NWネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ

平成26年度秋期 ネットワークスペシャリスト 午後Ⅰ 問1

事例を読んで設問の答えを考えてから、解説のポイントとIPA公式の解答例・採点講評で確認しましょう。

問題

問1 ネットワーク構成の見直しに関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。 A 予備校は,東京に本部,全国に5支部がある。従来,本部で行った人気授業は録画して,物理媒体を各支部に配布していたが,各支部からの要望を受け,本部に動画サーバを置き,本部から各支部に授業の動画を配信することにした。また,運用管理の一元化と情報保護の強化のために,業務系のファイルサーバ(以下,FSという)を本部に集約することにした。 情報システム部のM課長は,N君に対し,A予備校の新ネットワーク構成の方針を提示し,ネットワーク構成の見直しとその運用について検討するように指示した。N君が考えたA予備校の新ネットワーク構成を,図1に示す。 図1 A予備校の新ネットワーク構成(抜粋) M課長が提示した,A予備校の新ネットワーク構成の方針を,次に示す。 ・本部及び各支部では,業務系システムと動画系システムのセグメントを分け,それぞれ業務系セグメントと動画系セグメントとする。 ・本部と各支部間は,異なる通信事業者の広域イーサ網1及び広域イーサ網2によって冗長化する。広域イーサ網1と広域イーサ網2は,等しい帯域とする。 ・本部と各支部間のネットワーク経路は,業務系セグメント間を広域イーサ網1経由とし,動画系セグメント間を広域イーサ網2経由とする。 ・一方の広域イーサ網が使用できなくなった場合には,他方の広域イーサ網によって業務系セグメント間及び動画系セグメント間の通信を行う。障害時には,動画系セグメント間の通信は,業務系セグメント間の通信よりも優先し,支障なく維持されるものとする。 ・各支部からのFSのアクセスの高速化のために,WASを導入する。 〔ネットワーク経路の検討〕 N君は,まず,支部1と本部間のネットワーク経路について検討した。ルータ1とルータ2の組,及びルータ3とルータ4の組には,それぞれ業務系セグメント用と動画系セグメント用のVRRPを設定する。①PC及びルータの設定を適切に行うことによって,業務系セグメント間のデータはルータ1とルータ3を経由させ,動画系セグメント間のデータはルータ2とルータ4を経由させることができる。 次に,採用する経路制御プロトコルを検討した。障害発生時には,できるだけ早く代替のネットワーク経路に切り替えて通信を回復させたい。よって,経路情報の再構成が高速なOSPFを採用することにした。一般的なルータのOSPFは,物理ポートの【ア】を基にしたコストをメトリックにしてネットワーク経路の選択を行う。しかし,ネットワーク経路を方針どおりにするために,コストを図1に示す値に設定した。 OSPFでは,経路制御の範囲を設定する,エリアという概念がある。一つのOSPFのネットワークは,複数のエリアに分けることができる。エリア番号が【イ】であるエリアはバックボーンエリアと呼ばれ,必ず存在しなければならない。エリアを複数に分割する場合には,バックボーンエリアとその他のエリアが隣接するようにエリア分けを設計する。バックボーンエリアとその他のエリア間を相互接続するルータは,エリア境界ルータ(以下,ABRという)と呼ばれる。また,ABRではエリア内の経路情報を集約して,他のエリアに送ることができる。N君は,本部,広域イーサ網1及び広域イーサ網2をバックボーンエリアに,各支部をそれぞれ別のエリアに分け,ABRで最もプレフィックスが短くなるように経路情報の集約を行う設計にした。 N君の設計に基づく,本部から支部1への動画データの送信経路を,表1に示す。 表1 本部から支部1への動画データの送信経路(抜粋) 続いて,一方の広域イーサ網が使用できなくなった場合にも,動画系セグメント間の通信を支障なく維持する方法について検討した。広域イーサ網1及び広域イーサ網2の通信帯域には若干の余裕を見込んでいるが,帯域不足は避けられない。各ルータにQoSを設定し,動画系セグメント間の通信を優先することにした。ルータのQoSとしては,RFC 2474に基づいて,IPヘッダの【ウ】フィールドをDSフィールドとして再定義して通信の優先評価を行う【エ】モデルが実装されている。 一方の広域イーサ網が使用できなくなった場合は,非優先である業務系セグメント間の通信はある程度の影響が予測される。FSと業務サーバは,散発的に利用されている。TCPで実装されている業務系システムの通信アプリケーションの場合は,データ転送速度が低下しても通信の維持とデータの保全は確保できる。しかし,業務によっては,応答時間の増大によって業務に支障が出る場合がある。よって,②業務系システムのアクセス集中を避けるための方策を定め,マニュアル配布及び掲示板で利用者に周知することにした。 〔WASの導入〕 FSを本部に集約することに伴い,FSのアクセス速度の低下が懸念される。その対応策としてWASを導入することにした。WASを導入したときの通信,WASのデータ処理は,次のとおりである。 ・ルータ1及びルータ3では,PBR(Policy Based Routing)を動作させる。PBRの動作によって,③ルータはFSで使用しているCIFS(Common Internet File System)プロトコルのパケットを識別してWAS宛てに転送する。PBRによる経路制御は,OSPFによる経路制御よりも優先度が【オ】なっている必要がある。 ・WASは,データを受信した後に,“データの高速化処理”を行う。 N君は,PCとFS間でのWASによるデータの高速化処理について調査した。調査の結果,WAS間では,データ圧縮機能による通信データ量の削減だけでなく,④データの送信元に対して代理応答を行ってデータをキャッシュに蓄積した後に,もう一方のWAS宛てに一括してデータを送信することによって,高速化を図っていることが分かった。また,⑤データの高速化処理を自動的に停止する機能があることを確認した。 N君がまとめた検討結果はM課長に承認され,新ネットワークの構築準備を開始することになった。 設問1 本文中の【ア】~【オ】に入れる適切な字句又は数値を答えよ。 設問2 〔ネットワーク経路の検討〕について,(1)~(4)に答えよ。 (1)本文中の下線①について,業務系セグメントのPCのデフォルトゲートウェイの設定を30字以内で述べよ。また,通常時,業務系セグメントのPCから送信されたパケットを適切な通信経路で中継するためには,ルータのVRRPの設定をどのようにすればよいか。50字以内で具体的に述べよ。 (2)ルータ3がルータ1へ送る,業務系セグメントと動画系セグメントの経路情報のプレフィックスを答えよ。 (3)表1中のa,bに入れる適切な動画データの送信経路を,表1中の表記に従ってそれぞれ答えよ。 (4)本文中の下線②の方策を,運用の観点で,25字以内で具体的に述べよ。 設問3 〔WASの導入〕について,(1)~(3)に答えよ。 (1)本文中の下線③の識別に使用される,OSI基本参照モデルの第3層以上の情報を二つ答えよ。 (2)本文中の下線④の処理の効果がより高くなるのは,本部と支部間の通信の特性がどのような場合か。20字以内で具体的に述べよ。 (3)本文中の下線⑤の機能はどのような場合に必要になるのか。20字以内で具体的に述べよ。
図1 A予備校の新ネットワーク構成(抜粋)。本部と支部1~5を二つの広域イーサ網で接続し、業務系・動画系セグメント、ルータ、L2SW、WAS、各種サーバの構成を示すネットワーク図。
図1 A予備校の新ネットワーク構成(抜粋)。本部と支部1~5を二つの広域イーサ網で接続し、業務系・動画系セグメント、ルータ、L2SW、WAS、各種サーバの構成を示すネットワーク図。
表1 本部から支部1への動画データの送信経路(抜粋)。通常時、ルータ2本体障害時、ルータ4のp10障害時について、本部から支部1へ動画データを送信する経路を示した表。
表1 本部から支部1への動画データの送信経路(抜粋)。通常時、ルータ2本体障害時、ルータ4のp10障害時について、本部から支部1へ動画データを送信する経路を示した表。
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通信を評価する前提条件をそろえる

拠点間の通信について考えるときは、まず、どのような前提で評価しているかに注目しましょう。条件が異なる内容をそのまま比較せず、対象となる通信や想定する状況をそろえて、判断の土台を整理することが大切です。

この問題で問われていること

この分野では、ある条件での評価を別の条件にも当てはめてしまわないことが大切です。検討する内容が、どの範囲や状況を前提としているのかを確認し、自分が補った仮定と、与えられた条件とを区別して考えましょう。

視点

評価の前提とは、判断の対象や想定する状況を定める条件です。条件を整理する際は、与えられている情報と、自分で補っている仮定を区別しておくと、検討の土台が明確になります。

確認ポイント

  • 評価の対象となる範囲を確認したか
  • 想定する状況を途中で変えていないか
  • 与えられた条件と自分の仮定を区別したか
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解説

本部への動画サーバとFSの集約を前提に、VRRPとOSPFによる冗長化、支部単位の経路集約、QoSと利用時間の分散、PBRによるWASへの転送を考える問題です。障害の範囲と通信の特性を読み取り、各技術の役割を設定や運用に結び付けます。

問題の全体像

A予備校は、本部から各支部へ授業動画を配信し、業務用FSも本部へ集約します。通常時は業務系と動画系を別々の広域イーサ網に流し、障害時は残った回線で動画を優先して通信を維持する方針です。出題趣旨では、ネットワークの冗長化、OSPFによる経路制御、障害時の運用、WAN高速化装置の基本知識を問うとしています。設定値の暗記に加え、図の接続関係と本文の条件から、各技術をどう使うかを説明することが求められます。

設問1(ア)

着目するのは、一般的なOSPFが「物理ポートの【ア】を基にしたコスト」を使うという記述です。公式解答例では「帯域幅」又は「通信速度」としています。物理ポートの帯域幅を基にしたコストで経路を比較しますが、本問では業務系と動画系を指定した経路へ流すため、図1の値に設定しています。通常のコスト算出の基準と、本問で設定した値を対応させて理解します。

設問1(イ)

本文は、複数のOSPFエリアを接続する中心となるバックボーンエリアの番号を尋ねています。公式解答例では「0」です。本問では本部と二つの広域イーサ網をエリア0とし、各支部をそれぞれ別のエリアに分けます。各支部とバックボーンを接続するABRが、支部内の経路情報を集約して通知する構成にも着目します。

設問1(ウ)

「RFC 2474」「IPヘッダのフィールドをDSフィールドとして再定義」という記述が手掛かりです。公式解答例では「TOS」としています。ここで問われているのは、再定義する前のフィールド名です。障害時に動画系の通信を優先するという方針と、IPヘッダの情報を利用するQoSの仕組みを結び付けます。採点講評では、この空欄の正答率が低く、QoSに関する重要な用語の理解を求めています。

設問1(エ)

DSフィールドを用いて通信の優先評価を行うモデル名を答えます。公式解答例では「DiffServ」又は「Differentiated Services」です。本問では、一方の回線が使えなくなると帯域不足が生じるため、このモデルによるQoSを使って動画系の通信を優先します。採点講評でも正答率が低かった空欄として挙げられており、TOSフィールドの再定義とモデル名を関連付けて覚えることが重要です。

設問1(オ)

本文では、PBRによってCIFSのパケットを識別し、WASへ転送するとしています。この転送を実行するには、PBRによる経路制御がOSPFによる通常の経路制御より優先される必要があります。公式解答例では「高く」です。「優先度が高くなっている必要がある」という文として読めることを確認します。

設問2(1)(デフォルトゲートウェイ)

ルータ3とルータ4には、業務系セグメント用のVRRPが設定されます。PCが冗長化されたゲートウェイを利用するには、業務系セグメントに対応する仮想ルータのIPアドレスを設定します。公式解答例もこの設定を示しています。30字以内の答案は「業務系セグメントに対応した仮想ルータのIPアドレス」とまとめられます。採点講評では、デフォルトゲートウェイと仮想ルータによる冗長化に着目した解答を求めています。

設問2(1)(VRRP)

通常時の業務系通信は、ルータ3から広域イーサ網1を経由してルータ1へ送る方針です。そのため、支部1の業務系仮想ルータがルータ3でアクティブになるよう、VRRPのプライオリティ値を設定します。公式解答例もこの内容です。50字以内では「業務系の仮想ルータがルータ3でアクティブになるよう、プライオリティ値を設定する。」とまとめられます。通信経路に加え、その経路へ送り出すルータを選ぶ具体的な設定が必要です。

設問2(2)(業務系)

図1の支部1の業務系は10.1.1.0/24ですが、本文ではABRで最もプレフィックスが短くなるように経路情報を集約するとしています。公式解答例は、業務系と動画系をまとめた「10.1.0.0/16」です。第2オクテットまで保持することで支部1の経路を一括して表せます。さらに短い/15では本部の10.0側も含むため、エリアごとの集約という構成に合いません。この回答単位にも集約後の10.1.0.0/16を用います。

設問2(2)(動画系)

支部1の動画系は10.1.2.0/24です。業務系の10.1.1.0/24と同じ支部エリアに属し、ABRが両方をまとめて本部側へ通知します。公式解答例では、両セグメントに対する集約経路として「10.1.0.0/16」を示しています。したがって、この回答単位も同じ値です。採点講評ではOSPFの経路集約を問う設問と説明しており、個々のセグメントの/24と、通知する集約経路の/16を区別することが重要です。

設問2(3)(a)

aはルータ2本体が故障した場合です。本部の動画系仮想ルータはルータ1が引き継ぎ、広域イーサ網1を通って支部1のルータ3へ転送します。図1ではルータ1も本部の動画系L2SWに、ルータ3も支部1の動画系L2SWに接続されています。公式解答例では「ルータ1 → ルータ3」です。表の空欄前後にはL2SWが既に書かれているので、空欄にはこのルータ列を記載します。

設問2(3)(b)

bはルータ4の広域イーサ網2側ポートp10が故障した場合です。本部のルータ2は動作しているので、動画データはまずルータ2へ届きます。そこからルータ1を経由し、広域イーサ網1でルータ3へ転送して支部1の動画系L2SWへ届けます。公式解答例では「ルータ2 → ルータ1 → ルータ3」です。採点講評ではVRRPとOSPFを使った冗長化構成の障害時経路を問うとしています。本体故障とポート故障で、動作を続ける機器が異なる点を確認します。

設問2(4)

障害時には動画系を優先するため、業務系では応答時間が増大する可能性があります。本文はアクセス集中を避ける方策を利用者へ周知するとしており、利用の仕方を調整する運用策を答えます。公式解答例は「利用者をグループ化して使用時間帯をずらす。」です。この文で25字以内に収まり、利用者の分け方と利用時間の調整を具体的に示せます。同時アクセスを減らすことが、残った回線への負荷の分散につながります。

設問3(1)(1)

下線③では、ルータがFSのCIFS通信を識別してWASへ転送します。公式解答例が示す情報の一つは「IPアドレス」です。IPアドレスはOSI基本参照モデルの第3層の情報であり、通信元や通信先を識別するために使えます。本問ではFSに関係する通信を判別するという目的と、第3層以上という設問の条件を対応させます。

設問3(1)(2)

公式解答例が示すもう一つの情報は「ポート番号」です。ポート番号は第4層の情報であり、通信で利用するサービスを識別する手掛かりになります。FSで使うCIFSのパケットを判別するという下線③に着目し、IPアドレスとポート番号を二つの情報として答えます。設問は識別に使う情報の種類を求めているため、具体的な番号まで記載する必要はありません。

設問3(2)

下線④のWASは、送信元へ代理応答し、データを蓄積して相手側WASへ一括送信します。本部と支部の間で応答を待つ時間が長いほど、代理応答によって待ち時間を減らす効果が高くなります。公式解答例は「ラウンドトリップ時間が大きい場合」で、20字以内に収まります。着目すべき通信特性は往復に要する時間です。採点講評では、この設問の正答率が低く、図と本文の条件に沿って考えることを求めています。

設問3(3)

本文の高速化処理は、二つのWASが連携し、代理応答したデータをもう一方へ送信する仕組みです。片側が故障すると、この連携を継続できなくなるため、高速化処理を自動的に停止する機能が必要になります。公式解答例は「片側のWASが故障した場合」で、20字以内に収まります。答案では、連携する装置の一方の故障という停止条件を具体的に示します。

学習のポイント

VRRPによるゲートウェイの冗長化とOSPFによる経路選択を区別し、経路集約、DiffServ、代理応答と往復遅延の関係を重点的に学習します。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)平成26年度秋期 ネットワークスペシャリスト試験 午後Ⅰ 問1(公式資料:問題冊子(PDF) / 解答例 / 採点講評)

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