NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成27年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問3

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問3 侵入検知・防御システムの導入に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 F社は,中堅の輸入食品卸売会社であり,自社で営業支援システムを運用している。 現在の営業支援システムのネットワーク構成を,図1に示す。 図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋) F社の営業部員は,社内で営業支援システムにアクセスする場合には,自席のPCを使い,社外からは,モバイル端末を使って営業支援システムにアクセスする。営業支援システムで主なサービスを提供しているWebサーバを社外から利用するには,SSL/TLSを実装したRPサーバを経由してアクセスする。社内のPCからインターネットへのアクセスは,RPサーバを経由しない。 F社では数年前にネットワーク構成を見直し,侵入検知システム(IDS)の機能をもったFWを導入した。最近になって営業部員から,インターネットを通じたサービスのレスポンスがしばしば悪化していると,苦情が寄せられるようになった。F社の情報システム部が調査した結果,現在のFWはIDSとしての性能の限界に近づいており,これがレスポンス悪化の原因となっていると考えられた。IDS機能を使わなければFWは負荷が軽減され,今後も継続して利用できることが分かった。 また,最近発見された一部のサーバのミドルウェアの脆弱性を悪用する攻撃は,FWのIDS機能では検出できないものであった。このときは,アプリケーションへの影響確認テストに時間が掛かり,当該サーバにセキュリティパッチを適用するまで,営業支援システムを数日間休止せざるを得なかった。 F社の情報システム部は,インターネットを通じた様々なサイバー攻撃の増大が頻繁に報道されていることも考慮し,営業支援システムのセキュリティレベルを向上させるために,プロジェクトを立ち上げた。プロジェクトのリーダにはH君が任命された。まずH君は,IDSの見直しを開始した。 〔IDSの見直し〕 侵入検知の仕組みとしては,次の2種類がある。 一方はシグネチャ型と呼ばれ,不正なパケットに関する一定のルールやパターンを使う。原則として未知の攻撃には対応できないが,あらかじめ様々な種類のシグネチャが登録されている。 他方の【ア】型は,定義されたプロトコルの仕様などから逸脱したアクセスがあった場合に不正とみなす。シグネチャ型と比べて,未知の攻撃に対しては柔軟に対応できるが,正常と判断する基準によっては,正常なパケットを異常とみなすこともある。H君は,それぞれの仕組みの特長を生かすために,両方の機能をもったIDSを採用することにした。 次に,H君は,IDSのネットワークへの接続について検討した。 IDSは,監視対象のネットワークにあるSWの【イ】ポートに接続し,IDS側のネットワークポートを【ウ】モードにすることで,IDS以外を宛先とする通信も取り込むことができる。また,IDS側のネットワークポートに【エ】アドレスを割り当てなければ,IDS自体がOSI基本参照モデルの第3層レベルの攻撃を受けることを回避できる。 検出可能な通信は,IDSの接続箇所によって異なる。例えば,インターネットとDMZ間の通信は,IDSをSW1又はSW2に接続した場合は検出可能だが,SW3に接続した場合は検出できない。図1中のSW1~SW3にそれぞれIDSを接続した場合に,IDSで検出可能な通信を表1に示す。 表1 IDSで検出可能な通信(接続箇所別) H君が調査したIDSには,検知した攻撃を遮断する機能を実装している機種があった。遮断機能のうちの一つは,①IDSとFWが連携することで,検知した送信元アドレスからの不正な接続を遮断するというものであった。 また,IDSが不正なTCPコネクションを検知した場合に,該当する通信を強制的に切断する目的で,送信元と宛先の双方のIPアドレス宛てに,TCPのRSTフラグをオンにしたパケットを送る機能があった。検知した不正パケットがUDPの場合には,該当するパケットの送信元に,ICMPヘッダのコードにport【オ】を設定したパケットを送って,更なる攻撃の抑止を試みることができる。しかし,H君は,②このICMPを使った攻撃抑止のためのパケットが,実際は攻撃者に届かないことがあること,又はこのパケット自体が他のサイトへの攻撃となることもあると考えた。 これまでの検討結果から,H君は,より高度な侵入防御の仕組みが必要であると考え,ネットワークの重要な部分へは侵入防止システム(IPS)を追加することを検討した。 〔IPSの追加〕 IPSは,不正アクセスを監視するだけでなく,遮断する機能を強化したネットワーク機器である。例えば,SQLインジェクションのような,Webアプリケーションの脆弱性に対応する機能をもつもの,及び③防御対象のサーバに新たな脆弱性が発見された場合の一時的な運用に対応できるものがある。しかし,IPSは正常な通信を誤って不正と検知してしまうこと(フォールスポジティブ),又は不正な通信を見逃してしまうこと(フォールスネガティブ)があり,双方のバランスをとって効果的な侵入防御を実現することが重要である。 また,高度な機能をもつIPSには高い負荷が掛かることが予想される。ネットワークの通信量が急激に増えた場合でも,営業支援システムのレスポンス悪化を避け,継続して利用できる状態にすることが重要であることから,H君はIPSの障害対策について検討した。 IPSの障害対策には,並列に複数台導入する冗長化が考えられる。しかし,導入候補のIPSには,④IPSの機能の一部が故障した場合に備えた機能があった。費用対効果の観点と,IDSが併設されていることや,営業支援システムの継続利用を優先することから,H君はIPSを冗長化しないことにした。 以上の検討の結果,H君は営業支援システムのネットワークに,IDSとIPSの両方を追加し,管理用PCを接続した管理用LANを設けることを考えた。 H君による,見直し後の営業支援システムのネットワーク構成案を,図2に示す。 図2 見直し後の営業支援システムのネットワーク構成案(抜粋) H君が考えたネットワーク構成案は承認され,営業支援システムの見直しプロジェクトが開始された。 設問1 本文中の【ア】~【オ】に入れる適切な字句を答えよ。 設問2 〔IDSの見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)IDSで検出可能な通信の範囲を追加して,表1を完成させよ。 (2)本文中の下線①で,IDSとFWが連携することで不正な接続を遮断する仕組みとは,どのようなものか。40字以内で具体的に述べよ。 (3)H君が,本文中の下線②のように考えたのはなぜか。35字以内で述べよ。 設問3 〔IPSの追加〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線③で可能としている,一時的な運用を50字以内で述べよ。 (2)本文中の下線④の,IPSが実装している機能とは何か。25字以内で述べよ。 (3)IDSとIPSの導入後に,セキュリティレベルの継続的な向上のために,管理用PCを使ってどのようなことを行うか。35字以内で具体的に述べよ。
図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋)。インターネット、ルータ、スイッチ、FW、内部LAN、DMZ、Web・DB・DNS・RPサーバなどの接続構成を示すネットワーク図。
図1 現在の営業支援システムのネットワーク構成(抜粋)。インターネット、ルータ、スイッチ、FW、内部LAN、DMZ、Web・DB・DNS・RPサーバなどの接続構成を示すネットワーク図。
表1 IDSで検出可能な通信(接続箇所別)。通信範囲ごとに、IDSをSW1、SW2、SW3へ接続した場合の検出可否を示す表。
表1 IDSで検出可能な通信(接続箇所別)。通信範囲ごとに、IDSをSW1、SW2、SW3へ接続した場合の検出可否を示す表。
図2 見直し後の営業支援システムのネットワーク構成案(抜粋)。IDSとIPS、FW、複数のスイッチ、DMZ、内部LAN、管理用LAN、管理用PCを含む改訂後のネットワーク構成図。
図2 見直し後の営業支援システムのネットワーク構成案(抜粋)。IDSとIPS、FW、複数のスイッチ、DMZ、内部LAN、管理用LAN、管理用PCを含む改訂後のネットワーク構成図。
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判断の前提となる範囲をそろえる

この分野の問題では、判断の前提となる範囲を意識して考えましょう。与えられた情報のうち、何について述べているかを整理し、自分の知識で補った条件と区別して、同じ前提のまま検討を進めることが大切です。

この問題で問われていること

着目するのは、考えている内容がどの範囲で成り立つものとして示されているかです。記載された条件を短く言い直し、途中で対象の範囲を広げたり、明示されていない前提を加えたりしていないか確かめましょう。

視点

知識を当てはめる前に、判断の前提となる範囲をそろえます。与えられた情報に示された条件と、自分が補って考えた条件を分けて整理すると、検討の途中で前提が変わることに気づきやすくなります。

確認ポイント

  • 何についての判断かを捉えたか
  • 示された条件の範囲を保っているか
  • 自分で加えた前提が混ざっていないか
正解と解説を見る

解説

FWのIDS機能による性能不足と、新たな脆弱性への対応を背景に、IDSとIPSの導入を検討する問題です。検知方式、監視位置、FWとの連携、パッチ適用までの防御、障害時の通信継続及びログ解析を結び付けて理解することが要点です。

問題の全体像

F社では、FWに組み込まれたIDS機能の性能限界によってレスポンスが悪化し、新たな脆弱性へのパッチ適用まで営業支援システムを休止した経験もあります。このため、独立したIDSとIPSを追加し、セキュリティとサービスの継続利用を両立させる構成を検討しています。出題趣旨では、IDSとIPSの機能と特徴に関する基本的な知識と理解力を問うとされています。検知方式や接続位置だけでなく、攻撃への対応、障害時の動作、導入後のメンテナンスまでを説明できることが狙いです。

設問1(ア)

「定義されたプロトコルの仕様などから逸脱したアクセス」を不正とみなすという説明に着目します。登録済みの攻撃パターンと照合するシグネチャ型に対し、正常とする基準からの逸脱を検知する方式です。公式解答例では「アノマリ」又は「異常検知」とされています。未知の攻撃にも対応しやすい一方、正常な通信を異常と判断する場合があるという本文の特徴も、この方式を示しています。

設問1(イ)

IDSが監視対象のSWに接続され、IDS以外を宛先とする通信も取り込むという条件に着目します。通常のスイッチの転送では、監視したい通信がIDSの接続ポートに届くとは限りません。監視対象の通信を複製してIDSへ送るポートが必要です。公式解答例では「ミラー」又は「ミラーリング」とされています。

設問1(ウ)

空欄イはSW側で通信を複製する設定ですが、空欄ウはIDS側でその通信を受信する設定です。「IDS以外を宛先とする通信も取り込む」という説明から、自分宛て以外のフレームも受け入れるモードを答えます。公式解答例では「プロミスキャス」とされています。SWが通信を届ける仕組みと、IDSのネットワークポートが受信する仕組みを分けて理解します。

設問1(エ)

「OSI基本参照モデルの第3層レベルの攻撃」を回避するという条件に着目します。第3層で使われるアドレスはIPアドレスであり、監視用のネットワークポートにこれを割り当てなければ、そのポートをIP通信の宛先として攻撃することを避けられます。公式解答例では「IP」とされています。対象は本文で述べている監視用ポートであり、管理用の接続とは区別して読みます。

設問1(オ)

不正なUDPパケットの送信元へ、宛先ポートに到達できないことを通知して攻撃の抑止を試みる場面です。本文の「port」に続く語を補い、port unreachableという通知にします。公式解答例では「unreachable」とされています。TCPの場合のRSTによる切断と、UDPの場合のICMPによる通知を対応させて整理します。採点講評では、こうした専門用語を正確に覚えることが求められています。

設問2(1)

表1にある通信範囲を確認すると、不足しているのは「インターネット⇔内部LAN」です。本文には、社内PCからインターネットへのアクセスはRPサーバを経由しないとあります。図1でこの通信の経路をたどると、内部LANのSW3、FW、SW1を通り、DMZのSW2は通りません。公式解答例では、追加する行を「インターネット⇔内部LAN」、検出可否を「SW1:○、SW2:×、SW3:○」としています。社外からWebサーバを利用する際のRP経由の通信と、社内PCからインターネットへ出る通信を区別することがポイントです。

設問2(2)

下線①の「IDSとFWが連携」と「検知した送信元アドレスからの不正な接続を遮断」に着目します。IDSが得た検知結果をFWの遮断ルールに反映する仕組みを具体化します。公式解答例では、FWのACLを動的に変更し、遮断対象の送信元アドレスを追加するとされています。40字以内では「FWのACLを動的に変更し、遮断対象の送信元アドレスを追加する。」のように、変更対象と追加する情報を示します。採点講評では、FWとの連携を正確に記述できていない解答が見られたとされており、「連携して遮断する」だけでは仕組みの説明が不足します。

設問2(3)

ICMPの通知先が、不正パケットに記載された送信元アドレスである点に着目します。そのアドレスが偽装されていれば、通知は実際の攻撃者へ届かず、偽装に使われた第三者のサイトへ送られる可能性があります。これが、本文にある二つの懸念を共通して説明する原因です。公式解答例では、送信元アドレスが偽装されている可能性を挙げています。35字以内では「不正アクセスの送信元アドレスが偽装されている可能性があるから」と、原因を直接述べます。

設問3(1)

冒頭の、影響確認テストに時間が掛かり、パッチ適用までシステムを休止したという事例に着目します。求められる一時的な運用は、パッチ適用までの期間をIPSの遮断機能で保護することです。公式解答例では、保護する機器にセキュリティパッチを適用するまで、脆弱性を悪用する攻撃の通信を遮断するとされています。50字以内では「セキュリティパッチ適用まで、脆弱性を悪用する攻撃の通信を遮断する。」のように、期間と遮断対象を示します。採点講評では、IDSとIPSの違いを把握することが求められており、検知だけでなく遮断する点が重要です。

設問3(2)

「IPSの機能の一部が故障した場合」と「営業支援システムの継続利用を優先する」という条件を結び付けます。故障したIPSによって通信まで停止すると、業務を継続できません。公式解答例では「通信をそのまま通過させ、遮断しない機能」とされています。この表現で25字以内に収まり、障害時の動作を具体的に示せます。IDSが併設されていることも本文の判断材料ですが、IPSを通過する通信への防御が通常どおり続くと解釈しないことが大切です。

設問3(3)

図2では、管理用PCから管理用LANを通じてIDSとIPSを管理できる構成になっています。本文にある誤検知と見逃しのバランスを改善するには、導入後も実際の検知・遮断状況を確認する必要があります。公式解答例では、不正アクセスへの対応を最適化するために、ログを取得して解析するとされています。35字以内では「不正アクセスへの対応を最適化するため、ログを取得して解析する。」のように、目的と具体的な作業を示します。採点講評でも、継続的な運用メンテナンスがセキュリティレベルの維持・向上に必要であるとされています。

学習のポイント

IDSの監視設定と通信経路の読取り、IPSの遮断機能と可用性、ログ解析による継続的な運用改善を重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成27年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問3(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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