のネットワーク構成(抜粋) 〔ネットワークの概要〕 ・P社及びQ社のサービスネットワークは、顧客にインターネット接続サービスを提供するためのネットワークであり、インターネットと顧客ネットワークの間のトラフィックの交換を行う。 ・P社とQ社は、MSV1とMSV2をそれぞれ用いて、顧客にメールサービスを提供している。また、P社とQ社は、DNS1とDNS2をそれぞれ用いて、DNSサービスを提供している。 ・P社及びQ社はいずれも、迷惑メールの送信を防止する対策として、OP25B(Outbound Port 25 Blocking)のポリシでメールシステムを運用している。具体的には、自社が動的に割り当てたIPアドレスのホストから、自社のサービスネットワーク外のホストへの宛先ポート番号25のSMTP通信を許可しないという運用上のルールを適用している。 ・A社は、固定のグローバルIPアドレスブロック(x.y.z.0/29)を付与されており、DMZにそのアドレスを利用している。 ・A社は、専用線でP社サービスネットワークに接続されている。 ・A社は、社内利用のためのMSV3を社内に立ち上げ、自社ドメイン(a-sha.co.jp)でメールシステムを運用している。 ・DNS3は、a-sha.co.jpドメインの権威DNSサーバである。 ・B社は、Q社の動的IPアドレス割当てブロック(a.b.0.0/20)から割当てを受けたグローバルIPアドレスを、ルータ6のNAPTに使用することでQ社のサービスネットワークに接続している。 ・B社は、社内にメールサーバをもたず、Q社のメールサービスを利用している。 ・B社は、独自のドメインをもたず、Q社のネットワークサービス用ドメイン(q-sha.ne.jp)を利用している。 〔A社のメール転送の概要〕 現在、A社のメール転送は次のとおり行われている。 ・外部からA社へのメール 外部のメールサーバは、DNS3に設定された資源レコードのうち、【ア】レコードの情報に従って、A社ドメイン宛てのメールを【イ】に転送する。A社内PCは、【イ】に届いたメールを、POP3を用いて取得する。 ・A社から外部へのメール A社内PCは、DMZ上のMSV3にSMTPでメールを送信し、MSV3は、外部へメールを転送する。 〔サポート業務委託時のメール運用の検討〕 B社がサポート業務を行うときには、B社のPCで、A社のメールアドレスを用いる。A社のネットワーク担当のXさんとB社のネットワーク担当のYさんは、メールシステムの実現方法について検討した。次は、そのときのXさんとYさんの会話である。 Xさん:B社では、どのようにしてメールの送受信をしていますか。 Yさん:各社員のPCにインストールしたメールクライアントから、【ウ】にSMTPS(SMTP over TLS)でメールを送信しています。受信については、同じサーバにPOP3S(POP3 over TLS)でアクセスしています。 Xさん:分かりました。B社がA社ドメインのメールでサポート業務を実施するために、A社のメールサーバであるMSV3を利用する方式を検討したいと思います。B社からのMSV3を利用したメール送信について、現在のA社からのメール送信のように、MSV3にSMTPで転送する方式は、その経路の途中のISP内でブロックされるので、採用できません。また、①たとえB社のPCからMSV3へSMTPによるメール送信ができたとしても、MSV3は、a-sha.co.jpドメイン以外への宛先へは、そのメールを転送しない設定になっています。 Yさん:一緒に検討させてください。 B社PCからMSV3に向けたSMTPによるメール送信が不可能となっているのは、②図1中のあるルータにおいて、表1に示すOP25Bのためのアクセスリストが設定されているからである。 表1 OP25Bのためのアクセスリスト 検討の結果、次の方式でB社のPCからサポート業務メールが送受信できることが確認された。 ・B社のPCからのメール送受信には、MSV3を用いる。 ・MSV3は、SMTPプロトコル上でユーザ認証を行う方式である【エ】を導入し、③TCPの587番ポートで接続を受け付ける。また、その通信に対してTLSによる暗号化を行う。 ・認証されたSMTPで送られてきたメールであればA社ドメイン以外の宛先への転送をするよう、MSV3を設定変更する。 ・受信については、POP3をTLSで暗号化して用いる。 ・送受信のための認証に必要な情報は、事前にA社からB社に提供する。 ・メール送受信の通信の暗号化は、STARTTLS方式(接続時に平文で通信を開始して、途中で暗号化通信に切り替える方式)を採用し、メールクライアントからのSTARTTLSコマンドに応じてTLS暗号化を開始するよう、MSV3を設定変更する。 ・④外部からDMZへの2種類の通信を許可するために、FWを設定変更する。 〔SPFの導入〕 次にA社は、迷惑メール対策として、SPFを導入することにした。SPFは、送信メールサーバの正当性(当該ドメインの真正のメールサーバであること)を、受信メールサーバ側で確認する方式である。SPFの概要は次のとおりである。 ・送信側のドメイン所有者は、あらかじめ、当該ドメインのメールサーバのグローバルIPアドレスを、SPFレコードとしてDNSに登録しておく。 ・受信側のメールサーバは、メール受信時に、次の手順で送信ドメインを認証する。 (1)⑤「SMTP通信中にやり取りされる送信元ドメイン名」を得る。 (2)送信元ドメイン名に対するSPFレコードを、DNSに問い合わせる。 (3)得られた⑥SPFレコードを用いて送信元ドメインの認証を行う。 Xさんが設定したSPFレコードの設定を図2に示す。 図2 A社ドメインのSPFレコードの設定(抜粋) Xさんは、社外からメールを送信してくる外部メールサーバに対して、SPFによる送信元ドメイン認証処理を行うよう、MSV3の設定変更を行った。 これらのSPF対応によって、A社ドメインを偽る迷惑メールの防止効果が見られた。また、ドメイン偽装メールの受信拒否も可能となり、メールの信頼性向上が確認できたので、メールを活用したサポート業務のB社への委託を本格的に開始した。 設問1 本文中の【ア】~【エ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔サポート業務委託時のメール運用の検討〕について、(1)~(5)に答えよ。 (1)本文中の下線①について、この設定がないことによって生じる情報セキュリティ上のリスクを、25字以内で答えよ。 (2)本文中の下線②のルータ名を答えよ。 (3)表1中の【オ】~【キ】に入れる適切な字句を答えよ。 (4)本文中の下線③について、このポートを何と呼ぶかを答えよ。 (5)本文中の下線④について、2種類の通信の宛先ポート番号を、それぞれ答えよ。 設問3 〔SPFの導入〕について、(1)、(2)に答えよ。 (1)本文中の下線⑤について、送信元ドメインが得られるSMTPプロトコルのコマンドを答えよ。 (2)本文中の下線⑥で行われる処理内容について、SPFレコードと照合される情報を、20字以内で具体的に答えよ。
図1 A社、B社、P社及びQ社のネットワーク構成(抜粋)。A社とB社、ISPであるP社とQ社、インターネットの接続関係、および各社のルータ、ファイアウォール、メールサーバ、DNSサーバ、PCの配置を示すネットワーク構成図。
図1 A社、B社、P社及びQ社のネットワーク構成(抜粋)。A社とB社、ISPであるP社とQ社、インターネットの接続関係、および各社のルータ、ファイアウォール、メールサーバ、DNSサーバ、PCの配置を示すネットワーク構成図。
表1 OP25Bのためのアクセスリスト。OP25B用アクセスリストで、禁止規則と許可規則について、動作、プロトコル、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、宛先ポート番号を示す表。
表1 OP25Bのためのアクセスリスト。OP25B用アクセスリストで、禁止規則と許可規則について、動作、プロトコル、送信元IPアドレス、宛先IPアドレス、宛先ポート番号を示す表。
図2 A社ドメインのSPFレコードの設定(抜粋)。A社ドメインに対し、MSV3のIPアドレスを許可し、それ以外を失敗とするSPFのTXTレコード設定を示す図。
図2 A社ドメインのSPFレコードの設定(抜粋)。A社ドメインに対し、MSV3のIPアドレスを許可し、それ以外を失敗とするSPFのTXTレコード設定を示す図。
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前提条件の範囲をそろえて考える

電子メールに関する内容を検討するときは、判断の根拠となる前提条件の範囲に注目しましょう。ある条件で成り立つ説明を、異なる条件にも当てはまるものとして受け取っていないか、立ち止まって確かめることが大切です。

この問題で問われていること

今回の検討では、示されている条件と、自分が補って考えている条件を区別することに集中しましょう。知っている用語から先に結論を決めず、その判断がどの前提に依存しているのかを、自分の言葉で確認してみてください。

視点

前提条件は、判断を適用できる範囲を考えるための手掛かりです。明示された条件と経験から補った条件を分けて整理すると、判断の根拠を確認しやすくなります。

確認ポイント

  • 判断に使う条件を把握できているか
  • 明示されていない条件を補っていないか
  • 判断の前提を自分の言葉で説明できるか
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解説

B社からA社のメールサーバを安全に利用するため、OP25Bの制約を踏まえてSMTP-AUTHと587番ポートを使い、STARTTLSで送受信を暗号化する問題です。さらに、SPFで送信元メールサーバのIPアドレスを確認する仕組みを問います。

問題の全体像

A社は、自社ドメインのメールを使うサポート業務をB社へ委託します。B社は動的グローバルIPアドレスでインターネットに接続するため、A社のMSV3へ通常のSMTPで送信するとQ社のOP25Bにより遮断されます。そこで、ユーザ認証、587番ポート、STARTTLSを組み合わせ、認証された利用者に外部宛ての転送を許可します。さらにSPFを導入し、送信元の正当性を確認します。公式の出題趣旨では、安全な電子メールシステムの構築に必要な能力を問うとされています。

設問1(ア)

公式解答例では「MX」です。着目するのは、外部のメールサーバがDNSの資源レコードに従ってA社ドメイン宛てのメールを転送するという記述です。MXレコードは、そのドメインのメールを受け取るメールサーバを指定します。ホスト名に対応するIPアドレスを示すレコードと、メール配送先を指定するレコードの役割を区別しましょう。

設問1(イ)

公式解答例では「MSV3」です。本文では、A社がMSV3を立ち上げ、自社ドメインa-sha.co.jpでメールシステムを運用していると説明されています。したがって、外部からA社ドメイン宛てに配送されたメールを受け取り、A社内PCがPOP3で取得する先はMSV3です。DNS3は配送先を調べるための情報を提供するサーバです。

設問1(ウ)

公式解答例では「MSV2」です。B社は社内にメールサーバをもたず、Q社のメールサービスを利用しているという条件に着目します。ネットワークの概要と図1では、Q社がメールサービスに用いるサーバはMSV2と示されています。会話は委託に伴う変更前のB社の運用を説明しているので、送信と受信に利用するのはMSV2です。

設問1(エ)

公式解答例では「SMTP-AUTH」です。本文の「SMTPプロトコル上でユーザ認証を行う方式」が直接の手掛かりです。SMTP-AUTHによって利用者を認証し、認証された利用者からのメールに外部宛ての転送を許可します。TLSは通信を暗号化する仕組みであり、ここで問われているユーザ認証の方式とは役割が異なります。

設問2(1)

公式解答例では「不正メールの踏み台にされてしまうリスク」です。下線①は、外部から受け付けたメールをA社ドメイン以外へ転送しないという制限です。この制限がなく、第三者が任意の外部宛てに転送できると、MSV3が迷惑メールなどの不正送信に悪用されます。25字以内の答案では、制限を外した結果として「不正メールの踏み台になる」という要素を押さえます。

設問2(2)

公式解答例では「ルータ4」です。OP25Bの条件は、Q社が動的に割り当てたIPアドレスから、Q社のサービスネットワーク外へ向かう宛先25番のSMTP通信を遮断することです。図1でB社からMSV3への経路をたどると、Q社のサービスネットワークからインターネットへ出る境界はルータ4です。この位置で遮断すれば、Q社内のMSV2を利用する通信と区別できます。

設問2(3)(オ)

公式解答例では「TCP」です。表1の禁止ルールは、宛先ポート番号25のSMTP通信を対象としています。SMTPはTCPを利用するため、プロトコル欄にはTCPを指定します。第2項のIPによる許可ルールと区別し、第1項では対象となるTCP通信を先に禁止する構成として読み取ります。

設問2(3)(カ)

公式解答例では「a.b.0.0/20」です。本文では、B社がこの動的IPアドレス割当てブロックから得たグローバルIPアドレスを、ルータ6のNAPTに使用するとあります。ルータ4に到達する通信の送信元は、NAPTで変換されたグローバルIPアドレスです。したがって、禁止ルールにはB社内の192.168.1.0/24ではなく、Q社の動的割当てブロックを指定します。

設問2(3)(キ)

公式解答例では「25」です。本文のOP25Bの定義に、サービスネットワーク外への「宛先ポート番号25のSMTP通信」を許可しないと明記されています。表1はこの条件をアクセスリストとして表現したものなので、宛先ポート番号は25です。後に採用する587番ポートは、この遮断対象とは異なります。

設問2(4)

公式解答例では「サブミッションポート」です。TCPの587番は、メールクライアントがメールサーバへ送信するメールを投稿するために用います。本問ではSMTP-AUTHで利用者を認証して受け付けます。採点講評では、この設問の正答率が低かったとされ、メール送信に用いる2種類のポートの使い分けと意味を、SMTP-AUTHと併せて理解するよう求めています。

設問2(5)(1)

公式解答例では、1種類目は「110」です。受信にはPOP3を用い、暗号化には接続後にTLSへ切り替えるSTARTTLS方式を採用するという条件に着目します。この方式では通常のPOP3の接続先であるTCPの110番を使用します。採点講評では、STARTTLS方式ではないTLS暗号化通信のポート番号を答えた誤答が指摘されており、POP3Sの995番との混同に注意が必要です。

設問2(5)(2)

公式解答例では、2種類目は「587」です。本文には、MSV3がTCPの587番ポートで接続を受け付け、その通信をTLSで暗号化すると明記されています。したがって、B社のPCからMSV3への送信を可能にするため、FWで外部からDMZへの宛先TCP587番を許可します。接続後に暗号化へ切り替えるので、暗号化するという理由だけで別のポート番号に置き換えないことが大切です。

設問3(1)

公式解答例では「MAIL FROM」です。SPFのために取得する送信元ドメインは、SMTPのMAIL FROMコマンドで示される送信者アドレスのドメイン部分です。これはSMTPの配送手続で使うエンベロープ送信者であり、メール本文とともに送られるFromヘッダとは区別します。採点講評では、特にこの設問の正答率が低く、SMTPの基本的なシーケンスの理解が必要とされています。

設問3(2)

公式解答例では「送信元メールサーバのIPアドレス」です。受信側は送信元ドメインのSPFレコードをDNSから取得し、SMTP接続してきたメールサーバのIPアドレスが、そのドメインからの送信を許可されたものか照合します。図2では、A社のMSV3のアドレスx.y.z.1を許可し、その他は不許可としています。20字以内の答案では、照合対象を「送信元メールサーバのIPアドレス」と具体的に示します。

学習のポイント

SMTPの配送と投稿の違い、NAPT後の送信元アドレス、STARTTLSのポート番号、MAIL FROMとSPFの関係を重点的に学習しましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成28年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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